『 フラニーとズーイ 』「私」にがんじがらめになっていませんか。大人の夏休みの課題図書に。


J.D.サリンジャー・著 村上春樹・訳 ¥630(税別)/OMAR BOOKS

 

長く隠遁生活をしていたサリンジャーが逝去したニュースが飛び交ったのが6年前のこと。言わずとしれた世界中の若者のバイブル『キャッチャー・イン・ダ・ライ』(『ライ麦畑でつかまえて』)の著者。
この作品で大成功を収めたあと、都会から離れ、世間との交流を断って静かに生活していたことでも有名だ。彼の数少ない作品の一つ、『フラニーとズーイ』がまた村上さんの新訳で蘇ったとなれば読まないわけにはいかない。

 

フラニーが駅で恋人と再開し、レストランで食事をしながら交わす会話を中心に展開する「フラニー」と、その兄のズーイが風呂場で手紙を読む場面から始まり、フリーク(異形)として育ってしまった自分たち兄妹のことを語り続ける「ズーイ」から成る短編集。

 

一見育った環境や容姿、知性に恵まれたように見えるフラニーとズーイ。
そして彼らを含む聡明な兄妹たち(の一人シーモアは他短編作品「バナナフィッシュにうってつけの日」の主人公)。
自意識にからめとられた若者たちの話という以外にも、男女、家族、兄弟姉妹間の話として深い示唆にあふれている。

 

この作品を必要としている人はむしろ今の方がずっと多いかもしれない。
本人が望む、望まないに関係なく、学校、職場、付き合いの中で他人と比べる事を余儀なくされる今。「私」にがんじがらめになっている人も多い。というかほとんどの人が皆そうだ。エゴというやっかいな生きもの。主人公たちの葛藤はそのまま私たちにあてはまる。
現代を生きる私たちにとって必読の本じゃなかろうか。

 

互いのことを思うが故の家族同士の遠慮のない言葉の応酬。太ったおばさんのために靴を磨き続けるエピソードに至るカタルシス(がんばってここまで読んでほしい)。小説というものがあって良かったなあと素直にそう言いたくなる作品。

 

頭だけで悶々と悩んでいるとき、こういう作品がすっと風通しをよくしてくれる。大人の夏休みの課題図書に入れたい一冊です。

OMAR BOOKS 川端明美




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