「forme デザインの引き算」

写真・文 田原あゆみ

 

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「形がいいね」
この仕事をしている私がよく使う言葉。
言う事は簡単だけれど、この形になるまでに一体どれだけの時間がかかったのだろう。

 

例えばこの靴。*(このブーツもそうだが、formeの靴はメンズとレディースが同じ型数あるのが嬉しい)

 

サイドゴアブーツ(Side Gore Boots)はその名の通り、足の内外双方のくるぶしの周辺に“Gore”、つまり「マチ」が施されたアンクル&ショート丈のブーツのことを指す。この「マチ」は通常、ゴムを織り込んだ伸縮性のある生地でできていて、足首にフィット感をもたらし脱ぎ履きがしやすいという特徴がある。

 

このアイデアは、1830年代中盤にロンドンの靴屋が、当時即位したばかりのヴィクトリア女王のために、脱ぎ履きが容易でフィット感の得やすいブーツを作るべくデザインされたことが始まりなのだそう。

 

そう、このブーツの起源はメンズではなくレディースなのに驚いた。少しごついイメージがあったので、もしかしたらアメリカの開拓期に労働がしやすく脱ぎ履きがしやすいものを、という考えで生まれたのではないかと勝手にイメージしていたのだ。

 

しかしそのイメージとは全く違う起源に驚き、そのロンドンの靴屋の職人気質な思いやりがこの靴の起源だったことが嬉しかった。その起源からもわかるように、この靴は当初フォーマルな場で履かれていたのだ。日本でも明治時代から第二次大戦前まで一部の礼装用にこの靴が履かれていたそうで、昭和天皇もこの靴がお気に入りだったといわれているそうだ。

 

 

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真夏以外いつでも履ける印象のアンクル・ショートブーツの中でも親しまれているサイドゴアブーツ 。今まで目にしたものの中には無骨で男性的なものも多かったので、formeのこのブーツを見たときにその品の良さにときめいた。

 

すっきりとしたラインは、必要だと感じるラインだけを残してあとの部分を排除したときに生まれるのだ。

 

デザインは引き算だと思う。仕事も日々の暮らしも経験を重ねるにつけ同じことが言える。仕事は引き算だ。足し算の後の引き算だ。うんうん。若いときには足し算で、歳を重ねると引き算だ。「引き算」という言葉、色々とフィットして且つ奥が深くはないか?

 

formeの靴は憧れのヨーロッパの空気感漂う靴たちを日本人の足似合うように仕上げられているのが特徴だ。

 

もともと私達が日常的に履いている革靴の文化はヨーロッパがその起源。知っての通り彼らの足はアジア圏の農耕系民族である私たちの足と違いやや甲が薄く細長い。甲高で幅広ぎみの私たちの、いや・・・わたしの足では今までなんども様々なブランドの靴でトライしたけれど合うことはなかった。

 

余りに靴の形が美しく、履きたくてたまらなくて何度も試足したとあるブランドの靴。甲と幅に合わせると2サイズアップしてしまうので長さが合わずに脱げてしまう。かといって長さに合わせるとまるで纏足の様にぎゅうぎゅう詰め。爪先しか入らなかった事すらある。
向こう見ずで浅はかだった20代初めだった私は無理をして2サイズアップの美しいヒールの靴を買った。その後のことはみなさんの想像にお任せするとして、その頃サイズアップしても爪先しか入らずに履けなかくて唇を噛んだのが次の写真の靴と同型だった。

 

 

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buttoned up bootsから生まれたこの上品で美しい形の靴。buttoned up shoes。このデザインにわたしはずっと恋い焦がれてきた。この靴を何十年後かに履く事が出来た時の喜びと感動は深かった。

 

みなさんのご察しの通り、この写真の中の足はわたしの足。タイツの毛玉はみなさんの記憶からデリートしていただくとして、入ったのですよ。ちゃんとボタンも上まで留める事ができて、枯れ気味だった私の乙女心のシワも伸びた。

 

 

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formeの靴はデザイナー小島明洋氏が日本人の足に合わせて木型を作り「forme=形」という名の通り、美しいフォルムの靴を製作しているブランドだ。長く愛用できるように工夫がされていて、修理代金が安価で済むような仕組みで仕上げられていることも良心的だ。

 

以下にformeの靴のものづくりの良さをいくつかまとめてみる。

 

○植物染料を使うことで素材の持つ風合いを引き出し、持ち味を生かすようにしている。化学染料を用いずに植物のタンニンを利用して染めている。化学染料で染めると色が単一の平たい感じになるのだが、植物染めの素材感が生きた色合いには奥行きを感じる。

