アルベルト城間・仲間功 二人展ミュージシャンと陶芸家のコラボレーション。チャレンジするワクワクと楽しさを。

アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
シンプルでありながら力強い線で描かれたギター。
伝統柄とは異なるモチーフが印象的だが、沖縄のやちむんの雰囲気もしっかりと備えている。
 
陶芸家の仲間功(いさお)さんが制作したうつわに、アルベルト城間さんが絵付けをした焼き物が並んだ二人展。
ミュージシャンと陶芸家のコラボレーションという画期的な企画に、初日から大勢の人が会場に訪れた。
 
二人展開催に至ったいきさつや制作活動について、お二人に話を伺った。
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
– – – 「しっかりとクラシック」「線の力強さが面白い」。それぞれの作品に抱いていた感想。 
 
アルベルト:仲間さんの先生である糸数ホルヘさんは僕と同じ日系ペルー三世で、彼は結構モダンな作品を作る方なんですよ。でも仲間さんはお若いのにクラシックな、古典的なやちむんをしっかり作っている人だな〜という印象がありましたね。
 
仲間:僕がアルベルトさんの作品を初めてみたのは、沖展で入賞したグラフィック作品「謝恩」です。アルベルトさんが絵を描かれているという話は伺ってはいたのですが、どんな絵を描いているかは知らなくて。でも、結構ストイックに描いているという噂は…。
 
アルベルト:んんっ?!(笑)
 
仲間:そう、噂は聞いていました(笑)。でも、ストイックなアルベルトさんというのが普段の感じからは想像ができなくて。
 
アルベルト:そうそう。僕はね、静か〜に描くんですよ。音楽かけたり、鼻歌を歌いながら「ふふふ〜ん」という感じでは描かないんです。すべての音を消して、息を殺すような感じで描くんです。確かに、僕の普段の姿からは想像できないと思いますね。
 
仲間:最初に「謝恩」を見たとき、僕の中ではしっくりきましたね。原色が多く使われていて、すごく鮮やかな絵。「こんな色彩を使うのか、なるほど南米の方でもあるし」と納得したのを覚えています。
また、線の力強さも非常に面白いと思いましたね。
 
アルベルト:僕も、仲間さんが描く力強い線にひかれていました。特に、彼の唐草はいつもいいなーと思っていたんです。沖縄のやちむんの伝統柄ですから一般的にもよく見かけますが、彼の描く線は勢いがあって独特なんですよ。
 
僕は昔から絵を書くのが好きだったんですが、ゆっくりゆっくりと描くタイプなので、一回勝負の線というのがなかなか描けないんですね。焼き物って一旦描いてしまったら消せないから、書道みたいに一気に描いてしまわないといけない。だから、「こういう線はどうやったら描けるんだろう?」といつも思っていましたね。
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
– – – 新たなチャレンジ。沖縄の土で制作可能な最大サイズの焼き物も。
 
仲間:アルベルトさんはね、制作中全然休まないんですよ、ずっとやり続ける。
 
アルベルト:それはね、楽しかったからなんですよ、実は。
 
仲間:アルベルトさんが休まないもんだから、僕はもうどうしようかと思って…。僕らが先に参ってしまいそうで。
 
アルベルト:早く帰って欲しいと思っていたでしょ?!(笑)「この人、まだいる!」って。
 
仲間:(笑)。でも集中して仕事をする方だから、時間はそんなに長くはなかったですね。長くても一日5〜6時間。アルベルトさんは潔いんですよ、描く線が。決めたらもう迷いがなくて。傍で見ていてもとても気持ちのいい仕事でした
 
アルベルト:本当ですか? やっぱり大事なのは思い込みですね。「何でもできるんだ!」と(笑)。
 
仲間:僕はアルベルトさんに感謝しています。自分以外の人に絵付けをしてもらうという新しい試みだけでなく、しばらく取り組んでいなかった大きい作品を作る機会をいただいたので。
今回、沖縄の土で作れる限界サイズまでチャレンジしました。ここまでのサイズのものはなかなか作らないですね。焼きも難しいですから。

