» mon Sakata展に寄せて 「坂田敏子さんの夢中」

 

写真・文 田原あゆみ

 

 

日常着のブランド、mon Sakataの坂田敏子さんとお仕事をするようになって10年あまり。
会う度に、好奇心が誘う人生って何て素敵なのだろうとしみじみ。

 

敏子さんは、まっさらな目でものを見ることのできる人。
まずは見て、惹かれると指で触れてこれは一体どうしたことか、あら、この布はどんな形になりたがっているのかしら?、と、その感触に誘われ、次の行動へ。そうして出来上がったものは、まさに手と肌で感じるのが楽しい服。

 

 

そんなお仕事がもう40年も続いているというのだから素晴らしい。そんなに長いことこの仕事をしている方なのに、会う度に感じるのが、「新鮮さ」なのだから敏子さんの飽くことを知らない好奇心はきっとすごく純粋だ。

 

例えば坂田さんが手にしているのは、沖縄の天然酵母パン宗像堂で分けてもらった布。二人で宗像堂を訪ねた時のこと。窯へ続く道の角を曲がると、この布たちがじゃーんと視界に現れた。パン窯のそばに洗って干してあっただけなのだけど、なんともうつくしかったのだ。それを見つけた敏子さんは途端に目をまん丸くして、「ねえ、この布何??」とそこに釘付け。

 

「どうしてこんな色をしているの?一体なんの布なの?」
「え、あらそう、パンの発酵に使うのね。どうして墨色なのかしら?」
「どうしてまだらになっているのかしら?ステキね」
「この素材はなあに?なんだか不思議な布ね」

 

「え!分けてくださるの??ホントに?あら嬉しい」
「うちの坂田なんかは(敏子さんの旦那様で、古道具の坂田の坂田和實さん)このままas it isに展示しちゃうわよ。本当に「用の美」そのものよ」

 

「せっかくだから2年後のShoka:さんでの展示に、オリジナルでこの布を使って製品を作ってみようかしら?」

 

目をきらきらさせて、嬉しそうにしている敏子さん。そう、好きなことがそのまま仕事になると生涯現役。枯れること知らず。一緒にいる私まで嬉しくなってくる。この出来事で2年後のカレンダーがパッと明るくなったのだ。

 

 

 

 

たくさん分けていただいたこの布を、東京のアトリエに持ち帰ってじっくりと触り、飛び出した疑問に向き合った敏子さん。

 

「宗像さんは、発酵菌の働きでこの墨色になったって言うんだけど、私は不思議でね、同じように天然酵母でパンを作っている方に聞いてみたのよ。そしたらその店じゃあ同じように使った布でもこの色にはならないっていうのね。そこはねえ、ガスを使った窯なんですって。だから一緒に考えてみたんだけど、ほら、宗像さんのところでは薪窯で焼くじゃない?その煤が入り込んでいるんじゃないかしら?」

 

うんうん、と聞いて布と煤と、発酵菌たち、人の手、全てが揃ってこうなったんだなあ、と私は一人で答えを出す。でもきっと敏子さんは敏子さんの解釈が必要だから、黙ってうなづく。敏子さんはそういった他人の解釈や解説よりも布の魅力そのものに夢中なのだから。

 

 

 

 

「不思議な布なのよ。何重かになっていてね、古いから引っ張ると破れちゃったりするからどんな風に使おうかしら・・・?バッグ?パンツのポケットや裾にいれるのもいいわね・・」

 

 

前回企画展を開催した2016年から何度か敏子さんと話しているけれど、毎回布の話が出るとその布と感覚を一体化させたようにイメージを膨らませているのがこちらにも伝わってくる。

 

 

 

すごく嬉しそうに布を見つめている敏子さん。
気がつきましたか?トップの写真と、そのあとの写真には約1年半の時の流れがあるんですよ。トップの写真は2018年の9月。やや最近ですね。
そのあとの写真は2017年の春。
布を愛おしそうに、嬉しそうに見つめるテンションに全く変わりはありません。

