琉京カフェ SANS SOUCI (サンスーシィ)味の命は出汁。琉球と京都のコラボでつくる和料理

サンスーシィ

 

沖縄ではなかなか見かけない親子丼。それが名物となっているカフェがある。関西出身の夫婦が営む琉京カフェ SANS SOUCI (サンスーシィ)だ。

 

オーナーの中西元太さんは、親子丼ならぬ “ご近所丼” を出すなりこう言った。

 

「丼ものはスピードが命です! トロトロふわふわ玉子が固まらないうちにお早めにどうぞ。写真なんて撮ってる場合じゃないんですよ!」

 

元太さんいわく、“丼の命” はその食感を作りだす卵。サンスーシィで使用している卵は全て、読谷のはなファームで扱うEM地養卵だ。その卵探しのエピソードから、元太さんの食材への強いこだわりを知ることができる。

 

「卵って旅をさせちゃいけない食材の代表じゃないですか。だからどうしても地元で見つけたくて。炊飯ジャー片手に、養鶏農家さんを一軒一軒歩きました(笑)。卵の味は、生で食べたときが1番わかるので、自分でお米を炊いてね。味や思いがぴったり合う農家さんを求めてあちらこちら。本当におかしな2人だったと思います」

 

卵以外の食材もそれぞれの特性に合わせ、最適だと思うものを選んでいる。京都の代名詞でもあるお抹茶や九条ネギ、京都のC&A社のカレー粉などは直接取り寄せ。鮮度が大事なお肉、それに黒糖などは沖縄産のものを使用している。

 

食材についての話から、料理の美味しさの理由がわかったような気になる。だが食材の良さは味作りの一部で、しっかり取った出汁なくしてはSANS SOUCI の味には仕上がらないという。

 

「これまたうちの命なんですが(笑)。味作りの根底には出汁があります。鰹節とか昆布のいわゆる和の日本出汁っていうのは、硬水だと味が出てこないんですよ。沖縄の水は硬水なので、軟水器を入れて。だから、うち水道が二つあります。石灰とかカルシウムとかを全部取り除いた、すっごい軟らかい水をお冷にもお出ししてますよ」

 

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その和の出汁が生きた看板メニューは、実は一つじゃない。こればっかりを食べにやって来る、大勢の熱狂的なファンが付いている “ごまカレーうどん” もそうだ。ごまが大量に入れているが、その味ばかりを前面には出さず、コクとして深みを出している。その味が、カレーうどんフリークの心も掴んでいる。

 

「カレーうどんはね、カレーか?うどんか?っていうとどっちだと思います? ふつうはカレーライスのカレーを出汁で薄めて作りますよね。ひどい場合は、うどんにカレーをそのまま掛ける(笑)。僕は、カレーうどんを和の料理だと思ってるんです。カレーをうどんにアレンジするんじゃなくて、最初からカレーうどんを作るんです。ちゃんと出汁をベースにしないと美味しくないんです」

 

このカレーうどんのレシピはお店のオープンに間に合わず、メニューに加えることができたのは、1年後にやっとだったという。

 

「元々カレーうどんが好きなので、ずっとやりたかったんです。けど納得のいくものが出来なくて……。オープンしてから1年間ずっとスパイスの調合ばっかりやっていたんです。入ってきたお客さんに『あれ?カレー屋でしたっけ?』って何度も言われたくらいで。カレーメニューは1個もないのに(笑)。あんまりとんがっているスパイスばっかり組み合わせると和の出汁が全部死ぬんです。なのでそれを殺さない程度にキュッて、色んな飛び出たところを縮めてみたいな。こんなことしてたら、あっと言う間に1年……」

 

ミルクがかった色に、大量のネギ。そして添えられた謎の粉…。試行錯誤の時間の長さ分、ユニークに仕上がっている。

 

「魔法のパウダーも振りかけて召し上がってみてください。鰹節を粉にしたものと、山椒とすりごまあたりが入ってるんですよ。まぁ、細かいところは企業秘密です(笑)」

 

“命” に続き、次は “魔法”! レンゲにすくった汁に魔法の粉をひとふり。和の味がより強くなる。レシピは秘密というのももうなずける。

 

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冬限定の「京白みそと三種のチーズカレーうどん」。
うどんを食べた後は、チーズご飯を投入してカレーリゾットに。

 

SANS SOUCI には秘密がたくさんある。秘密と言われると人間、探りたくなるもの。だが、なかなか答えは当たらない。それは、自称食べものオタクである元太さんならではの、ひらめきとこだわりで料理が出来ているから。

