『 翻訳教育 』翻訳はエキサイティングな行為なのでは。 名翻訳家による、私的エッセー。


野崎歓・著 河出書房新社 ¥1,890/OMAR BOOKS

 

本を日常的に読む人なら、翻訳者たちへの憧れを抱いたことが一度ぐらいあるはず。作家の黒子として表からは見えにくい存在でありながら、彼・彼女らがいなければ何気なく手にした遠い国の物語も知らないままだったかもしれない。そう考えると私たちの人生をも左右する役割を担っている人たちだといえる。

 

では、翻訳家自身の日常はどうなんだろう?
またどんな風に仕事をしているのだろう?
という素朴な疑問が湧いてくる。

 

それに答えてくれるのが今回ご紹介する新刊『翻訳教育』。
フランス文学の現役の名翻訳家による、私的エッセー。

 

まえがきの最初の一文は、―ぼくは「プロの翻訳家」になるために、特別な訓練をを受けた人間ではない。―で始まっている。そのあとに続くのは、少年の頃にカミュや堀口大學などの文章に触れて感動を覚えたこと。ただ好きで読み続け、勉強していくうちにその流れのまま翻訳する機会を得、翻訳し続けて今に至ること。影響を受けてきた本の紹介なども交えて、著者自身の履歴と翻訳の本質について思索する臨場感にあふれた本書。他にもボリス・ヴィアンの傑作『うたかたの日々』の翻訳の裏側にについても語られ、まだその本を読んだことのない人への案内書ともなっている。静かな語り口ながら、著者の熱烈さが文章の端々に滲んで、読んでいるとこの人は、本当に翻訳というものが好きなんだなあと伝わってくる。

 

一見、ひとつの言語をまた別の言語へと写していくだけの作業とも受け取られる翻訳。でもこの書を読むと「翻訳」とはもっと、エキサイティングなものなのかもしれないと思わせされた。それはまた、作家と翻訳者と読者の関係においても刺激的だというのを意味する。

 

読み物としても単純に面白いのは著者の情熱の賜物。外国の作家の本は読まない、という人も読まず嫌いの前に、まずはこの本から入っていくのはどうでしょう。奥深い「翻訳」の世界に惹きこまれる一冊。

OMAR BOOKS 川端明美




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