casa VIENT(カーサビエント)/オーナー親子の島への愛を感じ取る 。心が落ち着く手作りの宿

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畑ばかりが続く道を進み、突如現れたその姿を目にした時は、心が踊った。建物を見てワクワクすることってあまりないのに、思わず子供のような声をあげたほど。ロボットのようにも、羽を大きく広げた鳥のようにも見えるアーチ、積み木のお城のような母屋、赤青黄のフルーツの入ったパウンドケーキのようなドア…。空想の物語に入り込んでしまったよう。

 

個性が突出したアート作品は、奇抜に見えて腰が引けてしまうこともある。けれど伊江島にある宿カーサビエントは、そんなことはない。むしろ心が落ち着くのだ。2階のテラスで本を片手に、どこへも行かずこの宿でのんびり過ごすお客もいると、オーナーの金城和樹さんが教えてくれた。

 

2つとない個性豊かな宿でありながら、心が穏やかになれるのはなぜだろう?

 

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「この宿、親父が言うには、がじゅまるの木とか、打ち寄せる波とか、星空とか。そういう島の自然をイメージして作ったそうなんです。オジイのサトウキビ畑をもらって、そこに建てたんですよ」

 

心が落ち着くのは1つに、島の豊かな自然をモチーフに作られているから、と気がついた。その表現の豊かさと、この宿が金城さんのお父様の手作りということにも、驚く。

 

そして2つに、お父様の手作りだからということもあるかもしれない。アーチや塀などはコンクリートでうねるような曲線を描き、そこに色とりどりのタイルやガラス、石などの色んな材質を自由に組み合わせて作っている。その時々のインスピレーションで、趣くままに作ったところもきっとある。そんなお父様の感性を感じることも、落ち着く理由にあるだろう。

 

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お父様は、金城さんが小学生の頃から、ここをコツコツと作ってきた。

 

「親父、変わってますけど、そこが面白いっていうか。幼いながらに『すごくワクワクしてやってるな』って思ってましたかね。熱中してる時は、ワクワクというか鬼気迫るような感じもありましたけど。その姿を見てて、すごいって。集中する力っていうのかな、それがすごいんです。かっこよかったですね」

 

伊江島には高校がなく、進学するには島を出なくてはならない。金城さんも高校進学を機に本島へ渡り、その後県立芸大のデザイン科へ進んだ。卒業後は京都でデザインの仕事に就いた。充実した生活を送っていた金城さんだが、伊江島に帰るきっかけとなったのは、お子さんの誕生だった。

 

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宿の裏手にある工房と登り窯。これらもお父様の手作り。

 

「京都では人間関係にも恵まれて、やりたいデザインの仕事をやらせてもらって、すごく楽しいし、やりがいも大きかったです。でも、強制されてないのに、どうしても残業をしてしまうんですよ。クライアントさんから『ちょっとイメージと違うな』と言われたら、悔しいから頑張ってしまうんです。残業やって、家には寝に帰るだけみたいになってしまって。息子が生まれて、そういう働き方を見直していきたいなっていう時に、帰郷したんです」

 

その時に直感で感じたことがあったそう。

 

「こっちに帰ってきて、そしたら全然違う仕事をすることになるだろうけど、その方が妻も僕もお互いの感性を活かせるような展開になるんじゃないかって。その方が楽しいんじゃないかってひらめきのような感じで思いました」

 

広島の出身で大学の同級生だった奥様の瞳さんも、島の豊かな自然や、この宿を気に入っていて、「ここに帰ってきたいね」と意見が一致したのだそう。

 

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こうして島にUターンした金城さん一家だったが、当初は島の生活に戸惑いもあったという。

 

「島で生まれたといっても、長年那覇や京都にいたので、最初は『都会だったら、これがあるのに、あれもあるのに』って島に無いものばかりを数えてました。でもだんだん島にしかないものがとっても大切だってことに気がついたんです」

 

金城さんは、島の素晴らしさを話しだすと途端に目が輝き出す。

 

「山があって緑があって、海だって車を走らせればすぐのところにある。風とか草花とか、1日1日違うんですよね。当たり前の事なんでしょうけど、都会にいる時はわからなかった。都会にいた時は、会社に行って働いてって、毎日同じことの繰り返しだと思ってたんです。それが島にいたら、1日1日違う表情だし、違う色をしてる。それを風や緑が教えてくれるんです。今日はこんなだ、こんな花が咲いてきたとか。そういう自然が見せる表情の1つ1つが力をくれるというか。風も、湿った感じだったり、風向きが違ったり、穏やかな日はとても気持ちがいいし、季節が変わっていくのも感じ取れる。素直に風を感じられるんです。そういう場所なんですよね」

 

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宿の1階にあるカフェkukumui。ここで使われている陶器は金城さんとお父様の作品で、購入することもできる。宿泊者は、プラス750円で朝食もいただける。

 

遮るものが何もない、自然の風の心地よさ。そよそよと肌をなでる感じが、確かにとても気持ちいい。特にお父様はこの風を気に入っていると、金城さんは話してくれた。

 

「カーサ(casa=家)ビエント(viento=風)って、スペイン語で“風の家”っていう意味なんです。てっぺんにある三角の屋根のところ、親父は“風の塔”って呼んでいるんです。『冷房もついてないし、何するために作ったの』って聞いたら、『瞑想するためだ』って。心を落ち着かせて風を存分に感じられる場所を作りたかったんでしょうね。それに風を通したいって気持ちもあるのか、窓が好きなんですよ。開口部を大きく開けたがるんです。『台風が心配だし、壁にしちゃえば?』って何回か言ったことがあるんですけど、『いや窓にしよう』って(笑)」

 

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それから、と金城さんは、島の良さについて続ける。

 

「島の人がみんな温かいんですよね。皆が子供を見守っているっていうか、子供は島の宝だっていうのを皆が思っているんですよね。都会だったら、他の子を叱るとか、呼び捨てにするとかないですよね。ここでは、他のお家の子供でも呼び捨てにするし、叱ったりもするし、褒めたりもする。『〇〇、お前頑張ったんだってなあ』『すごい賞取ったんだってなあ』『すごいなあ』って。昔からそうだったんですけど、それが今も続いてる。子育てするにも最高の島だなと思います」

 

他にも、“村踊り”という国の重要無形民俗文化財に指定された伝統の踊りのことだったり、台風の時に感じた島民のたくましさのことだったり、次々と島の良さを話してくれた。そしてこう付け足した。

 

「こんなに素晴らしい場所で生まれ育ったんだなあって、帰ってくるまで気づけてなかったんですよ。帰ってきてここに住むようになってから、わかりました。こんなやって自分は大きくなったんだなあって。今はどんな都会よりも伊江島が、人も自然も最高だなあって思います」

 

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島をこよなく愛する金城さん、もちろんこの宿のことも大好きだ。

 

「親父が作ってきてるのを見てるし、今は僕もここに情熱を注いでいて、メンテナンスや修理もします。だから親子二代でやってるというか、ブレンドされてる感じがするんです。それに目の前にある島のシンボル、タッチューに守ってもらってる感じもするんですよね。お客さんがここでゆっくり過ごして、喜んでくれている顔を見るのも好きだし。色んなものがここにある。一生ここにいるだろうなと思います」

 

お父様が島の自然を表現し、金城さんがその宿を大切に守り続ける。親子二代にわたる島への愛、宿への愛が凝縮している場所だから、お客は心が落ち着くのだなと、3つめの合点がいった。

 

写真・文 和氣えり(編集部)

 

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casa VIENTO(カーサビエント)
国頭郡伊江村字東江549
0980-49-2202
http://casaviento.info/index.html