まめやふわり豆香る、ゆし豆腐とジーマーミのオリジナル料理。

まめや

 

「うちのゆし豆腐そばのスープはね、だし汁を使ってないんだよ」

 

ゆし豆腐そばを含め、一般的な沖縄そばのスープは
豚骨やカツオ節、昆布などのだし汁ありきだと思っていた。

 

 

さらに店主の内原彰さんは
「ゆし豆腐を作ったときの煮汁をそのまま使っているんだ。そばを作るとき、調味料は一切追加していません」と言葉を続ける。

 

淡白な味を想像しつつひと口飲んだとき、まろやかな塩味と深いコクがじわ〜っと広がり、驚きを隠せなかった。

 

大豆の濃厚な風味が特長のやわらかなゆし豆腐はもちろん、
程よい塩加減でさっぱりと仕上げたスーチカーも旨味に溢れている。
加えて大量のネギ。

 

「ネギでもなんでも、ちょろっと使うのは好きじゃないんだ。
素材の香りも食感もしっかり楽しんでいただきたいからね」

 

まめや

 

揚げ出しジーマーミ豆腐も見逃してはならない名物。

 

ジーマーミ豆腐のもちもち、とろとろとした食感が際立ち、ピーナッツの濃厚な味わいもまた格別。
サクサクの衣とわさびも、おいしさに拍車をかける。

 

「以前お客さんに『上質なふぐの白子みたい』って褒められたことがあるんだ。だからわさびをつけているんだよ」
そう言って彰さんは顔をほころばせる。

 

まめや

 

手作り豆腐料理が人気を集める「まめや」は、
豆腐作りに一本気で、おしゃべり好きな彰さんと、ひと手間かけた料理が得意な妻の美千代さんが切り盛りする小さな店だ。

 

まだ日が昇らない時刻。
彰さんは水につけてふやかしておいた大豆をミキサーにかけたり、にがりを作ったりと、豆腐作りの仕込みを開始。

 

生しぼり豆乳が入った鍋に火をかけたとたん、
先ほどまで冗談ばかり言っていた彰さんは職人の顔を見せる。

 

「ゆし豆腐の原料となる大豆は、豆腐作りに適した佐賀の大豆を使っています。
にがりはぬちまーすとアルカリ還元水を使っていて、ほかの島マースも少し加えていますね」

 

火をつけて5分おきに2回ずつ撹拌して、沸騰したら差し水をする。

 

「うちはね、アクがたまってきたらその都度取り除きます。
素材本来の味をしっかり出したいし、安心できるものを提供したいという思いが強いんです。
ぬちまーすを選んだのもそのため。
豆腐を作り始めた頃は、渡嘉敷島の海水からにがりを作っていたんだけど、水質汚染について知ってね。
問題ないとは聞いたが、私は自分が食べたくないものをお客さんに出すのは絶対嫌だったんだ。解決策を探っているとき、ぬちまーすのことをテレビで観て、これしかない! と思ったよ。
きれいな海水から作られた、天然ミネラルだけの塩が身体に悪いわけがないさ」

 

まめや

 

彰さんはその日の沸き具合を見極めて、豆乳ににがりを打つ(加える)。
自分の理想の味となるタイミングをつかめるまでは、失敗につぐ失敗を重ねていたという。

 

まめや

 

まめや

 

まめや

 

にがりを打った直後、ふわふわとした固まりが出現。みるみるうちにゆし豆腐に。
豆腐は鍋の中央に集まりだし、汁の色は白色から薄く透明な黄色へと変化。
あっという間の展開に興奮が止まらない。

 

「うちの孫にも見せたら感動してね。僕も豆腐屋になるっていうんだよ(笑)。
うちの豆腐は食品添加物や化学調味料を使っていません。
煮汁がこんな黄色がかった色をしているでしょ。これは昔ながらの豆腐作りをしているからこそ出せる色だといいます。
アクもきちんと取っているからだと思いますが、以前調べてもらったところ、うちのは一週間近く日持ちするんですよ」

 

まめや
アクを取ったら蓋をしてしばらく置いておく。

 

まめや
几帳面な内原さんは、差し水をした時間やにがりを打った時間を必ずメモし、次の手順までの時間をしっかり計測する。

 

まめや
蓋をして15分後のゆし豆腐

 

まめや

 

1人分ずつビニール袋に分け、ストックしておく。

 

「厨房が手狭だから開店前に鍋をきちんとしまっておきたいし、適当によそって出したくないから前もって小分けしています」

 

まめや

 

「そもそも、私がゆし豆腐を作るようになったのは、1997年に故郷の渡嘉敷島で両親の沖縄そばの店を継いだから。
自分が店をやるなら、ゆし豆腐そばも提供しようと思いました。昔からの好物だし、他にはないものを作ってみたかった。

 

それで那覇の豆腐屋さんに協力してもらって、できたてのゆし豆腐を島に冷蔵配送してもらうことにしたんです。でもその日のうちに渡嘉敷島に到着しても、夕方になる頃には傷んでしまうんですよ。

