陶・よかりようつわは人間と同じ、面白そうなヤツだけ連れて来る




不均一に歪んだ形状、蛍光色のようにビビッドな色合い、
無造作にはりつけたような突起物、
かたちの揃っていない二つの把手。
すべてが型破りなキム・ホノ(金憲鎬)の作品。


「キム・ホノに出会わなければ、よかりよは生まれませんでした。」


オーナーの八谷(やたがい)さんは、そう言い切る。



内側にまで取手が手を伸ばしている。


20年以上携わった仕事をやめ、沖縄へ。
店を構えて8年半が経った。


陶器を販売する店を始めたきっかけはなんだったのだろうか。


「14歳の時、両親に展覧会に連れて行ってもらって。
うわ~~って思いましたね。色が綺麗だったし。
でも、中学では何もできないから、
高校1年生の時、先生にお願いして顧問になってもらって、予算を取って陶芸クラブ作って、すっごい楽しかったですよ。
図画工作だけが好きな高校生が泥遊びしてるんだから楽しいに決まってる(笑)」



中田篤 「開店前からお客様が並んでくださった個展は、彼のが初めてでした」


美術大学を卒業後、しばらく弟子入りしてしていたところをやめ、
自分の目指す作品を作りたいと、大学時代の友人たち合わせて10人でアトリエを作った。
窯を買うお金がないので働き、稼いだお金でレンガを買い、
自分達で積んで、窯をつくった。
肉体労働が一番稼げるからと、舞台美術の仕事を始めると
徐々に仕事の比重が増え、忙しくなり、5年後に脱退した。


「そのアトリエ、今も存続しているらしいですよ。」




志村観行(のりゆき)


働き始めてからは、応援の意味もあって友人達の作品をはじめ作家モノの器を買ったり、見て歩いたりする様になった。そんなある日、キム・ホノの作品に出会った。


「そこには、まさに自分の求めていた世界があったんです。
いずれまた、陶芸の世界にも戻れれば良いな 、なんて考えは吹っ飛びましたね。
『この人がいるなら、自分なんかが陶芸やる必要ないや。』って。
その事を機に、自由な作風で制作をするさまざまな作家たちを知るようになり、
次々に身に寄せては、作家陶を使うようになっていきました。」



片瀬和宏が卒業制作を展示する為に、友人と作った鐵の棚を貰い受けたもの。そのいびつな歪みの魅力でお客様にも大人気。


他のうつわ屋ではまず見かけない、
確固とした主張を持つうつわたちが顔を並べているが、
八谷さんが商品を選ぶときのフィルターはなんなのだろう。


「楽しいもの。食卓を楽しくしてくれるもの。
『これに何を盛りつけようかな?』『これで何か飲んだらうまいだろうな〜』
と、想像力をかきたててくれるもの。」


うつわに食べ物が盛られているのを見るの、好きですか?


「好きですね、大好きです。盛り付けはとっても楽しい。
器と食材の相性を考えて、実験的にいろんな組み合わせをして楽しんでいます。
飲み物も、いろいろなうつわで試して欲しいですね。ワインだって、ビールだって、飲み物はすべて、器によって味が変化しますから。」



赤嶺学の白いうつわ。持つと手に吸い付いてくるようなぬめっとした質感に驚く。


「うつわも人間と同じなんです。
使っていくうちに関係性も変わっていくでしょう。
だから、人間をみるのと一緒。
『なんか面白そうだな』と思えるヤツを連れて来るんです。」


作り手の想いや感性が、作品にはしっかり反映される。


「ものづくりをする人にとって作品は言語・言葉と一緒。
『こういうの、良いでしょう?』という気持ちを作品に込めているから、
『なるほど、こういうのが面白いんだな、この人は』って、
作品を通して向こう側にいる人間が見えてくるんです。」


心ひかれる作品とは?


「一番良いのは、色とか形とかではなく、
例えばまったく違う作品をつくっても
『これって◯◯さんの作品じゃない?』
といわれるようなものができると、素晴らしいと思います。
味とかクセとかではなく、もっと根本的なこと、
例えば、その人の雰囲気とか匂いとかニュアンスとか、
そういうものが作品一つ一つについていけば、サインがなくてもその人のものだとはっきりわかるんです。」



「内側だけじゃなく外側も変わりますよ」右が八谷さんが使っているもの、左は未使用品


うつわの中で、陶器はもっとも経年変化が激しい。


「陶器はもともと組成がゆるくて柔らかいモノです。
ですから中には、最初に液体を入れるとじわーっとしみてくる物もあります。
ところが、愛情を持って使い続けると・・・これは2ヶ月くらいだったかな、ぴたっと漏れなくなる。その後も、毎日2杯のコーヒーを飲み続け、いまではこんなに風合いが出てきました。」


