『 エリック 』よく分からない相手を理解することを伝える、小さな絵本

エリック
ショーン・タン著 岸本佐知子・訳 河出書房新社 ¥1,000(税別)

 

 
黒い顔に小っちゃな瞳がこちらを見つめる表紙。
ふらっと寄った本屋でつい気になって、手にとってみたら最後まで読んでしまった。
普通ならそのまま本棚に返すところだけれど、手のひらサイズのこの絵本は、もう一度読みたいなと思わせてくれる何かがあった。

 

オーストラリアの現代を代表する新進気鋭のイラストレーター、ショーン・タンによる本書。
本の見返しがまた優しい色合いに包まれていてとても素敵。

 

お話はこう始まる。
あるとき「ぼく」の家にエリックという名の交換留学生がやってきた。
どこの国からかは分からない。ぼくの家族がエリックが気持ちよく暮らせるようにと、用意してあった部屋には泊まらず、小さな彼は台所の戸棚の中で多くの時間を過ごす。

 

とても控えめで勉強家のエリック。
ぼくはエリックがほんとのところ、ここでの生活を楽しんでいるのかどうかが気になっている。彼をいろんなところへ連れていき、驚かせたくて面白いだろうと思うものを見せてまわる。けれど、彼が本当に求めていることをしてあげられているんだろうか、とぼくは心配しながらもそのことをエリックには聞くことができない。

 

彼らのやりとりを見ていると、「分からない」ということ、それを前提にしてお互いを尊重することをふっと考えさせてしまう。

 

「お国柄ね」とぼくのお母さんがそんなときに言う言葉。
よく分からないながら相手を認める。それでいいんじゃない?という風に、分からないままエリックの言動を受け止めるお母さんの言葉が耳に残った。

 

相手の喜ぶことをしようとしてそれが見当外れだった、なんてことはよくある。相手の求めていることを正確に知るのはとても難しい。まして相手のバックボーンや育った文化などが全く分からないとなると、よけいに理解するのは困難だ。

 

―でもそれでいいんだよ。

 

というエリックの声が聞こえた気がした。その気持ちだけで嬉しいと彼は言いたかったのかもしれない。
彼が最期に、ぼくとその家族に残していくものがまた胸を打つ。

 

優しさがそっと心の深いところまで降りてくる小さな絵本。大切な誰かへの贈り物としてもおすすめです。

 

OMAR BOOKS 川端明美

 


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