一筋縄ではいかないワークショップを開催する雑貨店がある。沖縄の民具を多く扱う “りゅう”だ。およそ月に1度開催されるワークショプ、たとえば月桃でランプシェードを作るそれでは、庭から採取した月桃を繊維状にするところから始める。参加者はそれぞれ、軍手をはめた手にナタを持ち、背丈の高い月桃と格闘。編むに至るまでの準備段階の手間や大変さを思い知ることに。
“りゅう”店主 古川順子さんには、その民具を作ることの楽しさだけでなく、大変さをも皆に伝えたいという思いがある。
ー“りゅう”で開催しているワークショップは、どんなものなのですか?
順子さん(以下略): 先生が手伝って、短時間でキレイなものを持って帰らせるワークショップじゃないわけ。わりとお客さんに難儀させる。実際自分でやってみたら、熱い、重い、痛いっていうのがあるわけじゃん。そういうことを思い知るためのワークショップなの(笑)。1日では無理で、何日もかけて完成させるワークショップもありますよ。
ーどうして難儀をさせるワークショップにしようと思ったのですか?
実際にやってみて、『先生! 先生の作品、この値段じゃ安すぎますよ!』ってお客さんに言わせるのが目的なの(笑)。このお店を始める前は、大きな観光施設の体験工房で働いていたんです。そこは時間のない観光客がパッと来て、安い値段で沖縄の伝統工芸に触れる、みたいな感じで。体験が終わって帰る頃には「結構、簡単だったね」って言うお客さんが多いわけ。それ聞いて「上澄みの2%くらいしか体験してないのに」って思っていて。“りゅう”では、そういうのはイヤだなって。もちろん全部の工程をお客さんにしていただくことはできないんだけど、なるべくお客さんが自分の手で難儀して、「プロってこんなに違うんだ」「知ってる気になってたけど、ホントはこんなに苦労してたんだ」とか、「こんなに痛いんだ」「重いんだ」とかそういうのを味わってもらえる場にしたいなって。自分でやってみたら、手間ひまかかるんだってわかる。そうすればこの値段が妥当なんだってことも自ずと認識してもらえるし、本物の値打ちがもっと広まるのかなと思って。もちろん大前提として、ものを手で作り出す楽しさを味わってもらうっていうのはありますよ。
ーこのお店”りゅう”を始められたのも、手作りのものの価値を知ってほしいからですか?
その観光施設で働いていた時に、作家さんと知り合う機会が多くて。で話してるうち、作家さんてものすごく営業が苦手で不器用だし、自分が作ったものの「ここがすごい」とかPRするのが下手で(笑)。例えば陶芸の作家さんがやちむん市に出して、お客さんから「お兄さん、これ2つ買うから1,000円まけてよ」とか言われると、言われた通りにまけちゃうの。それ見てて、「こんなに一生懸命作ってるのに、それを伝えないで、なんで簡単に値引きするの?」って思って。もの作りする人の自己PR力のなさに愕然として、というか、これは私の仕事なんじゃないかなと思ったんだよね。こんなに素晴らしいよっていうのを、広めたいと思ったんだよね。
ーそれで沖縄の手作りの作品を販売して、なおかつ、体験できるワークショップも開催されているんですね。けれど、本土出身の順子さんが、沖縄の工芸や民具を扱うお店をするのは、抵抗なかったですか?
沖縄に住んで12年目なんだけど、たしかに最初の5年くらいは、“古川”っていう名字で「あ、ナイチャー?」とか言われることが多かった。最初に線引きされてるみたいで、「なんでそんなことにこだわるの?」って、ちょっとモヤモヤした時期があったんだよね。そんな時に、沖縄に深く関わってる先輩に聞いてみたの。そしたら「自分は沖縄に関わってきて20年くらい経つんだけど、ウチナーンチュになろうとか、ウチナーンチュになれるって思ったことは1回もないよ。けど、沖縄大好きだから、すぐそばにいる友達として見守ってきたし、これからも見守っていきたい。それに距離があるからこそ、できることがある。順ちゃんも外の人だから沖縄の良さがわかるでしょ。外の人だからできることが、順ちゃんのお役目なんじゃないの」って言ってくれて。そうだよねって。こういう沖縄のいいものをいいってわかるのは、よその人で、私はとってもよくわかる。それが私の武器なのかなと思って。
ーいざお店をやってみて、お客からはどんな反応がありましたか?
