写真・文 沢岻 久子
Tさんが購入されたのは5年前。まだ空き家になる前に売りに出されたこの物件を、ひと目で気に入って購入した方。賃貸ではよくある一目惚れのスピード感でパタパタと進行していった印象深いあの建物とあの方。そのどちらも元気にしているだろうか？と早速、取材のお願いをしたらば快く受けてくださいました。
午前中とは思えない強い日差しに目を細め、迷子気味によろよろと運転しながら、たしかこの辺りだったような。一度は行った事があるものの、それ以来ぶりだったので、グーグルマップと遠い記憶だけが頼りです。後続車がないのをいい事に、急停車、急旋回を繰り返しながらようやく辿り着いた今回の取材先は読谷村長浜。最近では別荘や軍人向け賃貸住宅が立ち並ぶ海が一望出来るゆるやかな傾斜地で、グーグルマップも正しくポイントしてくれないのどかな場所です。ポイントされた場所から「あの建物だな」と１本隣りの道へ移動して、建物正面に辿り着いた時の喜びときたら、すでにひとつの仕事をこなした感すらありました。
5年ぶりに対面した建物。建築当時の設計秘話や施主さまの思い入れを聞いていたことに加え、設計したのが株式会社ミックスということもあり、ディ・スペックにとっても忘れられない取引でありました。あの時と変わらず白くてシンプルで、築年数が経った今のほうが当時よりも綺麗に見えます。ガレージにきちんと並んだ車、シンボルの椰子の木、2階のベランダ、3階のベランダともに気持ちいいくらいガラスサッシ全開で、建物全体が幸せオーラを発していました。
早速、ガラスの玄関扉を入り、モルタル仕上の階段で2階フロアへ上がると、Tさんご夫婦は相変わらず笑顔で、すっかり建物の主人になっていました。不思議なものです。数年前はこの建物をご紹介、ご案内したりして、こちらがあーだこーだと説明していたのが、今では逆にご案内頂くのです。お部屋がどうだとか、改装してこうなった、景色がああしてこうして、と嬉しそうに話すのです。
3階フロアは、ぐるっと見回さなくても大体の間取りが見えちゃうくらいフルオープン気味のシンプルな空間で、白い壁、グレーの土間、青い海の3つの要素で構成されていると言ってもいいくらい、海が主役級に青を主張します。
3階フロアは階段前にまず土間フロアのキッチンとリビング、その先に数十センチ上がったフローリングのお部屋が寝室で、その先の空間がウォークインクローゼットという、間取りでいうところの1LDK＋ウォークインクローゼット。5年前より広く見えるなぁと思っていたら「このキッチン部分を増築したんです」というご説明で、そうだ！と気づきました。一度見た物件はほとんど忘れないと自負している私でしたが、まるで違和感がなかったのは、増築した部分も同じく土間仕上げにしていたからでしょう。
購入した方はその建物のオーナーになるわけだから、手に入ってしまえば好き勝手に改装出来る。それはそうなのだけれど、ここまでその建物の特徴を理解してくれて、その趣きを保ったまま改装、進化しているという空間はありそうでなかなか出会えないものです。相当気に入って購入した後に改装を施してはみたものの、費用の問題やいろいろな理由で様変わりしちゃって、もはや別物になってしまった建物をいくつも見てきたので、この状態は本当に嬉しく、懐かしいどころか「はじめまして」という感じ。嬉しさのあまり、にんまりを通り越して、すこしじんわりしちゃいました。よくもご購入くださいました。本当にありがとうございます。入ってほんの数分で感謝の気持ちでいっぱいです。
コンクリート壁より圧倒的にガラス面の方が大きく占めている空間は、家具や物が少ないシンプルな生活スタイルも手伝って、ものすごく明るくて開放的。必要以上に物がなく、音楽は小さなipodであるし、小窓に並べたルームスプレーも同じメーカーで統一され、大振りなグリーンもインテリアとして大きな存在感を放っています。インテリアがインテリアとして存在し、日用品ですらインテリアの一部として成り得ているのです。その中でも一番の役者は、増築部分に鎮座しているアイランドキッチンでしょう。どこから見ても絵になるような品ではあるのだけれど、四角の空間に対して贅沢にも斜め向きに置かれている、まさにその置き方については増築の際に一番も揉めたそうなのです。
「自分は面積を有効利用したいタイプなんで普通にまっすぐ置きたかったんです。これ斜めにしたら狭くなるんじゃない？って何度も言ったんですけど、彼女が譲らなかった」と話すご主人の横で、「なんていうか、インテリア的に置きたかったのでこの斜めにこだわったんです」と穏やかに話す奥様。真っ直ぐだ、斜めだ、とお互いなかなか譲らず、とうとう当時の現場監督さんに「そろそろ決めてもらわないと困るんですけど」と言われたそう。
