写真 文 田原あゆみ
そろそろ梅雨明けの、青空が広がる6月8日、久しぶりに喜舎場智子さんの工房を訪ねた。
以前は工房だった小さな空間を更に二分割して、手前半分はショップに改装されている。
その小ささも喜舎場さんらしい。
スペースは小さいのに、見所がぎゅっと詰まっていて、作品のディスプレイもとてもセンスが良い。
私の言葉よりも、きっと彼女の作品から伝わってくることの方が大きいのだと感じる。
喜舎場智子さんの作品は、無機質の素材を使っているのに、表情があって生きているようだと感じることがある。
真鍮や、銀の肌には金槌で叩いた跡が少し残っていたり、揺らぎを感じるような左右不対称な形になっていたり、完成する一歩手前のような感じがするせいかもしれない。
完成する一歩手前のようでいて、長く愛用した後の経年変化を経て出る味わいが最初からあるのもいい。
工房を始めた当初は、革製品を主に作っていたそうだ。
留め金をつける時に中々気に入ったものがなかったので、自分で納得の行くものを作るために勉強を始めてから彫金の世界にはまったのだそう。
彼女の作る作品に触れてみると、金属の持つ質感が好きになってこの仕事を始めたというのが伝わってくる。
表面にスクラッチした跡が残るシルバーのブローチは、手で成形したようなゆらぎが残っている。
そのゆらぎが実にいいな、と感じるのは狙った形になっていないところ。
無心に作った時に出る、自然なゆがみ。
子供にしか描けないようなラインであったり、素直に作った手捻りの器の持つぬくもりのある微妙なうねり。
そんな味わいが感じられるのだ。
元々喜舎場さんはそんなに器用な方ではないという。
最初は、上手に仕上げられる人と比べて落ち込んだり、勉強し直してみたりと中々ありのままの自分の作風を受け入れることが出来なかったという。
けれど、作っているうちに、多くの人から「表情がいい」「肌合いが馴染む」と誉められるうちに、これこそが自分の強みなんだということを受け入れることが出来たのだそう。
まあるい輪っかに棒がついているのは、布止めのブローチ。
機能性とデザインのユニークさの両方を兼ね備えていて、私のお気に入り。
このブローチに出会うまで、憧れはあってもなかなか使いこなせなかったのに、今ではこれが使いたくて、布を選んだりするほど気に入っている。
この写真は、今回の企画展に参加する作り手のみんなの作品を使っているところを撮りたくてしつらえた食卓。
麻のざっくりとした布に留めているのが喜舎場さんのブローチ。
針の部分を布に差した後に、輪っかの部分を回して固定するこのブローチの原型は、ラトビアの民族衣装に使われていた布止めがモデルだという。
表紙の写真の手のひらの上に乗っているのがアンティークのブローチ。
本の中の写真の女性の胸元に飾られているのも、同じスタイルのもの。
喜舎場さんはフィンランドのフィスカルス村を旅した時に、このアンティークのブローチに鍛冶職人の工房で出会ったのだという。
直感的にこれを作りたいと感じて、現代の生活に会わせて工夫を重ねてゆく。
私が最初にこのブローチを受け取ったのは冬だったから、ウールのストールを留めて支えられるよう太かった針を、夏の素材に合わせて細くしたり、輪っかを華奢にしてみたり。
古いものの形を写して、現代の生活に取り入れるのはとてもいいなと感じる。
オリジナルを目指すのが立派で真っ当な感じがするという感覚の人ももしかしたら多いのではないだろうか?
