SPICE CURRY PALMYRA(スパイスカレーパルミラ)/音を重ね、曲をつなげる感覚で、素材をミックス。音楽のように自由で楽しいスパイスカレー。

スパイスカレーパルミラ

カレーは5種類から好きな2種類を選べるあいがけで提供。右がポークキーマカレーで、左が日替わりの野菜カレー。

 

「うちのポークキーマカレーには裏テーマがあって、沖縄そばをカレーに置き換えてみたらどうなんだろうってところから作っているんです」

 

沖縄市のパルミラ通りにある、あいがけカレーの店「パルミラ」店主の高木雄二さんのその言葉にわくわくした。目の前に置かれたカレーの印象が大きく変わったからだ。

 

口にした瞬間、ふくらむように広がる辛味と凝縮感のある旨味。ひき肉の弾力とグリーンピースのほっくりとした食感がいい。甘味と微かな酸味も感じる。胃袋を刺激するスパイシーで力強い香りは、やがて鼻に抜ける爽やかな香りへと変わっていった。

 

スパイスカレーパルミラ

 

高木さんは仕上げにコーレーグースをほんの数滴かけていた。時折感じた、キレのある辛味がそれだろう。刺激的なアクセントとなり、味を引き締めていた。カレー自体に沖縄そばっぽさは全くないが、次々と変化する味と香りの奥に、食べ慣れた懐かしいおいしさを微かに感じるのだ。

 

「沖縄そばのスープってカツオだしと豚骨をよく使いますよね。この2つって相性がいいから、カレーで表現してみようって思ったんです。とは言っても、豚骨ではなく豚ひき肉を使っているし、食べても気づかない程度の話なんですけどね」

 

遊び心を感じるメニューは他にもある。この日の日替わりメニューの坦々キーマもその一つ。

 

「先週出した、白ごまペーストを加えて作ったカレーが中華っぽくて良かったので、もっと突き詰めて担々麺に近づけてみようって思ったんです。山椒や豆板醤を入れたり、糸唐辛子を乗せたり、ネギ油を作って加えたりしています。うちのカレー、ベースがそれぞれ違うので仕込みにかなり時間がかかるんですけど、ついのめり込んじゃって」

 

他の料理からカレー作りのインスピレーションを受けるようになったのは、頭の中がカレーのことでいっぱいになっていたときに、麻婆豆腐がカレーに見えたのがきっかけだったという。

 

「麻婆豆腐の作り方をぼんやりと考えているうちに、スパイスを入れて煮込んだら、それはもうある意味カレーじゃないかって思ったんです(笑)」

 

スパイスカレーパルミラ

ヴィーガンラッシー。旬のフルーツを使った酵素シロップ、てんさい糖を加えて作っている。

 

他にもタコライスやミートソースのパスタなどをカレーにしていて、この裏テーマカレーがパルミラの最大の個性なのだと思いきや、看板メニューは店名を冠したパルミラクルというヴィーガンカレーだという。

 

食べ始めに感じるのはカレーらしさのある香りと辛さ。その中に同時に甘く、香ばしく、爽やかな香りも広がる。そして食べ進めるにつれ、五味がバランス良く調和していると感じる。でも、溢れんばかりに押し寄せるおいしさの正体が突き止められない。野菜のコクか、だしのうま味か、確かめながら味わっていたら、あっという間に半分くらいまで減ってしまった。シンプルな見た目に反して、なんとも奥行きのある不思議な味わいなのだ。

 

店を始める前から作り続けているというこのカレーについて「うちの4番バッターで、日々成長させていく存在」と話す高木さん。穏やかな口調ながら伝わってくるのは、並々ならぬ強い思いだ。

 

