暮らしの中の旅日記 「人から人へ 手から手へ Gabbehの魅力」

写真 文 田原あゆみ

 

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みなさんは、Gabbeh – ガベ(ギャッベ)を知っていますか?

 

ガベとはペルシャ語で、イラン・イスラム共和国の南西部に位置するシラーズ州を夕卜するカシュガイ(カシュカイ)族、ルリ族の人々が暮らしの中で織ってきた絨毯の総称です。

 

羊毛を草木で染めて、ざっくりと織っているためおおらかな味わいがあるのがその特徴で、織り手によって柄も色も個性豊かに違うのが面白い。

 

羊毛は冬のイメージがあるけれど、山岳地帯に住む羊の毛は、日中と夜との寒暖差が大きい時には40℃もある地域特有の放熱と保温に優れているのだそう。
なので、たとえ南国沖縄で使っても夏は放熱してさらっとしていて、冬にはしっかり暖かさを提供してくれるのです。

 

今までにも何度かガベは横目で見てきてはいたけれど、去年の8月に開催した企画展、「赤木智子の生活道具店」の際、じっくりと触れることが出来た。
それは岡山のGallery ONOの小野善平さんがセレクトした、生き生きとした大小様々な暖かみのあるガベたちだった。

 

そのあとしばらく経って、その小野さんこそが日本に最初にガベを持ってきた人だということを知った。

 

小野さんは筆まめで、企画展開催前からハガキやメールをくださって、扱ってくれることへの感謝や、沖縄が大好きなこと、Shoka:のHPを読んでくださって誉めてくださったりと、とても気持ちが温かく、仕事を心から愛している様子が感じられて、私たちはいつの間にか小野さんの人柄に魅了された。

 

 

いつか小野さんのギャラリーに行ってみたい、行かなくっちゃと、私はこの一年間思い続けていたのです。

 

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かくして私はまたまた空を飛んだのでした。

 

 

東京出張と、ソウルへの旅が終わったばかりの7月半ば。
以前から工房を訪ねる約束をしていた、陶芸家の小野哲平さんと早川ユミさんの住む高知県の谷間を訪れることがぱたぱたと決まった。

前回の記事で挨拶があったように、Shoka:の常勤スタッフの一人だった愛しの関根が7月一杯で常勤を退職。
8月は身体のメンテナンスをする為にゆっくりと休みます。
その後はShoka:の協力助っ人体制となるとはいえ、この夏は人手不足。
私が動くなら7月中しかありません。

 

ちょっときつきつのスケジュールの中、えいやっ!と飛行機へ飛び乗ったのでした。

 

 

高知までの直行便は沖縄からは飛んでいません。
なので、どの経由で行こうかと調べていたら、岡山から車を借りたら行けるということが分かった私は、即決で岡山行きを決めたのでした。

 

これでGallery ONOさんに行ける、と。

 

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Garally ONOは岡山市の高島屋の裏手にある小さなギャラリー。
店内に置いてあるのは、紀元前3000年前の土器や、ラテン語で書かれた楽譜、西洋の古美術たち。
すべて小野さんが旅をしながら自分の目と手で確かめて、集めたものばかり。

 

 

「僕のお店にきてくれるお客さんは、僕が自分の目で確かめて買って集めたものを置いていることを知っているんです。
そこを信頼して来てもらっているんです」
と、小野さん。

 

 

自分の仕事に覚悟を持って向き合ってきた人の言葉だ。

 

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選んだものを通して、小野さんがどんな人なのかを感じようと、店内を見回す。
キリスト教にまつわるものから、エチオピアの枕、オリエントのBC3000年の土器の欠片、古いのに鼻息が感じられるような駱駝の焼ものまである。
詳しいことは聴きそびれてしまったのだけれど、相当古いもので紀元前のものなのだそう。

 

 

そんな昔の時代の暮らしがどんなだったのか私には想像もつかない。
この駱駝が当時どんな人の手でつくられたのか。
なぜこのポーズだったのか、分かりかねるけれど、とても心惹かれる姿だ。

 

小野さんもきっと一目で好きになったのだろうか。

 

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生き生きとした駱駝の表情と、柔軟なポーズから私は旅の始まりを感じます。
みなさんはどんな風に見えますか?