結局、そっか～と言いながらも頑なに譲らない奥様に軍配があがり「いつの間にかこう（斜め置きに）なっていたんです」とご主人は笑います。なんだかんだで、奥様の意見を採用した納得の理由もある。というのも、奥様は「これは小さな夢なんですけどね、後々、お料理教室とかやりたいので、スタイリッシュな感じで置いていた方がいいかなって。お料理は得意と言うか・・・得意なんですかね。おしゃれなのは作れないんですよ。家庭料理とかを手軽に作る感じで、沖縄料理を伝えていきたい」と話す姿がまた、控えめでありながら芯の強さも感じられる気丈な日本女性といった感じで、オールオッケー！と言いたくなっちゃうのです。
格好良いキッチンをインテリアとしてお飾りにしてしまうのではなく、しっかりお料理もやる。見せてもいいように手入れして綺麗に保つなんて、キッチンもキッチン冥利に尽きるってやつでしょうね。
購入の決め手は「海！それと、白い家かな。あと、シンプル」
感心するのは、シンプル好きなご主人は返答内容や言葉選びまでもがすごくシンプル。明朗快活なのです。アレコレとお話を伺っても、帰ってくる言葉が本当に前向きで、そして嬉しそうに明るく話す姿につられて、こちらも嬉しくなって来ます。
更には決断した瞬間を、こう話します。
「ディ・スペックさんに問合せたら、次の日だったら見れますって事でした。でも居てもたってもいられなくて自分たちでその日に見に来て、三線屋さん(当時の賃借人）の店に三線に興味があるお客のふりをして入って、この景色も全部見させてもらって。その時はもう決断していました。翌日、ディ・スペックさんに連れてきてもらって、すぐに！予算の前に決めちゃってました。じゃー、ここでって(笑）。いやー、全く考えなかったね、あん時（笑）。今はホントに決めて良かったなと思うし、もし売主さんに会うことがあったら伝えててくださいね。すごく満足しているって事」
聞こえましたでしょうか。なんてことでしょう！こんな人っているんでしょうか？いるんですねって、もう私の中で、驚いたり、感激したりで、大忙しです。一瞬の出来事が、この先の生活や人生をも変えるのです。なにしろこのご夫婦がディ・スペックへ問合せる前に探していた場所は南部地域。佐敷出身の奥様の実家近くでと探していたのが、一瞬の大きなインパクトで、一転して読谷村の物件を購入する事になったのです。
まるで、ドラマです。作り話のような本当の話があるのです。しかも、どうでしょう。お住まいになって5年経った今でも、売主に対して「ありがとう」という気持ちを持っていて、それを言葉にしているのです。爪の垢を煎じて飲まなきゃいけない、、、と本気で思っちゃいました。
この建物を購入する時はご夫婦で住むための住宅でしたが、引っ越した後にご主人のご両親も大阪から移住され、現在は2階フロアにご両親、Tさんご夫婦は3階フロアの2世帯で仲良く暮らしているのだそう。基本的にはそれぞれのスペースで過ごしながらも、食事は2階フロアで一緒にテーブルを囲み、ゆっくりお風呂に浸かりたい時は2階のお風呂を利用したり、それぞれのワンちゃんと猫ちゃんも自由に行き来行き出来る大人のシェアと言った感じ。建物の造りが階段とフロアの間に仕切り壁がないため、上下階であってもゆるやかに空間がつながっていて、お互いの物音やワンちゃんの鳴き声もほんのり聞こえる感じが、無機質なコンクリートのシンプルな空間を程よくやさしい雰囲気に仕立てています。
最後に、物件を探している人に一言って投げかけると「直感を大切に！って事。直感・・ですね。あとはなるようになるかなって。」と笑います。
そうなんです。そうなんです。私自信、物件ご案内時にお伝えしていますが「直感が働いたら直感を採用しましょう。迷いが出たら感覚を優先しましょう」と。大体の場合、答えは自分が一番知っているって事を言葉にしてくれて、形で見せられたようなご褒美みたいな時間でした。
取材の後、文字や写真を確認して頂くメールのやりとりで「おかげさまで良い思い出になりました！ありがとうございました」というとんでもなく嬉しい返信をちょうだいしたのには、本当に目頭が熱くなりました。それこそ、不動産冥利につきるってもんですね。
今回の取材を沖縄不動産文庫へ掲載しています。
取材ノート 入居者のその後Vol.17 「プラス土間」Tさんの場合
http://www.dspec.jp/cn59/pg759.html
静かに品よく構える
売戸建
沖縄県那覇市おもろまち
価格：7,600万円
土地：363.32平米（109.9坪）
建物：116平米（35.09坪）
http://www.dspec.jp/gaijin/date/pg635.html
レッツ、イマジネーション！
賃貸戸建（外人住宅）
沖縄県北中城安谷屋
間取り：3Bed（8・6.8・4・LDK23）
価格：120,000円
http://www.dspec.jp/gaijin/date/pg636.html
ちょうどいい都市暮らし
売マンション（リノベーション）
沖縄県那覇市字松川
間取り：洋6・洋5・storage3・LD14・K3
価格：1,860万円
http://www.dspec.jp/date/pg731.html
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