Beans Store(ビーンズストア)苦い、酸っぱいコーヒーはもうおしまい。砂糖・ミルクなしでも甘いコーヒーをおうちに連れ帰ろう

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「ベリーや桃、パインとか果実みたいな甘さ、アールグレイみたいな甘さとかいろんな種類があるんですけど、指針として甘みの出るコーヒーを集めてるんです。コーヒーが苦いものなんて概念は捨ててください。初めの一口だけは、ぜひ砂糖とミルクなしで飲んでみて」

 

紅茶みたいなコーヒー? 想像が固まらないまま、ビーンズストアの末吉業人さんが淹れてくれたストレートのコーヒーに口を付ける。未だにブラックが苦手な身としてはおそるおそるだが、スッと楽に飲めてしまう。そして後味が、確かにアールグレイのそれ!

 

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甘く、面白いコーヒーを集める、末吉さんの意図が気になりだす。

 

「うち、色々お話ししながらコーヒー選びができるようにしてるんですけど、お客さんに『どんなコーヒーが好きですか?』って聞いても、あんまりハッキリした答えが返ってこないんですよね。だけど、『コーヒーのどんなところが嫌ですか?』て聞くと『酸っぱいからイヤ』とか『苦いのがちょっと…』って言う人が多いんです。だったら、酸味でも苦みでもなく、甘みを一番に感じられるコーヒーなら、お客さんが気に入ってくれるんじゃないかって。今、9種類の豆がありますけど、2種類だけは王道の、苦みも美味しく感じられる豆。でも他は全部、甘いんですよ。甘いって言っても、桃とベリーでもまた全然違う甘さでしょ。これだけ揃えれば、好きなコーヒーに出会える確率が高くなると思うんで」

 

毎日飲んでいるのに、好きなコーヒーと問われると難しい。エスプレッソ、ラテ、カプチーノ…飲み方を知っているぐらいで、豆の種類や産地ごとの特徴など分からない。しかも、「苦くないコーヒー」なんて、コーヒーのアイデンティティを根底から揺るがしてしまうと思いこんでいた。でも、ここならば遠慮なく、甘いコーヒーを望んでいい。ひとりひとりに合うコーヒーに出会える場所なのだ。

 

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コーヒー種子の赤い果肉部分を使った、珍しいカスカラソーダもある。感想は「杏露酒みたい」とか「なんとなく冷やし飴っぽい」が多いとか

 

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「僕の願いは、お客さんに自分のコーヒーの好みを明確にしてもらうことなんです。こういう豆で、こういう淹れ方するから、こういう味になるんだって知ってほしい。理想は、旅先でふらっとカフェ行く時でも、こういうコーヒーだから私は好き、嫌いが分かること。そうなると楽しいですよ。コーヒーって生活を豊かにするツールなのに、なんか扱いが雑というか、お客さんも知識ないままに飲んでて『酸味がきついな…』とかなってるんですよ。これは豆屋が悪いんですよね、色々伝えないから。コーヒーは好みや相性だから、評判いいカフェ行ったけど自分にはイマイチってことも多いじゃないですか。ここで、いろいろ飲んで、『初めに飲んだやつのが良かった』とか『今のが好きかも』とか、好みをどんどん絞っていってください。僕 聞かれればなんでも答えますし、それぞれの瓶のラベルにも、豆のプロフィールをかなり詳しく書いてあるんです」

 

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キツネにつつまれたような気持ちになるが、コーヒーの甘い味わいは、なぜ可能なのだろう。

 

「気候や土壌、標高、農家ごとの栽培のやり方とかで、アールグレイだったりパインだったりと甘みの種類は変わってくるんですけど、甘みってのは基本的に完熟した豆だからこそ出せる味なんです。ミカンとか果物と一緒ですよね、熟度が低ければ酸っぱくて高ければ甘い。できる限り、熟度の高い豆が均等に揃ったものを選んでます。これって、そのコーヒー農家さんがどれだけ丁寧な仕事をしてるかなんですよ。早い話が、収穫の時に未だ緑色の生豆が混ざるのをどれだけ防げるかってことですね。この緑色の生豆が酸味や雑味になるんで。ブラジルだと機械で叩いて、熟した豆を落とすって収穫方法なんですが、地域によっては枝ごとしごき落とすところもあって、これだと未熟な豆が入ってしまいやすいんですけどね。でも、ここに揃えたものは、収穫する人がいちいち確認して熟した豆、そうでない豆をしっかり選り分けているので、甘くて雑味のない、きれいな余韻のコーヒーになるんですよ」

