『 あなたを選んでくれるもの 』生身の人間と直に言葉を交わすその重み。ミランダ・ジュライの異色のインタビュー集。


ミランダ・ジュライ著 岸本佐知子・訳 新潮社 ¥2,300(税別)/OMAR BOOKS 

 

「泣くことってありますか?」仕事の話が終わって、何を思ったのかついでのようにその人が私に聞いた。鉄の女だとでも思われているのだろうか・・・と心配になりながら「見せないだけでそれはもちろんありますよ!」と笑って答えたはいいけれど、不意打ちのように投げかけられた問いがしばらく引っかかっていた。私にそう聞いた彼女は、「最近、泣いてないんですよね」とつぶやいたのも妙に気になった今週、手にしたのはミランダ・ジュライの最新作『あなたを選んでくれるもの』。油断しました。読み始めて止まらず、この本が終わりに近づく頃には気持ち良く(としか言いようがない)涙を流していた。

 

脚本・監督・主演を務めた長編映画『君とボクの虹色の世界』で一躍脚光を浴び、小説『いちばんここに似合う人』も高い評価を受けるなど、映画監督、パフォーマンスアーティスト、作家としても活躍しているミランダ・ジュライ。今回紹介する『あなたを選んでくれるもの』は日本でも公開された彼女の映画第二作『ザ・フューチャー』を制作中に生まれた、写真も豊富な異色のインタビュー集。

 

次回作を期待され、脚本執筆に行き詰まっていた著者は、たまたま目にしたフリーペーパーの売買広告を出す人たちに興味を抱き、すぐさまコンタクトを取ってインタビューを敢行する。インタビューされるのは12人の一見普通の人々。自前の池を作りウシガエルを買っている高校生や、街から離れた場所で動物たちに囲まれて暮らす女性、他人のアルバムを買い集めるギリシャ系主婦、仮説住宅のような家に住むパンクな母親と歌う娘、子ども向けの本を売るGPSをつけられた男など、初対面の老若男女の家を訪ね即興演奏のようなインタビューが繰り広げられる。相手は名のある人でもなければ、派手な
仕掛けもないのに、そのやりとりの面白いこと。

 

登場する12人が淡々とそれぞれの生活やこれまでの人生をミランダに語っていく、その過程を一緒に追っているうちに、読者もまたその場にいるように彼らの話に耳を傾けることになる。SNSづけの毎日を送っている著者は言う。「自分が頭の中でこしらえたものでない、本物の人間と話がしたかった」。今の時代を生きる、つながるはずのなかった彼らとつながったことで、最後にもたらされる奇跡の時間。生身の人間と直に言葉を交わすその重み。

 

読み終えて「泣けない」という知人に今度会ったらこの本を薦めようと思った。
他人と関わることが億劫になってしまっている人、何かに煮詰まっている人、ちょっと心が乾いてしまっているなという人に読んでもらいたい。映画『ザ・フューチャー』も合わせて楽しんでほしい珠玉のインタビュー集です。

OMAR BOOKS 川端明美




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