この日のランチブッフェメニュー 変わり巻き寿司3種
「うちね、『何屋やねん』って近所のおばあに聞かれて、『お寿司と和食の定食がメインで、パンケーキもありますよ』って。そしたら『今は何がええの』って聞くから、『この季節のイチオシは、セサ麺っていう沖縄そばです』って言うたら、『そばもあるわけ〜?』って。色々ありすぎて、半分呆れられてます(笑)」
大阪弁の歯切れがよくユーモアたっぷりなのが、北谷のごはん屋さんSU-SU-SO0N店主、吉田理恵さんだ。
近所のおばあが呆れるように、ランチバッフェには、ひじきの煮物やゴーヤーチャンプルーなどの定番といえるものから、カラフルなロール寿司に黒米のココナツミルクデザートなどのアイディア料理まで。国籍にとらわれない、SU-SU-SOONオリジナルの創作料理の数々がカウンターに並ぶ。
blackセサ麺
理恵さんがイチオシだと言う“blackセサ麺”は、ひんやり冷たい沖縄そば。自家製の生姜オイルとたっぷりの黒すりゴマを混ぜたタレをトッピングして、豆乳の優しいスープを注ぐ。生姜のさっぱり感と黒ゴマのコク、豆乳のまろやかさが相まった、これまでにない新しい沖縄そばだ。
優しい薄緑色のスープは、なんとゴーヤーのポタージュ。玉ねぎとじゃがいも、ゴーヤーを火にかけ、柔らかくなるまで茹でたら丁寧に裏ごしする。ゴーヤーの苦味が和らぐように、ゆし豆腐とチーズを浮かべる。そのおかげで苦みはほとんどないが、ゴーヤーの味はしっかり感じる。これまた食べたことがないゴーヤー料理だ。
ゴーヤーのポタージュ
ゴーヤチャンプルー
初めての味なのに、どれも不思議と舌に馴染む。どの料理にも共通していえるのは、気持ちが和む優しい味だということ。
「うちの料理を食べたお客さんに言われて一番嬉しいのは、『なんかほっとする』って。それが一番ええかな。毎日食べても飽きないご飯で、おうちご飯の延長にあるような。でもうちでお母さんがこんなに品数作るの大変でしょ」
二色人参のサラダ 生姜とクミンのドレッシング
与那原ひじきと大豆の煮物
理恵さんは、何でも美味しく作れる、いわば料理上手なお母さんだ。普通のお母さんと違うのは、作る料理の幅がとにかく広いこと。こんなにバラエティ豊かだけど、一体どこからアイディアが浮かぶのだろう。
「例えばこのデザートは、物産展で持っていった黒米が大量に余ったから、苦し紛れに作ったんです。こんなに余ってどうしよってなったときに、そや”ソムチャイ”でこんなデザートを作ってたなって、思い出すんです。よく行くタイ料理屋さんなんですけどね。食べるのが好きで色々食べに行ってるから、頭に残ってるんでしょうね。パクリがうまいんです(笑)」
黒米のココナッツしるこ
理恵さんの創作料理は、こんな風に必要に迫られて生まれることが多い。必死に考えた結果、余りものが、ちょっと斬新で見たことのない料理に変身する。理恵さんは、食材のやりくりが上手なのだ。勿体無い精神で、材料はしっかりと使い切る。
「うち、ジンジャーシロップを作って売ってるんですけど、シロップ作った後の生姜、刻んだのとすりおろしたのがあるんですけど、それを捨てるのが勿体無くて。なんかに使えんかなって考えて、それで、刻んだのはジャムや生姜オイルに、すりおろしたのは生姜焼きのタレにして。だから生姜製品ばっかり(笑)」
つい最近も駐車場のバナナの木が沢山実をつけたので、勿体無いから何かにするかとバナナケーキにしてお店で出したという。
理恵さんは食材を無駄にしない賢いお母さんだ。普通のお母さんと違うところは、ただ皿にどかっと盛るのではなく、とても丁寧に綺麗に仕上げること。料理に合わせて食器を選び、どれも品よく美しく盛りつけられている。
それもそのはず、理恵さんは寿司や和食の修業をきっちりとしてきたのだ。それを外国でしてきたというのが、また少し変わってはいるのだが。
冬瓜の炊いたん ピリ辛昆布のせ
「カナダへワーキングホリデーで行ったんですよ。お菓子の専門学校を出て、帰ってきたらまたお菓子屋さんで働くつもりで、ちょっと1,2ヶ月気分転換しようと思って。で向こうでお金がなくなって帰れなくなった時に、知り合った人がお寿司屋さんの大将を紹介してくれて。『お前見た目もこんなんだし、愛想もないし、男か女かわからんし(笑)、寿司教えてあげるから、やるか?』って。それでカナダで寿司を握ることになったんです」
成り行きで握ることになった寿司だったが、その面白さに夢中になった。「寿司って、仕込みは魚を捌いて一回寝かしてって色々あるんだけど、いざお客さんと対するときは瞬間の勝負でしょ。マグロって言われて、マグロを切って握って出すってそれだけ。で、すぐにお客さんの反応がパンって帰ってくる。それが楽しくてハマってしまって」
