chillri(ちるり) プルプルがサラサラに、サッパリが旨辛に。スープが変化する、2度オイシイ盛岡冷麺

ちるり

 

プルプルでトロトロ。それは、沖縄では初めての盛岡冷麺専門店、”ちるり”の冷麺のスープのことだ。牛とわかるコクの香りがふんわりと漂い、その味は、さっぱりとヘルシー。冷たさと相まって、トゥルトゥルと気持ちよく喉を通り過ぎていく。粗挽きの黒胡椒がピリリと、アクセントをつける。

 

しばらくすると、プルプルしていたスープがサラサラに。その頃に、パパイヤキムチを投入。透明感のある赤に染まったスープは、キムチの旨みと辛み、甘みが重なって、これまでとは全く別物に。好みでお酢を入れて、さらにさっぱりさせるのもいい。1つの丼で色々な食感と味がやってくるのが、なんとも楽しい。

 

「スープが最初トロトロなのは、コラーゲンが溶け出ているからですね。牛骨、牛すじ、アキレス腱からスープをとっているんですけど、アキレス腱がすごい溶けているんで。食べている間に常温になってくると、サラサラのスープになるんです」

 

スープの変化の理由を教えてくれるのは、店主の佐藤健司さん。雑味のない味は、長い時間をかけて丁寧にスープをとっているから。

 

「弱火で9時間ですね。強火でガンガン炊いて4時間くらいで取れるんじゃないのかと思うんだけど、そうすると骨とかが砕けて、雑味がすごい出てくるんです。だから沸騰したらずっと弱火。牛と一緒に、セロリやネギ、ニンニクの香味野菜も一緒に入れるんですよ。スープがとれたら、まず冷やすんです。冷えたら油が固まるんで、油を取り除いて、それから目の細かいキッチンペーパーで濾して。だから油が浮いてなくて、骨のざらつきとかが一切ないスープになるんです」

 

ちるり

コチュジャンベースの旨辛ダレのかかる、汁なしの冷麺、ビビン麺

 

そもそも冷麺は、朝鮮半島発祥の食べ物。麺にそば粉やどんぐり粉が入り、黒くて細い麺なのが特徴。盛岡冷麺は、岩手に住んでいた半島出身者が、自身の営む焼肉屋で平壌冷麺を出したのが始まり。けれど黒くて細い麺が受け入れられず、じゃがいものでんぷんで作る白くて太い麺に徐々に変わっていった。この麺の冷麺が盛岡冷麺だ。ちるりの麺も、盛岡から取り寄せているそれ。何と言ってもコシが強く、弾力と噛みごたえがある。そしてスープの味をしっかりと纏う。

 

麺は盛岡のものだけれども、スープの材料や作り方は、一般的な盛岡冷麺とは少し異なると佐藤さんは言う。

 

「普通冷麺は、カルビのちょっと固い部分とかでスープをとるんです。一般に焼肉屋さんが出すものなんで、焼肉屋で余った材料を使うんです。それに香味野菜とかも入れないですね。あと僕は、昆布とか鰹節の醤油ベースの元ダレを作っているんですね。その元ダレを牛のスープで割っているんですよ。だからラーメンに近い作り方というか。多分これを盛岡で出したら賛否両論だと思います。盛岡冷麺とはこういうものっていうのが、ほぼ固まってますからね(笑)」

 

ちるり

 

佐藤さんはこれまで、焼肉店や、ホルモン焼き屋、ラーメン屋、中華料理店などで、料理人として腕を奮ってきた。冷麺にこれほどのオリジナリティを出せるのは、様々な店で修業を積み、幅広い知識と経験があるから。しかしそれ以上に佐藤さんには、冷麺のイメージを覆したいという思いがある。

 

「盛岡冷麺って昔からほとんど変わってないんですよ。冷麺って基本こうだっていうイメージがあると思うんだけど、俺はあえて色んな食べ方ができるんだよっていう提案をしたいんです。例えば、温麺っていう温かい麺も出しているんですけど、盛岡では、ユッケジャンスープみたいな辛いスープがベーシックなんです。けど、うちは冷麺と同じスープを塩で味付けして、パクチー入れて、フォーみたいにして出しているんです。麺も太麺がポピュラーだけど、フォーに寄せてあえて平麺にしています。寒い時期になってきたら、味噌ベースの温麺だったり、トムヤム温麺だったり、モツ鍋のシメにっていうのを考えています。色んな味のバリエーションがある、だけど、麺はこの特徴ある盛岡冷麺だよっていうのをやりたいんですよ。盛岡から離れている沖縄だからこそ、自由にできるかなって」

 

ちるり

牛ハラミ(手前)と、ラム肉の上にたっぷりのパクチーが乗ったラムパクチー

 

ちるり

軟骨入りつくねを串から外して、生のピーマンでくるんでいただく、”つくP”