サイズに関わらず、焼き物はどうしても作り損じというのが出てしまい、全部あがることはないんです。だから、すごく期待していたものが割れちゃうこともあるんですね。
 
アルベルト:焼き物は生き物ですからね、天候にも左右されるし、いろんなことに影響を受けるから。すべての条件がそろっていないと無事に焼き上がらない。
 
仲間:窯から出るまではどんな形で出てくるかも完全には把握できません。もちろん予測はできるのですが、想像以上に良く上がることも。
今回は、焼く前の感じからけっこうワイルドな作風で仕上がるかと思っていたのが、窯から出してみると優しく仕上がっているものが多かった気がします。柔らかさがあるというか。
やっぱり人間性が出るんですよね、作ったひとの気持ちがそのまま焼き物に表れる。アルベルトさんはすごく優しいですから。
…というわけで、今回は僕の人間性は押さえて作りました(笑)。
 
アルベルト:(笑)。いやいや、仲間さんはいつもこんな感じですよ、すごく優しい人。
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
– – – 「苦しい時期を絵が救ってくれた」。高校時代の陶芸部、幼少時のクレヨン画。アート活動の原点と今。
 
仲間:僕も最初は絵を描いていたんです。美術が好きで、昔からデッサンしたりしてましたね。
高校時代、先生が陶芸の設備を整えてくれたことをきっかけに、絵から焼き物に転向したんです。僕の為にというのではなく、多分先生がやりたかったんじゃないかな?(笑) 今考えても非常に贅沢な設備をを作ってくださって。
 
もともと焼き物にも興味がありましたね。原因はやっぱり土地柄でしょうか。僕は焼き物が盛んな読谷で生まれ育ち、同郷には金城次郎さんという陶芸の人間国宝もいらっしゃって、同級生には金城さんのお孫さんも何名もいましたから。生まれ育った環境の影響は少なからずあったと思います。
 
でも、陶芸自体が身近というわけではなかったんですね。その先生が教えてくださるやちむんがとても楽しくてのめりこんだんです。それがそのまま仕事になっちゃった、という。
高校時代に陶芸に出逢い、そのままずっと現在まで走ってきたという感じですね。
 
アルベルト:僕は、母がデザイナーをしていたということもあって、小さい頃からクレヨンを持って絵を描いていましたね。本当にいつも描いてましたよ、好きだったんですね。
 
でも、大人になってからはずっと描いてなくて。二年くらい前からですね、また描き始めたのは。
きっかけは、東京の六本木にあるギャラリーで行われていた展示を見に行ったこと。音楽と絵のコラボだったんですが、見ていたら作家さんに声をかけられて。
「アルベルトさんは絵を描かれますか?」
「まあ、好きなんですけど…」
「じゃあこっちでちょっとやってみませんか?」
という感じで。
そう言われたときになんとなく、「できるかもしれない…」と。やっぱ、思い込み大事ですよねー(笑)。
その時、本当に久しぶりに絵を描きましたね。
 
なんで絵を描く気持ちになったのかというと…苦しかったのかもしれません。
当時はあまりにも大変な時期でしたから…。
 
描いてみると、すごく助けられた部分がありましたね、絵に。
描くことに集中できたことが救いだったのかもしれません。

音をすべて消して描くというスタイルも、そういうことに関係しているのかもしれませんね。
そう考えると、音楽からは得られない力というのが絵にはあるのかもしれません。 

僕にとって絵を描くことと音楽とでは、根本的には違わないように感じます。自分の中で楽しいと感じることであればどんなに大変なことでもやり遂げられると思うし、音符を並べるのと色を重ねていくのはそんなに違わない気がするんです。
 
でも、その時期絵を描くことで救われたということは、音楽と絵は表現としてどこかで似ていて、また違うところもあるのかもしれませんね。
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
– – – お母さんの手料理を食べながら。アットホームな制作現場。
 
アルベルト:今回はでも、普段と比べるととても楽しく制作できましたね。それはやっぱり仲間さんの工房の雰囲気のおかげかな。一人黙々と描くというんじゃなくて、みんなでやってるという感じや、お母さんがたまにのぞきに来てくれたりとかね、とてもアットホームで、お母さんが作ってくれるご飯もすごくおいしくてね。
あまりに楽しいもんだから、たまに「…ん?ちょっと無責任かな?」と思いながら(笑)。
仲間さんが作った大切な陶器を眺めながら「ん〜、本当に僕が描いていいのかな〜。…でも、描いちゃおうかな!」みたいな(笑)。
 