 

 

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小野さんは30代半ばににそれまで勤めていた天満屋というデパートの美術品の外商の仕事を辞めて、心惹かれていた古美術品を扱うお店を開くことを決心されたのだそう。

 

奥さんのかな子さんは、天満屋に勤める人と結婚したと思っていたのに、事業を始めると言って安定を捨てた夫に驚いて、当時は不安で一杯になったのだそう。
それでも、生き生きと働く姿を見るうちに覚悟を決めて一緒に楽しむことを選んだのだそうだ。
そんな話を表情豊かに話してくれる小野さんを見ていると、人はいくつになっても好きなことをするということが一番のしあわせで、生きる原動力になるとういうことをつくづく実感した。

 

今はこの通り、二人とも柔和な笑顔。

 

 

「最初にありったけのお金を持って買い付けにいった時に、ヘレケのシルクの絨毯に出会って、よしっ!と、スーツケースに7枚詰め込んで持って帰りました。
それが売れた元手で、次に、そして次にとやっているうちにバブルがはじけて、何か違うものを探さんといかんなぁ、と、そう思って思ヨーロッパを歩いていたある日、ガベに出会ったのです。

 

その時に全身がじーんと痺れるほど、これだ!という感覚に打たれました。

 

そして、またガベを7枚買って日本へ帰ってきたのです」

 

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ガベは直訳すると「ざっくりと織られた」という意味なのだそう。
遊牧民の暮らしの中のおおらかさと、手仕事ゆえの味わい深さが、日本の民芸にも通じるとすっかり虜になったのだという小野さん。

 

 

 

 

ガベの柄には様々な意味があるという。
枠のついている四角は、窓を表していて「窓からしあわせがたくさん入ってくるように」という願いが込められているという。

 

四角い模様は井戸の水を表している。
遊牧民の生活の中で大変なのは、命の水を確保すること。
大切な水を表す、四角い模様はガベの代表的な柄の一つだそうだ。

 

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それこそ直感的に、おおらかに織り込まれた様々な模様と、遊牧民の暮らしを写した色が魅力的なガベたち。
この鮮やかな色は、草木染めで染め上げた色なのだそう。
私の知っている草木染めよりも、色が深く、鮮やかで、最初は信じられなかった。

 

カシュカイ族にとって、赤色や黄色は太陽の色、青はオアシス・水の色、黄色は豊穣の景色、青色と黄色を足してできる緑色は春や夏に生い茂る草原の恵みなど生命の循環を色に現すことがあるそうだ。
織り子は、草木染めで染めるとどうしてもできる色むら(アブラッシュ)をもたくみに利用してギャッベのデザインに反映させていくという。(Wikipediaより参照)

 

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ガベには作られてから100年以上経ったアンティークと、100~50年前のオールドガベ、50~30年前のセミオールドガべがあります。古いガベには使い込まれた良さがあり、昔の暮らしの景色から来る素朴さがとてもいい。

 

新しいガベは洗練されていて、使い込んでゆくうちに経年変化の味わいが滲んでくる過程が楽しめるのがうれしい。

 

 

小野さんとかな子さんは私に、「40代はまだまだこれから。どんどんいいものに出会う為に色んなところへ行ってください」と、さわやかに力強く言ってくれた。

 

 

40代半ばで自分の心の声に従い、一歩踏み出した小野さんだからこそその言葉には説得力があった。
まだまだ冒険出来るぞ、とわくわく嬉しくなる。
歳を重ねることも悪くはないぞ、と。

 

もう一枚、もう一枚と、丸められたガベをほどくのを止められない。
小さな部屋の中は大小様々なガベで一杯になった。

 

 

 

この一枚を広げた時に、空気が変わったのを良く覚えている。

 

