『ぬくもりと粋』竹俣勇壱 + 郡司庸久 郡司慶子 企画展に寄せて VOLⅠ

写真・文 田原あゆみ

 

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7月20日(日)から29日(金)まで開催される企画展では、写真の3人の作品がShoka:に並ぶ。
左から彫金作家の竹俣勇壱さん、陶芸家の郡司慶子さんと庸久さんご夫婦。
竹俣さんからオファーを頂いた時に、Shoka:ではカトラリーだけで展示をした時のひんやりとしたイメージよりも、ぬくもりがあって重みのある陶器と並べた時にお互いの美しさが引き合うのではないか、そう直感して郡司さんたちの作品と一緒に展示する運びとなった。

 

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金沢在住の彫金師 竹俣勇壱さんに出会ったのは5年ほど前。知り合いのギャラリーでの打ち上げの時、ほろ酔いの竹俣さんが「沖縄に呼んでくださいよ~」と軽やかに言った。お願い上手で人懐っこい人だな、とその時感じた印象は今もなお崩れてはいない。

 

そうそうたるメンバーで飲んでいたので、きっとこの人の作品も素敵なのだろう。そう感じつつ、当時私は彼の作品のことも仕事の背景もまだよく知らなかった。
ただ人相のいい人だな、ということが強く印象に残った。
ほろ酔いで少し垂れた目尻は笑っていて、顔はふくよかできめ細かな肌は光っていた。福顏だ。

 

 

普段雑誌もあまり読まない私は、意外かもしれないが作り手のことにそんなに詳しくはない。何処かへ出かけた時に惹かれるものや人に出会った時に初めて知りたい触れたいという動機が生まれるタイプだ。そう、私は言葉そのままの意味での出会い系。

 

竹俣さんと出会った当時は違う案件で訪れていたので、いつかちゃんと彼の作品に触れようと胸に刻んだ。

 

2017年の晩秋にその機会は来た。金沢を訪れる理由がまた一つできて、そこに幾つかの用事を入れた。美術館でのレセプション、3つの工房めぐりと行ってみたいショップが一つ。そこに温泉と美味しいもので彩りを添えた。

 

竹俣さんは彫金師として元々はジュエリーのデザインと製作に関わってきた。彼の地元である金沢には町屋を活かしたKiKUというアトリエ兼ジュエリーショップと、sayuuという、やはり町屋を使った生活道具の工房兼ショップがある。

 

KiKUは「目が利く」「鼻が利く」という感覚からくる美意識と、「菊」という花の名前をかけたのだという。

 

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2012年に開店したsayuuの空間。
格子戸から差し込む自然光が感じられるように店内の照明は抑え気味。竹俣さんが手仕事で作ったカトラリーやデザインに関わったもの、またアンティークや、古道具が程よい間を残した中に並ぶ。

 

様々なカトラリーがコーナーごとに並べられてはいるが、どれが竹俣さんの手で作ったものなのか、どれがアンティークで、どれが量産品として企画され明治時代の古い型を使って竹俣さんがデザインに関わったものなのか、本人に聞かないとわからない。
なので、空間自体はとても美しく厳かささえ感じるのだけれど、自由に気楽にゆったりとものを見ることのできる空間なのだ。

 

そんな展示の仕方に、店主でもある竹俣さんの美意識を感じた。

 

「美」というのは感じるその人の個人的な目線で測られ楽しむもので、本来自由なものである。そんな独自の美意識でものづくりをし、商いをして生きている彼の感覚は、外から与えられる体系的な美意識には所属していないのだろう。

 

そうそういろいろ経歴を見ていたら、彼は学校で学ぶことをせずに、すぐにものづくりに関われるよう工房の現場に弟子入りをして働くことを選択したという。専門学校へ行っても卒業して彫金に関われるのはほんの一握り。それならば作りながら学べる現場を、と。

 

2002年に唯一の財産であったバイクを売って資金調達し独立をして工房兼ショップを持ったことで現在に至る。

 

KiKUもsayuuも両方とも町屋を活かした作りになっているが、観光客需要を意識してこの空間を作ったわけではなく、風情のある場所に住みたくて空き家を選び自宅兼用で店と工房を開いたのだそう。けれど新幹線が金沢を通るようになってから観光客が増えて気軽な格好で外を歩くことができなくなってしまい少し住みづらくなってきたという。

 

現在今年の秋オープン予定で、家をテーマにそこで使われる生活道具をデザインし展示するショップを準備中だ。それもやはり古い家をリノベーションしてその空間を作っているのだそう。金沢を訪れる理由が一つできて、いつか行くのがとても楽しみだ。

 

 

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今回も竹俣さんの顔はほんのり赤く、目はほろ酔いで垂れ気味。
仲間内では酒仙と呼ばれることもある。なんだか納得。

 

 

ジュエリーを作っていた彼がカトラリーを作るきっかけになった話が面白かった。
ある日店番をしているところに、塗師の赤木明登さんがふらりと入ってきた。
「わ、この人作家の赤木明登さんだ。わ、作家がうちの店に来たぞ」と内心興奮気味に見ていたら、竹俣さんが作った茶匙を赤木さんが手に取った。
しばらく眺めたあとに、「これは誰が作ったの?」と。
「僕が古いものを写して作ったものです」

 

「注文したら作ってくれるの?」

 

「はい、できますよ」

 

そうして作ったことがきっかけで、赤木さんからお茶の道具の茶匙の注文が入り、そのうち企画展の話も来るようになった。そうしているうちにジュエリー作家だった竹俣さんはカトラリー作家としても名を知られるようになり、二つのジャンルの製作に関わるようになっていったのだ。

 

