『世界を見に行く。』カトマンドゥーのおばちゃんの笑顔に、家にいながらにして出逢える本

石川直樹・著 リトルモア ¥1,890/OMAR BOOKS
 
― 部屋に居ながらにして ―
  
旅人や冒険家の役割って何だろう?
 
大都市だけならず、誰かに頼まれたわけでもないのに辺境の地へも身の危険もかえりみず足を踏み入れる。
彼らのおかげで世界の果てのような、おそらく一生訪れることもないかもしれない場所でも目にすることが出来る。
 
今回紹介するこの本、一枚見始めると止まらない。
本という体裁を取りつつも、既存の枠に収まらないしかけが満載。
もともと写真家の著者が『ほぼ日刊イトイ新聞』で本作と同タイトルで連載していたエッセイに寄せたものがベースになっている。
 
まず形がいい。大きめのエアメイルの封筒の大きさと言ったら分かりやすいかも。
表紙カバーを取り外して広げると世界地図になっているところも粋。
裏側にもおまけのコラムがいっぱい。
そして中身の全ページの写真は切り離してポストカードとして使える。
なんと実用的。
しかも全部使い終えると豆本ができる!という
製本会社はきっと大変だったろうな、と思わずにはいられない凝った作り。
「物」としても楽しめる本。
 
眼下に広がる夜景の
に顔に布をまとったアラブ女性の佇む「シリア」の一枚や
全てが白く凍りついたような「グリーンランド」の一枚、
波の打ちつける海岸沿いに佇むウィスキー蒸留所の「アイラ島」の一枚。
昨年もトークイベントで県内を訪れるなど沖縄とも縁が多い著者。
宮古島の一枚もあります。
 
全部のページをめくり終えると遠くまで行って帰ってきたような、まさに旅の感覚を味わえる。
旅人や冒険家は自由でいいな、と思う人もいるかもしれない。
でも当然それだけじゃない。
リスクを代わりに引き受けて(時には命がけで)、思いがけないものを見せてくれる、
あるいは束の間現実を忘れさせてくれるマジシャンのような存在。
それが旅人や冒険家の役割なのかも。
 
自分の部屋に居ながらにして、珈琲を飲みながら彼らの作品のページをめくるだけで、カトマンドゥーのおばちゃんの笑顔に会えたりするんだものね。
 
この写真の風景はあの人に合うな、なんて考えるのも楽しい。
メールもいいけれど、たまには手書きのハガキを書いてみようという気にさせてくれる一冊。

OMAR BOOKS 川端明美




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