 

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さらに末吉さんは「ちょっと話、広げますけど」と前置きして続ける。

 

「コーヒーの原料になるコーヒー生豆の取引価格って、株式市場や為替市場と連動するんです。どういうことかというと、コーヒーの価格を決定する時に、コーヒーの美味しさや質そのものよりも、コーヒーの需給バランスや世界経済、為替の方が大きく影響しちゃう部分があるんですよね。コーヒー生産国の中で先進国といえるのはブラジルぐらいで、後はまだまだ裕福でない国も多くて、国を挙げて外貨獲得のために頑張って良いコーヒーを作っても、価格が安定しないから生産者の生活もいつまでも安定しないっていう…。でも今、消費国と生産者との間で、美味しくて安定した価格がつくコーヒーができるように動き始めてるんです。そこでちゃんと知識をもってコーヒー栽培できるように、教育の部分から援助して、良いコーヒーを作り続けることで、生産者の生活から変えていこうみたいな。よく言う、フェアトレードともまたちょっと違うんですけどね。…ここまで知らなくても別にコーヒーは飲めるんですけど、美味しいコーヒーを飲むことが、そういう国のことにまでつながっちゃうって、なんか凄くないですか?」 

 

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世界各地のコーヒー農家が丹精込めて育てた豆が、はるばる日本の、沖縄の、この店までたどり着く。だが、せっかく選りすぐった豆も、焙煎や淹れ方が悪ければ甘みは引き出せないという。

 

「焙煎はこちらでやるんですけど、深煎りだと苦くてコクのある味、浅煎りだと酸味があるキレのいい味になるとか、理論を一応知っておくといいと思います。それぞれのコーヒーによって、時間のかけ方が違うんだなぐらいの認識でいいんですけど。深く煎ると、豆がそれだけ焦げるんで、水分が多く飛ぶ分、豆の中に空洞が多くできるんですよね。逆に浅煎りは、水分が飛ぶ部分がまだ少ないから空洞も少ない。この空洞の量が違うから、時間が変わるんですよ。コーヒーって、お湯を注ぐと、豆の中の空洞に湯が行き渡ってから、初めて成分が溶け出てくるんです。だから、深煎りは時間をかけないと水っぽくなっちゃうとか、浅煎りでは時間を短めにして酸味をほど良く出した状態の方がいいとかいうことですね。コーヒーの味の要素って酸味、苦味、甘みの3つで、甘みが一番初めの段階で出てくるんですけど、他の味に消されやすいから、時間が大事なんです」

 

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そしてビーンズストアでは、カウンターにかぶりついて、末吉さんがコーヒーを目の前で淹れるのを見ることができるのも大きな特長だ。もちろん質問攻めにしていい。

 

「せっかく好きな豆を買った、でもうまく淹れられなかったじゃあ残念ですよね。僕たちは豆の状態、未完成のまま売るけど、液体にして完成させるのはお客さんなので、おうちでも再現できるように淹れるところもお見せしてます。『分からないこと聞いてくださいね、もっと寄って見ても大丈夫ですよ』っていつも言います。…とはいっても、僕も特別なことはしないですよ。時間と重さをちゃんと計ったりするぐらい。これ、おうちではやらない人がほとんどだと思うんですけど、それぞれの豆に適した時間を計るだけでも確実に美味しく入りますよ。その上で、普通ならこれぐらいの時間なんだけど、もっと時間かけて重たくした方が自分は好きだとか広がっていくと楽しいですよね。あとは、ペーパー。これコーヒーの美味しい部分を吸っちゃうんで、予めお湯かけて濡らしておくといいんですよ。これも全然難しいことじゃないけど、ずいぶん味変わります」

 