でも考えてみたら、これは僕を信頼して描かせてくれた仲間さんの存在のおかげだね。
…といっても本当のところは「この人にまかせて大丈夫かな〜?」と思っていたかもしれないけどね!(笑)
 
仲間:いやいや(笑)。
アルベルトさんはとても集中して制作にあたるんですよ。また、体力もある! 逆に僕が伸びそうになってましたから(笑)。
制作自体が急ピッチだったんですね。実際に筆を持ったのが10月末。そこから強行軍で作業を進めて。
 
アルベルト:そうだね、短期間でやりましたよね。
最初はね、ペインティングも仲間さんにお願いするつもりだったんです。だってまさか、本当に描かせていただけるとは思っていなかったんですよ。仲間さんがひとつひとつ大切に作った焼き物ですから、それに僕が筆を入れるなんて、と。だけど…いつの間にか自分で描いていたという(笑)。
だから、思い込みって大事ですよね〜!
「もしかしたら描けるかもしれない…。じゃ、ちょっと貸して〜」って(笑)。
 
グラフィックを描いたとき、何を描こうかな?と考えて、僕はギターしか描けないんじゃないかと思ったんです。ギターなら描ける自信があったし、モチーフとしても面白いと思った。シンプルだけれど曲線が美しいし、素敵なデザインができるんじゃないかなーと。
だから、同じように焼き物にギターを描いても面白いんじゃないかと思ったんですね。やちむんに描かれる魚の代わりに。普通の向きと反対の向きのギターをそれぞれ描いたら、ギターが泳いでいる感じで面白いかなーと。
 
陶器に描くというか…削るんだよね。自分にとっては初めてのことなので、最初は簡単に触れないという感じがしたんです。だから仲間さんにお願いしようと。
でもまあ、いつのまにか僕が描くことになっていたというか(笑)。
 
実際に描いてみると、描くのと削るのとではそんなに違わないんだなと思いました。でも一旦削ったら消せないですから、思った通りに迷わずにやらないといけない。だから勇気がいるんですね。
あとは多少の思い込み(笑)。自分も描けるんだ!っていうね。
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
初日は仲間さんの誕生日でもあり、アルベルトさんからのサプライズで歌とプレゼントが贈られ、会場は大きな拍手で包まれた。
 

– – – きっかけは「なんとなく」。二人展開催のいきさつ。 
 
アルベルト:きっかけは…何だったかな?仲間さんのところに遊びに行ったんだよね。「ちょっとトイレ貸して〜」という話じゃなかった?(笑)
 
仲間:アルベルトさんが何度か事務所の方に来てくださって、話しているうちに「一緒に何か作れたらいいね」と。
アルベルトさんはもともと読谷に住んでいらっしゃいましたから、その時から知り合いだったんです。僕の焼き物の恩師がアルベルトさんと同じ日系ペルー人の糸数ホルヘさんだったということもあって、僕が糸数先生の工房で学んでいた頃から知っています。17〜8年ほど前からですね。
 
アルベルト:えっ!18年? そんなになる?…うわ〜っ。
二人展の話しは…本当になんとなく(笑)。どちらから、というのはなかったですね。
 
仲間:急激に話が進んだのは今年の1月でしたよね。それで、具体的に作り始めたのが10月末から。
 
アルベルト:温めて温めて、一挙に!という感じでしたね。
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
 
– – – 「沖縄はこのままでは終わらない」。作品から感じてほしい想い。
 
アルベルト:今回は制作していてすごく楽しかったので、見てくださる方にもその楽しさや、わくわくする気持ちが伝わったらいいな。
 
音楽の仕事でもそうだけど、僕は、沖縄にはもっと可能性があると思うんですね。沖縄はこのままじゃ終わらない!というのがよくわかるんです。そういう想いが音とは違うかたちで伝わるといいなと思いますね。前進していくこの島において、文化が進化していく姿の一つであればいいなと。
 
また、「私も何かやってみたいな」と感じていただけたら嬉しいな。焼き物に限らずね。色んなことにチャレンジすることはとても大事、自分を成長させてくれるからね。それは、今回の制作を通じて自分たちが感じたことでもあります。
 
僕はもともと焼き物を買うのも触るのも好きなんだけど、まさか自分でつくるとは思っていなかったから。なんかすごく不思議なんだよね。
 
今回は仲間さんに、そして仲間ファミリーみんなに感謝して、また本業の音楽のほうもこの気持ちをぶつけてやっていきたいですね。
 
仲間:アルベルトさんと一緒に制作することで「こんなこともできるんだ」と色々な発見もありました。ミュージシャンの方が陶芸家の道具を使って作品を作るという企画自体珍しい気がするし、やっていてもすごく楽しかったんです。
また、今回の企画がきっかけで僕ら以外にもこういうことをやる方が出てきてくれるかもしれない。もしそうなったら面白いし、僕らにとっても励みになりますね。
 
 
– – – また、二人展をやりたいですか?
 