 

チャレンジングなスープ以外に、盛岡冷麺を初めて食べるウチナンチュに合わせたアレンジも。

 

「おじいおばあに食べてもらうと、『コシがあって固いから、柔らかく茹でろ』って言われるんですよ(笑)。だから細麺の方が食べやすいかなと、細麺も置いています。それに沖縄の人、辛いのが苦手な人が多いでしょ。だからそういう人のために、キムチは最初から入れずに、好きな量を入れられるように別皿で出しているんです。キムチ入れない人のために、調味料的に胡椒を入れてるんですよね。そこはもうみんなが好きなように食べてくれればいいかな」

 

子供の頃から食べていて好きだから、美味しいから皆にも勧めたい、冷麺を、ラーメンのように馴染みのあるものにしたいという思いが、佐藤さんにはある。ちるりはランチだけでなく、夜は串焼き等も出す飲み屋さん。しかし冷麺を広めたいとの思いから、夜に冷麺だけを食べに来てくれるのでも構わないと、佐藤さんは言う。

 

「女性で一人で来る方も、多いですよ。ハラミとかラムパクチーの串1,2本食べて、瓶ビール飲んで、冷麺でシメて帰るとか。カウンターがメインの店なんで、来やすいかもしれないですね」

 

ちるり

秋田のいぶりがっこを使ったポテトサラダ、新潟の厚い油揚げ料理の栃尾揚げなど、東北、北陸地方の料理も

 

ちるり

 

佐藤さんは、そのカウンターを作ることにこだわった。なぜなら、お客と会話を交わしたいから。

 

「とにかくカウンターは作ろうと。設計図なんて全然決まってないんだけど、カウンター作ろうって大工の人とそれだけ(笑)。煙と熱が出るから調理台の前にガラスを貼れって言われたんだけど、話ができないからイヤだって言って、付けてない(笑)。お客さんからもよく言われるんです。『昼はチョー無愛想なのに、夜はベッラベラ喋ってるね』って。昼は時間に制限がある人が多いじゃないですか。ラーメン屋だって、お店の人ラーメン作りながら喋らないでしょ。昼はそういうもんだと思ってる。でも夜は、お客さんと喋って、自分も飲んだりして。飲み屋って、楽しくなければならないところだと思ってるんで」

 

その言葉を具現するように、率先して楽しい場を作っているのが佐藤さんだ。岩手県出身者が多く来店することもあって、岩手県人会を開催するようになった。

 

「『僕、岩手出身なんですよ、岩手出身なんですか?』って人が結構多くて。地元の先輩が『だったら県人会やろうよ』って言って、他のお客さんが、『WANTED 岩手県人』っていう張り紙を作ってきてくれたんです(笑)。僕もお客さんに連絡先聞いてるわけじゃないから、張り紙貼って、『第三水曜にやってるから、よかったら来てよ』って話したりして。方言言いながら、『昔、こういうCMあったよね、懐かしい!』とか、他愛もない感じですけどね。盛岡には3大麺料理ていうのがあって、冷麺とわんこそばと、じゃじゃ麺。じゃじゃ麺はうどんの麺で、塩っぱい味噌に、好みでニンニク、生姜、ラー油とかで自分好みの味にして、食べ終わったらそこに生卵を溶き入れて、うどんの茹で汁を注いて、卵スープにして。それにまた自分で好きなように薬味をいれて、最後それを飲むっていう料理なんだけど。麺は、冷麺と同じ製麺所から取れるので、取り寄せて、最後にみんなに振る舞ったんですよ。『大、中、小どれにする?』『私、小!』みたいなね。みんなに集まってもらって、楽しくしてもらったらいいなと」

 

ちるり

 

佐藤さんの、(昼間はちょっと無愛想だけど、素は)おしゃべり好きで、面倒見のいいお兄さんという人柄もあってか、ここでは皆が、リラックスして楽しんでいる。これは、”ちるり”という店名に込められた思いそのもの。

 

「”chill out space”とか”chill out music”とか、チルとかチルアウトって言葉があるんですよね。『チルしに行こうよ』とか『チルリに行く?』って言ったりするんだけど、そういうところからの”ちるり”なんですよ。ゆっくり遊びに行くというか、リラックスしに行くっていうイメージでつけたんです。お客さんと話しながら、冷麺や串を食べてもらって、美味しいねって満足して帰ってもらえれば、このスペースとしてはいいかな」

 

ちるりというこの場所と、佐藤さんは、型にはまらなくて、自由で、楽しい。ちるりの冷麺そのものだ。

 

写真・文/田中えり(編集部)

 

ちるり

 

chillri(ちるり)
那覇市牧志3-3-14
098-943-2611
12:00〜14:30(LO)
18:00〜23:00(LO)
close 木曜・最終日曜