けれども、長い時間をかけて人の生活や文化の中で完成した形状には、私たちの我を越えた形に納まっているものも多いと私は感じています。
新しいもの、新しい形、オリジナルのものを作るというこだわりを捨てた時に世界はもっと自由になるし、もしかしたら成長から成熟に向かえるのではないかしら、と私は思っているのです。
シンプルなデザインが多い喜舎場さんの作品たち。
けれど、その陰にはかなり手間ひまをかけた手仕事が詰まっているのです。
このくさび帷子の一部のようなブレスレットは、輪っかを重ねていったチェーンの連なりで出来ています。
このチェーンは一つ一つが手作り。
シルバーの針金で作くった小さな輪っかを、一つ一つ写真下の容れ物の中に入っている極小の銀鑞で留めてゆきます。
高温で溶ける銀鑞の性質を利用して、バーナーの火であぶりながら輪っかの隙間を埋めてゆくのです。
作っている時間がとても好きだという喜舎場さんだからこそ出来る、とても根気のいる仕事。
でき上がったものを見た時に、そんな仕事の奥行きはみんなが分かる訳ではない。
けれど、作る過程を知って私は納得した。
好きなことに手間をかけることを惜しまない彼女が作るから、この味わいになるのだということを。
彼女の作る作品たちのデザインはシンプルなのに、つけてみると力強さがある。
その力強さの中には、彼女の言語を超えた形を持たない感性そのものなのだろう。
その感性が一つ一つ形になって生まれでてくる。
少しぎこちなく、所在なげな感じがするのに、まるで生きているように見えてくる形。
写真を見比べてみると分かるかな?
この真鍮で作られたブローチたちは、使い手の気分によって形状を変えることが出来るのだ。
クワガタのハサミのように開閉するもの、半円を少しずつ広げていけるもの、ジョイントが伸びてゆくもの。
なんだか使い手が参加して完成する形って、楽しいと思いませんか?
その日の気分でつける場所を変えたり、違う形を楽しめる。
付き合うほどに、味わいの増す彼女とその作品たち。
彼女の作るものの、今と未来に興味津々。
今回は、空中を使ったモビールも作っているというので、6月21日の初日のディスプレイがどうなるのか今からとても楽しみで、待ち遠しいのです。
今回Shoka:では初めて、沖縄在住の作り手さんも交えた企画展を開催します。
瀬戸からは素敵な肌と色を持つ陶器を作る、作陶家の小関康子さんもお迎えして、木漆工とけし、喜舎場智子の3組がどのような空間を作るのか。ほんとに楽しみです。
その企画展に合わせて、以前からやってみたかった座談会を開催したいと思っています。
それは、作り手も使い手も一緒に語り合う形式の座談会。
沖縄でものづくりをしている方には是非是非参加していただいて、沖縄でのものづくりの可能性についてみんなで話してみませんか?
いつものように私が司会を勤めますが、司会は話してはいけないという掟を破って、私も一緒に話せたらと思っています。
いかに案内を載せておくので、みなさまどうぞチェックしてくださいね。
では6月21日からの10日間、みなさまとお会いするのを心から楽しみにしています。
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トークイベント「手で見る 目で触る」
6月21日(金)18:00~20:00
開場18:00
開演18:30~
暮らしの中で使う道具のこと
どんな思いで作っているのかを聞いてみると、使うときの意識が変わるはず。
作っている人に触れると、道具にぬくもりが増す。
そんなきっかけを作りたくて、作り手と使い手の交流の場を設けました。
語り手
小関康子ー陶作家
喜舎場智子ー彫金作家
木漆工とけしー漆器工房
お申し込み方法
1.参加者名(全員のお名前を書いてください)
2.連絡先(ご住所・携帯電話番号・メールアドレス・車の台数)
3.「トークイベント参加希望」と必ず書いてください。
申し込み先 Shoka:スタッフ 金城由桂 pocaaan@gmail.com までメールにてお申し込みくださいませ。
以下の点にご注意ください
◯必ずメールにてお申し込みください。
◯Shoka:の展示期間中はお子様連れも大歓迎ですが、トークイベントに集中していただきたいことから大人のみの参加とさせていただきます。ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
◯駐車スペースが限られていますため、車でいらっしゃる方はできるだけ乗り合せのご協力をお願いします。
◯お席に座れる人数が限られております。床に座布団を敷いて参加する可能性があることを予めご了承ください。
◯お申し込みメールを送った後、営業日の2日以上が経っても担当からの返事がない場合は、090 9566 4963 金城までご連絡ください。店休日をはさむ場合は連絡が遅くなることがあることをご了承下さいませ。
暮らしを楽しむものとこと
Shoka:
沖縄市比屋根6-13-6
098-932-0791