正岡子規・著 筑摩書房 ¥880(税別)/OMAR BOOKS
果物(くだもの)を水菓子(みずがし)とも言うことを、正岡子規の「くだもの」という文章を読んで知った。水の菓子、とはまた上手く表した漢字があるものだなあと思う。その響きは果肉の内にたっぷりと水分を含んだ瑞々しいくだものを想像させる。
栗、椎の実、くるみ、どんぐりなどの木の実は子規独自の分類によれば、くだものではないそうだ。くだものと気候・大小・色・香について、そして、くだものと余、など、「病牀で食うてみたくだものの味のよしあしをいうのである」と続く、子規のくだもの考といった趣きのあるこの文章。
人生の晩年、病牀につきながら他の食べ物が食べられないとき、また乾いた喉を潤すために食べる「くだもの」は特別なものだったに違いない。「柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺」は彼の有名な句だが、ほかの散文などを読むとそこでも蜜柑や苺、梨に林檎などについてふれている。よほど、くだものが好きだったのが分かる。
俳句の革新者と言われ、病牀につきながらもほかに短歌、写生文を多く残した正岡子規。短い人生ながらも、その言動から鮮やかに生きた人、という印象が強い。熱を帯びた人、とでも言えばいいだろうか。ただ単に病気のせいだけではなく。その熱を冷ますにはくだものがいかにもぴったりだ。
本書には「墨汁一滴」、「病牀六尺」、「歌よみに与うる書」なども合わせて収録。夜が長くなったこの季節、秋の味覚を味わいながら手に取ってほしい一冊です。
OMAR BOOKS 川端明美
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