『 ある家族の会話 』家族の中の立ち位置。会話によって綴られるあるイタリア人一家の回想録。


ナタリア・ギンズブルグ著 白水社 ¥950(税別)/OMAR BOOKS

 

お店に母親に連れられて、小さな姉妹がやって来るといつもつい目をやってしまう。それで、姉妹はどうするかというと、下の女の子が母親の静止を振り切って、自由に店内を歩き回っている脇で、上の子は「我関せず」といった様子で気にいった本を手に、二人から少し離れたところで一心に読んでいる、という面白いほどに似た行動パターンを繰り返す姉妹たちをこれまで何度か見て来た。程度の差こそあれ、長女、次女の性格は似たり寄ったりのところがあって面白い。先日も別の姉妹を連れたお客さまとそんな話をした。

 

どんな家族でも、その人の「位置」というものがある。イタリアの女性作家として、またプルーストの『失われた時を求めて』の伊訳で高く評価されるナタリア・ギンズブルグの『ある家族の会話』を読んで、家族内における一人一人の立ち位置がずいぶん上手く描かれた小説だなあとまず感心させられた。

 

今回紹介するこの小説は、1920〜1950年頃までのイタリアを舞台にした著者の自伝的小説。日本で言えば“かみなり親父”のような父親と陽気で感情表現の豊かな母親、品行方正な長男、気性が激しくこだわりの強い次男、愛想がよく家に寄り付かず出歩いてばかりの三男や母と仲が良く父親の干渉をかわすのが上手な長女と冷静に家族を観察する末っ子の著者という、5人兄妹の一家とそれを取り巻く親類縁者の人間模様を回想録として綴られた本書。タイトル通り家族の会話がふんだんに散りばめられ、著者はまるで埋もれていた原石を磨くように、ひとつひとつのエピソードを丹念に書き起こしていく。

 

なんといってもこの小説の魅力は家族間で交わされる言葉。口癖、歌声、怒号、ひとり言、うわさ話、いたわりの言葉に詩の一節。あらゆる言葉が飛び交い、それが今はもういない彼らの「生」を浮かび上がらせる。

 

このイタリア一家の父親がまた強烈な存在。常に怒っていて、口が悪く、気に食わないことがあると家族に当たり散らす。そう書くとどうしようもない人物のようだが、読み進むにつれ不思議と彼が愛らしい人物に思えてくる。つまりは怒ることも彼の愛情表現なのだ。

 

また家族それぞれの「位置」が彼ら自身のその後の人生を作るところがあるが、末娘で一歩引いて家族を見ていた作家・ナタリアが生まれたのもこの環境によるところが大きいだろう。人生の晩年になって、家族の記憶をたどる作業は作者にとってとても幸せな時間だったに違いない。時代の暗い影に覆われていた時代に、家族は笑い、怒り、泣いて、語り合い、悲しみと喜びに満ちた日々を過ごしていた。この小説には確かな「存在」の跡が記されている。

 

さて今年は家族とどんな会話を交わしただろう?
自身を重ね合わせながら読んで頂きたい家族小説の中でも優れた一冊です。

 

OMAR BOOKS 川端明美

 


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