注文して頂いたら、淹れ方を説明しながらお客様に自分で淹れてもらうんです。でも、お茶って必ずこうしないといけないっていうものではないと僕は思うんです。だって、茶葉にお湯を注ぎさえすればできるわけですから。
「こうやって淹れたらより美味しいですよ〜」
っていうだけ。
一応説明はしますが、あとは自由で良いんですよ〜っていう感じです。
文山包種茶(ぶんさんほうしゅちゃ)を淹れてみましょう。
烏龍茶の中でも特に発酵度が低く、緑茶に近いので日本人にも親しみやすいんです。
急須にお湯を入れて温めます。この時茶葉はまだ入れません。
急須に入れたお湯を今度は「茶海(ちゃかい)」に注ぎ、温めます。
緑茶は低めの温度で入れた方が甘みがでて良いんですが、烏龍茶は100度前後、沸騰するくらいのお湯で淹れた方が美味しい。
だから、淹れる時に温度が下がらないようにあらかじめ茶器を温めておくんです。
茶葉を全て入れ、お湯を注ぎます。
茶葉によっては半分くらいまで湯を入れて一旦その湯を捨てる「洗茶」が必要なものもあるんですが、これは洗茶の必要がない茶葉です。
洗茶と言っても茶葉が汚いから洗うという意味ではなく、固く丸まっている茶葉を目覚めさせるために行うのです。
お湯を注ぐ時は、下から上引き上げるような感じで。
ふたで軽く泡を切りながらふたを閉め、1分ほど蒸らします。
最初に茶海に入れた湯は「聞香杯(もんこうはい)」と「茶杯」に移して、こちらも温めます。
残ったお湯はそれぞれ急須に注ぎかけます。
できあがったお茶は一度全て茶海に入れます。
面倒くさかったら、こうやって置いても大丈夫。
なぜ一旦茶海に移すかというと、急須から注いだものを飲むと、お茶は徐々に抽出されるので最初と最後でお茶の味が変わってしまうから。茶海に移すことでお茶が出過ぎるのを防ぐこともできます。
お茶は、飲む前にまず香りを楽しみます。
「聞香杯(もんこうはい)」はそのために使うもの。ここに茶を注ぎ、上から茶杯をかぶせて香りを閉じ込めます。
ゆっくりと上下をひっくり返し、茶の香りが移った聞香杯の香りをかぎます。
開けてすぐの香りと、10秒経ってからの香りはまた違うんですよ。
香水のように、深みのある甘い華やかな香りになります。
茶葉によって香りも変わります。
これが一煎目。
二煎目が最も美味しいと言われます。
一回分の茶葉で五〜六煎は美味しく召し上がれます。
– – – お茶のうんちくを語られても、きっと面白くないだろうなって。
店はオープンして7年目になります。
以前はサラリーマンでした。
実は、お茶が好きでお茶屋さんをやろうと思ったわけじゃないんです。もともとは台湾が好きでよく遊びに行ってて、台湾に関わる仕事がしたいなーと。それでお茶を勉強し始めたんです。
沖縄で赤嶺文弥乃(あやの)先生に教えて頂いた後、先生を通じて京都の棚橋篁峰(こうほう)先生を紹介して頂き、さらに勉強しました。その後、試験を受けて「中国茶芸師」の資格を取得しました。
試験は日本だと京都で受けられます。
茶文化についてなどの筆記試験と実技試験。中国から試験官が来て、大きな会場で行われます。
資格は取ったものの、あんまり型にとらわれない店です。
店に来てまでお茶のうんちく語られても面白くないだろうなと思っていたので、そこまでお茶にどっぷり入り込む店というイメージではなかったんですよ。
でも一応勉強しとかないといけないかな、という感覚で。
教えてくださった先生からしたら「もっと勉強しなさい」という感じだと思うんですが(笑)
でも、勉強したあとはやっぱりお茶に対するイメージが変わりましたね。お茶ってすごいんだな〜と思うようになりました。
それまではもちろん美味しいとは思っていましたけど、こんなに深い世界だとは思っていませんでした。種類も想像以上にたくさんあり、面白いと思いましたね。
人気メニュー「魯肉飯(ルーローファン)」。セットにするとミニ杏仁豆腐と飲み物(コーヒー/ティー)が付く。
– – – コーヒー飲むだけでも全くかまわないんです
常連さんでもお茶はまったく飲まない方もいます。ご飯だけ食べにくる人も。それで良いんです。「お茶は飲まないわけ?」とは思わないですね、全然。
というか、そうやってお茶にこだわっていたら最初から他のメニューは置いていないかも(笑)
お茶は美味しいし好きですが、日本ではお茶って無料で出てくるものじゃないですか。それでお金を取るのは難しいんじゃないかなと思っていて。台湾茶を知って欲しいという気持ちはあるんですが。
湯を注ぎ足して何度も飲めはするけれど、一回のお茶に600円出すというのが理解できないという人もいるでしょうから。
でも、台湾や中国だとお茶は一回いくらじゃなくて数十グラム単位で袋に入れられて出てきて、良いお店だと2,000〜3,000円かかるところも。その場で飲みきれなかった茶葉は家に持ち帰るんです。
でも、そういうやり方は沖縄では難しいと思うので、1回分の茶葉をお出ししていますが、それでも「お茶に600円?」と思う方はいらっしゃると思います。だから、お茶に特別こだわっているというわけでもないんです。
コーヒーだけでも良いので、色々な方に来て欲しいですね。
– – -台湾は昔の沖縄?