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「ジュエリーというのは材料によっては価格は天井知らず。そして、お客さんのほとんどは女性客で、とても小さな世界でものが回っているんです。
一方カトラリーは製作にかける手間や時間はそんなに変わらなくても、生活の道具なので単価を上げることは難しい。けれど、ギャラリーの方たちに声をかけてもらうことで多くの方たちとご縁ができて、こうして僕をいろいろなところへ連れて行ってくれるのです。
赤木さんとの出会いから、世界が広がって今ではこの二つのジャンルが僕のものづくりのバランスを取ってくれています」

 

 

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写真下の方にある手を使って仕上げたスプーンとフォーク。両方とも頭でっかちで柄は細長いので、手で持った時にバランスが取りにくい。いわゆる使いづらさがあるデザインとなっている。

 

が、しかし。その使いづらさが人の所作を美しくもするのだ。このスプーンは食べ物を載せる部分が心持ち平たくて少量しか載せられない。集中してそのスプーンを持ち、少しづつ口元へ運んで食事をする姿は美しくなるのだという。

 

なるほど。

 

私は単純にこのデザインが美しくて、多少の使い辛さがあっても使ってみたいと感じた。
その上にある型抜きのカトラリーたちは明治時代に西洋もののカトラリーを初めて量産した頃の型を見つけて新潟県の工場で量産しているものたち。ピカピカに仕上げるのではなく、少し古めかしさを感じる仕上げを施しているのが竹俣さんらしい。

 

竹俣さん、カトラリーにもいろいろなシリーズがあると思いますがシリーズ名はあるんですか?と聞いてみたら、
「無い」との返事。

 

やはり、美しさも選ぶ目も全部自由。作る僕自身もいいな、と思うものを作るので、選ぶみなさんもどうぞ自由に選んでください、ということだろう。

 

彼のそんな美意識には「粋 – いき」を感じる。心意気のいき、だ。

 

彼の作る形には「粋 – すい」を感じる。彼の感じる美の形には余分なものが残ってはいない。

 

 

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そんな竹俣さんの作品たちが初めて沖縄へやってきます。本人も20日(金)は在廊予定。比屋根へGo!

 

ここから先は、全国的に人気がある益子で活躍する物語の中の主人公のような陶芸家夫妻のこと。

 

 

 

バージョン 2 – バージョン 3

 

郡司庸久さんと慶子さんは、2015年にそれまで12年間作陶していた庸久さんの故郷日光の地を後にして、益子へ窯を移した。
郡司夫妻は二人とも益子にあるギャラリーショップ、スターネットとの関わりが深い。スターネットの創設者である故馬場浩史さんに見出されて育ててもらったという庸久さん。福岡出身の慶子さんは東京の美大を卒業した後、やはり馬場さんの世界観に惹かれてスターネットに就職。二人はスターネットで出会った。

 

 

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この二人はまるで兄弟のように似ている。全体の線も似ているのだが、醸す空気感もそっくり。こんな風にいいお仕事を一緒にしている夫婦やパートナーに出会うと、二人の出会いは約束されたことなのだろう、とつい感じ入ってしまう。
庸久さんが主に陶器を作り、慶子さんがイッチンと呼ばれる技法や筆を使って絵付けをする。ただ、明確に仕事を分けているわけではなく、デザインや世界観作りなど二人で話し合いながら進めることが多く、明確に分担しているわけではないそうだ。

 

そんな彼らの生活とものづくりについてはShoka: HP『ぬくもりと粋』竹俣勇壱 + 郡司庸久 郡司慶子 企画展に寄せて Vol Ⅱにてどうぞ。

 

あまりにも長くなってしまうのでVolⅠとⅡに分けました。皆様後半もどうぞ楽しみに。

 

Shoka:田原あゆみ

 

 

 

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竹俣勇壱+郡司庸久 慶子企画展 「ぬくもりと粋」

 

七月二十日(金)~二十九日(日)会期中無休

 

作家在廊日二十日(金)

 

金沢在住の彫金師 竹俣勇壱さんのカトラリーと、益子でご夫婦で作陶をしている郡司庸久さん慶子三ご夫婦の陶器の作品展。

 

竹俣さんが作るカトラリーたちは、使い勝手がいいのとはちょっと違う。美しいフォルムで思わず触れてみたくなる「美しさ」がそこにある。そんなカトラリーを使っていると、いまこの瞬間の食卓の景色が特別な空気感となるのを感じる。

 

「ジュエリーを作って来た中で、ある日気まぐれで作って展示していた茶匙を塗師の赤木明登さんが見て気に入ってくれてお茶の道具を注文してくれた。その縁で僕はカトラリーも作るようになったのです。カトラリーはジュエリーと違って生活道具なので単価があまり高くてはいけない。なので利益は少ないけれど人との縁を広げてくれるんですよ」ほろ酔いの目を細めて語った竹俣さん。彼の作品は使う人々とその生活を見据えながら、その中の美をゆるぎない形の中に収めている。「粋」だな、と感じる由縁だ。

 

日光から益子に工房を移した郡司庸久さんと慶子さん夫婦。彼らの生活に触れて感じたことは、生き物への賛美や、いにしえから絶え間なく続く人の営みへの微笑みが彼らの現代的な感性の中に溶け込んでいるということ。彼らの作る器に触れていると小さな明かりが灯るような感覚があります。二匹の犬の世話を交代でやっているため今回は庸久さんだけがやって来ます。次回は慶子さんにもお会いしたいですね。

 

一見対局に離れているようで、作り手の暮らしぶりが感じられる血の通った企画展になりそうでとても楽しみです。

 

 

 

 

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暮らしを楽しむものとこと
Shoka:
 

 

http://shoka-wind.com/
 

 

沖縄市比屋根6-13-6
098-932-0791(火曜定休)
営業時間 12:30~18:00