「うりずんの色」

 

写真・文  桑田 さやか

 

                            

 

 

優しいふわふわの焼き菓子のような色味。
ガラス作家の辻和美さん曰く、三つ重ねて並ぶ佇まいがこの入れ子になったくちばしセットの魅力だそう。
ただそこにあってもいい、つかってもいい。

 

アートと生活の間にあるような存在は、これを手に取るわたしたちを微笑ましく喜びに満ちたものにしてくれます。

 

 

三月、沖縄はうりずんの季節。
植物も大地も、伸びやかに力強く生命力であふれている。
沖縄のとびきり美しい季節がやってきた。

 

木々も、花も生きるものすべてが滋養に満ちてとても美しい。
現在Shoka:で開催している辻和美 + factory zoomerの「urizom」の企画展。

 

この季節のうりずんをタイトルにしている。

 

2017年の秋、田原に同行して金沢の工房へ行って来たことがまるで昨日のことのような、ずっとずっと前のことのような不思議な気持ちだ。

 

 

工房で辻さんたちの制作風景を垣間見たことで、ますますこの作品たちが愛おしくなります。
もう、かわいくてかわいくて、わたしたちの気持ちも最高に芽吹いているのです。

 

 

 

 

木々も、花も生きるものすべてが滋養に満ちてとても美しい。それはこの季節の雨が、天の滋養の結露だと言われているからだろう。

 

設営していた朝に天気雨が駆け抜けていった。
明るい緑の庭に降りそそぐ恵みの雨は香り立つような湿度に包まれて、辻さんが作ってくれた色とこの空気感が絶妙にマッチしている。

 

窓の外を眺めながら、そうそう、うりずんってきっとこんな色。そんなことを思っていたのです。

 

辻和美さんが沖縄のこの季節に想いを巡らせて作られた器たちは、雨に濡れたようにしっとりぴかぴかと輝いている。
この青みがかったグレーはまさにその滋養に満ちた雨の色。

 

 

 

 

こちらは先日のお食事会でその青灰色のお皿にうりずんの食材を使ったお料理を。
一皿まるごと滋養に満ち溢れている。

 

たくましいジビエは沖縄のアグーと豚を掛け合わせて放し飼いにしたもの。ビーツの色味が美しくも力強い一皿。

 

お話会で、辻さんが「物の形を静かに語ることができるのはこの色だと思う」そう言っていた。
確かにお料理も一層引き立ち、お皿もしっかりと存在感がある。

 

そこに存在していないようで、けれどちゃんと存在しているような静かな佇まい。
物静かだからこそ、沖縄のはじけるような色味の食べ物とも仲良しなんだろうな。

 

作家ものと工業製品の間を目指しているという辻さんの器は、想像以上に違和感なくするりと生活に馴染んでくれる。
整っているようで整いすぎていない、揃っていると揃っていないの間、その細やかなニュアンスの存在感に女性らしさを感じるのです。

 

 

 

 

この緑色は、まるで濡れたモンパの木の若葉のよう。

 

この彩豊かなガラスたちは、色ガラスの表面に透明なガラスが覆われていて、ゼリーのような質感でぷるぷるんと愛らしいのです。
この緑のコンポートもじわじわと魅力が増してきて、お店番をしながらずっと一緒にいるとなんだかそこにいてくれるだけでいいな、と嬉しくなる。
いつか誰かの元に旅立つ時に、その暮らしの中でたくさん可愛がってもらうのだよ、と友人を送り出すような気持ちになりそうです。
思わず涙を浮かべて、笑顔で。

 

 

 

 

まんまるの華やかなプレート。
同じ色だけど、形が違うと印象も変わる。

 

真ん中におおきなおへそがあったり、小さな気泡がほくろのようにいたり、色のグラデーションを一枚の中に感じたり、吹きガラスのもつ味わいが凝縮したような姿。

 

 

 

 

同じ形でも色が違うとまた印象が違って、お料理を乗せる前のものを見ていてもなんだか美味しそう。
うぐいす色は、心が優しく包まれリフレッシュされるような、そんな色。
肩肘張らずに、おむすびを結んでのせたっていい。
青々としたサラダも綺麗だろうな。

 

日常のお料理がきっと更に楽しくなる。

 

 

 

 

 

料理人の手にかかったら、お花もあしらわれた美しい姿に。
宮古島のゼンマイ・オオタニワタリの芽の緑色はベージュのお皿の上で輝いています。

 

こうしてお料理をのせると、このお皿たちがぐっと日常に近くなる。

 

そして、お皿の上は自由でいい。
使う楽しさが前のめりになるような、心ときめく器ってなんて素敵なんだろうと辻さんのガラスをみながら感じるのです。

 

 

 

 

透明はおしゃべり。

 

辻さんのこの表現が、とても好きでした。
色も写るし、向こう側が見えてしまうっていうだけでもううるさいってなっちゃう。苦手な色だけど、ガラス作家である以上この透明と向き合わないといけない。とも話されていて、「もの」という概念で話しているのではなく、辻さんの作り出す内側について聞いているような気持ちになったのです。

 

 

 

 

辻さんの透明は、「澄んだ空気」
すうっと深呼吸したくなるような佇まいです。

 

 

 

 

透明はおしゃべりだけれど、なんにでも色を変えてくれる美しさももっている。
冷たい氷や飲み物で、ガラスが汗をかく姿も綺麗。
果物を入れた時の透明感も、炭酸水を入れた時のしゅわしゅわとした気泡も、吹きガラスだからこそ生まれるこの揺らめきの表情も、どれをとっても愛おしく思えてきます。

 

 

 

 

お話会でも辻さんは「ショップやって、ギャラリーで企画展もして、ガラスも吹いて、よく働くよね、私。」と、元気いっぱい笑っていました。その笑顔をみて、きいている私たちも元気をたくさんいただいたように思います。
エネルギッシュで伸びやか、子供のように楽しみ上手な辻さんだからこそ表現できることがこの器にはたくさんたくさんつまっています。

 

百聞は一見に如かず。
まだまだ素敵な作品がございますので、たくさんの方に見にきていただきたいです。
このShoka:の気持ちよい空気と一緒に、うりずんに思い巡る辻さんの器をお持ち帰りいただきたいと感じております。
じっくりと手にとって見ていただけるととても嬉しいです。

 

オーナー田原の記事はこちら。
うりずんのエピソードや、辻さんへの熱い想いが止まらない一文です。
こちらを読んで、また辻さんの作品をみると、また違った景色がみえてきます。

 

「辻和美 + factory zoomer 形と空気」
https://calend-okinawa.com/life/aessay/zoomer201902.html

 

ぜひ、ご覧になってくださいね。

 

 

 

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辻和美+factory zoomer

 

 
「urizom」
2019/3/2 sat~17 sun (会期中火曜定休)

 

 
@Shoka: 12:30~18:00

 

 

 

暮らしを楽しむものとこと
Shoka:
http://shoka-wind.com/
沖縄市比屋根6-13-6
098-932-0791(火曜定休)
営業時間 12:30~18:00