「上の子が3歳になった4年前に、植物性のうまみとコクを追究した、老若男女に愛されるカレーを作りたいと思ったんです。このカレーに関しては、参考にしたレシピや味もありません。基本的にスパイスカレーってまずスパイスを油で炒め、油に香りが移ったら具材を入れ、またスパイスを入れてというようにどんどん積み上げていく作り方をします。でもパルミラクルはベースを複数の部門に分けて作り、一気に一つにまとめているんです。部門にはスパイス、だし、調味料、具材などがあって、いずれもいろんな素材を組み合わせて調理をしています。さらにその日の温度や湿度によって配合のバランスを変えるなど、細かい改良を重ねています。僕が成長することで、味も少しずつ変わっていくのだと思います」

 

スパイスカレーパルミラ

チャイは牛乳か豆乳を選ぶことができる。インドで実際に味わった、スパイスががつんと効いたチャイと、日本の控えめで優しい味わいのチャイの中間あたりを目指しているそう。

 

高木さんのカレー全てに共通しているのは、さまざまな素材が重なって生まれる複雑なおいしさと後味の良さ。その味作りについて面白いたとえで聞かせてくれた。

 

「クラブカルチャーが大好きで、実はダンスミュージックが僕のカレー作りにとても影響を与えているんです。DJって、ターンテーブルとミキサーを操って、曲と曲をミックスしていくじゃないですか。ミキサーには低音、中音、高音の音量を操作するイコライザーというつまみがついていて、これを調節しながら曲と曲がつながるようにバランスをとっていくんですけど、スパイスの配合も同じだと思うんですよね。あくまでも僕の勝手な解釈ですが、クローブのようにどしっと重量感のあるスパイスもあれば、カルダモンのようにパンと華やかに抜けるように感じるスパイスもあるし、真ん中のベースを作るのに適したスパイスもある。今日の坦々キーマはだいぶダンスミュージック的な感じで、低音を効かせる感覚でクローブを多く使っています。でも低音が効きすぎると音が割れちゃう。つまり香りが強く出すぎちゃうので、バランスがすごく大事なんですけどね」

 

肉を使ったカレーに引けを取らない味に深みのあるヴィーガンカレー。2種のあいがけにしているのは、肉のカレーと一緒に、これらを食べてもらいたいからだという。

 

「僕は以前、ヴィーガンだった時期があって、ベジ料理を出すお店で修業させてもらったことがあるんです。でも、ヴィーガンを強く押したいわけじゃなくて、食の一つのジャンルとして好きなんですね。だから、お肉のカレーを選んだ人が、もう一つはヴィーガンにしてみようかなって感じで、組み合わせを楽しんでもらえたらいいなって思っています。基本的にはうちを選んできてくれた人みんなに、喜んでもらいたいんです。肉が好きな人、ヴィーガンの人、誰が来ても求められたものを用意できて、心まで満たしてもらえたらそれが一番幸せですから」

 

スパイスカレーパルミラ

杉材を使ったテーブル席。天然素材にこだわり、柿渋や蜜蝋を塗って仕上げている。

 

高木さんは茨城県出身。沖縄に生活の拠点を移したのは、上京した23歳の時に沖縄料理の店で働いたことがきっかけとなった。

 

「その頃は海外を旅するのが好きで、沖縄には行ったことがなかったけれど、エキゾチックな感じがして面白そうだなって思ったんです。店のスタッフは半分以上がウチナーンチュで、独特な空気感に魅力を感じていましたね。ここで働いて、25歳までに200万貯めたら、世界一周旅行をしようと思っていました。で、順調に貯めていたんですけど、海外の前にちょっと沖縄へ行ってみるかというノリでふらっと行ってみたら、一気に虜になっちゃって、住みたいって思ったんです(笑)」

 

バイト仲間の紹介で、おもろまちにあったダイニングバーで働くことになり、沖縄暮らしを実現。お店の上の階には、四半世紀にわたって沖縄のクラブシーンを牽引し、2014年に惜しまれながら閉店したクラブ「火の玉ホール」があり、仕事終わりによく通っていたそうだ。

 

