photo: naoko ushiban
「琉球泡盛 島米」。
原料である金武町産の米「ちゅらひかり」は、
恩納岳の美得川(びとくがわ)上流を源泉とする水によって作られている。
イネ品種の中でもトップレベルの食味を誇るちゅらひかりが放つ透明感を思わせる、
シンプルながら、すっと心に響くデザイン。
その丸みを帯びたフォルムは、美しいカーブを描く新米にも似ている。
この美しいパッケージデザインは、著名なデザイナーからも高く評価され、
「ガラスびんデザインアワード2008 」で優秀賞を受賞した。
「think of(シンクオブ)」代表の金城博之さんは、
沖縄から初の受賞という快挙を成し遂げたのだ。
誰もが目にした事のあるあのデザインも、金城さんによるもの。
「僕の仕事の多くは受注なので、
理想と現実の兼ね合いが必要です。
30代で独立して突っ走って来て、
色々経験もしたし、やりたい事もやってきたとは思いますが、
正直に言うと、未消化です。
これからは、クライアントと一緒にプロデュースしたり、
セルフブランドを創造したりしていきたいと思っています。
それによって、自分が考える『豊かさ』を表現できたら。」
—— 『豊かさ』というのは?
「これは僕のエゴかもしれないけど、
せっかく良い素材なのにパッケージで台無しになってしまっている商品もありますよね。
お互いに温度差があるというか。
お互いに、というのは、
例えばメーカーと生活者だったり
メーカーとデザイナーだったりするのですが。
そこに、リスクシェアというよりも価値の共有が必要だと感じていて。
メーカーの持っている良い側面を、
デザイナー側が新たに発見できるということもあると思うんです。
そういう意味でフィフティー・フィフティーの関係でいたいなと。
デザインにおいては、クライアントが持っている価値を引き出したり、
その価値を明確化していったりという作業が必要だと思っています。
そうする事で、パッケージの中身と外見の関係がイコールになっていきます。
デザイナーの仕事とはまさに、そうやって中身と外身を近づけていく仕事。
そういうことに、僕は豊かさを感じるんです。
僕にとっての豊かさとは、ときめきやパッション、感動を得るということです。
中身が変わらなくても、デザインが入っていくとそこにはパッションが生まれますから。」
—— 企業に決定権を持たせておけば、
金城さんが背負うリスクは必然的に少なくなります。
そこをあえて、プロデュースやセルフブランドの確立にも意欲的なのは、
沖縄を良くしたいという想いから?
「勿論、そういう想いもあります。
また、現状ではデザインが切り売りされていることが多いので、
自分に限らず、デザイナーというフィールドの役割をステージアップさせて表現したいという想いもあります。
例えば海外では、公共空間から店舗、パッケージにいたるまで多くのパッションを感じさせる、
ときめきのある要素が数多く見られます。
今はどうしても、お客様に同調しながら自分の世界を創っているところもありますが、
相手から想いを引き出しつつ、そこに自分の感性を加えて行くのが僕の役割だと思っています。」
「企業にも色々あって、
マーケットを推し量って物を作る企業もあります。
そうなると、注文される時も
『これじゃ沖縄らしくない』
という風に言われることもあって。
そういうマーケットありきのフィルターでははなく、
情熱を持ってデザインと向き合いたいと常々思っています。
数字ではなく、人間的な感覚を大切に、
でも、熱いだけではだめなので、本質的な部分もしっかり持って、
自分の役割を果たしたいですね。」
—— 「沖縄らしさ」というオーダーについてはどう思われますか?
「一番難しいオーダーだと思います。
最近はなくなってきましたけど、最初はよく言われていました。
でも、そういう次元で考えているとだめだと思って。
ちゃんとときめきのある仕事をしていければ、
時間を経て、必然的にそれが沖縄らしさになっていくじゃないかな?って。
例えば沖縄で暮らしていく中で、沖縄の自然を身近に感じながら、
そこからにじみ出たものをストレートに表現していけば良いんじゃないかと。
情熱を持って生みだされたものであれば、
生まれた当初は沖縄らしくないかもしれないけど、
最終的にはそれが沖縄らしさとして受けいれてもらえるようになると思うし。」
—— デザインする上で、金城さんが最も大切にしていることは?