 

そしてこの布のことを知れば知るほど愛おしくなるのは、その歴史にあるのです。宗像堂の創業当時から使っていた布で、なんと14~5年間パンを発酵させる時にこの布で包んで寝かせていたらしいのです。この布の景色の深い味わいは、宗像堂の家族と関わった人々、そしてパンの材料や発酵菌の日々の歴史が反映されているのです。なんて可愛らしい布なのでしょう。

 

 

今までは未使用の素材をまっさらなままに感じて、それがどんな風になりたいかを尋ね、自分がどんな風に着たいのか楽しみたいのかを描いてきた坂田敏子さん。今回は、長い間日常的に働いてきた布の行き着く最終の姿に想いを巡らせるお仕事だったので、ある意味すごく新鮮で遊び甲斐があったのだと思う。

 

 

 

 

「ほら、これなんかどうしちゃったのかしら?いい形しているでしょう?まるでショートパンツみたいよねえ?ふふふ」

 

「これなんて見て、見て。もう手を加えなくても完璧!これはそのまま展示だわよね」

 

 

 

 

 

もしこの布たちを敏子さんが見つけて、『すごく素敵!』と言わなかったら、この布たちにこんな未来は待っていなかっただろうし、敏子さんにもこの2年半は違うものになっていただろう。誰かが、見つけてスポットライトを当てることで、景色が全く違って見えることがある。私たちもその楽しみを見せてもらうことができた。

 

働いて働いて、いい具合に発酵したいい表情。宗像堂の仕事がそのまま布に転写されているよう。

 

この布のことを長いこと鑑賞したあと、敏子さんのそれまでの仕事を振り返る時間を共に過ごすことに。

 

 

 

「ほら、昔はアナログの時代じゃない?DMを作るのもぜんっぶ手で作ったのよ」
敏子さんは元々デザイン事務所にいらしたので、mon SakataのHPや、DMのデザインはほとんどが敏子さんが軸になって制作される。
紙の上には、糸の雰囲気を出すためにたくさん描いたもじゃもじゃライン。

 

「その中から厳選したものをこうしてああしてはめ込んで、この部分がほら、こんんな風にDMの表になったのよ」

 

 

 

その糸を表現したラインで、ニットの形を作ったり。パンツにしたり。

 

 

 

 

 

「ほら、これなんか本物の布にね、糸をこんな風にはめ込んでね。それがそのままDMの表紙になっているのよ。今は写真を撮ってその写真をいじるじゃない?」

 

「昔はもう全部手作業。それこそ切った張ったの世界よ」

 

 

 

 

切りはりしたり、サイズを考えたり、手作業がたくさんあった時代。
さっきのもじゃもじゃラインがニットになって右端に仕上がっているのがわかりますか??

 

 

 

 

筆を持った時の力加減。手首の柔らかさや硬さ。抜き加減と入れ加減。様々な感覚を使う手の仕事。
パソコンやタブレットを使うことで、便利にはなってはいるけれど、この感覚を使う仕事が本当は様々なギフトを私たちの生活にもたらしているのだと思う。
ほんの些細な感覚、例えばこんな風に普段から手の感覚を使った仕事をしていると、きっとタンポポの綿毛を触ってその繊細さや完全さに気がつくことができるだろう。そんな人は人生の岐路にたった時や、何かを選ぶ時に、ささやかな兆しを読み取る能力はきっと高くなるにちがいない。だって、普段から自分の感覚と会話しているのですもの、積み上げたキャリアが違う。

 

日々の中の機微に繊細であればあるほど、日常を楽しむ能力はきっと上がる。
喜怒哀楽。私たちは嬉しさや、喜びにばかり目が行くのだけれど、ちゃんと悲しんだり、怒ったり、せつなさをしみじみと感じることで、喜びに奥行きができるのだ。深さともいえる。
美しさの奥行きや深さも、関わっている人の感じる器が関わっているのだと最近ひしひしと思う。

 

坂田敏子さんの私が好きなところはたくさんあるけれど、感覚はきっととても深く感じているのだけど、それをパッと手放して、表現がとても軽やかなところ。だから上っ面な表現には決してならない。様々な美の含蓄を含んだ軽やかさに私の手は今日もまた何故だかふっと伸びる。きっと全国のmon Sakataフアンの方々もそうなのではないだろうか?

