『 料理歳時記 』季節の中で食べる、料理する。昔ながらの食の知恵を綴った歳時記。

料理歳時記
辰巳浜子・著 中央公論新社 ¥724(税別)/OMAR BOOKS                 

 

夏が終わりに近づいて、庭の柿の木が葉をよく落とすようになった。拾ってよく見てみると、葉の表面に茶のまだらが散っている。枝についたままの葉も似たようなものばかり。遠くからは青葉にように見えるので近づかないと分からない。今年がそうなのか、それとも毎年そうなのか分からない。これまで気にしたことがなかった、とはたと気付いた。

 

そんな折、手にしたのがこの『料理歳時記』。春、夏、秋、冬と季節を追いながらその時々の旬の材料を取り上げ、その食材を余す¥ところなくいかに美味しくいただくか、昔ながらの「食の知恵」が著者自身の生活を元に真摯に、かつ軽妙に語られる。

 

金柑、蕗、赤紫蘇、南瓜、オクラ、鮭、鯖、お餅等、ここで出てくるのは400種もの食材。歳時記という構成なので、どこから読んでもよく、とにかく読めば読むほどお腹がすく。食材の紹介、料理の作り方は写真や挿画はなく文章のみ。それだからか余計に想像がふくらみ、一つ一つの季節のエピソードにも著者の人柄が滲み出て読み物としても面白い。その中で、「柿の葉」について語る章がある。柿の葉ずしを作るときに使う柿の葉。同じ葉でも、春と秋では違うという。

 

「春の葉は(略)熱を発して暖かくむせります。秋の葉はカサカサと落ち着いています。見た目は若葉のほうがやわらかそうに見えますが、さて、すしめしを包むとなると、反り返りちょっと手こずらせます。堅そうに見える照葉は意外にしなやかで、素直にいうことをきいてくれます。」

 

著者はよく見ている人だ(または感じとる人だ)。しかも自然、季節という大きなサイクルの中で「食べる」「料理する」ということを捉えている。だから日常の家庭料理を作るにしても生き生きとして大胆だ。

 

数ある料理本のうち、この本が長く読み継がれている理由は「経験」というのにつきると思った。あるいはそれを「生活」と言ってもいい。食生活というのもまた立派な文化なのだと教えてくれる良書。おすすめです。

 

OMAR BOOKS 川端明美

 


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