「相手が持っている答えを引き出していくというプロセスでしょうか。
相手の中では漠然としている答えを、話し合いを重ねていくことで引き出し、
それによって具体化させていくように心がけています。」
—— 聞いているとカウンセリングにも似ているように思うのですが
「そうですね。
自分がこうしたいという押しつけではなく、
お客さんがこうしたいんだと思っているものも含めて組み立てていくのです。
とはいえ、僕はガージューなところもあるので(笑)、そこはバランスをとって。
自分一人ではなく、僕の場合は必ず相手あっての仕事であるような気がします。
つまり、自分が創りたいものを創るというのとは違って、
相手の話をよく聴き、状況を汲み取り、表現していく感じです。」
——相手と向き合うことを大事にしているというのは、
金城さんがデザイナーを務める 「 ti tu ti (ティトゥティ)」
(関連記事:ti tu ti OKINAWAN CRAFT)
にも通じる姿勢のような気がしますが。
「そうですね、お客様は作家にダイレクトに会えるし、
作家はお客様の反応を感じられる。
沖縄だと、それができる。
それに、僕の場合は相手ありきなので
『あなたが好きな様に描いて』
というのが一番難しくて。
以前は、沖縄を拠点にして東京の仕事ができたらいいな〜と思っていましたが
顔が見えて、声がちゃんときこえないと、難しい。
そこを僕は大切にしています。
ビジネス的な関わりではなく、
例えば一緒にランチを食べたりして、相手の素に近づき、
お互いの価値を共有することをとても大切にしています。」
—— ti tu ti のメンバーと価値観を合わせるために、
みんなで北欧に行った、というエピソードにも似ていますね。
「そうですね、目的は似ているところがあります。
例えば、ぱっと来て、ぱっとオーダーされても、僕はできないんです。
そこに価値の共有がなければ。」
—— think of の事務所はとても目をひきますよね。
「通常、デザイン事務所ってビルに入っていることが多いんですけど、
一階で通りに面しているので、人目につきますよね。
外からみんな中をよく見ていますね、『なにやってるんだろう?』って。
でもそれで良いと思っていて。
わかりやすさよりも、何だろう?って考えてもらう事が必要なんじゃないかと。
世の中はわかりやすさばかりが重要視されて、見る側は思考する必要がない事が多い。
『この店は何だろう?』
って考える事で、頭を働かせますよね。
事務所を建てるときに、そういう想いを反映させました。
あと、実はもう一つ狙いがあって。
仕事としては受注業なんですけど、
ある程度自分のことを知ってオーダーして頂いた方がやりやすいんです。
事務所のデザインである程度僕の世界観を表現して、
それ見て魅力を感じて来てくれた方だと、話が早いんです。
でも逆に、自分を知らずに『◯◯さんから紹介されて』という感じだと、
そのギャップを縮めるまでの時間が、どうしてもかかってしまうんです。」
—— 事務所の雰囲気が気に入れば、
価値観のベースがお互いできあがっているということですもんね。
「そうですね。」
—— カフェか何かと勘違いされたことは?
「最初はありました、外国人の方が入って来たり、
二次会の予約をされたり(笑)。
でも、それで良いんです。
デザインって本来、暮らしの中にあるものですから。」
自分が沖縄県民であるという事実から、目をそらさないというだけではなく
そのことを全力で考え続けているひとなのだと思う。
沖縄風の「いかにも」なモチーフが入っていなくとも、
「あ、沖縄の商品だ」
と、誰からも認識してもらえるような商品が、市場に豊富にあるとはいえない。
伝統に敬意を示しつつ、
沖縄の新しい可能性を模索しながら、しっかり前へ進んで行くスタンスは、
think of と ti tu ti に共通している。
だれもまだ見たことのない
「新しい沖縄らしさ」
が、
これからも think of から生まれ続ける。
写真・文 中井 雅代
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