Nice – Corsica – 帰宅「光と影は交互だよ」

写真・文 田原あゆみ

 

あゆみさんエッセイ

 

旅の後半はあっという間だった。

 

フランスの旅を終えて日本に帰ってきた私は、時差ぼけでおかしい上に久しぶりに飲んだこいコーヒーが効いてしまって、夜中にぱっちりと目が覚めてしまった。
午後2時を過ぎてからコーヒーを飲むと寝れなくなってしまうことをうっかり忘れたことにして、うまいうまいと二杯も飲んだことが悔やまれる。
この食いしん坊の欲張りめ。

 

そして、寝むれなくて布団の上でごろごろと寝返りを打つうちに記事の締め切りのことを思い出してしまった。さあ、私の中に刻まれた心象にアクセスしてあの旅の続きや、そこで感じたことを呼び覚ましてみよう。
そうやって旅は何度でも味わえて、終わった後にも成長してゆく。

 

記憶の階段を降りてみよう。

 

 

 

 

西フランスのMelleを後にした私たちは南フランスのコート・ダジュールに二泊。みんながヴァカンスを楽しんでいるのを横目に見ながら、友人のモナコでの打ち合わせにどうしても意識がいってしまう。
コート・ダジュールは多くの観光客で賑わっていて、どこへ行っても人人人。

 

観光地の人混みが苦手な二人は、できるだけ静かな道を選んで歩き、けれど外れないように野生の勘と今まで蓄えてきた情報のストックを引き出しから出し入れしてレストランを選ぶ。
佇まい、ウエイターの姿勢や動き、目の輝き、厨房がオープンんになっている時には料理人から醸し出されている雰囲気、店全体のセンス、などなどをさらっと見るのだ。
旅に出ていても結局は、起きて食べて活動して休息をするということは変わらない。

 

食べ物はほとんど一度も外さなかった。フランスは美味しかった。
様々な種類のチーズ、新鮮な魚介類と野菜たち。お肉も、レモンメレンゲパイも、ワインもとても美味しかった。
ハズレがなかったのは、友人と私がどうしようもない食いしん坊で、外れることを許さず鋭い目線でアンテナを張っていたからだ。
特に友人の勘は鋭かった。
才能あふれる写真家の友人の視線はシャープだった。

 

捉える、ということにおいて貪欲な人は狙うものは必ず捕まえるのだろう。衣食住、その全てが彼女らしいことでも妥協のなさがうかがえる。

 

 

 

 

コートダジュールではお腹を空かせた上に散々歩き回って、ピンと来る店に出会えなかった。
街は観光客でごった返しのディナータイムに突入私たちのお腹も空き好きに空いていた。
そんな時なのに、彼女が「ねえ、出直してみない?一度帰ってリフレッシュしてから空気変えようよ」と。

 

ええ~~、お腹がすいたよ~。と身体と感情は瞬時に拒否反応。
けれど、私の思考と直感はやるな、と思った。

 

人生の師匠の一人だと感じているこの友人のセンスは信頼出来るし、その意見は小粋だ。
部屋に戻ってシャワーを浴びて、一息ついてから街に繰り出した後、とても雰囲気のいい小さなレストランに出会った。それはトリュフの専門店で、何を頼んでもすんごく美味しかったのだ。

 

あのまま空腹に負けて、くたびれた心と体のままに選んでいたらたどり着けなかっただろう。
そんなことを思い返すことで、なんだかそこからいろんなメッセージが受け取れる。
何かに行き詰まった時には、一度手放して自分の心や体をリフレッシュすることで運を上げることができる、とか。
ああ、恥ずかしいくらい欲張りな私は、上げること、成長とか学びとかそんなことに食らいついてしまう。
世の中は光と影。だからちゃんと何かを忘れたり、ポカをやったりして私は欲張りの帳尻を合わせているのかもしれないな、と思う。

 

 

 

 

食いしん坊なので、料理の写真が少ない。
目の前にあるものはすぐに食べてしまうので、撮ることを忘れてしまうのだ。意識が欲に追いつかないのが、欲張りさんの症状だ。

 

この写真はコルシカ島の友人宅で頂いた時のブランチで戴いたもの。
中世に建てられた古い石造りの家の小さな庭で食べた食事は格別に美味しかった。

 

よく寝て、よく食べて、よく動いた。

 

 

とにかく今回の旅は移動が多かった。
パリ – メレ – パリ – コート・ダジュール – モナコ – コルシカ島 – パリ

 

 

 

写真はコルシカ島に飛んだ時に飛行機の中から撮ったコート・ダジュール。
つかの間の南フランス。名前が甘く、多くの人の憧れがこもっているような響きの街。

 

12日間の間に飛行機に4回、新幹線に2回乗って後は歩いた歩いた移動の旅。
最後のコルシカ島での2日間以外は予定で埋め尽くされた旅。

 

それでもその合間には、友人たちとの出会いや再会、美味しい料理やワインやおしゃべりもたくさん。
退屈しないくらいのちょうどきっちりと収まったような印象の旅だった。

 

美しいものをいっぱい見た。

 

それは、一緒に過ごすうちにみえてくる友人の美しさだったり、何世紀も前に建てられた建物の積み上げられた石たちの色のグラデーションだったり、毎日違う夕日や朝焼け。

 

 

 

 

お世話になったハンスさんは日本へ3期駐在したことのある元ドイツ大使をしていた、ジェントルマン。
コルシカ島の旧市街地の丘の上にあるレストランで白ワインをご馳走したいと私たちを案内してくれた。
時間は夜の7時半。ここの夕暮れ時は10時前まで続くのだ。自分でもびっくりするほどのこの高待遇は友人の由利子さんのおかげで、最近の私は尊敬する人生の先輩たちからいろいろなギフトをいただいている。
けれどついつい私は、ありがたやありがたや、くわばらくわばらと言いたくなるのだ。

