「ウチ、古いから隙間もたくさんあるんでしょうね、アリもかなり出るわけ。見慣れたからか、喩え話する時にもアリを使うようになっちゃったんです。もしアリなら、アリだったらって」
アリの侵入にも全く動じることなく、笑い話に変えるのは、Roguiiのミカさん。年月を経た建物ゆえの弱点はもちろん、長所についても淡々と語る。
「ここは窓が低い位置からあって大きいから、外の景色がいっぱい見えるんです。娘がお庭で葉っぱ探して遊んだり、プールで遊んでる姿も、よーく見える。この大きい窓が一番好きなところかな。鉄格子入ってる窓はひとつもないから、開けっぱなしにはできないんですけど。でも朝6時前は一番気持ちが良いんです。空気がスーッとして。まぁ私も仕事してるし、あんまり昼間はここにいることもないから、暑くてもなんでも別にいいかなって」
ミカさんのおうちは、築後40~50年を経ても未だに根強い人気を誇る外人住宅。憧憬や意気込みと、並々ならぬ想いを抱いて住む人が多いが、ミカさんがここを選んだ一番の理由は、気軽さ。
「なんか楽で。絶対に外人住宅ってこだわってたわけでもなかったんですけど。ただ、日本の家って建てた家族は住みやすいけど、家族構成が違うと部屋が余っちゃったりとかしますよね。床の間みたいなの要らないとか。だけど外人住宅なら箱がポーンとあるだけ。気楽に住めちゃう。あ、安かったのももちろんありますよ。外人住宅の割にはバスルームひとつだけだし、ベッドルームも小さめだからかな。外国人相手では借り手なかったみたいで、日本人相手にしようって切り換えたばかりの時に出会って。ご縁があったんでしょうね。外人住宅って人気だから、金曜日に空きが見つかっても、土日をはさんで月曜日に連絡すると、もう埋まっちゃってたりが普通にあるし」
ダンボールのおうちは、愛娘のノアちゃんとの共同制作。
そんなミカさんのお気に入りは、リビング。20帖ほどもあるという、この空間では愛娘のノアちゃんものびやかに過ごす。
「リビングが広いのが良かったです。娘も全力で走り回れるから。前のおうちは狭い上に、物が多くて危なくって。娘はまだ、パッと見たらハサミ使ってたり、マニキュア触ってたりする年頃だから目が離せるようで離せないし…。ここも物が多いのは変わらないんですけど、広さがあるから。家の中でも、のびのびできるのがいいなって」
ミカさんの言う通り、モノは確かに多い。
「ゴチャゴチャしてる方が好きなんです。何もないと殺風景に感じちゃって。それに子供が育つのにはゴチャゴチャの方がいいみたい。だから別にこのままで良いかなって、特に隠したりや捨てたりはしてないです」
隙がないほどの整然とした空間は大人でも息苦しい。少しぐらい散らかっている方がくつろげるものだ。ただ、そのゴチャゴチャした感じが所帯じみず、上質でおしゃれに映るのには、モノの選び方が大きい。ミカさんには、家具でも飾りでも、選ぶ際のモノサシがちゃんとある。
「古いものの方が好きですね。それが使われてきた感じや作った人がどんな人か分かるようなものとか。新品や既製品も悪くないし、うちのだんなさんはお茶淹れが割れたら、100均で代わりを買ってくる人で(笑)、それもアリだとは思うんですけど」
古く、そして、味のあるモノばかりが並ぶ。だから、サマになるのだ。例えば、照明も。
「ランプシェードは、古いアンティークのパーツを集めて作ったものです。高知にある『アハナムジカ』で手に入れました。私、高知出身の、中西直子(なちお)さんっていう素敵な動物の絵を描くひと・・・料理人でもあるんですけど、彼女とお友達で、『アハナムジカ』も彼女に連れてってもらったんです。彼女のお陰で高知にも、よく通うようになって」
かといって家具は、貴重なアンティークばかりというわけでもない。県外までわざわざ出向いて選んだお気に入りもあれば、ごく身近なところでサクッと譲り受けたりもある。
「実家で余ってた家具をそのまま持ってきたりとかもあります。キッチンの台は、業務用のリサイクルのお店で買いました。フェルトの人形は、知ってるアトリエが6月一杯で終わっちゃうからフリマするって聞いて行って買って。このオモチャも、親戚がオモチャ箱ごとオモチャを処分するっていう時に、じゃその中から1個だけもらってくねって持ってきたんです」
テイストや来歴はバラバラ。だが、よく使いこまれた味のあるモノという共通項でまとめれば、ステンレスとフェルトなど異なる素材のモノも見事にミックスされて格好良く、居心地も良い空間が作られるのだ。頑張りすぎず、無頓着過ぎずの、いたって自然体な空間。それはミカさんの人柄そのもの。
ただ、このおうちにも、この先ずっと住むかは分からないという。
「いつかは家を建てたいとも思いますし、でも今は好きなものがたくさんあって、ひとつに決められなくって。材質だけでも、壁は石もいいし漆喰もいいし、あ、でも床は木がいいなとか。建物も、実はトレーラーハウスみたいなのも嫌いじゃないし、ヨーロッパの古いバレエ教室みたいな天井が高くて、細長い窓がついてる建物にも憧れるんです。もっと昔は、球体の家で、ボタン押したらウィーンって開いて、星が見えちゃったりするとかもいいなって…あれこれ想像してるだけ。それが楽しかったりするんですけど」
モノと同じように、建物の好みも幅広い。だが、ミカさんのモノサシがあれば、どんな空間もサクサク自分の味つけができてしまうに違いない。
ゴチャゴチャ。ただし、上質のゴチャゴチャ。長く愛されてきたモノたちがなし得る雑然。それが格好良いなんて、少しずるい気もするが、それはモノサシがちゃんと定まっているひとの特権だ。
文/石黒万祐子(編集部)