アルベルト:それはどうでしょう。…もう、いいよね? いやいや、そうじゃなくて(笑)。機会があったらぜひまたやりたいですね。もう、すごく楽しかった!お互い時間さえあればね。
 
仲間:そうですね。あと一ヶ月もあれば色んな表現がもっとできたんじゃないかなーと思ったりもしますが、日々の仕事がまた別にありますから(笑)。時間があればぜひやりたいですね。
 
アルベルト:そして皆さんからのリクエストがあればね。今回は一点ものが多いんですよね。そして、柄はギターが多い。…次は、ギターばっかりじゃだめだね!(笑)。
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
「一番好きな作品の前で写真を撮らせてください」とお願いすると、仲間さんは迷いなくアルベルトさんのグラフィック作品「謝恩」の前に立った。
 
アルベルト城間 仲間功 二人展 guitara y cebada
「ちょっと意外かもしれないけれど、僕はこのシンプルな作品も気に入っています」
 
二人並んだ写真を撮影する際、カメラのファインダー越しに見えた二人の笑顔があまりに似ていたので、おもわず兄弟のようですねという言葉が口をついて出た。
 
「イサオのお母さんが作ったミートスパゲティを、一緒に食べたからね!」
 
普段は仲間さんのことを「イサオ」と呼ぶアルベルトさんは、顔をさらにほころばせながらそう言い、仲間さんもその隣りで微笑んでいた。
 
同じものを食べ、同じものを見たり聞いたりしていると、顔や雰囲気が似てくると聞く。「似た者夫婦」というのはそれが所以だと。
ともに工房で制作にあたり、同じ釜の飯を食べ、ひとつのことに向かって心と力を合わせていれば、似てくるのは当然なのかもしれない。
 
二人が似ているのは、見た目の雰囲気ばかりではない。

奇をてらうことなく、心に素直に従った、実直な制作活動とその作品。
自分のことを実際よりも大きく見せようとか、人よりも優位に立とうとすることなど絶対にしない、誠実で朴訥とした性格。
自分のことを語るよりも、相手の素晴らしさを説明するときのほうがずっと饒舌になる、謙虚な姿勢。温和で柔らかな物腰。
 
約束や言葉を交わさずとも、なんとなく、でもまっすぐに個展の開催へ向けて足を踏み出しはじめたということが、お二人の話を伺ったあとではよく理解できた。
きっと、ごく自然な成り行きだったのだろう。
 
 
初日の会場には仲間さんのお母さんの姿もあった。
オープニングパーティーではアルベルトさんの歌も披露されたが、舞台に立つアルベルトさんを見るお母さんのまなざしは、我が子の姿を見つめていたときと寸分変わらぬ優しさに満ちていた。
 
その姿から、私は工房での制作風景を想像せずにはいられなかった。
楽しげに制作している仲間さんとアルベルトさん、二人を暖かく見守りながら台所に向かうお母さんの様子を。
 
どんなものであっても、生み出した人の人柄がその作品に反映されるように、生み出されたときの環境も作品の雰囲気を左右するのかもしれない。
 
会場に並んだ作品を前にして、私は目を細めずにはいられなかった。
どのうつわも、愛の溢れる環境で二人が心から楽しんで制作したことが、あなたも一目でわかるはずだ。
 

写真・文 中井 雅代

 
guitarra
 
2012年12月5日(水)~ 2013年1月7日(月)
11:30~22:00
@カフェ ユニゾン
宜野湾市新城2-39-8
MIX life-style 2F
(※2012年12月31日(月)~2013年1月3日(木)はお休みをいただきます。ご了承ください。)
入場無料
 

本展覧会開催に向けた、お二人のコメントです。