二つの家族の一つの物語 volⅡ 未草未草+温石+田所真理子「森へ」へ寄せて

写真・文 田原あゆみ

田原あゆみエッセイ

 

ぶれない美意識を持つ未草の造形作家、小林寛樹氏。
強い眼差しと、柔らかな話し方。
彼は20代前半に就きたい職業を模索している時、ふと昔聞いたことのある自給自足の暮らしをする村のことを思い出しそこへと向かう。
南半球オーストラリアのメルボルン近くにある小さな村だ。
そこで自給自足の暮らしを体験した寛樹氏は、家具や布が形を変えてリサイクルされ大事に使いきられてゆく姿を美しいと感じた。
自然と、動物と同じ大地で共に生きるその暮らしのリズムや知恵が、彼の人生を大きく変えたのだ。

 

 

 

田原あゆみエッセイ

 

 

2014年の初夏に社員旅行で松本を訪れた時、私は迷わずスタッフ全員と温石へ行って昼ご飯をいただいた。

 

素材に感覚を澄まして料理する須藤氏の料理をいただく時、いただく側も感覚を澄ますことになる。それをみんなに体験して欲しかったのだ。
素直なみんなは静かに一つ一つのお料理に自分の感覚を開いて向き合った。

 

「うーーーーんんん・・・・・」

 

言葉にならないつぶやきで私たちは、その料理を温石の空間と一緒に味わった。
温石では料理も器も、食事が行われる空間も全てが一つの体験となるように設えられている。
予約を入れて、当日暖簾をくぐるまでの時間も全てが一つの体験。その日いただいた食事の味と一つに溶け合っている。
そのことを私はひしひしと感じ取った。心ある人のすることは味わい深い。

 

Shoka:のみんなで共感しあった大切な思い出だ。

 

 

 

 

 

食事を終えて身も心も満ちた頃、何気なく目をやった廊下の隅に置いてあった彫刻に心が動いた。

 

 

 

田原あゆみエッセイ

 

流れ着いた流木の中に息づいていた命を捉えたような羊の姿。
この彫刻の存在感に私は目も心も奪われたのだ。

 

 

作者を聞いてみると、それは小林寛樹氏の作品で、「未草 ヒツジグサ」という名前で夫婦で活動しているのだという。

 

旦那さんの小林寛樹氏は彫刻家。奥さんの庸子さんは布もの作家さんであり、コンテンツをまとめて発信するメディアデザイナーでもある。
そう冒頭の写真の彼は寛樹さん。

 

 

 

このもの言いたげな羊の彫刻を見ていると、出来るだけ素材の原型を生かして掘り出された形に仕上がっているのがわかる。寛樹さんは素材を見て、触って感じてその中に息づいているものを探り出すような仕事をする人なのだということが作品ににじみ出ている。

 

彼はこのような彫刻だけでなく廃材や、古い木材を生かして生活に関わるあらゆるものを創作する。作品の中にはハンガーや、テープカッター、タオル掛けやバスタブという生活周り品まで一人で作るのだ。

 

 

二つの家族の一つの物語 vol1「温石とtadokorogaro」
未草+温石+田所真理子「森へ」へ寄せて

 

この前半で書いたように須藤家と小林家は出会ってすぐに気心が知れて語り明かし、まるで長い付き合いをしてきたかのような大切な友人となったという。
須藤さんも真理子さんもとても嬉しそうに、小林夫婦の素晴らしさを話してくれた。

 

お互いが信州の山や森に惹かれていること、暮らしの原点の中から仕事をしていることがこの二組の夫婦を結びつけたのだろう。

 

 

 

この人たちは未来の暮らしの一つのモデルを作る、そんな役割を持っているのではないだろうか?
そんなインスピレーションを感じた私は、「沖縄で二組のご夫婦の展覧会をしてみませんか?」と温石で田所夫婦へおもわず声をかけたのだった。

 

 

 

田原あゆみエッセイ

 

 

 

今年2015年の夏の事。西フランスの中世の時代の建物たちががそのまま残った小さな町から帰ってきた私は、東京の福生にある未草のアトリエを訪ねた。

 