1,2ヶ月のつもりが3年後にようやく帰国した。帰ってきてからは和食屋で修業をし、お菓子には戻らなかった。「ケーキは向いてなかったかな。あれは計量が命で、自分は大雑把だから(笑)」と言う。
寿司にハマりつつもカナダから帰国したのは、また他の場所へ行きたくなったから。
「行きたい国のビザが降りなくて不貞腐れて家でぶらぶらしてたら、うちの親がたまたま新聞でドイツの日本食レストランの求人見つけて。『あんた、ドイツ菓子好きだから行ったら?』って。何にも知らんと面接行って受かったから、そのまま」
自分の働く場所、住む場所にはこだわりがない。理恵さんは自分を根無し草だと言う。外国が好きだとか、あんまり深い考えは持ってなくて、いつも行き当たりばったりなのだとか。こんな経緯でドイツへ渡り、帰国したら、今度は友人が沖縄市パークアベニューの空き店舗対策事業、ドリームショップの話を持ってきた。理恵さんは根無し草だからどこかに根を張らせないとと、店が持てる沖縄行きを勧めてきたのだ。
パークアベニューは色んな国の人が住む多国籍の町とガイドブックで読んだ。それで逆輸入寿司と食べるスープとパンの店に決めた。アメリカ人にはカナダで学んだ寿司を、その他の国の人で寿司が苦手の人には、ドイツで学んできた具だくさんスープとパンを。これがSU-SU-SOONの始まりで、今から13年前のことである。
モウイともずくの酢の物
「最初の頃は外人相手ということもあって、盛り付けを凝ってもっと華やかにしてたんですよ。ロール寿司にフルーツのソースかけたりね。でもセンスよくおしゃれにっていうのにちょっと疲れてきて。なんか普通がええなって。どうせ根無し草で、大きな家に住みたいとかないし、普通にやれたらいいんです。普通に暮らせたら。だから料理も特別じゃなくて普通の料理」
店の場所を北谷に移し、心機一転、毎日食べても飽きのこないご飯をコンセプトに据えた。とはいえ、寿司を捨てるのは勿体無いからそのまま続け、自分が好きだからとパンケーキを新たにメニューに加えた。
北谷に店を構えてからもSU-SU-SOONは、少しずつ変化している。ランチが定食スタイルからバッフェになったり、料理教室を始めたり、生姜製品の販売をしたり。全てのきっかけは、お客の要望からだった。
「イベント的に、1週間くらいお昼をバッフェスタイルにしたんです。そしたら今までは来てくれることのなかった近所のおばちゃん達が来てくれて。1週間のつもりだったんだけど、次の週来たおばちゃんが『あんた、友達に紹介したのに止められたら困るさ』みたいな感じになって、じゃこのスタイルがいいなと」
料理教室は、「ここのパンケーキの作り方を教えてほしい」との客のたっての希望から。「『うち人集められんから』ってやんわり断ったら『じゃ何人集めたらやってくれます?』って。『最低5人かな』って言ったらすぐ電話がかかってきて、『7人集めました!』って。うわー、じゃ、やらなしゃーないって(笑)」
瓶詰めのジンジャーシロップも。「東京の物産展でジンジャーエールを出していたら、毎日それを飲みに来てくれるお客さんがいて。そのお客さんがどうしてもシロップを売ってくれって。そんなに言ってくれるんやったらって、デパートの人と相談して急遽販売したのが始まりなんです」
理恵さんは、頼まれたら嫌と言えない性格なのだろう。
「今まで何でも『やりましょか』って言ってきて、少し広くやりすぎたかな。最近はちょっと専門店みたいなのしたいなって。一坪くらいのとこでスープだけ売ってます、みたいなの。なんか専門店ってかっこいいじゃないですか。俺は手羽先一本で勝負してるぜ、とか(笑)。でもまあこういう何でもありなのも、お客さんが楽しんでくれたら、それはそれでいいかな」
冷やしトマトのざくろ酢マリネ
ジャガイモの素朴なコロッケと県産鶏のアーサー衣揚げ
もうおわかりだろうが、理恵さんが普通のお母さんと一番違うのは、“大阪のおもろいおかん”だということだ。
店名の由来を聞くと「寿司の“す”とスープの“す”で、それが早いで、SU-SU-SOONですわ」と真面目に言ったり。メニューには、“カリフォルニアロール”などと並んで“コレステロール”なんて寿司もあったり。思わずクスっと笑ってしまうのだ。
ほっこりして、ちょっと可笑しい店、SU-SU-SOON。今日もふらっと、“ふつうの美味しい”を食べに行こう。
文 和氣えり
ごはん屋 de SU-SU-SOON(スー・スー・スーン)
中頭郡北谷町浜川208-8
tel&fax 098-936-6237
11:00~15:00(LO14:30)
17:00~22:00(LO21:00)
close 火曜
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