リノベーションともひと味違う、古い家の再生えつこさんの別邸

 

「えっちゃん! えっちゃん家のリビングに合いそうなテーブル見つけたわよ! 」と、みわこさんが携帯を鳴らして伝える。

 

それに応えるえつこさんの言葉はいつも決まってる。
「そう! すぐに見に行くわ! 」

 

みわこさんがリサイクルショップや骨董屋の前から、えつこさんの携帯を鳴らすのはよくある光景で、そうするうち、この家の家具はほぼすべてが新品なしで揃ってしまった。

 

生活拠点を那覇にしているため、20年近く廃屋状態にしていたやんばるの家を改装しようと思い立った時、えつこさんがまず相談した相手はやっぱりみわこさんだった。

 

「最初にね、ここにみわこさんを連れてきたときにね、すぐに言うの『なんて素敵な緑、この贅沢な緑を大きな窓を作ってそこから是非眺めましょう』って」

 

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「この椅子もね、この飾り棚もね、全部みわこさんが見つけてきてくれてね、私が自分で見つけたものなんて、ダイニングテーブルくらいよ。それもみわこさんに電話してお許しをいただいてから買ってるの(笑)」とえつこさんが言えば、みわこさんは「お仕事でテーブルのコーディーネートをしているでしょ、そこで何か足りないなと思っているときに、えっちゃんに声を掛けるとね、不思議とピタッとくる一つを持って来てくれるの!」と続ける。

 

互いが互いの好みをよく心得ていて、さらには互いの感性を信頼しているのがよくわかる。

 

 

そんな2人が改装中に苦労したのは、大工さんに内装のイメージを理解してもらうこと。

 

風呂場と洗面所の壁はタイルはなし、壁はそのままでとお願いしたときは、タイル貼りと決め込んでいる大工さんは「ん?! 」と首をかしげ、母屋の室内の木の部分は墨色にしてくれと頼んだときは、一度では聞き入れてくれず、「黒!? お宅はそば屋でも開くんですか? 」と驚いた様子を見せたのだそうだ。

 


 

リサイクルショップで買った物は、どこか野暮ったさ感じるが、えつこさんの家ではそれがない。

 

加えて、元々あったものを上手に生かしている。
乳白色のガラスの格子戸は間仕切りとしてはいらなくなった。
しかし捨てたくない。
どうにか使えないかと考えてできたのが、奥行き20センチ程度の収納棚。
浅いが面積が大きく、細々したものが行方不明になることなく欲しい時に楽に取り出せ、使い勝手が抜群に良いのだ。

 

押し入れの戸も新しいものに取り替えるのではなく、表と裏を返して色も変えた。
仏壇側にあった押し入れも構造柱だけを残し、ディスプレイスペースへ。

 

その例えはもう、挙げれば切りがないほど。

 

 

インテリアだけを見ると、えつこさんとみわこさんの個性が強く印象に残るが、この改築のもう一人の立役者は建築家の永山盛孝さんだ。

 

この新築の離れを見て、永山さんの設計のそのスタイルの幅の広さに驚いた。
これが、あのモダンな家Nハウス※沖縄の風土をモダンに表現する 建築家 永山盛孝さんの自邸と同じ建築家が設計しているものなのか。
建築家とはここまでしっかり施主さんの好みや考え、生活スタイルを反映させ、自分の色を表に出さないものかと。

 

その驚きを永山さんに伝えると、これでも個性が出てしまっているのだと返してくれた。

 

「大阪のね村野藤吾という大御所の建築家がいたんだけどね、彼が90代で言うにはね、『設計するときに自分の主張を入れられるのなんて、ほんの3%くらい』なんだそうだ。それを考えたら我々なんて、本当まだまだだよね」

 

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永山さんの事務所団設計工房では、施主さんとの打ち合わせだけに二年もの期間をかけたりもする。短くても半年程度はかける。決して効率が良いわけではないが、施主のライフスタイルや好み、価値観をしっかりと把握することに重点を置いているためだ。

 

「えつこさんからね最初にね、古い家にあまり手を入れるんでなく修繕して、新しくダイニングキッチンを増築したいと。上等じゃなくていいからとにかく安くあげてほしいと、『たまにしか使わないから』と言われてね、本当にもうローコストで。あまりの低予算で自信がないまま引き受けて、思わぬところからシロアリが出たりなんかして、結果的には最初の予算の倍にはなったけど(笑)。 

 

ピカピカした斬新なデザインのものとか、モダンな家具などはあまり好みでなくて、どちらかというとアンティークのものが昔から好きな方だね。

 

母屋は改装して、ダイニングキッチンを新しく作りたいということでしたね。キッチンはフロアーでなくて、土間のたたきを希望されていて、外も内もなく土足で行き来できるのが良いと。息子さんが5歳の頃に『お母さん、田舎でナイフとフォークを使って食事ができるところがあったらいいね』と話したらしくて、それが心に残っていてのことだろうね」

 


 

 

 

えつこさんの意向を汲みそれを中心に据えながらも、仕上がりから永山さんの思考も散見できる。

 

新築を建てるに当たり、古い母屋と家畜小屋との調和を図るため、屋根はセメント瓦にしようと考えた。
それが奏功し、ダイニングキッチンだけが新しいのが見て取れないわけではないが、一つの家として違和感を感じさせず、古い二軒の間にさも昔からあったかのように収まっている。

 

壁は、全部を鉄筋コンクリートで作るより小屋裏を見せるような形にしようとコンクリートと木の混構造にした。その異素材のテクスチャーの違いが互いを引き立て、壁に表情を与えている。

 


 
「家畜小屋もね、何か使いたいとおっしゃってたのでね、それでは板だけ貼って“あずまや”として使うのはどうかと提案してみたんです」と永山さん。
窓も入れず、ただ板を貼っただけのはずなのに、この息の吹き返しよう。
どこを取っても絵になる。

 

しかし実際にどんなときに使うのだろうかと思っていたところに、ここで開いたパーティー様子の写真をえつこさんが見せてくれた。
5歳の頃に空想した「田舎でフォークとナイフで食事ができるところ」で、その息子さん自身が結婚披露宴の二次会を開いたのだ。
写真の中のダイニングキッチンは、料理を並べた“あずまや”とキャンドルを並べた芝の庭と一体となり、大勢を受け入れられる場へと姿を変えていた。
土足で上がれるスタイル故にできることで、普通の家ではこうはいかない。

 

 

 

元々あったセメント瓦の母屋と家畜小屋の良さを残しての修繕と、セパレートでのダイニングキッチンの新築。お金は掛けてないけれど、こだわりの限りを尽くしている。
隣家も近いし、脇には車道も走っている。
だけど、敷地の周りに木々を巡らせ、家の裏は山という環境なので、外界からは視線が遮られていて、その居心地は鬱蒼とした森に大きく抱かれているかのよう。

 

今ではえつこさんご夫婦は、週の半分もの時間をこの家で過ごす。
最初の打ち合わせで発した「たまにしか使わない」の言葉に反して。

 

 

 

 

団設計工房
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