まるで地層の断面図のように、はっきりと分かれている。
「ラー油は、普通なら具材と油の2層のところがほとんどですが、うちのは3層なんです。間にフルーツ酵母の層を設けてるので」
ぴにおん 沖縄ライカム店の店長、金城拓磨さんが指し示すのは『スパイシー島のラー油』の、具材と油に挟まれた真ん中の部分だ。
「ラー油は具だくさんの方が美味しいですから、うちは島唐辛子とニンニクはもちろん、ゴマは2種類、黒糖、ウコン、ピーナッツなんかも入れてます。ただ、具を入れれば入れるほど、具に含まれて酸素も入ってくるんです。その酸素が触れることで、油がどんどん酸化しちゃうんですよ。でも、そこで人工的な保存料や酸化防止剤を使うのではなくって、石垣島のパパイヤやパイナップルから採れたフルーツ酵母の層を間に設けて、具材と油を分離しておくんです。使う時だけ、よく振って3層を混ぜ合わせる形ですね。こうすれば酸化も防げますし、味もフルーティでまろやかなんですよ」
舐めてみれば、初めはフルーツの甘み、後からピリッと辛さが主張。そして、差し出されたお茶を飲めば、あっさりと辛さは引いていく。この引き際の潔さこそ、油が良質な証拠。
「人間は喉のヒダヒダに辛さを感じる部分があるんですけど、サラッとした良い油だからこそ、辛さが飲み物と共にスッと流れてくれるんです。酸化した油だと、辛みが喉のヒダヒダにくっついたままになって、こうなるとヒーヒーして、他に何食べても味分からないとなってしまいます。普通はラー油って3ヶ月も経てば、油がねっとりしてくるんですが『スパイシー島のラー油』は約1年は酸化せず、味が落ちないんです。落ちないどころか、酵母を使うので風味が増すぐらい。僕たちはもう20年前からラー油を作り続けてますが、数年前のブームでラー油自体は全然珍しくなくなっちゃいましたよね。でも、添加物を使わずに劣化を防いで、こんなに甘みも辛さもあるラー油はちょっとないと思うんです」
『くうす味噌』(くうす=島唐辛子)にも、フルーツ酵母が使われている。このため、じか箸さえしなければ、賞味期限である一年間を過ぎても酵母の力で熟成が進み、カドがとれてまろやかな味わいに。熟成を楽しみに待つファンも多いという。
素材が持つ力を、そのまま活かしたい。それが、ぴにおんの想いだ。お店の棚には、そんな想いで作られたラー油やくうす味噌などの調味料やドレッシングの他、燻製やジャーキーなどもずらりと並ぶ。その数、ゆうに150種ほど。またこれまで手がけてきた商品は300種類にのぼるという。驚くのは、これら全てが添加物なしで作られているということ。
「お客さんからも『これ全部、無添加でやってるの?』『こんなのできるわけ?』とよく驚かれるんですけど、うちの商品は自然由来のものだけで作ってます。限りなく100%に近い形で無添加ですよ。原材料そのものの旨みを活かしきるというのが僕たちのやりたいことですし、他のお店にない個性にもなるのではないかなと。そのために、使うのはフルーツ酵母などの自然の成分だったり、あとは製造方法も独自なんですよ」
用いる素材だけでなく、作り方も。それは肉の持ち味を堪能できる『特選生ハム』からもうかがい知れる。
「うちの生ハムは塩を最小限にしか使わないので、肉の本来の旨みが分かると思います。ハム、しょっぱいもの多いですよね。あれは塩を使い過ぎて肉の旨み成分やミネラルが塩分に負けちゃってるんですよ。僕たちが、添加物は当然、塩をはじめ他の調味料をも使い過ぎずに済む理由は、水分の抜き方にあるんです。抜く水分をそれぞれの食材に合わせた最適な量…生ハムならこれだけの%、もずくなら、枝豆なら…というように1~100%まで本当に細かく調節してるんです。これによって原材料の表面を傷つけずに、芯の部分から水分を抜けるんですよ」
持ち味を損なわないための鍵は、食材に含まれる水分のコントロールにあった。