「これって沖縄のものなんですか? これも??」って、沖縄の民具を知らない若い世代の人の驚きの反応があったり。知ってる人は、「これ、オバアの家にあったんだけど、引っ越しの時にどこか行っちゃったんだよね」とか「オバアの家にあって、ホコリまみれになって汚らしかったけど、こんな風に飾れば今でも素敵に使えたんだ」とかの惜しむ声もあって。海外の人なんかは、クバの葉の水汲みを見て、「これ、何するカゴですか?」って。「カゴじゃなくて、水汲みなんですよ」って言うと、「これで水漏れないの? すごい!」って喜んでくれたり。何かしらの反応があって、お店やってよかったなって思います。
ーそのクバの水汲みも民具なんですか? そもそも民具って何ですか?
私の中の定義では、“沖縄で取れる素材で、手で作られた生活の道具”かな。身近にある素材で、色んな知恵が詰まっているんだよね。例えば沖縄は高温多湿だから、なんでもカビやすいじゃない。そういうのに対応するように、風通しがいいようになってるとか、水に強い素材を使っているとか。今プラスティックとかステンレスの安くて便利な製品がいっぱいあって、一方、民具って、ダサい、古い、高いってものになっちゃって。ここ最近、プラスティックとかが飽和して、ようやく前時代的なものが良かったんじゃないかって見直されてる時期に来てる。けれど作り手がいないんだよね。作り手が減ったから、道具屋さんもいなくなっちゃって。このオジイがいなくなったら、もう誰も作れない、終わりってものがいっぱいあるんです。子や孫も引き継がなかったり。だけど、そこにも県外からの移住組の力があって、よその人から見たらとっても素敵に映るし、難儀しても作ってみたいって人がいて。県内の若い人でも、オジイオバアの作ってたものはすごいんだって気づいて、聞き取りをしながら作り始めた人もいるんだよね。そういう人のものを買い支えなくちゃって思います。
ー数が少ない作家さんを、どうやって探しているのですか?
ご縁だと思っているから、ピンとくる人がいたり。それからお客さんとか、うちで扱ってる作家さんからの紹介も多いですよ。既に有名な人は私の店で扱う必要はないかなと思っていて。まだ出たてで、どこのお店に卸せばいいのかわからないっていうような未知の人がすごく好きで。例えば、トウヅルモドキのきれいなカゴがあるでしょ。あのカゴ、与那国島で細々と作られてるんだけど、他の店では全然扱われていないもので。与那国に住んでる友人が「順子さん、こんなの好きじゃないですか」って写真送ってきてくれて。「製糖工場で一緒に働いてる友人が作っているんです。製糖の仕事で現金収入を得て、空いた時間にこういうもの作りをしてるんですよ。なかなかよくて、僕もお弁当箱をオーダーしてるんです」って教えてくれたり。
ーそれで与那国まで実際に足を運んで、その作家さんに会ったのですか?
もちろん行きましたよ。ここにある全部の作品の作家さんに、実際に会ってます。私みたいな販売をする人が、なんでこんな値段になるのか、どんな思いがあって作品を作っているのかってことを伝える義務があると思うし、それが正しく伝われば、正しい評価を得られるでしょ。「だったらこの値段も納得ですね」って。例えば、芭蕉布なんかは、織り手の人が植物の芭蕉布を育てるところからやってるの。育てて、伐採して、捌いて、糸にして、染めて、機織り機にかけて、織ってって、もう効率の真逆を行ってるわけじゃん。織り手さんが1から10まで手間ひまかけて仕上げるって、例えば「6月にとったあの糸だ」って思いながら織ったりするってことよね。そこにかける思いがあってさ、分業で作ったものと何が違うかって数値には出ないけど、仕上がりとしてはその人の思いがしっかり入ってる。やっぱり違いがあると思うんだよね。私がそういうことを知らないといけないし、みんなにも知ってほしい。だから、現場へ行って作業してるのを見るし、実際にお話して、その作家さんの人柄も感じてみる。で、その人柄とかもお客さんに伝えられたら面白いし。「こんな洒落たの作ってるけど、すごいオッサンなんだよ」とか、「人参が好きでさ」とか、「昔、銀行にいたんだって」とか、「すごく素敵な暮らししてるんだよ」とかね。受賞歴なんかを聞くより、私がお客だったら聞きたいと思うようなことも伝えられたらなと。
ー手のぬくもりのようなものを感じる作品ばかりですし、その上、作家さんの苦労や人柄まで知ることができたら、購入したお客もなおさら大切にしますね。
この子が売れたら私の収入になるとか、生活できるとかそういうことよりも、ちゃんと大切にしてくれるところへ嫁入りさせたいなというのがあって。だから「お客さんに買わせよう」っていう気はさらさら無いんです。ここにあるちょっとした小さい作品は別だけど、数作れるものじゃないものもある。この子達が自分で行きたいところを探すんだよね。お客さんが選んでるように見えるけど、この子達が「あなたのお家に行きたいです。連れて帰って」って言って、買われていくから。こんな大変な思いをしてこの世に生まれてきたこの子達だから、行きたい所に行かせてあげたいわけよ。だから無理して買ってもらう気は全然なくて、「迷ったら、買わなくていいですよ。迷わない時に来てください」って言ってる(笑)。その時はこの子だって迷いはないからね。「何も買わないでごめんなさい」って気持ちのお客さんがいっぱいいるんだけど、全然そんなのは気にしないでいいんです。
ーインターネットで販売しないのも、大切にしてくれる人のところへ行かせたいからですか?
