三角屋根の裏側まで吹き抜けた広々とした店内。アンティーク調の家具、テーブルに美しくセッティングされたカトラリー。
初めて足を踏み入れた人はみな私のように目を見張るのではないだろうか。そして期待が膨らむ。どんなお料理がいただけるのだろうかと。
この日のメイン料理は「塩豚のポットローストオニオンソース」。
じんわりと旨味が口に広がるやわらかな豚肉に、玉ねぎの甘みが凝縮されたソースがよく合う。
ゆっくりと味わっていると、オーナーが思わぬ言葉をかけてくれた。
「よかったら、メインのお皿にご飯を入れて召し上がってください。ソースと白米との相性が抜群なんですよ」
メインに合わせるのはご飯のみ。「ご飯に合う料理」というのがコンセプトの1つでもあるからだ。
「洋食っておいしいソースがどうしても大皿に残ってしまうでしょう? それをパンですくって食べることが許されてるんだから、ご飯入れちゃったっていいじゃない! って(笑)。
余ったソースをご飯の上にかけるのとはまたちょっと違うんです。ソースの中に入れちゃうのがおすすめです。そのときスプーンがあると便利なのでお使いくださいね」
メインディッシュの皿に白ご飯を投入! ここ「smile spoon kitchen」では珍しくない光景だ。
「今では多くの方がおかわりまでご希望なさいます」
素材の旨味が凝縮されたソースをたっぷり吸ったご飯。それを大きなスプーンですくって口に運べば、誰の顔にだって笑顔が広がる。
店名の由来は、もしかするとここにあるのかもしれない。
前菜のブルスケッタは、セミドライトマトモッツァレラと、アンチョビチーズの2種。
ここにもこだわりがひそむ。
「当店では、『面倒くさい料理』を作るようにしているんです。ですから、前菜も手軽なサラダよりは少し手間をかけたメニューをお出しするように心がけています」
ブルスケッタの上に乗せたセミドライトマトは、100度のオーブンで1時間以上じっくりと焼き上げる。生とドライの中間で、酸味と甘さが際立つ絶妙な焼き加減だ。
「みなさん忙しいから、じっくりとトマトを焼く時間なんてないと思うんです。おうちではあまりやらないような、手間と時間をかけた料理を作るよう心がけています」
メインの豚肉は一晩塩につけたあと、玉ねぎの千切りと白ワインとともに鉄鍋に入れ、オーブンで1時間蒸し焼きにしている。
「味付けはシンプルなんです。豚肉は塩と白ワイン、ニンニクとローズマリーだけ。食材も、ご家庭で普段使いしているようなものを使っています。私たちは高級レストランではないので、使用している素材は地元のものばかり。それでも、手間ひまをかければおいしい料理になるんです」
とろとろのクリームブリュレ。コースメニューは毎週変わるため、いつ行っても初めての味と出会える。
緑豊かな本部町伊豆味に佇む真っ白なおうち。
天気がいい日には、木にはハンモックを吊るし、庭には跳び箱を出す。
「子どもさんが遊べるように。でも、出すのは食べたあと。その前に出しちゃうと遊んじゃって食べないから(笑)。店内にはおもちゃもあるのですが、棚の中にしまってあります。食事前のお子さんの目に入らないように」
その言葉や気遣いからもわかるように、ここは子連れ客に優しいレストランでもある。店の奥には可愛らしい授乳室があり、アンティーク調のベビーベッドも完備。小学生以下を対象にした500円のコースもある。
「スープ、パン・ライス、アイスクリーム、ジュースのセットです。大人のコースのメインを多めに盛りつけているのは、親子でシェアしていただくためでもあるんです。そうすれば、子どもさんも大人のコースと同様の料理を格安で楽しめますから」
いずれも、オーナーが産後間もなく感じた不便から生まれたサービスだ。育児休暇期間中、それまで趣味だったカフェめぐりが、子連れではなかなか楽しめないことに気づいた。