 

作り方なんて全く分からなかったけど、これはもう自分でやるしかないと思ってね。親戚に教えてもらったり、そのお世話になっていた豆腐屋さんで製造工程を一度見させてもらったりして、手探りで作り始めたんです」

 

 

美千代さんと共に試行錯誤を重ね、苦心の末に完成したゆし豆腐そばとジーマーミ豆腐は瞬く間に話題に。島に訪れた観光客やダイバーで長蛇の列ができるようになり、翌年には店舗の規模を大きくするために移転したという。

 

その後、東京や埼玉に出向いて店を切り盛りした後、2010年に沖縄へ戻り、ここ首里で再出発を果たした。

 

 

話の合間に「私は頑固者なんです」と、時折口にする彰さんを
長年にわたって支え続けているのが美千代さんだ。

 

調理をメインに担当する美千代さんは、健康に配慮したオリジナルメニューも次々と考案している。

 

なかでも、女性に特に人気を集めているというのが
雲南百薬とマンジェリコンの葉を使ったサラダ。

 

まめや

 

マンジェリコン
店の周りに植えてある、マンジェリコンと雲南百薬。

 

「渡嘉敷にいるときに、夫の叔父から雲南百薬をもらって育てていたの。マンジェリコンもいっぱいあってね。でもこれ、そのまま食べるとものすごく苦いのよ。
熱を加えずに特徴をいかせないかなと思ってね、細かく刻んだら驚くくらい苦みが減ったの。
でも、この2種類だけでは味がもさっとしているし、歯触りも良くしたいと思ってダイコンをあわせたらすごく良くなったの。少しだけ苦みはあるけど、そこがまたおいしいのよ」

 

と美千代さん。

 

まめや
インゲン豆の黒胡麻和え。ほんのり甘い黒胡麻とシャキシャキのインゲンが見事にマッチ

 

まめや

 

二番絞りのおからで作った「まめや大人のプリン」

 

「ジーマーミーを作ったときに出るおからって、そのまま捨てられることが多いんだけど、妻はおからをもう一度絞ってプリンにしているんだよ。

 

プリンって普通カラメルソースをかけるでしょ。
でもうちはぬちまーすと一緒に出している。風味が際立っておいしいって好評だよ」

 

彰さんは結婚する前から、美千代さんの料理の大ファンだ。
チャンプルーも添加物、化学調味料不使用で、ポークの代わりに自家製スーチカーを使うようにしているという。

 

「妻は添加物をできるだけ使わないようにしているんです。
私はね、友人らと集まってお店に食べに行くようなときでも、ほとんど箸をつけないんです。あまりおいしいと感じないんだよ。
妻には『お金は払っているのにもったいない!』ってよく怒られるけどね(笑)。無添加の食事に舌が慣れているからでしょう。彼女の料理が一番ですよ」

 

まめや
醤油などの調味料も、こだわって厳選している。

 

冗談を言い合いながら明るく話す2人だが
彰さんは少し落ち着いた声で今後について話し始めた。

 

「私は今68歳ですが、豆腐づくりの後継者を育てたいんです。
こんな性格だし、自分の技術を教えるとなると非常に厳しくもなりますが、まめやの味を次の人に譲ることができればと思っています。

 

まずは気軽に食べにきてもらえると嬉しいですね。
できれば事前に電話してくれたほうがいいかな。
せっかく足を運んでいただいても、目当てのものがなかったら申し訳ないから」

 

 

彰さんはゆし豆腐を作るとき、 丹念に手を洗い、きちんと手順をふまえて進めていく。その実直で丁寧な仕事ぶりが印象的だった。

 

「道具もあきれるくらいしっかり洗うのよ」と美千代さんが言うと、「思い通りの味にならないと嫌なんだ」と彰さんは返す。

 

「私は自分がこうだと思ったら曲げない人間だし、人生いろいろありますが、こうしてこだわりをもって作ったものを、喜んで食べていただけることに誇りを持っています。それが一番良いことなんじゃないかと思いますね」

 

 

彰さんは自ら言うように、時に頑固に映ることがあるかもしれない。
だがそれは、できる限りのことをして、お客さんに気持ちよく過ごしてもらいたいという思いの表れのように感じる。

 

まめやは、渡嘉敷島で店を始めた頃からの常連も多い。
ここでごはんを食べることを目的に、
本土から日帰りで訪れるほどのファンもいる。
それは、ここでしか食べられないおいしい料理は言うまでもなく、素朴で家庭的な2人のもてなしによるところも大きいだろう。 
初めて店に訪れた人でも「おとうさん、おかあさん」と違和感なく声をかけられるほどに。

 

きちんとこちらを見て作ってくれた料理、
かけてくれた言葉は、
得がたい思い出として心に残るはずだから。

 

文・仲原綾子 写真・中井雅代

 

まめや
まめや
那覇市首里寒川町1-3
090-6116-7443
open 11:00~15:00、17:00~22:00 ※18:30以降は要予約
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