 

○タンブリングを施して革を軟化させることで独特の風合いを出している。タンブリングとはイタリアで2000年以上続く伝統的な手法で、木製の樽を使って染色と加脂をする。そうすることで革に味わいが出て柔らかな仕上がりになるのだそう。

 

○長く履けるように製法に一工夫。グットイヤー製法は靴をソールとくっつけるときに靴本体の革をアッパー本体ではない部分に羽出しをしてリブにして仕上げる。そうするとソールの交換回数を増やせるようになるのだ。ソールは地面との摩擦でどうしてもすり減って行く消耗品。その交換がしやすい設計のグッとイヤー製法だとかなり長く履ける愛用品となるだろう。もう1つの製法のマッケイは、本体の皮をソールに巻き込んで仕上げていて、ソールの交換回数はゴッドイヤーに比べると減るのだが、軽やかですっきりとした仕上がりになっている。靴のデザインやレディスの靴の場合はこちらが好まれることも多いだろう。ちなみに私は幅広の足なので少しでもすっきり見せたい。なので初回にはマッケイ製法の靴を選んだ。

 

 

 

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それがこの靴。
forme の buttons-strap shoes
何度か履いたあとなので私の足のかたちが出ていますが、すっきりとしていてコーディネートしやすい品のある形。1900年代のヨーロッパのストラップシューズをベースにしたデザインで、パンツスタイルはもちろんシックなスカートやワンピースにも合う。ストラップについているボタンはゴムで固定されているので脱ぎ履きするたびにボタンを留め直さなくてもいいところにデザイナーの心遣いを感じる。

 

上から写しているのでわかりにくいかもしれないが、つま先が少し上がっていて、プレーントゥという仕上げになっている。ソールの革底のつま先がやや上がることによって、歩くときに弓状に底が湾曲するので、足の運びがとてもいい。formeの靴のほとんどの仕上げはこのプレーントゥだ。

 

新しい靴を下ろした時、まだ合わない靴に足を締め付けられて痛くて痛くてびっこを引き引き歩いた経験があまりにもたくさんあるので、この靴を下ろした時にもまずは近場に行きながら、短時間ずつを数回と、慎重に足になじませていった。

 

二度目に足を入れた時に、意外なことに思っていたよりも馴染んでいることを感じて驚いた。数回履いて、調子が良かったのでこの靴で出張へ行ってみた。何度も地獄を見た1日に歩く距離が沖縄の100倍近い東京出張。

 

が、わたしの心配を他所に、厚くて固そうに見えた革はすで足に馴染んでいて、夕方に少しだけ擦れた小指の関節が痛くなったくらい。それもほんの少しだけ。歩きやすく履きやすい靴だということがわかったのだ。そして、このプレーントゥはスプリングが効くような感覚があり、足の運びがしやすい。最初は少しきつめだった甲も数回履くうちにしっくりと馴染んできた。逆に甲を深く包んでくれるデザインだからこそ、踵、甲、爪先の3点がしっかりと身体全体を支えてくれる軸の様にブレないのが良かった。履きやすく疲れない靴のデザインは一手間かかるけれど、日も履やこんな深く足を包んでくれるものがいい。

 

今回の出張もこの靴で昨日は11キロも歩いたのだが全く問題がなく、毎日調子よく帰路につけた。とても嬉しいのは、綺麗な形の靴は私の足には合わない、という悲しいジンクスがformeとの出会いで霧散したこと。

 

諦めなくて良かった。いや、探し続けた執念の勝利か・・・。

 

 

 

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ヒールの靴もシンプル。そしてやはりつま先が少し上がったプレーントゥ。

 

Formeの靴は眺めていると物語を感じる。その形の良さと古くから愛されてきたデザインを基に作られているからなのだろう。
長い年月の中人々に愛されて来たゆえに時代に左右されず残った形。

 

 

眺めていて浮かんでくるのは、クラッシックな服を着た女性が石畳を歩いている姿。教会に行こうとおめかしをして襟の詰まったシックな服を着ている女の子、そして喪に服している女性。まるで映画の中で見たようなそんな景色と一緒に歩いているような感覚になる。
長い歴史を経て残った形だからそんな記憶が、「形」の中に生きているのかもしれない。

 

 

 

 

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小島氏のデザインにはやはり引き算を感じる。
時代を経て残った形の良さを基に、日本人の足に合うよう様々な工夫を施した後、その時点での美しい形になるまで手を抜かずに向き合った結果がその形からうかがえる。