そこは古い外国人住宅に手を入れて住んでいる小林夫婦の生活空間でもある。
ドアを開け中に入ると、昨日まで居た西フランスの様な光景。

 

ドアを開け、その佇まいの中に一貫した美意識が息づいていることを感じて、嬉しくなる。

 

 

 

田原あゆみエッセイ

 

 

大きなアンティークの鏡に映った室内はどこを見ても一貫して美しい。
プラステイック製品は一つも見当たらない。

 

自然の彩光に照らされたテーブルも椅子も、キッチンの戸棚も、道具類も全てが未草。そう彼らのライフスタイルそのものが未草という名前に集約されているのだ。(*未草 日本全国の山地の沼や高層湿原に生えているスイレンの原種。小さく品の良い白い花を咲かせる。)

 

 

 

誰かの生活空間に入ると、その人たちから流れてくる音楽を聴く様な、そんな感覚になる。その人達の持つ空気が自分の中にも流れてくる、そんな感じだ。

 

旦那様の小林寛樹さんがその音楽のソースになる人物。それを奥様の庸子さんがしっかりと捉え、他の人に伝わる様翻訳して包み「未草」という一つのコンテンツになった。そんな風に私には感じられた。

 

 

 

田原あゆみエッセイ

 

 

 

布作家の庸子さんもまた、新しい生地を使うよりも経年変化を経て味わいの増した布を使うのが好きなのだそう。
布や素材を手にして、嬉しそうにその素材との出会いや、物語を話してくれる。

 

 

 

田原あゆみエッセイ
田原あゆみエッセイ

 

 

使っている道具も、お気に入りの小物も誰かの手を経て、庸子さんの元へやってきたものが多い。

 

ただ古いものが好きというのではなく、美しく年月を重ねたものに共通する美しさを求めていることがわかる。
その美しさとは、誰かが愛でて受け継がれてきた空気なのかもしれない。

 

もしくは、人が相手にしないものの中に潜んでいる用途を見出し、自分の美意識に従って形を与える。そんな庸子さんの活動はやはり美しいと私は感じる。

 

 

田原あゆみエッセイ

 

 

しかし、国道沿いに建っているその家のなぜか静謐なこと。
それは彼らが自分たちの暮らしに耳をすますような時間を多く取っているからだと感じた。

 

 

 

素材を目にした時に、例えばそれが古い古木だった時その中に潜んでいる姿や命に感覚を澄ます。きっと素材と共感するまで寄り添っていることだろう。

 

いつも手元にというよりは、庭の手入れや、料理、違う創作に集中している時、手元にはなくても気になっている素材に意識のチャンネルを合わせてともに呼吸をする。

 

そうした中で、ある時その素材の中に潜んでいる命に触れる。

 

 

 

田原あゆみエッセイ

 

そうやった中から生まれてきた、彫刻たち。

 

 

ああ、そうか。この古木の命の形は雀だったのか。
そんな風に感じられて、目頭がじーんと熱くなった。

 

 

田原あゆみエッセイ

 

 

こんなに美しくて優雅なドレスが石化した珊瑚の中に宿っていたのか、と一瞬呼吸が止まってしまった。

 

自然の美しさに人が手を入れると、途端に台無しになってしまうことが多い。けれど寛樹さんは珊瑚の美しさを損なうことなく、息吹を吹き込んだ。それができるのはきっと「私」を消し去って、素材と一体になった時。

 

そんな感覚を持つ人の今までを聞いてみたいし、これからももちろん知りたい。

 

 

彼らは今、信州の自然豊かな黒姫へ引っ越す準備をしている。
6年かけて開墾してきた原野の土地。そこへ福生の家を解体して運び、自分たちで家を建てるのだそうだ。
黒姫に拠点を移した後、この二人の暮らしはきっと深く大地に根ざしたものになるに違いないと私は思う。
人がそのような体験をした時一体どのように変化してゆくのか、私はとても興味がある。

 

 

田原あゆみエッセイ

 

 

古い布の中に美しさを見出し、寛樹さんの美意識、彼の表現したいことを捉えて多くの人に伝えるようコンテンツをまとめる庸子さん。そして、未草の表現のソースであり続ける寛樹さん。この二人が黒姫に根を下ろしたら、一体どのような世界を見せてくれるのだろうか?

