写真・文 田原あゆみ
きらきらとした大粒の石をあしらったジュエリーや、派手なものにはなかなか手が伸びない。
そのパワーに圧倒されて、身に付けるのは躊躇してしまうし、このジュエリーに合うような服を着ている自分が想像ができないからだ。
正直圧倒するようなジュエリーは好きではない。
なのでなジュエリーがほしいと思って探してみても、気にいるものはなかなかないのが実情。
それでもずっと、何か心震えるようなジュエリーはないものだろうかと、国内外の情報を追い、探し続けていた。
触れてみたい、と手を伸ばす自然の中の美しい花や、ちょうちょや、輝く色をした甲虫たちはもっと繊細な輝きを持っていて、見つめていると内側から発光するような抑えた輝きが溢れ出てくる、そんなものがずっと好きだった。
ごくごくたまに、磨いていない原石をとても上品に繊細に扱うジュエリーを見つけると嬉しく感じてわくわくした。
ヨーガンレールのジュエリーたちがそんな作りをしていたので、レールさんの拾ってきた瑪瑙の原石や化石化した珊瑚を使ったネックレスやピアス、純銀の柔らかさを生かしたリング、シルクのブレスレット、そんなものを集めていた。女性ですもの、ジュエリー自体は好きなのです。
私は、キラキラして磨き抜かれた石を支えている18kよりは純金の延べ棒の肌の質感の方が好きなのだ。もしかして世の中にはそんな仲間がたくさんいるのではないかしら??
なので正直に言うと、一番最初にnoguchiで営業をしている方がShoka:へジュエリーたちを持ってきてくれた時には、実はその良さがよくわからなかった。
確か「私は今繊細でキラキラしたジュエリーたちの良さがまだわからないし、惹かれないのです。自分自身が変化してそんなものたちに惹かれるようになったら是非扱わせてください」
そんな風に応えたように覚えている。
今となって思うに、その時にはまだnoguchの真髄に震えるような繊細な糸を持っていなかったとしか言いようがない。ちゃんとしっかり見ていなかったのだと思う。光る石と、繊細なデザイン、は自分には似合わない、というフィルターがかかっていたとしか思えない。なぜならnoguchi BIJOUXのジュエリーたちは、私が苦手だと思っていたきらきら系のジュエリーたちとはまったく違うものなのだから。
それから2年。
私は変わった。
2014年に私的に大きな出来事があった後、好きなことをどんどんしよう、行きたかったところへ行こう、と、決心。それまで行ったことのなかったヨーロッパへどんどこ行ったのだ。
ストックホルム・西フランス・パリ・ロンドン・パリアゲイン・ロンドン再び、そして南フランスへ。
日本や、タイ、インドネシア、上海などのアジアのものづくりばかり見ていた私に、ヨーロッパはとても刺激的。雑誌で見ているのと、実際行ってみるのとでは大違い。
古い町並みには膨大な時間と歴史が感じられ、そこから生まれるものはまた東洋のものとは違う魅力があった。
ホテルではなく、地元のアパートメントを利用して地元の食材を使って料理を作り、足で歩いてその土地の風を受け、香りを嗅ぎ、市場へ通う。
アンティーク街を歩き回り、古いものから人々の暮らしを思う。そうしているうちに、何かが解放されていくことを感じた。きっとそれは自分の欲望や好奇心に素直に従う、ということを思い出したせいかもしれない。
楽しかった。
体の細胞が聞き耳をたてるように外に開いて、頭の中でシナプスがどんどん繋がってゆく感覚。言葉では言い表せないけれど、何かが変わって、私はとても幸せを感じた。何かを知って、古い価値観を脱ぎ捨てると以前の私から自由になる。それは人にとってとても幸せなことだ。
そうよ、私は思った。私は琉球の人々の子孫。彼らは風に乗って世界中を周り貿易をしていた民族。安土桃山時代や江戸初期のお茶の世界の茶道具の、大陸からやってきたものは琉球を通して日本に入ってきていたとの史実もあるのだ。
胸を張っていろんなところへ行き、いろんなものを見よう。私の中にそんな気持ちを自然に通す風穴が空いたのだった。
その変化を遂げた私が、ある日実家で目にした一枚のDM。