「生ハムって、とにかく腐らせないように寒冷地で塩をたっぷり使って、食材をしめてしめて塩漬けに作るイメージですよね。だから、石垣島みたいな高温多湿の土地はずっと生ハム作りには向いてない、あり得ないと言われてきたんです。そして、燻製作りには温燻法、熱燻法、冷燻法とあって、冷燻法が一番旨みを損なわないやり方と言われてますが、うちはその冷燻法からも、少し変えた製法なんですよ。簡単に言えば、素材をひたすらしめてしめて作るのではなくて、しめて緩めてしめてと交互にしながら水分を抜くんです。石垣島の暑い気候を逆に活かした、緩めるという過程を作ることで、食材の芯から水分を抜き、最大限の旨みと原材料の個性を凝縮できるんですよ。食材の表面はそのままですから保存が効くんです。人間の肌もケガしなければ消毒液とか何もつけなくていいじゃないですか。それと同じで、使う塩も最小限で済むし、原材料そのものの風味も損なわないんです」
それは突き詰めれば、こんな考えに行きつく。
「牛は牛、豚は豚、野菜は野菜であるべしというのが、僕たちの考えです。今の技術は進んでますから、極端な話、牛から豚の匂いをさせることも可能といえば可能なんですよ。化学調味料や香料、着色料を使えば、どんな風にもできますし、それで美味しく作ってるところももちろんあると思います。でも、それでは素材が持ってる個性が死んでしまうと僕たちは思うんです。あるがままの味を尊重したいんですよ」
ものづくりの自信が、商品を勧める姿勢にも表れる。ぴにおんでは、なんと棚に並ぶ、全ての商品を試すことができるのだ。ぴにおんといえば、試食の載ったトレイを持って店頭に立つ金城さんやスタッフの姿が印象的だと挙げる人も多い。
「やっぱり実際食べてみないことには、違いが分からないですよね。たまに『こんなにもらっちゃっていいの?』『お店、大丈夫ねー?』ってお客さんに心配されるんですけど(笑)、僕たちとしてもどんどん食べてみてほしいです。なんとなく買ったけどイメージと違うとなると、自宅でも使いづらいですよね。プレゼントやおみやげも、もらった側は『ありがとう、美味しかった』としか言えないじゃないですか、たとえ気に入ってなくても。そういうガッカリをなくしたいんですよ。全てを試食できるというのは、味に自信があるからこそ、食品メーカーの直営店だからこそできることです。実は、お茶だけでなくコーヒー、ワインの用意もあります。ワインは運転しない方限定ですが、生ハムや魚の燻製ではワインにこそ合うものも多いので、ぜひ試してください」
試食の大盤振る舞いからも、真摯さが透けて見える。そんなぴにおんの原点は、36年前までさかのぼる。
「1978年から、石垣島で食品メーカーとしてやってきました。ビーフジャーキーにはじまり、燻製や調味料、ドレッシングなどを作り続けるなかで、やっぱりお客さんと直に触れ合いたいとなって、直営店を開いたんです。石垣島の店は8年前、沖縄本島の店は5年前からになりますね。お客さんから『おみやげ用に「くうす味噌」は小さいサイズもほしいんだけど…』とか生の声が聞けるのもいいですし、僕たちからも、『「スパイシー島のラー油」は力入れて、ちょっと長く振ってくださいね』とか、ちゃんとお伝えできるのもいいです」
そして、2015年春。ぴにおんは国際通り店から、沖縄ライカム店へ拠点を移し、また新たなファンを増やしている。
「移転したことで、また新しい出会いがたくさんありました。もちろん今までのお客さん…スーパーみたいに日常使いされる方や、毎回、旅行のついでに寄ってくださる内地の常連さんも変わらず来てくださいます。一番嬉しいのは、『「くうす味噌」はナーベラーと炒めるのにも合うよ!』とか、お客さんから使い方を教えてもらえることですね。僕も料理の学校出てるので、料理は一通りするんですけど、『そんな工夫があるのか!』と驚くこともありますし、楽しんでもらえてるんだなって。うちのオーナーは、とにかくパワフルなんです。常に『この商品はこんなしようかな』『次はこういうのも作りたい』が湧き出てくる人で、新しいものも楽しみにしてほしいですし、今後も僕たちは無添加のもので、素材の持ち味を伝えていきたいです」
ラー油も生ハムも、決して初めて味わうものではない。だが口にすれば、素材がもたらす瑞々しさにすぐ、これまでのものとは違うと気づく。自然な味わいを噛みしめる場所、それがぴにおんだ。
本文/石黒万祐子(編集部)
写真/金城夕奈(編集部)
ぴにおん ダイレクトショップ 沖縄ライカム店
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