村上春樹・著 文藝春秋 ¥1574 (税別)/OMAR BOOKS
4月も半ばを過ぎて、春の浮かれた気配もそろそろ落ち着く頃。
忙しい季節が小休止に入るこの時期、タイミングよく届いた待望の、村上春樹さん9年ぶりの短編小説集を今回はご紹介します。
本書にはまえがきが付いていて、ここに収められている短編作品が生まれた背景や経緯などが綴られている。
—本書のモチーフはタイトルどおり「女のいない男たち」だ。(略)この言葉は僕の頭になぜかひっかかっていた。(略)この言葉をひとつの柱として、その柱を囲むようなかたちで、一連の短編小説を書いてみたいという気持ちになっていた。—/「まえがき」より
というように、思わずどきっとしてしまうようなタイトルが示すように6つの短編作品では様々な、女性に去られてしまったあるいは去られようとしている男性たちが登場する。
人が人にもたらす謎はあまりに不可解なもの。年を経れば経るほどそれは深まるばかり。人と関わるということがどういうことなのか。
たとえ理不尽なことでも、ただ淡々と、それぞれが折り合いをつけて受け入れていくしかない。そういう姿勢がどの作品にも見てとれる。そこに読者は安心を見出すのだろうと思う。諦念ではなく、希望として。
謎は明かされることはないにしても、自分にあまり関係のない誰かの言葉がその謎を解くヒントを与えることがある。または時間がその謎をとく糸口を与えてくれることもある。
普段から地に足をつける意味で、村上春樹さんの本を手に取ることがわりに多い。何故かな、と考えてみると彼の小説が自分の現在位置を確認させてくれる役割を果たしているからだというのに思い当たった。
これまで歩いてきた道、出会ってきた人たち、自身が言葉にしてきたこと、あるいは誰かに言われたことを、小説を読んでいるうちにいつのまにか自分に置き換えている。そこから俯瞰して今の私がいる位置を確認している、まるでグーグルマップのように。あるいは自由なタイムマシンみたいなもの。過去から現在、現在から過去へ。
この短編集を読み終えた後は、これから先進む道への見晴らしがいくらか良くなっているかもしれない、という予感を携えて今日もまたページを開く。
OMAR BOOKS 川端明美
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