まあ、、、、! なんて素敵なジュエリーたち。いったいどこのものなんでしょうか??と裏を見てみたら、以前Shoka:へ来てくださったあの方が紹介してくれたnoguci BIJOUXのものではありませんか。
上品で、金属の持つ硬さや冷たさをうまく抑えた金の輝きや揺らぎ、天然石の持っている静かな輝やきを活かした仕上がり。
これは私が探していたものだ、
ああ、こんなに素敵でいいものだったんだな、と惚れ惚れ。
私の中にいつの間にか育っていた繊細なものに対応する糸が震えたのでした。
実際にみてみたくて、私は彼女に連絡を取り東京へ。
恵比寿にあるnoguchi BIJOUXのショップ。
キラキラとしたショーケースが並ぶ、というのではなく、noguchiの表現したいものづくりの背景が見えてくようなサロンという雰囲気。
それがとてもいい。
ちゃんと世界観を持っていて、空間ごとnoguchiを表現しているのだ。
あの日沖縄で出会った素敵な女性で、noguchiの営業と後方を担当している森定さんがジュエリーボックスを幾つも開いて、見せてくれた。
ときめきの時間。
私たちは誰しも美しいものが大好きで、こんな風に自分だけの箱に入れてコレクションしたいという欲求を持っているのではないかしら?
宝が詰まった箱を前にうっとりとした時間が流れた。
この一点のリングにnoguchi のものづくりのエッセンスが詰まっているように私は感じる。
ホワイトゴールドは14k。私たち東洋人の肌にしっとりと馴染むように独自のブレンドを探求してできた色だという。磨きすぎて、その柔らかさが失われないように仕上げられている。
控えめに輝く小さなダイアモンドたちは、brown diamond。天然の色なので明るめだったり、濃かったり、様々なのがいい。石の輝きを抑えるために14kの台座には焼きを入れて煤で黒く仕上げている。
ああ、好みだ・・・・
デザイナーの野口氏はファッションを学び、服の世界からジュエリーへと転身した方。その人に似合う服を着た後、その服のコーディネートを完成させるように仕上げるジュエリーを作ることを軸にしたものづくりをしている。
それは、すごく素敵に服を着こなしている人が、主張しすぎた派手なジュエリーを身につけることで全体を台無しにしてしまっていると感じたことが何度もあったことがきっかけとなってジュエリーの世界へ入ってきたという背景が彼にはあるからだろう。
イエローの14kも光りすぎず肌に寄り添うような柔らかな輝き。彼はあえて14kというブレンドを選んでいるのだ。
彼はなかなかメディアにも、ネットにさえも顔を出さないことで有名で、私も今回初めて森定さんから氏のプロフィールをいただいて本名が分かったくらい。
ジュエリー自体にスポットを当てているのもまたnoguchiのジュエリーの控えめな美しさと繋がっていることを感じる。
以下が野口氏の略歴だ。
『野口尚彦 Naohiko Noguchi
1968 年東京生まれ。文化服装学院テキスタイル科卒業。 テキスタイルデザインを学び、更なる技術習得ために渡伊。一時帰国の後、
1999 年よりフリーランスのアクセサリーデザイナーとしてフランス・イギリス・日本 で活動。 2004A/W に初めて noguchi としてのコレクションを発表し、
2005 年(2006S/S)からは Paris の PREMIERE CLASSE に出展。
2006 年 東京恵比寿に直営店をオープン、以後伊勢丹新宿店、髙島屋大阪店、 (*髙島屋大阪店は 2013 年 3 月クローズ)
2011 年には更に大人の女性に向けた提案として、noguchi とは異なるコレクションラ インによる NOGUCHI BIJOUX 青山店をオープン。
そもそもファッションが好きで、その業界を志し学ぶ。 そしてデザイナー自身のファッション感覚から女性を見た時、装飾品であるジュエリー が、トータルコーディネイトの中でその存在を主張しすぎていることに違和感を感じ、 毎日のなにげない装いの中に 自然にとけ込み、ちょっとした華やぎを添え、いつでも 気軽に身に着けていられるような、「アクセサリー感覚」としてのジュエリーがあれば もっと似合う、もっと自然だ、という独自のバランス感に基づいて、独学で作品を作り 始めたのが、ジュエリー制作のきっかけとなる。
