おきなわ Bee Happy 養蜂家 三浦大樹 屋我地島の花の香りがちゃんとする、オーガニックのはちみつ

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「何、これ、なんでこんなにスッキリしているの!?」

 

“屋我地島はちみつ”を口にして出た第一声だ。驚きの理由は、今まで食べていたはちみつとは味が違うから。

 

さらりと爽やかですらあって、嫌な甘さが残らない。そして何より、花の香りを閉じ込めた華やかさが、口いっぱいに広がる。いくらでもスプーンを口に運びたくなる。

 

この驚きのはちみつを作っているのは、おきなわBee Happyを主宰する養蜂家、三浦大樹さんだ。

 

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屋我地島の“古民家カフェ喜色”の庭先に置いてある、みつばちの巣箱

 

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三浦さんのはちみつは、私が今まで食べてきたものとは驚くほど味が違います。

 

三浦大樹さん(以下略):私も、養蜂家になって初めてはちみつを作って食べた時、知ってるはちみつと違ったんで、「あれ、あんまり甘くないな。ちゃんとはちみつを作れていないのかな?」と思ったんですよ。でも、糖度計で計ってみたら、糖度が80もある。「この島のはちみつは、なんてスッキリした美味しいはちみつなんだ!」と感動してしまいました。

 

 

なぜ、こんなに味が違うのですか?

 

収穫したはちみつを加熱したり、砂糖水を餌としてあげてしまうと砂糖の甘さが残って、ただ甘いだけのはちみつができてしまうと聞いていたので、自分で作るはちみつは、加熱しない、みつばちに一切砂糖水を与えない、花の蜜だけのはちみつを作ろうと決めました。

 

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熟成が完了して蜜蓋がされた部分をナイフで切り取ると、琥珀色のはちみつが溢れ出る

 

三浦さんのはちみつは、甘さよりも、花のいい香りが後味に残ります。

 

春のはちみつは、白い花が咲くセンダングサ、いわゆるサシグサとシークワーサーの花の蜜、秋のはちみつは、センダングサとこの島の特産のパイナップルの花の蜜からできています。

 

みつばちは、花の蜜を採ってきて自分の巣に持ち帰ったら、この巣の中で熟成させるんです。採ってきた花の蜜は、最初は糖度が10〜40、水分量は60%程度なんですね。みつばちからみつばちへと口移しで運んでいくうちに自分の唾液の中にある酵素が働いて成分を変えていったり、羽を羽ばたかせて風を送って水分を蒸発させたりしながら、徐々に熟成させていくんです。そうすると糖度が80まで上がり、水分量は20%まで下がって、トロトロな液体になるんですね。そしたらミツロウで蓋をする。蓋がされたら、はちみつが出来上がった合図なんです。

 

花によって色も香りも違うように、はちみつも花によって色も香りも味も違うから面白いですよね。収穫をするタイミングもいろいろと変えてみて、どんな条件や状態の時に美味しいと感じるかを友人に聞いてまわったりしています。自分が思っていたものと違う答えが返ってきたりして、はちみつはやっぱり深いなぁ〜といつも感じています。

 

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センダングサの花粉を集める働き蜂。後ろ足に花粉団子を付けて巣に持ち帰る

 

なぜ、はちみつ作りを始めたのですか?

 

自分が住んでいるこの島の花のはちみつは、いったいどんな味がするんだろう?って。せっかく養蜂を始めたんだから、自分の食べるはちみつぐらいは自分で作りたいなと。自分で食べるし、ミツロウも使いたいので、薬も入れない、除草剤も使わない、餌も与えない、余計なものは加えないことにしたんです。

 

養蜂家の仕事は主に2つあって、一つは野菜や果物の花の受粉を交配するためのみつばちを農家さんに貸したり売ったりする仕事。もう一つは、はちみつを作って販売する仕事。今、世界中でみつばちが不足していて、主要なみつばち供給地である沖縄の養蜂家さんは受粉交配用のみつばちの増産で忙しく、手間のかかるはちみつまで手が回らない、というのが現状なんです。

 

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三浦さんのはちみつは、即完売することも多い

 

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屋我地島はちみつを水に溶かしただけのはちみつウオーター。レモンを入れなくても甘ったるくなく、スッキリとして疲れが取れるよう

 

手間のかかるはちみつづくりを、今のように本腰を入れてするようになったのはどうしてですか?

 

私も最初ははちみつを作って売る予定はなかったんです。受粉交配用のみつばちだけでやっていこうと思っていました。でも、はちみつを作っていると「何これ、美味しい!!」とか、その中には料理人やパン屋さんもいて「大樹さん、このはちみつ、絶対作って欲しい、自分も使ってみたい!」と言ってもらえる。「今度はいつできるの?」と待っていてくれる人がいる。それはもう、何にも代えがたい喜びですよね。来る日も来る日もずっとみつばちと向き合っているのは、半年に1回のこの時期のためなのかもしれないと思うほどです。それに、はちみつを卸しているお店へ行くと、美味しいメニューになって帰ってくる。ハニーマスタードのドレッシングになったり、デザートになったり。「こう来たか!」っていつも驚いて、妻と大喜びですよ。これは交配用みつばちだけしかやっていなかったら、得られない喜びですね。

 

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古民家カフェ喜色でいただける、“屋我地島はちみつパフェ”。花粉団子(Bee Pollen)がふんだんにトッピングされた贅沢スイーツ

 

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ローヤルゼリーの元となる栄養たっぷりのBee Pollen。花粉に花の蜜が混ざっているので、香りがよくほんのり甘い。この時期は、センダングサ、キクイモ、クサフジなど5種類の花粉入り

 

養蜂家は具体的にどんなお仕事をされているのですか?