店内に茶葉を入れた缶が並べてあるのですが、
「あの缶なに?」ってきかれても「これはですね〜!」って力説する気もなくて。「台湾のお茶なんですよ〜」というくらいの気持ちです。
それで飲んで頂いてもし台湾に興味を持ってもらえたら一番嬉しいですね。
台湾って沖縄からこんな近いのに行ったことがない人も多くて、沖縄のほうが都会だと思っている人も沢山いると思うんですよ。
だから実際に行ってみて、台湾の現状を知って帰って来た時に、何らかの形で沖縄のプラスになれば良いな〜と。
実は僕も17〜8年前に何も知らずに台湾に行って、「こんなにでかいんだ!」と衝撃を受けたんです。今はまたさらに進んでますしね。
「台湾は昔の沖縄に似てる」という話もよく耳にしますが、確かにそういう昔ながらの風景も残ってますけど、先進的な都会の面もあって。
– – -「らしさ」が残っている台湾から沖縄はもっと学べるはず
台湾から学べることが沢山あると思うんです。
沖縄ってどんどん変わっていってるじゃないですか。昔の良いものをなくして内地に近づこうとするけれど、結局は追いつけないし、追いつくことが良いことなわけでもないと思うし。
そうやっていくうちにどんどん大切なものが失われていくんじゃないかと。それはある意味では自然な流れなのかもしれないけれど、気づいた時には手遅れになってしまうんじゃないかと心配で。
だけど自分一人では何もできなくて、ただ時代だけが流れて行くような気がした頃があったんです。
その時に台湾に行って、「あ、良いな。」と思ったんです。昔ながらの台湾らしさがきちんと残っている。たまたまそうなっているのか、それとも政策で保護しているのかは知らないですけど、台湾からは学ぶべき事が沢山あるような気がして。
わざわざアメリカ本土やハワイの真似しなくても、こんな近くに良いお手本があるじゃないかと。
それで台湾に行って感動した人が何かやってくれるんじゃないかな〜って(笑)
結局、お茶から入ったわけじゃなくて、そういう想いから入っているので、お茶にどっぷりは入っていかないんだと思います。
「mignon bijou(ミニョン ビジュー)」のアクセサリーをお目当てに来られるお客様も多いという
うちの店をきっかけに台湾茶にハマったというお客様もいらっしゃって、すごく嬉しいですよね。それで台湾に行かれたりとか。
それこそが、店をやっている目的の一つでもあるので。
今後はお茶の種類やメニューをもう少し増やせたらとは思っていますが、これからもお茶に興味がある方だけでなく、広くたくさんの人に来ていただきたいですね。
オリジナルのちんすこうも
「流求茶館」というその店名から、茶を前面に押し出した店なのだろうと思っていたので、店主のスタンスはとても意外だった。
しかしその押し付けがましさの一切ないところが、なんとも心地良い。
那覇の街を歩き疲れたときに、
「コーヒーでも飲もうか。あ、流求茶館行く?」
と、気軽に足が向きそう。
「台湾でも中国でも、お茶がすごく生活に密着してるんですよね。いつでもそばにある。
沖縄のおばあたちもよく飲んでますね。大きな急須がいつもテーブルに置いてあって。
最近の若い人たちはどうだろう、ペットボトルの飲み物が沢山ありますからね。家でお茶を淹れて飲むっていうのはなかなかないかもしれませんね。」
お茶を飲むスタイルは少しずつ変わって来たけれど、お茶を飲んでほっとする気持ちは、時代や老若男女を問わないだろう。
目の前でお茶を淹れてくれる山城さんの説明や口調があまりに穏やかで、何事にも縛られないいかにものんびりとした雰囲気なので、本場の茶器を用い見事な手さばきで淹れているにも関わらず、なんだかおばあの家でほっと一息入れているかのような気持ちになる。
手順が違ったって良い、茶葉について詳しくなくたって全くかまわない。
茶葉にお湯を注いで飲む、それだけのことなのだから、と。
厳選された美味しい茶葉から淹れてくれたお茶を、肩肘はらないお店のムードの中で飽きる事なく何杯も飲み続けていると、常連さんたちが多いのも当然だなと納得する。
だって、なんと居心地の良いことか。
センスのよいインテリアに囲まれた異空間だが、まるで自宅のリビングのような解放感。
コーヒーも紅茶もあるフレキシブルなこの茶館には、沖縄と台湾に対する店主の熱い想いが実は秘められている。
しかし店主は、そんな秘めた想いを感じ取って欲しいとすら思っていないだろう、きっと。
そんなことはまあ、いいじゃないの。
美味しいお茶でも飲んで、一息入れましょう。
写真・文 中井 雅代
流求茶館(りゅうきゅうちゃかん)
那覇市牧志1-3-17
098-862-3031
open 12:00~21:00(土日祝19:00迄)
close 水
*土日には中国茶の教室も開いています。
お一人から受け付けています。詳しくはコチラ。
HP:http://ryukyu-chakan.com
ブログ:http://ryukyuchakan.ti-da.net