noguchi のジュエリーは、そのひとの肌に馴染み、服に馴染む。 微妙なゴールドの色合いや、テクスチャーによる表情、ダイヤモンドの選び方、配置の 仕方はすべて独自の感覚。自身の美意識に基づいて選んだ素材を用いて、細心のバラン ス感覚でデザインされたアイテム。 身に着けていて違和感がないけれど、女性を満足させる存在感もきちんと持っている。 同じジュエリーを着けていても、ひとたびファッションが変われば、カジュアルにもモ ードにもスタイルが変化する。 本物で遊ぶことのできる大人が身につけるのにちょうどよい、なにげないさじ加減。 新しいのにどこか懐かしさや温もりを感じさせる noguchi の作品は、 デザイナーの手の動きが見えてくるような、独特で無骨な存在感を放っている。 』
一つづつあげたらきりがない。けれどこれは伝えたい。
天然のパールは本当になんとも美しい。内側から発光しているような細やかな光り。じっと見つ目ているとわかるのだけれど、光りの粒がとても細やかでそれに全ての色の輝きが詰まっているのだ。まるでちょうちょの羽の鱗粉が溶け込んだかのように。
他の天然石とは違って、生きた真珠貝たちが体内で作り出しているからなのだろう、有機的な美しさには生命を感じる。
その真珠が、硬くてギラギラした金属に捕まえられ台無しだと感じるジュエリーは世の中にたくさん出回っていると私は感じてきた。
そこで、このnoguchiのリングを見つめてみてほしい。
天然の真珠の持つ繊細な形とその揺らぎをそっと支えるような14kの台座。
ここにこそパートナーシップの真髄を感じる。お互いが魅力的に見えるのが素晴らしい。
上質な日常着、暮らしの中にあるしあわせ。そこを伝えたくてShoka:を運営している私にとって、noguchi のジュエリーはしっくりくるものづくりをしていることを感じています。
大好きな服、それは白いシャツにデニムだっていいし、気持ちよく肌に馴染んだコットンTシャツだっていい。ざっくりとしたウールやカシミアのニットにいつものパンツ。そんな日常着を着た後に、noguchiのジュエリーを最後に身につけて、うん、今日の気分を身につけているぞ、と私の感覚がキリッとしたら、きっとその日は楽しく美しい1日。
そう、なんだか意識を日常の中で自分自身に向けるきっかけになるような、そんなジュエリーたちなのです。
もともとジュエリーには日常的に身につけるお守りの要素もあるのですから、今年の思い出を刻印するように、大好きなジュエリーを自分のこれからに向けて選んでもらえたらこの上なく嬉しいと感じています。
今回またガラリとShoka:の空間を変えての「贈り物店」私もとても楽しみです。
私も記念になるような一点に出会いたいと願っています。
田原あゆみ
******************************************************************
「贈り物展 noguchi bijoux と、日常を特別にするものたち」
12月2日(金)~25日(日)(noguchi BIJOUXの展示は18日(日)まで)
ヨーロッパへ何度も旅するうちに、noguchi bijouxのジュエリーの良さをじわじわと感じている。繊細さや、特別なものを日常の中に取り入れる時の引き算の品の良さ。とても美しい佇まいと程よいきらきら感が好きだ。私たち東洋人の肌にしっくりと馴染む謙虚さもとてもとても素敵なのです。
日常を特別な気持ちで過ごす、そんなコンセプトでShoka:が集めたミナ ペルホネン・ARTS&SCIENCEの服や雑貨たちもセレクトしています。
******************************************************************
暮らしを楽しむものとこと
Shoka:
沖縄市比屋根6-13-6
098-932-0791(火曜定休)
営業時間 11:00~18:00