そうそう、たまに「インターネットで買えませんか」っていう問い合わせが来るんだけど、私は「ネット販売はしません」って。インターネットだとさ、会えないからどんな人が買うのかわからないじゃない。だからお店に来てもらって、喋って、「こんな人のところに行くんだな」って。どんなところに嫁入りするのか、見届けたいわけよ。「うちの子はどんな人のところに嫁ぐのかしら? ちゃんと大切にしてくれるかしら?」って。そのお客さんが誰かにプレゼントするにしても、「この人のお友達のところに行くんだな」とか。その後、購入したお客さんから、たまに写真とか送られてくるわけよ。「こんな風に使ってます」って。ついこの間も、わらびの楕円の手提げカゴを買った人から写真が送られてきて。「19歳の猫ちゃんのカゴになってます」って。そのカゴ、今年100歳になったオバアが作ったもので、猫も人間でいうと100歳くらいでしょ。「100歳コラボだな」とか思ったりして(笑)。そういう報告がきたら嬉しいじゃん。そういうのがやっぱり喜びかな。
ー来店したお客に記名してもらうノートがありますね。それはどうして?
来てくださったお客さんにお年賀状を書いてて。「ご来店ありがとうございました。またのお越しを」だけだとつまんないじゃん。何を購入したとか、ここでどんな話をしたとか、誰と来店したとか、忘れちゃうからちょっとメモしておくの。それで年賀状に「うちのカゴちゃん、元気にしてますか?」とか「あの時のご家族はお元気ですか」とか、「あれは大丈夫ですか。壊れてませんか?」とか一言書くの。そうすると何百人いる中で、1人2人反応してくれるんだよね。「順子さんから『あのカゴは元気ですか』と年賀状をもらって早3ヶ月、ようやく返事が書けます」とかって手紙が来る。「こんな風にしてますよ」とか「お友達にすごく喜んでもらえました」とか。そういうやり取りが好きなんでしょうね。ただ売って売りっぱなしって、寂しいから。
ーお客全員に、お茶とちょっとしたお茶菓子を出すのにも驚きました。これも順子さんが寂しいから?(笑)
そうそう、私が寂しがり屋だから(笑)。でも、こんなわかりにくいところにある店までわざわざ来てくれたんだからさ、お茶くらい出したいじゃん。買ってもらって包んで「さよなら〜」はないよね。観光客の人だったらさ、その人が興味あることで私が知っていることがあれば、教えてあげたいし。「今夜バーベキューやるから、来ない?」とか、偶然その日に来たお客さんを誘っちゃったり(笑)。たまたま用事がなくて来れちゃうお客さんもいて、そういう人は何か縁があるんだろうなと思う。今会って喋ってバーベキューも一緒にしちゃうって、すごい確率でしょ。何かのお知らせだと思っていて、どんなヒントや気付きがやってくるんだろうって、楽しみになるよね。こういう平凡な毎日を続けてて、“りゅう”って種を蒔いて、水も撒いて、もしかしたら雑草が出ちゃうかもしれないし、蕾までいかないかもしれないけれど、いつか何かの実になるのかなっていうのが楽しみで仕方ない。いい匂いがするのか、食べられるのか、役に立つのか、わからないけどね(笑)。
写真・インタビュー 和氣えり(編集部)
りゅう
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