琉Q(ルキュー)オイシイ! オモシロイ! 沖縄の「まんま」を全国へ。

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「僕、コーレーグース大好きなんです。でも、東京だと普通のスーパーには全然売ってなくて」

 

アートディレクターの植原亮輔(うえはら りょうすけ)さんは、いかにも残念そうに話す。

 

「一度どうしても手に入れたくて、結構本気で探したことがあって。自転車で3つか4つのスーパーをはしごしました(笑)。でも、なかったですね〜。
沖縄そばじゃなくても普通にラーメンとかうどんとか、何にかけても美味しいですよね。沖縄だとチャンプルーにもかけるでしょ? そのコーレーグースをね、自分で作れるセットがあれば面白いんじゃないかと思って」

 

沖縄料理に欠かせない調味料の1つであるコーレーグースは、泡盛に島唐辛子を漬け込んで作られる。
“ コーレーグースと琉Q(ルキュー)の琉球ガラス瓶 ” は、唐辛子の量を自分好みに調節してオリジナル・コーレーグースを作り、それを奥原硝子(おくはらガラス)が制作した瓶に入れて楽しめるセットだ。

 

「沖縄のひとが県外のひとに『沖縄ってこんな所だよ』と紹介できるような詰め合わせがあればいいなーと思ってたんです。このセットだと沖縄の味を知れるから。しかも自分で作れる。それが面白いなーと」

 

植原さんとともに制作に携わった「沖縄広告」のクリエイティブディレクター・仲本博之さんは、植原さんの言葉にうなずく。

 

「琉Qを、よくある土産ものにはしたくなかったんですよ。普段の生活の中に、沖縄の良いものを自然に取り入れられる。そんなカタチを目指しました。
本場の沖縄料理は県外ではなかなか食べられないけれど、野菜炒めやうどんならよく食べるでしょう? そこにコーレーグースをかけるだけで沖縄の味に変えられるんです。また、自分で唐辛子を漬け込むのも楽しいと思うんですよ。買った人や贈られた人が作業をするお土産って良いなーって」

 

作る工程を楽しむことができ、普段のくらしにもなじむ。
そんな琉Qのアイテムは、沖縄の「上等素材」でできている。

 

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沖縄県本部(もとぶ)町には、無農薬・無化学肥料でアセローラを栽培している農家がある。“ 沖縄本部のアセローラジャム ” は、アセローラ果汁にてんさい糖・水・クエン酸・寒天だけを加え、保存料や着色料は一切使用せずに作っている。

 

「沖縄の良いところって何かな? ってよく考えてみると、沖縄自体が素敵なんだということに気づいたんですよね」と、植原さんは言う。
「太陽が輝いていて、海がきれいで、自然に囲まれていて。そういう環境から生まれる野菜や果物、塩だったりウコンだったり、そういうのがこの島の一番の魅力だと思ったんです」

 

東京を拠点に、アートディレクターとして幅広く活躍している植原さんが沖縄という地方の小さなブランドを手がけることになったのには、面白い経緯がある。その経緯を仲本さんが教えてくれた。

 

「障がい者の就労支援を行っている『沖縄県セルプセンター』からの依頼がきっかけでした。販売促進を手伝ってほしいというお申し出だったのですが、商品自体を新しく作りませんか?とご提案したんです。もっと多くの人に手にとってもらうためには、デザイン性など愛されるエッセンスを入れないといけない。一緒にブランドを立ち上げましょう!と」

 

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「新ブランド立ち上げにあたって色々と考えたのですが、可愛いものって世の中にはすでに沢山ある。可愛さだけじゃなく、ストーリーや出会いを感じさせるように作れないかな? と思ったんです。沖縄のいいものってお土産品として紹介されることが多いじゃないですか? これまでにないカタチで、東京を含め全国に伝えたくて。

 

そこで誰に協力をお願いしようかと考え、すぐに植原さんにラブコールを送りました。面識もないのに長文メールを送りつけて、2万字くらい(笑)。 完全にストーカーですよね。
広告業界に携わっている人なら、植原さんを知らない人はいないでしょう。僕はずっと植原さんの大ファンで、これまでの作品も大好きだったので、ぜひお願いしたいと思ったんです。

 

僕、結構せっかちなんで、2万字のメールを送った次の日くらいにソッコー電話しちゃいました。『メール見ました?』『いや、まだ見てないです…』。そこでまた、2万字の内容を語って。受話器が熱くなるくらい…。はい、迷惑だったと思います(笑)。
でも植原さんはそんな胡散臭い僕を信じてくれて、すぐ沖縄に来てくれたんですよ」

 