自分の使い方ひとつで、同時期に買った同じシリーズのものであっても
変化の仕方がまったく違ってくる。
まさに「育てる」楽しさが、陶器にはある。





自由な作風で個性的な作品が多いからか、
手に取る事をためらうお客様もいるという。


「ここにある状態は途中経過のようなもの、いわば産院のベッドの中のような感じ。
ここから退院して、各家庭に連れて帰ってもらって、
『綺麗だわ〜』と、ずっと飾ったままだと、
手垢にまみれないかわりに、味がでてこない。
でも、ハードユースで毎日ガシガシ使えば、
たまには欠けることもあるだろうけれど、
その欠けたところに雑物が入っていくことで風合いが出てきます。」


では買ってくださるお客さんには「大事につかってくださいね」じゃなくて…


「もうガシガシ使ってください!って言います(笑)
『しばらく飾っておこう』なんておっしゃったら
『そんな!お願いですから、是非使ってください!』と。」


「時間の経過こそが、そのものがあったっていう証だと思うんです。」


キズではない、汚れではない。
そのモノが生まれ、使われて来たという「証」なのだ。





時代の空気に会ったうつわを、八谷さんは求めている。


「今の空気感の中で使われるうつわを扱いたいと思っています。
その時代、その時代の空気感の中でものを作っていけば、
それが歴史になりますから。」


陶器が歩んで来たこれまでの歴史が重要なのは言うまでもない。
しかし、過去だけにとらわれていると、新しいものは生まれて来ない。
古いもの、伝統を守って作られ作品だけが素晴らしいのではない。
当たり前のことのようだが、よかりよの陶器を見ていると、見落としがちなそんな真実にはっと気付かされる。





陶器の世界が抱える問題は根深い。


「コンビニの発泡スチロールから直接ご飯を食べて美味しいという時代なんですよね。
変わりゆく食生活に食器をすべりこませていかないといけないので、
うつわというのは面白いんだよ、色んな器種があって楽しいんだよ、ということを、本当のうつわの愉しみを伝えていくべきだと思っています。」


私も含め女性は特に、他人の目に触れる物には気を遣うが、
一歩家の中に入り、家族の目にしか触れないものにはお金を費やさない傾向にある。
家の中で使うものこそ、毎日触れ、使う物なのに。
「ある程度デザインが良く、事足りればそれで良い」と思って買ってきた、これまでの自分のうつわの選択基準を顧みて、反省する。





「人間にはそれぞれ役割分担があると思うんです。
僕はうつわが好きだからこういう店をやっているけど、
世界平和を願い、より良い形で世界をバトンタッチしていかなきゃいけないのは大人の役割。
自分はうつわを通して、子どもたちに良い世の中を残さなきゃいけないと思っています。」


子どもたちにも陶器を触って欲しいと思いますか?


「もちろん!うちの一番若い顧客は小学校一年生の女の子なんですよ。
お母さんが『入学祝いに何が欲しいの?』ってきいたら
『よかりよで自分の御飯茶碗買うんだ。』って、時間をかけて一生懸命えらんで
『これにする。』って。
これはもう、本当に嬉しかったですね。」


子どもって、意外とモノの本質を見極めているんですね。


「そうなんです。子どもたちは大人より強い感性を持っていますから。
拝見していると、親御さんはお子さんに陶器を触らせるのをためらうことが多いようなんですが、
うつわの持ち方を教えてあげたりすると、
次来たときは『こうして持つんだよ』なんて他の子に教えていますよ。」


大人はきっと、子ども以上にすごく気を遣って商品を触りますよね。


「そうですね、遠目におそるおそるのぞき込むようにされる方もいらっしゃいますね。
でもうちは値段も全部底に貼ってあるので、持ち上げないと見えないんです。
形や色も判断基準ではあるけれど、何が一番大切かというと『手取り』です。
日本では、大きな盛り皿や大鉢を別にすれば、大抵のうつわを手に取って使います。
作家の作る器は一つ一つが一点物ですし、人間の手のサイズも一人一人違いますから、それぞれを手に取って、しっくりと手になじむモノを探してほしいですね。」


では、一つ一つ触って、じっくり選んでも、「さっさと決めて!」とは思わないんですね。


「それはないですね。
自分がもともとうつわが好きで買う側の人間だったので、
お客様が迷ってる姿を見るのは好き、嬉しい。
『迷わせてる!迷っていただけるような品ぞろえができてるんだ!』って。」


明確な理由がわからないのだが、
よかりよに並んでいるうつわはどれも、片っ端から触りたくなってくるから不思議だ。


「それは作家が聞いたら一番喜ぶ言葉でしょうね。
まずは触れて欲しいんですから。
自分の言葉に耳を傾けて欲しいのと一緒で。」


間違いなく、うつわは、語るのだ。文字通り。


数々の作家が厚い信頼を寄せる八谷さんが持ち帰り、
育ての親をただ静かに待ちわびるうつわたち、
連れ帰って、自分の手で、育ててみませんか?

写真・文 中井 雅代

 

陶・よかりよ
沖縄県那覇市壺屋1-4-4/1F
TEL.098-867-6576 FAX.098-867-6575
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