 

 

新古に関わらず、素材の中に命を見つける人は愛に忠実な人だと思う。優しさは命を掘り出す時に時に邪魔になる。壊してしまう恐れに負けて進めないからだ。愛は喪失に勝る勇気ある生命の躍動そのものだと私は感じている。

 

喪失や破壊してしまうかもしれない可能性をぐっと受け入れて、それでも自身が可能性を感じるところへ一歩踏み出すことができる。そんな強さを持っている二組の家族。

 

未草 小林寛樹 庸子 + 温石 須藤剛 + tadokorogaro 田所真理子

 

彼らがShoka:に一体どのような空間を作ってくれるのか、私はとても楽しみでならない。

 

そして彼らのこれからを定期的に伝えて行きたいと思っている。

 

 

田原あゆみエッセイ

 

 

 

 

動物好きな二人。

 

そこは私にとっても大切なところ。

 

 

田原あゆみエッセイ

 

 

 

企画展は11月6日(金)から15日(日)まで。
海に溶け込む沖縄の空気とはまた違う、山辺の森の空気に根ざす彼らの空間と作品に触れに是非たくさんの人に来て欲しい。

 

 

 

田原あゆみ

 

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緊急企画「須藤剛の新米おにぎりをいただく会」

 

 

11月6日(金)お話会開催

 

 

田原あゆみエッセイ

 

お話会「心の声をたどる道」
1月6日から始まる「未草+温石+田所真理子企画展 『森へ』」の開催に合わせて、4人を招きお話会を開催します。
ぜひご参加ください。

 

誰しもいつか、自身の心の声に導かれる日が来るだろう。その声に導かれる旅は先が全く見えないけれど、私たちを思ってもみなかったような仕事や土地へと導く。
この二組の夫婦はその道を早い時期に歩き始め、そして信州の森が彼らを結びつけた。まるで未来の種蒔き人のような彼らの物語と、希望の話を聴きたいのです。 ー
田原あゆみ

 

話し手
『未草  小林寛 樹 小林庸子
イラストレーター tadokorogaro 田所真理子
温石  須藤剛』
インタビュアー 田原あゆみ(Shoka:オーナー)

 

 

 

 

日時    平成27年11月6日(金)
開場    当日は企画展開催のため12:30からオープンしています
開演    18:30 ~ 20:00

 

ご予約方法
件名に「お話会予約」と書き込み、1~3の必要事項をご記入の上メールにてご予約ください。
event@shoka-wind.com
1. 氏名(グループの方は参加者全員のお名前)
2. 連絡先(ご住所 / 携帯番号 / メールアドレス )
3. 車の台数と車のNo.
*件名に「お話会希望」と書き、申し込み先 Shoka: スタッフ金城&佐野 event@shoka-wind.com までお申し込みくださいませ。
*Shoka:の展示期間中はお子様連れも大歓迎ですが、お食事に集中していただきたいことから大人のみの参加とさせていただきます。ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
*駐車スペースが限られており、当日は混み合うことが予想されますので、車でいらっしゃる方はできるだけ乗り合わせのご協力をお願いいたします。

 

 

未草 + 温石 + 田所真理子企画展 「森へ」

 

11月6日(金)~15日(日) 会期中無休

 

長野の信州に拠点を置く二つの家族の暮らしは、本当においしいもの、本当に美しいと感じるもの、暮らしたい場所、住まい方、衣食住とそれが在るところのどれも大事にしています。彼らの暮らしの中から生まれた、彫刻や布もの、イラストの原画、tadokorogaroのオリジナル商品、そして一口ごとに手を合わせたくなるようなお料理を作る料理人須藤剛氏のお料理もShoka: にやってきます。いったいどんな空間になるのか今からとても楽しみです。

 

未草  小林寛 樹 小林庸子
イラストレーター 田所ギャラリー 田所真理子
温石  須藤剛

 

2015年11月6日(金)~11月15日(日)

 

 

 

 

 

田原あゆみエッセイ

 

 

 

暮らしを楽しむものとこと
Shoka:
http//www.shoka-wind.com

 

12:30~19:00
沖縄市比屋根6-13-6
098-932-0791