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水を表す青。
そこに織り込まれているのは「ライフ・オブ・ツリー」と呼ばれる木の模様。
先祖や家族を表すこの模様には、生命の繋がりの神秘性と、家族の健康を願う祈りが込められているのだそうだ。

 

 

この絵柄を見ていると、気持ちが静まってただただ惹き込まれてゆく。

 

 

人から人へ、手から手へ、手仕事の技術もその技術の礎となる心根も一緒に受け継がれてゆく。
世代を超えて、時代を超えて受け継がれてきたものがガベという形になって目の前にあることに感動して、しばらく言葉をなくしてしまった。

 

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最後に広げてくれた静かな抽象的な絵柄のガベ。
シンプルだからこそ創造力が刺激されて、様々な景色が見えてくる。

 

 

小野さんは現在、こんな柄が好きなのだそう。
最後はだまって、ただただガベを見つめるばかり。

 

 

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小野さんが「僕の好きなフルーツケーキとバームクーヘンです」
と、出してくれた珈琲セット。

 

ほっと一息つきながら、不思議な気分になる。

 

 

どこかとても遠くへ旅をしてきた気分。

 

人から人へ、手から手へ、手仕事の技術もその技術の礎となる心根も一緒に受け継がれてゆく。
世代を超えて、時代を超えて受け継がれてきたものがガベという形になって目の前にある。

 

人の手っていいな、と、私はつくづく感じてしまう。
手で出来る仕事はうつくしいな、とやっぱり思うのだ。

 

きっと人の手からは、何かが出ているに違いない。
沖縄のおかあさんや、おばあちゃんの手からは『てぃーあんだ』と呼ばれている愛情エキスが出ていることは県民の感覚に置いて実証済みだ。

 

ぬくもりを持つ手の仕事は、人を惹き込む。
何かしら手が伸びてしまうものには、作り手の無心の祈りのようなぬくもりが宿っているのだ。
きっと。

 

 

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それはそうと、このガベや、ベルベル族の織ったラグたち。

 

Shoka:での「Gabbeh 展」は10月の頭からの予定ですが、民芸の聖地とあおいだ沖縄の地で企画展を開催するのが念願だったという小野さん。
かなり嬉しくなったようで、私が帰った後すぐに沖縄へこのガベたち8枚を送ってしまったのです。

 

開催まであと2ヶ月もあるのに。
9月には別の企画展もあるのですよ。

 

「いや~、ごめんなさい。念願だった沖縄でいよいよ開催出来ると思うと、嬉しくなってつい」

 

声だけ聞いても、その笑顔が見えてくる、わくわくしているその声音。

 

まるで少年のように無邪気な小野さんには白旗を揚げるしかありません。

 

たとえ9月の企画展で、ガベを置くところに困ったとしても、私は笑顔で泣けると思います。

 

 

 

そんなことですのでみなさん、Shoka:に届いたGabbehの第一陣を是非見にいらしてくださいね。
もうよそでは手に入らないという貴重なものも送ってくださいました。

 

 

 

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嬉しそうに笑う小野善平さんと、奥さんのかな子さん。

 

 

 

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2013年9・10月 Shoka:の企画展スケジュール

 

 

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9月7日(土)~22日(日) 

 

イエローレーベル展
豊かな手仕事の文化が今もなお息づくインドの地で生まれた
イエローレーベルは、織りや刺繍の精緻な技、独特の鮮やかな色彩を
ヨーガンレールならではの心地よいラインにのせた
夏季限定のラインナップです。
今期はビーズワークやミシンワークなど、
ひときわ精巧な手仕事を用いたアイテムや
さらっと羽織れるジャケットやドレス、
年間を通して活躍する麻素材のアウターなどが揃います。

 

 

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10月4日(金)~13日(日)

 

「Gabbeh 展」

 

日本に初めてガベを持ってきた小野善平さんが選んだ、
手のぬくもりを感じるガベたちがShoka:へやって来ます。
日常に居ながらにして旅の気分を味わえるガベの豊かさに
是非触れてみてください。

 

 

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暮らしを楽しむものとこと
Shoka:


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