 

コルシカ島で夕暮れ時に海を見下ろしながら冷えた美味しいワインをいただくという、最高に贅沢なこの瞬間が光と影のコントラスト写真に現れているように、この世で起きる物事は光と影。

 

 

欲張りな私は、いい方向に行くことや運気アップや、成長や学びという言葉が好きだし、このような体験を引き寄せる。それは光の部分。
この世は光と影でできているので、ちゃんと影がそこには出来る。
なのでそうして光の体験をした後はちゃんと影が私を追いかけてくる。

 

そのことを改めて見返したいと思うし、読んでいる皆さんのいつかの役に立つかもしれないので箇条書きでわかりやすいようにシェアしてみよう。

 

今回の旅は私一人や、家族だけでは体験できないようなことが多くあった素晴らしいものだった、その光の当たったそばにできた影は以下のとおりだ。

 

 

○連載vol1で書いたように契約したレンタルWiFiを空港で受け取るのを忘れて日本を飛び立ってしまい、2万円が消えた。
○新幹線のシートを予約した時に、浮き足立っていた私は同じシートにほぼ二倍の金額を支払ってしまった。格安の1等、とフレキシブルの1等を間違えてクリックしてしまったためだ。どちらも全く同じシートであり、保証が効くかどうかであった。おまけに入らない保険までつけてしまったので、値段は二倍になったのだった。

 

○やはり、焦って予約したコートダジュールでのアパートメントホテル。観光地のコートダジュールに7月なかばの2泊。手頃でいい部屋がなかなか探せなく、あと一部屋、というこぎれいなアパートメントホテルを見つけた時には嬉しかった。内容を見てみると、広めの1LDKでベットはWサイズが一つ。
後はリビングにソファーがあるだけだ。ベッドは2つあったほうがいいな、と思い部屋の詳細を見ていると、予約のところに2人用と4人用の項目があった。あ、4人用なら間違い無くベッドは二つ以上あるだろう、そう認識した私はそちらをクリック。値段は2日分の合計金額が円にして1万5千円ほど高かったが、ベッドは二つあったほうがいい。手続きが終わって届いた部屋の写真を見たら、全く同じ部屋。Wのベッドが一つだけ。その時になった初めて、リビングのソファーはソファーベッドなのかもということが分かった。全く同じ部屋に4人分のチャージを払ってしまったのだった。友人には言わないことに決めた。
そうだった、最後の一部屋だったのだ。

 

○東京から沖縄へ帰るフライトを人生で初めてぱぁにしてしまった。そう乗り遅れてしまったのだ。
仕事で福生と長野へ車を飛ばした。取材は素晴らしい時間で、取材先の人々に出会えたことと、沖縄で紹介できることに感謝。しかし帰りの運転はフランスから帰った後だったので、時差ぼけの残る体を鞭打って、眠くなるとほっぺに連打のビンタを打ちながら。松本から成田まで5時間あれば着くだろうとの算段は都内での渋滞に儚くもかき消されてしまった。
いつもは予約変更できるチケットを抑えるのだけれど、なぜか予約変更不可のチケットだったため、乗り遅れた私と娘は故郷へ帰るチケットを無くしたまま、夏休みが始まった東京へ残されたのだった。
口からはまぶいが半分抜け出ていた。

 

 

 

ハンスさんの奥様で、由利子さんの友人のアレクサさんが作ってくれた卵とトマトのサラダは美味しかった。
今回食事は全く外さなかった。だから私は羽田で驚くほど身が硬くなって衣がビシャビシャのカツの乗った黒いカレーを食べることになったのだろう。

 

光と影恐るるに足らず。
だって交互にどうせやってくるのだから、影が来た時には、おっ、今度は上手くいくと感じたり、いいことがあった後には深追いしないで、次は影がくるから打撃が少なくなるように欲は押さえておこう、とか調整ができることもある。
交互にくるものだと受け止めて、さらっと流して歩き出そう。

 

気にしない、気にしない。

 

泣かないで、泣かなくていいのよ。

 

 

 

 

そうやって自分を慰めながら、私は夏休みに入ると高騰する航空券を2枚なんとか少しでも安くなるようジタバタして購入。
台風12号が沖縄の北をかすめた25日の最終便、最後の2席に滑り込んで、故郷沖縄へ帰ってこれたのでありました。

 

今回の旅の体験は本当に素晴らしいものでした。光がたくさん降り注いだ旅でした。
その分影もありましたけれど、それは単なる影なのだから、致命的な忘れん坊・うっかりさん・慌てん坊の銭失い・計算のできないお馬鹿者とか言いながら自分を責めるのはやめよう、そんな風に決心もしました。

 

2席だけ空いていたシートへの滑り込みと、台風にもかかわらず飛べた奇跡の代償は、一番遠回りのバスに揺られて帰ったこと。
普段の3倍くらいの時間がかかっての帰宅。

 

 

かわいいものです。

 

 

 

 

*今回の暮らしの中の旅日記は旅の時差やいろいろで一週遅れての掲載です。普段は第1と第3週に掲載されるものです*

 

 

 

 

 

 

田原あゆみ
エッセイスト
2011年4月1日から始めた「暮らしを楽しむものとこと」をテーマとした空間、ギャラリーサロンShoka:オーナー。
沖縄在住、カメラを片手に旅をして出会った人や物事を自身の視点と感覚で捉えた後、ことばで再構築することが本職だと確信。2015年7月中にessayist.jpを立ち上げ、発信をスタートする。

 

エッセイ http://essayist.jp
Shoka: http://shoka-wind.com