 

「昔から僕は、食べる作るといった事だけでなく、食に関係することに触れてさえいられれば幸せだったんです。じゃがいもだけの真面目な特集番組とかあるじゃないですか、それを観てるだけで幸せなんですよね~。だからか、よく頭の中で色々な食材や調味料を足し算したりして、味のイメージを考えるんです。本当に予想もできない思いつきなので、それ使うの?!って驚かれる(笑)。でも、実際作ったら美味しいんですよ。びっくりするくらい不味いときもありますが……」

 

今や新しい味作りは、元太さんのライフワークだ。味見ばかりが続くので、ちゃんとした食事はなかなか摂れないのだという。メニューに加えることができるものは、100個に1個くらい。大変な根気のいる仕事だ。

 

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サンスーシィのおやつ全部入りの「特選サンスーシィパフェ」
製菓用抹茶でなく、本物の抹茶を使用

 

元太さんのひらめきの味を、祇園の料亭仕込みの腕で支えるのが奥様の麻琴さんだ。

 

「実家の割烹料理店で、板長のお父さんについて長い間修業してきているので、妻の料理の腕は確かです。僕が頭の中で組み立てた味を、彼女が調理してくれるから形になる。僕も料理はしますが、スイーツも含め妻が圧倒的に上手なんですよね(笑)。ひらめいた新作も妻に味を見てもらいます、彼女の舌には絶対的な信頼をよせていますから。サラブレッドの舌なんで(笑)」

 

 

元太さんが食に開眼したのは、高校生の頃。家で1人でいることが多く、料理をするようになったことがきっかけだった。食に関心を強く持ちながらも、大学を卒業後は出版社へ。17年勤めている間もずっと “食” は頭の中を大きく占めていたという。

 

「映画だったりスポーツだったり、音楽だったり。そういう仕事をしてきた中で、どれもそこには感動があるし、素晴らしいアーティストやアスリート、色んな人に出会えてすごい良かったんです。けど、なんか結局突き詰めて行くと、自分の中の一番のエンターテイメントは食だったんですよ。それに気づいて。そこからはもうタイミング待ちという感じでしたね」

 

そのタイミングは、麻琴さんとの出会いという形でやってきた。

 

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東京で暮らしていた中西夫妻が、お店を開店するのに選んだ場所は、なぜかここ沖縄だった。

 

「2人とも沖縄が好きで、何度も来てたんです。勉強のためにカフェ巡りとかばっかりしてたんですけどね。毎回20件とか行ってました(笑)。さぁお店を開こうとなったら、やっぱり好きな土地でやりたいよねってことで、沖縄でカフェをやろうと決めたんです。そして料理は、自分たちが自信を持ってお出しできる京ごはんで。自分たちにしか持てない武器を作ろうと思ったんですよ」

 

“琉京甘味 SANS SOUCI” という名前の中の “琉京” は、元太さんが作りだした言葉だ。「沖縄と京都の良いところをコラボレーションさせたい」という狙いから考えついたという。食材の組み合わせだけではなく、京ごはんをあえてやちむんに盛り付けたり、外人住宅に舞妓さんの名前入りのうちわを飾っていたりと、店内の随所に “琉京” を感じる。

 

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「僕たちはナンバーワンになろうとは全く思ってないんです。まず1番になるのってとても難しいじゃないですか。でも、オンリーワンなら誰でもなれるんですよね。自分たちしかいないので、結果的にそれはナンバーワンにもなれるんです。沖縄に行くならそれを目指していこうと」

 

京都という和を根本にすえ、琉球の彩りをまとったSANS SOUCI は紛れもなくオンリーワンで、ナンバーワンだ。

 

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実現はしなかったが、元太さんは出版社勤めをしていたとき、人が美味しいものを食べた瞬間の表情だけを集めた写真集を作りたいと考えていた。

 

「誰でも料理を食べて、美味しさに顔がほころぶことがあるでしょう? あのときって、みんなものすごく幸せそうなんですよね。その顔が、僕の1番の活力になるんです」

 

食べる笑顔を撮り収めるという企画は叶わなかったかもしれない。だけど元太さんは今、そのひらめきと根気、そして麻琴さんの料理の腕前とで、食べる笑顔をたくさん生み出している。それこそ写真集にできる程に。

 

文 山城梓

 

サンスーシィ
SANS SOUCI(サンスーシィ)
北中城村萩道150-3パークサイド#1822
098-935-1012
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