 

 

 

敏子さんのアトリエの一角にはいつでもその時々に、美しいわ、好きだわ、と感じるものが展示されている。

 

 

ああ、今日はいい風吹いているな~。気持ちがいいから買い物に行こう。どれどれ、と、クローゼットを見渡す。かっこつけたい時の服、勝負服、家着(だらけ服ともいう)、が並ぶ中、mon Sakataの服だけがそのどこにも属していなくて。ほどよく全部の要素を持っている稀なところに位置している。なので、日常のお出かけに最適。

 

片意地張らず、ささっと着れて、格好もつくし、格好つけすぎにもならない。シンプルなのに、どこか小粋で、ふっと肌になじむ。

 

 

その毎日を愉しむ服に至るまでの道程。その根源は、坂田敏子さんの『夢中』なのであります。

 

 

 

ふふふ。何かに夢中になっている人の姿はチャーミング。
子供みたいな敏子さん。
 

 

 

 

さあ、2年に1度のmon Sakata展。
今回は実に2年半ぶり。初めての秋と冬の服。

 

沖縄はここに来て突然真夏に戻ったのだとか・・・・2年半準備して初めての秋冬物なのにと、顎が外れそうだけど、寒い日も来る。行き当たりばったりの南国思考。皆さん思い出してみてくださいな。年が明けて急に寒くなる沖縄の冬の日々。曇り空が海に落ちんとばかりの重いグレーな冬の雨。そして湿気ある強風は体温を奪い体感温度は10度以下。

 

くれぐれも言います。寒い日は必ず来る。そんな日に、軽やかで日常に寄り添う遊び心のあるmon Sakataの服は断然オススメなのです。宗像堂の布ばっかり写しちゃいましたが、ちゃんとニットもパンツもシャツだってやってきます。
その写真たちは今後のShoka:のHPにて!ご紹介したいと思います。

 

 

Shoka:店主 田原あゆみ

 

 

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<企画展のお知らせ>

 

 

 

11月16日(金)~25日(日)12:30~18:00(会期中無休)

 

mon Sakata展 vol V はじめての秋と冬

 

シンプルだけどシャレていて、日常着として着心地抜群のmon Sakataのお洋服。今までの企画展は4回とも春夏の服で開催してきました。南国だもの、その方がニーズに合うんじゃない?ということだったけれど、素材を生かすmon Sakataの秋冬物もぜひ見てみたい。

 

ということで、沖縄ではじめての秋冬物のmon SakataをShoka:にお迎えいたします。以前坂田さんに、好きな服はなんですか?と聞いてみたら、「ジーンズってすごいなって思うのよ。だって、ほら何にでも合うのよねぇ。カシミアの上質なニットにでも、どんなTシャツにも合うでしょ?素材もそうだけどどんな色にも合うのよ」という答えが返ってきて、なるほど、と。当然と見過ごす中に新鮮な気づき。mon Sakataの原点のような気がします。

 

mon Sakataの秋の服にはコットン・リネン・ウールやそれらの混紡など、くたくたになるまで楽しめる素材がたくさん。そして、今回天然酵母のパン 宗像堂でパンの発酵の時に使う布を、坂田敏子さんが服の中にとりいれたシリーズもやってきます。10年かけて育った布の表情はなんとも言えない味わい。そして私が敏子さんと出会って10年。その間に発酵した大人の遊び心が反映されているような気がしてとても楽しみなのです。

 

 

 

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暮らしを楽しむものとこと
Shoka:
http://shoka-wind.com/
沖縄市比屋根6-13-6
098-932-0791(火曜定休)
営業時間 12:30~18:00