アラン・ベネット/著 市川恵里/訳 白水社 1995円/OMAR BOOKS
― 本は人をやわらかくする ―
ロイヤルウェディング、映画「英国王のスピーチ」、
何かと話題の英国王室。
そのイギリスの女王がもし読書にはまったら、
という意外な設定のこの本。
数年前に出版されるやいなや英米でベストセラーになった、
イギリスの人気脚本家アラン・ベネットによる作品で
「やんごとなき(=高貴な、特別な)読者」とは
女王エリザベス二世のこと。
物語は移動図書館でたまたま出会った赤毛の少年をガイド役に
読書の喜びに目覚めていくところから始まる。
設定が設定だけにお堅い話かと思いきや、全然!
ああ、王室ってこんな感じなんだろうなあ、
親近感を抱きながらお話としてもぐいぐい引き込まれる。
あとがきからふれるのは何ですが、
「知的でないこと」は
イギリスの上流階級では良いこととされているらしい。
本よりも狩猟や社交に励みなさい、ということなのかも。
そんな世界だから話の中でも
女王の側近たちは大半が本を読まない人たち。
なので、寝食忘れて没頭する勢いの女王の読書熱に周りは困惑して、
どうにかして本を読むことをやめさせようと策略するのだけれど、、、
といった感じでストーリーは進んでいく。
老年にさしかかった女王は
本と幸福な出会い方をしたのだと思う。
もう少し目覚めるのが早かったら…感も否めないけれど、
でも、仕事柄もあって私も言いたいのは
本を読むのに遅すぎることはない!ということ。
誰にでもふさわしいタイミングというものもあるし。
彼女がまず読書して初めに気付いたのは
「無名の人間になれる経験、分け隔てをしない共有できるもの。」
そう、本は誰にでも同じように開かれている。
また「本を読むことで人の心が分かり他人の身になってみることができる」。
つまり本を読むことは、人をやわらかくするということ。
この本は女王の言葉を借りて
「本を読むということ」
について優しく語ってくれる。
またこの作品のいいところは
読書初心者にも本好きにも両方が楽しめる点。
後者にとっては
「一冊の本は別の本へつながり、次々に扉が開いていく」
どこでもドア的なこととか、
デイヴィッド・ホックニーやカズオ・イシグロの名前が出てきたり、
「以前に読めないと思っていた本が、他の本を読んでいるうちに読めるようになる―読書にも一種の筋肉が必要」
といった、分かる分かる、といった感覚が楽しい。
そして魅力的な登場人物たち。
ゲイの本ばかり読む傾向にある少年、
引退してから身なりに構わず、
近づく人は息を止めずにいられない臭いを放つ元執事、
まるで知性のない首相などなど・・・が、
話を面白くしているのも確か。
また、表紙は女性の横顔を真ん中に
金箔でかたどった粋な装丁なのもおすすめ。
本を読む人は圧倒的に少ない、というのは事実。
でも読んでみると案外面白いのにと、
本好きの小さな抵抗の本でもあるのです。
OMAR BOOKS 川端明美
OMAR BOOKS(オマーブックス)
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