 

眺めていると、「デザインは引き算よ」そう言っていた友の言葉を思い出す。

 

 

Formeには他にもたくさん良い形の靴があり、仕様も素晴らしいので書きたいことは山ほどあるがHPにも小出しにしたいので今日はここまでとあいいたします。

 

そうそう一つ番外編。
先日、Roguiiで食事をしていたら、父が誤ってトマトジュースをざばっとこぼした。その日は気がつかず、翌朝私の愛するbuttened up shoes を見たら、まだらのガビガビ。バックスキンの革だし濡らしたらどうなるかしら?と不安を覚えつつ、濡れていないとトマトジュースは取れないだろうと意を決しえいや、とびっしょりと濡れた布で拭いてみたら、何事もなかった様に元の状態に戻った。

 

どうしてかしら?この革の仕上げは水分を弾くように脂が塗られているようにも見える。さあ、16日土曜日にまずはこのことを小島氏に聞かなくちゃ、と私も張り切っています。

 

 

6月16日(土曜)はformeの小島さんはじめスタッフの方達が在廊します。この機会に紳士淑女の靴に興味がある皆様。メンズもレディースもたくさんやってきます。
色々履き比べながら自分に合う形を探してみてください。
もちろん、見に来るだけでもOK!なのですよ。

 

いいものに触れることは心にも、今後のものづくりや生活そのものへもたくさんのギフトをくれると思っています。学生の皆さんにも今の日本の粋な職人さんの仕事の素晴らしさに触れて欲しい。どんどん見に来ていただきたし。

 

 

そして、何でも聞いてくださいね。

 

Shoka: 田原あゆみ

 

 

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6月15日(金)~6月24日(日)会期中火曜日定休 12:30~18:00
デザイナー小島明洋・formeスタッフ在廊日 6月16日(土)
 

 

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Buttoned up shoes は私が20代の頃から憧れていてずっと履いてみたかった形。ヨーロッパの木型が合わないので諦めていたけれどformeでこの形をみつけて履けたときには、心の中でガッツポーズと小躍。ロマンを感じる素敵なデザインですよね。ボタンに手間はかかりますが手間がかかるほど可愛いものなんですよ。
店主のひとり言

 

 

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「いい靴を履くということ」
 

 

いい靴ってなんだろう?私たちの生活の中に革靴は当たり前のように溶け込んでいる。けれど私たちはあまり革靴のことを知らない。お手入れのこと、フォーマルとワークシーンとデザインの関係。渡したいの大事な足を支えてくれる靴の構造が、どれだけ私の健康や骨格に影響を与えているのか。
 

 

formeの靴たちは、forme=「形」の名前の通り、美しい形と履き心地が追求されている。トゥースプリングというかかとを少し高めに、つま先を少しだけあげる手法を用いて仕上げられた柔らかくしなる革製の靴底は足の運びが軽く、馴染むほど愛着がわく履き心地。デザイナーの小島明洋氏が日本人の足に合う木型の設計から起こした型を元に、靴職人が手仕事で作り上げる靴たちは、ファッション性も耐久性も追求されているのだ。靴底の交換などの修理も安価で済むような仕組みで作られていることにも職人気質な精神が感じられて嬉しい。履いていて同じ日本人としてとても誇らしい気持ちになるのだ。胸を張って背筋を伸ばして歩ける靴。そんな誰かの素晴らしい仕事やものに触れることが生活の豊かさにつながるのだと、わたしは思う。
Shoka: 田原あゆみ
 

 

6月16日(土)にformeのデザイナー小島明洋氏とスタッフが在廊します。その機会にじっくりと靴と自分の足との相性を探求してみるのもいいと思います。また沖縄では梅雨は革製品とカビとの激戦時期。革製品を濡らしたら大変だと思っている方も大勢いらっしゃることでしょう。そんな時期だからこそ、お手入れやメンテナンス法をお伝えするのにちょうどいいと思っています。早めに対処すれば大丈夫。この機会にShoka:チームにどうぞご相談ください、

 

 

 

〈企画展期間中メンズとレディースの靴がほぼ同じ型数並びます。価格差もほとんどありません。男性の方には嬉しいですね。この機会に男性のご友人・知人にもお知らせしてあげてください。formeの美しい形と手仕事の技に一人でも多くの方が触れてくださいますように。〉
 

 

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暮らしを楽しむものとこと
Shoka:
 

 

http://shoka-wind.com/
 

 

沖縄市比屋根6-13-6
098-932-0791(火曜定休)
営業時間 12:30~18:00