布で絵を描く「布絵」とはいかなるものか?
個展開催中は、毎日梅原さんご本人が画廊にいらっしゃるとのことで、お話を聞けると、緊張と期待でどきどきしながら行ってきました。
壺屋通りの近くにあるガーブドミンゴ、
決して目立つ場所にあるわけではないのに
お客さんがひっきりなしにやってくる賑やかな廊内。
個展会場である二階につづく階段脇の壁にも作品が飾られていた。
初めて見る「布絵」。
「布」という響きから私がなんとなく想像していたのは、柔らかく温かみのある親密な雰囲気。
しかし実際の作品は、
シンプルで非装飾的な背景に、凛と佇むように対象が描かれ、
想像していたよりもソリッドで、おもねる感じがない。
でも、冷たいとかクールとかいうのではなくて。
見る側に語りかけて来るというよりは、
見る側がアクセスしてくるのを、ただひっそりと静かに待っているような、
そんな印象を受けた。
梅原さんは、そんな作品から受ける印象を体現したようなひと。
質問すると、どんなことにも真摯かつ丁寧に、優しく答えてくださり、
アーティストご本人にインタビューということで緊張してやって来たという私に、
「アーティストやアートに対して多くの人が感じている『敷居の高さ』をできるだけ下げようと努めている」という梅原さん。
実際、お話するとすぐにわかる、人好きする穏やかな人柄。
「アーティスト=人を寄せ付けず、常に自分の内面と向き合っている厳しい雰囲気の人」
という漠然とした思い込みがあったが、
そんな雰囲気は微塵も感じさせない大らかな人。
また、アートをより身近に感じてもらう為、
「風が通り、光を感じるような場所を選んで展示しています」
とのこと。
とある都道府県の某デパートに依頼されて展示会を開いた時、
風も光も入ってこない閉鎖された空間に作品を並べ
「何か、違う。ここじゃない。」
と違和感を覚えた梅原さん。
知り合いに相談、広大な土地に建つペンションを紹介してもらい、
ご自身で直談判に赴き、
リビングに展示してもらうようになったこともあるんだとか。
「よそゆき」な気持ちで、ちょっと身構えて接するのではなく、
ごく身近に、 まさに生活の一部としてアートを感じてもらいたいという気持ちから展示する会場にはとてもこだわっているという。
沖縄で展示を始め、移住するに至った経緯も実に面白かったのですが、
それは是非、ご自身で梅原さんに尋ねてみてください。
鳥、花、空、山、月などの「自然」を描いた作品がならぶ中に、
小さな精密機械の一部を取り出したような歯車やアームなどを描いた作品も。
歯科医だった祖母の仕事場に並んでいた、
現代の機械と比べるとまだ素朴で不器用だった歯科医院の機械、
梅原さんが機械から受け取るイメージは、
そんな過去の記憶に基づいた憧憬のようなものだそう。
その憧憬が反映された作品が、今回の個展にはいくつか並んでいる。
今回展示されている作品もインスパイアされたというヨーロッパでの旅の途中、
現代アートを展示している美術館で、
中学生くらいの生徒達を座らせ、
アートについてレクチャーしている教師を見て、
日本との違いを痛感したという梅原さん。
なるほど日本では、
現代アートについて語るべき言葉を持っている教師が
それほどいるとも思えないし、
文部省が現代アートについて学ぶ時間を
十分に生徒に与えているとも思えない。
「日本では、未だにアートは『ファッション』として捉えられているふしがあるんですよね」
という梅原さんの言葉に、ハッとさせられた。
私も、どこかでアートとファッションを似たような位置にカテゴライズしていなかったか。
おしゃれで粋で、私達の目を楽しませてくれる、視覚的に「カッコいい」ものだと、どこかで思っていなかったか。
アートとはもっと内面的なもの。
人の心に作用するもの。
それが無くても食べて行ける、死ぬ事は無い、でも、
価値観を劇的に変えたり、辛い時に支えになったり、多くの人を感動させたりするもの。
アートとは何か、そんな基本的なことを、ちゃんと考え直してみようと思った。
作品を創っていく過程や時間、思考や躊躇といった全ても、
作品の一部として受け止め、感じてほしいという梅原さん。
作り手の思考や意図を汲み取るだけでなく、見る側も自分なりの角度と思考に従って作品にアクセスすることで、
作り手と見る側の双方向からのアプローチが、色々な一点で結実し得るため、
一つの作品が様々な意味を、メッセージを持つ事になるのだろう。
そして、詩人でもある梅原さんのつける作品名は、
少しだけ暗示性を感じる、
でも押し付けがましいところのない言葉。
作品名は、作品が完成してから最後につけるとのこと。
作品をそのまま表現したような単純な名前では意味が無い、
かといって「無題」も好みではない。
見る側が作品から何かを感じたとき、
あと一歩、さらに踏み込んで、
新たな別の何かを作品から感じてもらうための、
優しい後押しとなるような、
そんな言葉を題名として、紡いでいるそう。
絵画という2Dの世界ではなく、
立体としての3D、
そしてそこに時間の要素を加えた4Dとして捉えることの面白さ、
その無限の可能性。
梅原さんの作品には、それがあります。
ガーブドミンゴでの展示が終わるとすぐに、
那覇市内で立体作品の展示会が始まります。
梅原さんの発したメッセージを、
是非ご自分なりのアクセスでインプットしてみてください。
絵画が持つ新たな可能性に触れることができるはずです。
profile
梅原 龍(うめはら りゅう)
1967年富山県富山市生まれ。沖縄県南城市玉城字玉城在住。
東京でヨーロッパアンティーク家具の修理工房を経てインテリアショップ勤務。
1997年より作家活動を開始。以来、各地で個展活動を続ける。 世界中を旅して受けたインスピレーションやライフワークにおいて感じたことを
それぞれの物語を紡ぐように、古布を使った布絵や、
アンティークの部品や和紙なども使ったコラージュ的な作品を創作している。
1997年、画集「月ノ人」を発表、2004年からカレンダーの発行開始。
他、雑誌出版物などに挿絵、詩、エッセイなど掲載。
GARB DOMINGO
沖縄県那覇市壺屋1-6-3
TEL 098-988-0244
9:30~13:00 /15:00~19:00
月、水曜日定休
詳細:GARB DOMINGOホームページ