二人は初めて顔を合わせ、沖縄の施設やショップをめぐり、新ブランドの立ち上げへと準備を重ねていった。
唐突な申し入れではあったものの、植原さんは以前から、沖縄に縁を感じていたのだと言う。

 

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左から植原さん、仲本さん。

 

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「僕、沖縄芸大で非常勤講師をしてるんですよ」と、植原さんは言う。

 

「1年に1回、2日間で8時間の授業をするんです。それがきっかけで沖縄の知り合いも増えてきて。グループ展とかイベントをやったこともあります。そんなときに仲本さんから2万字のメールをもらったんだよね。
僕、沖縄にはなんか縁があると思ってて。北海道出身なんですけど(笑)。こうしてなんやかんや沖縄に来る機会があるし、沖縄って『ウエハラ』さん多いですよね? 僕は『上原』じゃなくて『植原』なんですけど。それで、なんだか沖縄に呼ばれてる気がしてしょうがなかった。だから声をかけてもらったとき、これは縁だろう、ちょっと行ってみよう、と」

 

仲本さんとともにセルプセンターに赴き、資料や商品を見て回った。新ブランドの立ち上げには、植原さんもすぐに賛成したと言う。

 

「これ欲しい!とすぐに思えるようなものが無かった。でも僕、沖縄は好きだし、来ると必ず何かしら買って帰るんです。だから、これってどうしてだろう?と思って。よくよく考えてみると、いつも買ってるのってゴーヤとか、コーレーグースとかばかりで、いわゆる土産物として売られているものじゃない。だから、沖縄の自然とかそこから生まれる食品とか、沖縄そのものを感じられる何かを作りたいなーと」

 

セルプセンターは障がい者の就労支援事業所であるが、琉Qでは「障がい者が作った」という点をあまり大々的にはアピールしていない。その理由を、植原さんは次のように話してくれた。

 

「そこをアピールしなくても選んでもらえる、『良いモノ』を作っているからです。『障がい者が作ってます』という1点に頼ると、ブランドを長続きさせるのは難しい。 だから、モノが良いっていうのが先だろうと。
また、作り手のより高い収入に繋がるように、クオリティを追求することで付加価値を付けたいとも思いました」

 

「沖縄自体の良さを感じられる、良いモノを作る」という方向性が決まると、植原さんはプロダクト(工業製品)ではなく食品にターゲットを絞った。

 

「これまでの経験から、プロダクト販売の難しさを僕らよくわかってるんです。もちろん食品にも難しさはあるけど。
それに、震災以降特に食品へのこだわりがみんな強くなってるでしょ? 沖縄の食品の人気もますます高まってる。白砂糖より黒糖が良いんだよねーとか、沖縄の長寿食ってどうして身体に良いんだろう?とか、興味を持っている人が多いと思うんです。
でも一番の理由は、僕が沖縄料理大好きだから(笑)。 ほんと毎日食べたいくらいです。ゆし豆腐でしょ、ゴーヤチャンプルー、ソーキそば… ぜんぶ好き!」

 

沖縄料理をこよなく愛する植原さんが、琉Qのラインナップ第一弾に決めたのは「塩」だった。

 

「沖縄の塩は体に良いっていう話を前から聞いていたので、良いモノなんだって刷りこまれてたんですよね。
そこで仲本さんから、沖縄県初の塩製造メーカーである糸満の『青い海』さんを紹介してもらって。海水を汲み上げてきて、平釜でじっくり煮詰めて作るという、昔ながらの製法にこだわっている塩屋さんなんですよ」

 

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サンプル品を手に取って。「すごい良い感じだねー! 何種類か並ぶと更に良いねー。店に置きたくなっちゃうよ、これ」

 

琉Qのアイテムは、そのパッケージも特徴的だ。並んだ文字に目を凝らすと、生産者へのインタビュー記事になっている。

 

「琉Qは『Q&A』を軸にしてるから、パッケージにも必ずそれを入れたくて。生産者へのクエスチョンとアンサーを載せているんです。パッケージを読めば、商品について深く知ることができるという仕組みです。
また、色合いもあえてシンプルにこだわりました。カラフルなパッケージは、最初から選択肢になかったですね。だって、埋もれちゃうと思ったから。沖縄のお土産ってポップなパッケージが多いんです。

 

僕は、『らしさ』っていうのは表現じゃなくて、考え方が作っていくものだと思っていて。どの都道府県もそうですが、◯◯と言えばこんな色やデザインっていう、凝り固まったイメージがありますよね。 僕の故郷・北海道にもあるんですよ。僕が住んでいた20年くらい前だと、キタキツネとか時計台とか、いかにもっていうのがテーマのものばかりで、なんだかお客さんに媚びてる感じがしていました。いつも思ってたんです、ろくなお土産がないなーって。