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豆について、淹れ方について。お客さんが口にするコーヒーのことを、しっかり伝えられる環境こそが末吉さんがお店をもった理由なのだ。

 

「ここのすぐ隣の建物ですけど、元々は沖縄セラードコーヒーっていって卸しの販売をしてたんです。一般向けというよりは企業やお役所なんかが主な取引先ですね。そっちは誰にでも好まれるコーヒーというのがコンセプトでした。そこでも金曜と土曜だけはカフェ営業をしてたんですけど、もっとお客さんとコミュニケーションとって、ひとりひとりのためのコーヒーを提案したい。コーヒーはもっと美味しく、楽しくなるよと伝えたくなったんです。だから、ここはテーブルはなくてカフェではない、マシンも一応あるけどバリスタになる気もさらさらない。あくまで豆屋として、いろんなコーヒーの話ができたらと思って」

 

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実際にお客さんからの評判も上々だ。

 

「アールグレイの甘みがするコーヒー豆なんかは他にないから、『やっぱり、ここのじゃなきゃだめ!』と言ってリピートしてくれるお客さんが多いですね、ずっと人気です。ここら一帯は観光客も多いんですけど、台湾とか韓国の方が試飲して大量にまとめ買いしてってくれるの見ると、美味しいものって全世界共通で伝わるんだなって嬉しいですよ」

 

その嬉しそうな顔のまま、末吉さんが続ける。

 

「常連のお客さんなんですけど、うちに来始めてから、『コーヒーの悩みがなくなった。今すごい楽しい!』って言ってもらえたんです。この方はコーヒーの淹れ方を、ああでもないこうでもないしてて、湯の温度や粉の量、粉の粗さにまで労力費やして淹れてたんですよ。でも、『まずは自分の好きなコーヒー豆を選ぶことが大事で、あとは基本に忠実に淹れるだけでもすっごく美味しいんだ、色々やってたけどそこじゃないわって分かった』って。それ聞いた時は、こういう瞬間のためにお店やってるんだなって」

 

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自分が、どんなコーヒーが好きなのか、ちょっとだけ丁寧に淹れることでどれほど美味しくなるのか、それを知るお客さんを一人でも増やしたい。そんな想いで、豊かな知識と慣れた手つきでコーヒーを淹れる末吉さんだが、自分もまだまだだと言う。

 

「コーヒー、わかんないことだらけですよ。それがいつまでもあって辿り着いた!ってことにはならないのが面白いんでしょうね。今やりたいのは実際に産地に行って、豆を見て直接選んでくることです。そして豆の生産者の暮らす風土や文化、もっと言えば人柄まで見てきて、消費者であるお客様に伝えたいですね。あとは沖縄もコーヒー栽培できる土地柄だから、実際に今、何本か育ててるんですけど、これも数年後が楽しみです。僕、コーヒーインストラクターの1級も勉強中なんですけど、いろんなお店から豆取り寄せて飲んだり、ずっとコーヒーに触ってますよ。でも、しなきゃいけない勉強っていうよりは、やっぱりコーヒーが好きですね。まだまだではあるけど、自分が今日どういうコーヒーを、どういう飲み方で飲みたいのかが分かるのはいいことだし、なにより楽しいですよ。お客さんも、今はコンビニのエスプレッソでいいけど、おうちでは自分で淹れて、あのコーヒー飲もうみたいに、気分で使い分けられるようになったら、暮らしがもっと楽しくなると思うんです」

 

文/石黒万祐子(編集部)

写真/金城夕奈(編集部)

 

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OKINAWA CERRADO COFFEE
Beans Store(ビーンズストア)

 

浦添市港川2丁目15番6 No.28
0120-447-442
営業時間:12:00-18:30
定休日:火、木、祝日
HP http://beansstore.jp

 

※コーヒー豆の販売はBeansStoreで行っておりますが、
BeansStoreの定休日には下記 隣接の焙煎所でも販売しています。

 

(有)沖縄セラードコーヒー 焙煎所&OFFICE
浦添市港川2-15-5 NO.27
TEL098-875-0123
営業時間:8:30-17:00
定休日:土、日、祝日