RE(アール・イー)味わってもらいたいのは、ここでの「時間」。海を臨む1軒屋での、1組限定イタリアン

 

 

初めての人が辿り着くのは難しい。道からは見えないし、場所を示す案内の看板はおろか、店のそれすら一切ない。RE(アール・イー)は、知る人ぞ知る隠れ家的レストランだ。なんとか辿り着くと、オーナーシェフの三沢 賢(まさる)さんが、穏やかな笑顔で、階段を降りて外まで迎えにきてくれた。

 

車を降り、庭の階段を上がる。木々の間から現れた白亜の建物の階段も上がる。すると運転していたときには目にできなかった紺碧の海が、眼下に大きく広がった。

 

 

「レストランに大事なことって、最終的にはトータルバランスだと思うんです。もちろん味も大事なんですけど、居心地、雰囲気、ロケーションもそうですし、『時間』だと思います。せっかくここまで足を運んで頂いたんですから、この海が見える景色や、店の居心地、ここでの時間をじっくり満喫して頂きたいですね。いらっしゃるのは1組のお客様だけですから。ここに座って頂くと、サンゴ礁を境に海の色が変わる景色が広がって、天気が良ければ正面に伊是名島、伊平屋島が見えるんです。波の音や風の音、調理してる音も楽しんでもらいたくて、あえてBGMは流していません」

 

カウンターを挟んだ調理場はオープンキッチンで、テーブルとは程良い距離。調理をしている三沢さんとも会話を交わせる。景色に加え、堅苦しくない雰囲気と他愛もないおしゃべりで、心も緩む。料理を待つ時間も楽しいひとときだ。

 

 

前菜に出てきたのは、県産野菜が10種使われているサラダだ。ローゼルの真紅、クワンソウの花のオレンジが鮮やかな一皿。

 

「上に乗ってるのは自家製ベーコンです。サラダなんですけど、冷たいスープがかかってるんですよ。スープを飲みながら召し上がってください」

 

サラダだけど、スプーンも使う。真っ白なスープからは、ふんわりと優しいチーズの香りが漂う。まろやかなコクがあるけど、さらりとしていて、繊細な野菜そのものの味をじゃましない。

 

「沖縄でも葉物野菜が美味しい季節になったので、野菜を味わえるソースにしました。よくお客様に、冷たいのにどうしてチーズが固まっていないのって質問されるんです。適切な温度帯と水分量の割合で、冷たくしても固まらない、さらりとしたスープになるんです」

 

サラダ一つとっても、その中に高い技術があることに驚く。三沢さんの料理には、決して素人には真似できない、プロならではの技がある。その技はパスタ料理にも遺憾なく発揮されている。

 

 

「今日は手打ちの生麺を使っています。手打ちパスタは、食感とかモチモチ感を味わってもらうためのパスタですね。ラーメンやうどんは、練ってコシを出すじゃないですか。パスタの場合は歯ごたえを出すために、あまり練らずに切った後に乾かすんです。練りすぎると、表面がツルツルになってしまってソースが絡みにくくなるんですね。ザラザラの方がソースと馴染むんです。乾燥もさせすぎるとパキッと折れてしまったり。粉の量や乾かす時間で理想の硬さに持っていくんです。とても微妙な加減ですね」

 

この日のパスタは、島ダコラグーのトマトソーススパゲッティ。海の香りのする島ダコと、セロリなどの香味野菜、少し酸味のあるオリーブ、それぞれの旨味がしっかりと混ざり合って、モチモチのパスタによく絡んでいる。

 

 

メインのもとぶ牛のローストも、技が光る。

 

「もとぶ牛は基本的に脂の多いお肉なんですけど、サシが多いと少ししつこいので、あえて赤身のもも肉を使っています。脂が少ない分、ゆっくり焼かないとぱさついてしまうんです。だから低温の63度で、1時間かけてじっくりと焼いています。低温で焼くと香ばしさが足りないので、最後に網の上で直火で炙って香りを付けるんです。その後アルミホイルに包んで、肉汁が落ち着くのを待ってお出ししています」

 

火がちょうどいい加減で入っているのだろう、これ以上ないほどのきれいなロゼ色に思わず感嘆の声をあげてしまう。脂が少ないのにジューシーで、噛めば噛むほど深い味わいが口いっぱいに広がる。

 

付け合せの玉ねぎのローストもその甘さに驚くばかりだ。

 

「皮つきのまま2時間かけて焼くんですが、皮がついてるので中で蒸された状態になって甘みが引き出されるんです」

 

どの料理も、素材の持つ美味しさが十二分に引き出されている。

 

 

RE

 

「ものの良さを活かす調理は、僕の師匠で尊敬するシェフの影響が大きいと思います。そのシェフ、元々は正統派フレンチのシェフだったんですけど、自分でお店を出すときに店の形態をガラリと変えたんです。栃木にすごくおいしい野菜を作る人がいて、この人達が作った野菜をいかにおいしく食べるかっていうコンセプトの、炭火焼きの店をオープンさせたんです。その野菜を食べさせてもらったとき、『わぁっ』てものすごく感動して。生もそうですけど、かぶを炭火で焼いたものですとか。その店では、お肉もお魚も、その野菜を引き立てるためのもの。シェフの料理に対する考え方にすっかり惚れ込んでしまったんです」

