『 曾根崎心中 』一瞬で菩薩にも鬼にもなれる女性という生き物。舞台を観ているように場面が浮かぶ、ページをめくる手が止まらない!


角田光代・著  近松門左衛門・原案 リトルモア ¥1,470/OMAR BOOKS
 
― 女とは?時代は変わっても、人は変わらない ―
 
寒さがいっそう厳しい2月に入りました。
2月のイベントといえばバレンタインデー。
ということで今回は恋愛小説の新刊をご紹介。
  
『八日目の蝉』や『ツリーハウス』など
最近では親子や家族をテーマにした作品が目立った著者の初の時代恋愛小説。
と聞けば期待大。
さっそく読み始めたらページを捲る手が止まらず一気に読み切ってしまった。
  
赤と黒が印象的な表紙のこの本。
元は歌舞伎や人形浄瑠璃の演目として有名な近松門左衛門の代表作を小説化したもの。
 
ストーリーは江戸時代の大阪の遊郭で出会った男女が、
激しい恋の果てに心中を図るにいたるまでのお話。
主人公のお初の心情を中心に物語は進んでいく。
これぞ、究極の恋のかたち、として江戸時代の人々に大絶賛で迎えられたが、
実際に心中を図る人も出てきてすぐに上映禁止になったという。
 
甘いだけじゃない恋につきものの苦さ、不安、哀しみ、疑心に揺れる主人公のお初。
でも最後は本の帯にある「愛し方も、死に方も、自分で決める」と潔い生き方を彼女は選ぶ。
 
この物語、恋愛によって女性がどう変わるかがとてもリアルに描かれている。
一瞬にして菩薩のようにも、鬼にもなれる女性という生き物。
このお初の心の移り変わりが女性ならきっと痛いほど分かるはず。
そう、この物語の肝は男女のラブストーリーであると同時に、
「女」について描いたお話だと思う。
 
作中にはいろんなタイプの女性が出てくる。
そして女性の数だけその愛し方が違う。
女とは?という問いに著書が答えようとしているように思えた。
 
最後の場面でお初にある疑念がチラリと過る(ここでは言いませんが)。
これがすごい。これが人だよね、と説得力がある。
でもそこでお初は全てを受け入れるのだけど、
そこがまた女性というものの本質を突いている。
 
また後半の、二人が遊郭を逃げ出し、曾根崎の森へ向かうクライマックスが美しい。
舞台の演目だけあって場面、場面がすごく目に浮かぶ。
本を閉じると見応えのある一つの舞台を観終わった感があった。
 
時代は変わっても人は変わらない。
時代小説とはいってもそのまま現代に置き換えられるラブストーリー。
寒さも忘れるくらいの熱い恋の物語をどうぞ。

OMAR BOOKS 川端明美




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