「授乳室がある店なんてほとんどありませんから、車の中で授乳してから入店。オムツを替える場所にも困るし一苦労。荷物も増えるし色々と面倒で…。子連れ歓迎で、雰囲気も大人っぽい素敵なお店に巡り会えなかったんです」
広々とした店内。15名以上から貸し切りも可能で、結婚式を挙げたカップルも。
店を営むのは、食べ歩きが好きな夫婦と母親の3人。
夫妻はそれまで沖縄で別の仕事に就いていたが、食べることやカフェめぐりが好きだったことから店を開くことを決意した。
「本土に住んでいた母に一緒にやらない?と誘ったんです。すると、『いいね』と即答。沖縄では車がないと不便だと話していたので、すぐに免許もとったんですよ、64歳で! すごくアクティブな人なんです」
最初はカフェメニューを出す店を想定していたが、物件を決めて内装を整えていくうちに、店の方向性に違和感を感じ始めたと言う。
「アンティークショップの『Vintage Yard(ヴィンテージヤード)』さんから、『店に入りきらない家具があるから、使わない?』とすごく素敵なアンティークのテーブルを持ってきてくれたんです。それに合わせてシャンデリアを入れたりペンキを塗ったりしていくうちに、『これはカフェじゃないぞ』と。ビーフシチューやデミグラスソースハンバーグを出すような洋食屋のイメージが自然と浮かびました」
がらりと方向性を変え、洋食コースのランチを提供する店にした。
店内の家具や雑貨のうちタグがついているものは購入可能。いずれもアンティークショップ「Vintage Yard」の商品。
元来料理好きだった母親と、おいしい物に目がない夫妻。メニュー考案も調理も、3人全員であたる。
おいしいコース料理を手頃な値段で提供するために、さまざまな工夫を凝らしたメニューも人気だ。例えば、「なんちゃってエスカルゴ」。
「エスカルゴの食感って、炒めたエリンギとよく似てるんですよ。パセリやガーリックを効かせたエスカルゴバターを使ってエリンギを炒めると、まさにエスカルゴの味と歯応えに近くなるんです」
どんな料理でも、使っている食材は身近なものばかり。尋ねられればレシピも教えていると言う。
「おうちでおいしく作っていただけたら嬉しいですから。でも、『教えてもらったけど面倒で…やっぱり食べに来ちゃった!』という方も多いですけどね(笑)」
前菜は大ぶりなブルスケッタが2つ、メインは大きな豚肉が2枚、そしてたっぷりのクリームブリュレ。さらにスープと飲み物もついている。
おいしさもさることながら、ボリュームにも大満足のコースランチだ。
「うち、小腹対応してないんですよ、ぜひ大腹空かせて来てください(笑)」
「面倒くさい料理を心がけている」というオーナーの言葉は、ドスン!と直球で私の心に響いた。仕事、育児、洗濯に掃除…。忙しい日々をすごしていると、「なるべく簡単かつ手早く作れるもの」というのが毎日のメニュー選びの条件になってしまう。
お手軽メニューが食卓に並ぶ日が続くと、ふと感じることがある。「手のこんだおいしい料理をどこかで食べたいなー」と。そこが抜群のロケーションで、子連れでも気兼ねなく過ごすことができて、パリッとアイロンの効いたクロスがかけられているような、素敵な店なら言うことない。
そんなわがままを全て叶えてくれる店。
誰だって、ここに来ればきっとスマイルになる。
写真・文 中井 雅代
森の食堂 smile spoon kitchen
本部町伊豆味2795-1
0980-47-7646
open 11:00~17:00
close 日、月
マフィンの移動販売も行っております。(メイクマン名護店同敷地「ファッションセンターしまむら」横にて)
詳しい営業日はHPでご確認ください。
HP http://www.smilespoon.net
ブログ http://smilespoon.ti-da.net