 

普段は、巣箱を開けて元気かどうかを見て回るんです。巣箱1箱は、1コロニーと言って、みつばちの1家族なんですね。多くて3万匹くらい入っていて、その中に女王蜂が1匹。その女王が3万匹の母親なんです。しっかり卵を産んでいるか、数は減っていないか、蜜は貯めているかなど、1箱1箱チェックしていきます。梅雨の時期は、病気対策と草刈りの作業がほとんどです。例えば、病気を外から持ってくるダニがいて、そのダニを1匹づつピンセットで取り除きます。暑い中、覆綿布を被って1日中ダニ取りをしているので、いつも肩が凝って、手首が腱鞘炎気味ですね(笑)。それからアリ対策。アリが巣箱の中のはちみつや幼虫、蛹を持っていってしまうので、アリが入ってこないように、巣箱の周りの草をむしったり。

 

みつばちを元気でいさせるために何をすればいいのかをいつも考え、彼女らが生きていくためにちょっとした手助けをするだけです。思い切って自然に任せて放っておくことも必要なんですが、弱いコロニーがどんどん弱っていくのを見逃せなくて。

 

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カフェ喜色でいただける、“はちみつ入りチーズケーキ”。Bee Pollenが生地に混ざっていい香り。はちみつをたっぷり練りこんでいるので、しっとりとした食感

 

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三浦さんが“はちみつカフェ”と呼ぶ、古民家カフェ喜色。窓越しにみつばちの活動を見ながら、食事やお茶をすることができる

 

大変な仕事ですね。そもそもなぜ養蜂家になろうと?

 

小さい頃から虫をいっぱい飼っていて、虫大好き少年だったこと、妻が養蜂業をアルバイトでやっていたことや、県内の養蜂家不足といった背景もありましたが、大きなきっかけとしては、ネイチャーガイドをしていた時の出来事です。ある夏休み、全国から沖縄に集まってきた子ども達と森の中でキャンプをしている時に、養蜂場に行くことがあったんです。参加者の中には、虫が嫌い、蜂なんてありえない、といった子もいるんですが、巣箱を開け、はちみつを舐めるという体験をしてみつばちを知ると「怖い」から「かわいい」に気持ちが変わっていったんですよ。キャンプ場に帰ってからも、みつばちを見つけるとじっと観察したり、他の虫にも興味が湧いてきて、触れるようになったりとか。すごいな、この変化はって。みつばちってそういう力があるんだって気付かされました。

 

いずれガイドとして独立しようと考えていたんですが、養蜂業のこれからの可能性も考えて、ガイドと養蜂を兼業しようと思っていたんです。でも養蜂を本格的に始めて分かったことは、兼業ができるほど甘くないってことでした。養蜂しながらガイドの経験を活かして、みつばち教室やみつばちツアーなんかもやってみたら楽しいだろうなという想いもありました。

 

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中央の一回り大きなみつばちが、女王蜂

 

やりがいはどんなところにありますか?

 

みつばちによく励まされてます。昨日の疲れを引きずって蜂場へ行く時もあるのですが、早朝から働き蜂がバーってすごく元気に働いているんですよ。「よし、わかったわかった、僕も頑張ろう」って思いますよ(笑)。

 

今、屋我地島には小中一環教育をしている“屋我地ひるぎ学園”という学校があって、そこでみつばち教室を年間で20時間ほどやっています。子ども達が自分たちではちみつを採るために、花を植え、巣箱を作り色を塗って、昨日はその巣箱にみつばちを移動させてきました。夏休み前に、はちみつが溜まったら収穫をして、9月にある地元の祭りで“屋我地ひるぎ学園はちみつ”として販売してみようって言っているんです。売れたお金で修学旅行を1泊増やそうという話が出たりして。

 

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ひるぎ学園の子供達が作った、みつばちの巣箱。周りのひまわりも子供達が育てている

 

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みつばち教室の打ち合わせで学校へ行った時、ある先生が嬉しそうに話してくれました。「『屋我地島のベストスリーを決めよう』っていう授業で、各自が島のベストと思う事を書いて、みんなで投票したら、屋我地島はちみつが1位になりましたよ!」って。みつばち教室を1年間やってきた5年生の授業だったみたいなんですけど、その理由を聞いたら「三浦さんが、僕たちが住んでいる屋我地島を、はちみつを通して県内や全国へ知らせてくれているから」って。「屋我地島を誇りに思いたい」って。それを聞いた時は正直、涙が出るほど嬉しかったですね。初めて会う人からもよく声をかけてもらえるようになりました。「あんた、みつばちの人? うちの娘がみつばち、はちみつってうるさいんだよ」って(笑)。

 

この島のはちみつを作るようになって、みつばち教室を開くようになって、地域で花を植えようってことになると、みつばち屋の私を呼んでくれて、植える花をみつばちが好きなひまわりにしてくれたり。「三浦君もやっと屋我地んちゅになってきたなぁ」って最近、言ってもらえたんです。7年住んでいて初めて言われました。すごく嬉しかったですね。

 

これからも、今のまんまが続いてほしい。自分も家族も地域のみんなもみつばちも元気で、はちみつを美味しいって言ってもらえる人が周りにいたら。もうそれだけで十分なんです。

 

インタビュー・写真/和氣えり(編集部)

 

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名護市饒平名
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