 

惚れ込んだのは、料理だけではない。人との接し方にもだ。

 

「それまで、料理に関してカチッとしてないとダメだと思ってたんですよ。でもそのシェフは、カウンターでお客様とおしゃべりしながら料理する。お客様は、味ももちろんなんですけど、そのシェフに会うためにいらしてましたね。人柄が素晴らしくて芯のある人だったんです。僕、その当時、人の好き嫌いが激しい時期だったんです。苦手な人をある程度外見で判断するところがあって。そしたら『人を判断するなんて30年早いんだ。今は全てを受け入れなさい。そうしないと向こうも心を開いてくれないよ』って。今考えれば当たり前のことなんですけどね。この経験があって、この店もカウンターにしてお客様と会話できるようにしたんです。お陰で苦手だと思うお客様はいらっしゃらないですね」

 

でも話が噛み合わないお客はいるでしょう? ちょっと意地悪な質問をしてみた。

 

「それはありますけど、でも合わせますよ。お客様が1組で楽しいのは、色んな話ができることですね。沖縄っていう場所柄、全国からいらっしゃるので、僕が行ったことない地方の話とか、食べたことない食べ物の話を聞けたり。たまにレストラン慣れしてない方もいらして、ちょっと緊張されてるかなって方には、こちらからどんどん話を振るんです。色んな話をしてると、どれか食いつく話題があるんですよね。その話をしていくと、だんだん場が和んでいくんです。特に沖縄の方の場合、必ず出すのは沖縄そばの話ですね(笑)。『沖縄そば、お好きですか』『好きだ』『どこがお好きですか』って。この辺のおそばだったらだいたいわかりますしね。そのお客様とじっくり向き合えるというのが、1組限定の店にした理由です」

 

 

そのお客だけに自分の100パーセントを注ぎ込む。だからこそ、三沢さんとその料理に惚れ込んだ常連は数多い。

 

「季節ごとに年4回お見えになるお客様がいらっしゃいますね。いらしたときに、次回は何を食べようかって相談します。この週末の予定なんですけど、今回はジビエをお出しするんですよ。マガモやハシビロガモ、キジをご用意しています。1年先の予約をしていかれる方もいらっしゃいますね。毎年カヌチャに宿泊してらして、カヌチャからここまで食べに来てくださるんです。年末は半永久的にその方の予約で埋まってますね。あとお一人で来られるお客様もいらっしゃいますよ。県外の女性の方で。隣の部屋で妻がエステをやってるんですけど、エステを3時間受けて、ここで食事をされて。その時はカウンターに座って頂いていますね」

 

1組限定だからこそ、大切にしているのは、その客の好みだ。

 

「ご予約を頂いたときに、お客様の好き嫌いをお聞きしますね。だいたいのお客様は、おまかせとおっしゃるんですけど、その場合も他の情報から、おおまかな料理のご提案はさせていただきます。まずお名前を伺って、苗字から県内の方か県外の方かわかるじゃないですか。県外の方には、『ご旅行ですか』ってお聞きして、そしたら観光なのか住んでいらしゃるのかわかる。沖縄の方には、ここでは珍しい馬肉なんかをお出ししたりしますね。ご旅行の方だったら、なるべく沖縄のものをお出しします。それに加えて季節感も大事にしています。春だったら京都のたけのことか。ほんとのイタリアンでは使わないんでしょうけど、僕はよく使います」

 

 

三沢さんは、この本部町に店を構えた理由を、修業したイタリアでの経験からと話す。

 

「3年間イタリアで修業したんですけど、イタリアではレストランは街中にはなくて、郊外にしかないんです。レストランはわざわざ食べに出かける場所で、全てを楽しむ場所なんですよね。古いお城を買い取って改築していたり、地下にものすごい広さのワインセラーがあってワインの種類が豊富だったり。シェフが裏山に入って、銃で仕留めたものや、採りたてのきのこを頂けたり。料理はもちろん、全てを楽しむ場所。僕も郊外のレストランで修業していたので、自分の店は今までいた東京じゃなくて、もっと田舎でもいいのかなって思ったんです。それでこの場所を選んだんですよね。イタリアのレストランのように、お客様にはここの全てを楽しんでほしいと思います」

 

帰り際、三沢さんは、また一緒に玄関を出て階段を降り、車が出るまで丁寧に見送りをしてくれた。REに滞在した「時間」がこんなにも心を満たしてくれる理由。手間暇をかけた料理と目を奪われる景色、それだけではない。出迎えに始まり見送りまで、三沢さんの細やかな心配りもあってこそ、と納得した。

 

文/和氣えり(編集部)

写真/青木 舞子(編集部)

 


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