 

でも、北海道の良さってそこじゃない。 僕が思う北海道の良さは、素材そのもの。蟹!とかね。脚をぐるぐるに紐でしばった蟹そのものとかが、絶対一番嬉しいと思う。ごろごろした根菜類とか、そういうのを箱詰めにして。

 

沖縄の『もらって嬉しいもの』も、南国的なポップさには無いと思ったんですよね。何かもっと他にあるはずだって。それを探る上で、表現は別に気にしない。大切なのは考え方だと」

 

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生産者の似顔絵は、植原さんと共にデザイン会社「キギ」で活躍している渡邉さんが描いている。「どれもご本人の写真よりちょっとだけ良く描いてあります(笑)。 本当にちょびっとだけね、嘘は全然入ってないですよ」

 

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琉Qのウェブサイトには、「失恋した親友のために、沖縄でイケメンが集まるスポットを教えてください」「誰にも教えたくない飲み屋をこっそり教えてもらえますか?」など、思わずクリックしたくなるクエスチョンが並ぶ。植原さんのこだわりが、ここにも表れている。

 

「サイトをQ&A方式にするっていうのは、やっぱり沖縄に住んでるひとは考えないですよね。クエスチョンがないですからね。でも僕は『知りたい欲』がすごくあるから、自分の欲を満たすにはこの方式が良いと思って(笑)。僕だけじゃなく、沖縄県民じゃない人たちは沖縄についてもっと知りたいはずだから」

 

県外の人が出した「Q」に、沖縄県民が「A」を出す。植原さんのアイデアを軸にサイトを運営し始めると、想像以上に面白い結果になったと仲本さんは言う。

 

「僕たち沖縄県民にとっては当たり前のことが、県外では全然当たり前じゃなかったりするんですよね。今回は、県外の人が知りたい沖縄のことってなんだろう? って完全に受け身になって、届いた質問をそのままウェブに流しました。そこに寄せられた答えを、県外の人が見ると爆笑!みたいなことがあるんです。例えば、『ゴーヤが苦いのが苦手で。どうしたら食べられるようになりますか?』っていう質問に、あるおじさんが『じゃあ食べなければいいさ、ゴーヤは苦いもんだよ』って(笑)。他にも、『沖縄出身の彼の実家に挨拶に行くのですが、歌や踊りを断るにはどうしたらいいでしょうか』という質問に、『覚悟して踊りなさい』とかね。
そりゃそうだーっていうアンサーなんだけど、それをそのまま載せちゃうという、リアルなやりとりが面白いんです。
そんなやりとりに笑いながら、植原さんが言った言葉が忘れられないんですよ。
『やっぱり僕たちまだ、沖縄のこと色々知りたいんだなー』って」

 

仲本さんの話を聞きながら、植原さんもうなずく。

 

「実は、沖縄の情報誌があんまり良いと思えなかったんだよね。というか、もっと面白いところが沖縄には沢山あるはずなのに、紹介できてない気がして。
でも琉Qのサイトには、沖縄のナマの情報が集まってくるんですよ。県民から寄せられた『A』を参考に『あ、ここ行ってみよう』って、僕も活用してます。
『Q』は現在も募集中。今後の Q&A も楽しみだよね」

 

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琉Qはまだまだ発展途上、新たに始めたいことは沢山あるのだと植原さんは言う。

 

「難しいことはわかってるけど、プロダクトもやりたいと思ってるんですよ。その第一歩が、琉球ガラスの瓶。これはコーレーグースを入れるために機能的にデザインされたものだから特別なデザインではないけれど、一歩ではあるかなと。

 

今僕が目をつけてるのはね、竹富島のうちわ! ただの葉っぱを蛇腹折りにして開いただけっていう、シンプルなつくりのものなんですけど。竹富島の売店で数百円で売ってたんです。それがかなりおしゃれで、すごくかっこ良くて、ひと目で気に入りました。あれを琉Qと絡めたいなと、実は思っています」

 

沖縄に住んでいると、なかなか気づかない土地の魅力やおもしろさは確かにあるのだろう。
色んな趣向や工夫で小綺麗に包み込んでしまうのではなく、「まんま」が良い。「まんま」はどの土地の、どんな暮らしにも馴染むから。
塩やジャム、バターやコーレーグースというカタチをとって、琉Qがそれを証明している。

 

写真・文 中井 雅代

 

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http://ruq.jp
<お問い合わせ>
一般財団法人 沖縄県セルプセンター
沖縄県那覇市首里石嶺町4-373-1
098-882-5663