ヴィーガン生活を実践したのは2011年から。東日本大震災が起きたこの年に、大病を患ったことと、奥さまの妊娠が重なり、人生を見直したことがきっかけだった。この時期に、浮島ガーデン、ヴィーガンカフェのTami’s(タミィズ)と続けて働き、体に安心な食材や調味料の選び方や調理法、食べ方などについて深く学んでいく。しかし、Tami’sが営業を一時終了することになった。当時はヴィーガンの店が少なく、独立することも頭によぎったが、まだ自信を持てずにいた。生計を立てるためにホテルのレストランで働き始めたという。

 

「5年近く肉も魚も食べていないのに、肉を扱ったり、仕込んだりすることに少なからず落ち込んでいました。このときに一緒に働いていて、今もお世話になっているシェフに、いつかヴィーガンのお店をしてみたいんですって話したら、『それならまた肉を食べなくちゃだめだよ。それで肉の食感、味をもう一度勉強し直さないと』って言われて、確かにそうだなってすごく納得しましたね。でもそんな中、ローストビーフを切り分けてサーブしていたときに、さっき取りにきていた子がまた戻ってきて、『おいしかった!おかわり!』ってすごく良い笑顔で言ったんです。そのとき心の底から嬉しくなって、自分にとって一番大事なことって、ヴィーガンがどうとかではなく、人に喜んでもらうことだって気付かされました。それから、肉と魚をまた食べるようになりましたね。原点に戻れたというか、このときの思いが、今のお店につながっています」

 

しばらくしてホテルを辞め、ヴィーガン料理も、肉・魚料理も提供するROCKERS CAFEで働きながら、店舗開業のための物件を探した。パルミラ通りで理想的な店構えの物件に出合い、2018年11月にオープンし、今に至る。

 

「ゲート通りにTESIOがオープンしてから、コザに魅力を感じ始めて、物件を探しているときもよく相談にいきました。パークアベニュー通りとゲート通りの間にある、パルミラ通りでお店を構えられたのも自分にぴったりだなって思っています。パルミラって紀元前1世紀から3世紀にかけて、シルクロードの中継地として発展したシリアの都市なんです。僕は肉も扱うし、ヴィーガンも作るし、みんなの中継地点のような店として利用してもらえたらうれしいですね」

 

スパイスカレーパルミラ

高木雄二さんと妻の仁美さん。お店は2人で切り盛りしている。

 

高木さんの思いを体現するために、カレーはこれ以外の選択肢はないといえるくらいのメニューかと思っていたが、意外にもカレー屋に決めたのは最近のことだったらしい。

 

「どんなお店にするかずっと悩んでいたんですけど、カレーなら、お肉が入っていなくてもみんな案外美味しいって食べてくれていたことに気付いたんです。それにある程度のセオリーに、自分にしか出せない要素を組み込んでいって作るスタンスもいいって思っています。以前、東京にあるインドカレーの超人気店で、インド人のシェフたちが作っているカレーを食べたとき、一代ではここには到達できないなって思いました。だから、自分の味をひたすら追究しようって決めたんです。沖縄で、自分にしか作れないカレーを提供したい。パルミラクルは、インドの人が食べても面白がってもらえるんじゃないかな」

 

パルミラのカレーにある際立った表現力は、高木さんがルールに縛られず、これまで学んだことを柔軟に融合させているからだろう。そして常に、新しい可能性を開拓し続けている。

 

「サンドイッチもやってみたくて、実はずっとパン作りに挑戦しているんです。TESIOのハムを使ったものと、ビーガンサンドの2種類を出せたらなって思っています」

 

明るく、熱のこもった言葉。新フードを楽しめる日はそう遠くはないかも。
ジャンルも、思想も、嗜好なども超え、目の前の人の笑顔を思って、やりたいことを貫くこと。音楽のように自由で、これほど愛情がミックスされたひと皿は、なかなか出合えるものではない。

 

文 徳嶺綾子
写真 金城夕奈

 

スパイスカレーパルミラ
SPICE CURRY PALMYRA(スパイスカレーパルミラ)
沖縄市中央1-17-21
050-1446-3898
open 12:00~21:00(L.O. 20:00)
close 日
https://www.instagram.com/spicecurry_palmyra/