ワーペンウエフトvolⅠ YAMMAの仕事 『あなたと私とあの人でできること』

 

写真・文 田原あゆみ

                   

 

 

 

不思議な偶然の重なりが出会いを生む。

 

3年ほど前のこと、陶芸家の小野哲平さんが「あゆみさんニューヨークに住んでいるパワフルな女性がいるんだよ。YAMMAという会津木綿のお洋服を作っていて、ニューヨークで日本の手仕事を紹介している人なんだけど、ぜひいつか会ってみて。シングルマザーでたくましい女同士気があうよ、きっと」とのたまった。
聞いた時まで持っていた会津木綿へのイメージや、ニューヨークでギャラリーを経営できるだけの器量と経済力を考えると、百戦錬磨の逞ましいおばさまなのかしら?と自分のことは高い棚に置いてイメージし、あとはすっかり忘れていた。

 

2018年の1月、CALICO : the ART of INDIAN VILLAGE FABRICS の小林史恵さんを取材しようとインド行きが決まった。ある会社の社員旅行のツアーに私も同乗したのである。そのある会社というのがYAMMAで、その代表の山崎ナナさんこそが小野哲平さんが私に話していたその人だった。

 

彼女が現れると、場の空気がパーッと明るく賑やかになる。周りを元気にするような空気を持っている人なのだ。
これは持って生まれたものなのか、彼女の生き様が作ったものなのか?
聞くところによると、ある年の益子の陶器市ではマイケルジャクソンがやって来て買い占めているらしいという噂が立つほどの買いっぷりで、益子経済を大いに盛り上げたという。CALICOの小林史恵さん曰く、仲間内ではインドの富を象徴するラクシュミーと呼ばれているのだそうだ。

 

そんな逸話が生まれるような彼女は、場が自然に盛り上がる空気を持つ人だ。
そして観察していると、お金はものに変えて初めて価値となるということをわかっている人だと感じた。感動したもの、応援したいものにお金を流す、というような気持ち良さがあるのだ。

 

最初に話を聞いていた時に想像していたおばさま像は微塵もなく、明るくておきゃんななんとも魅力的な女性。頭の回転が良く、即断即決できる肝の太さはまさしく器の大きな経営者タイプ。しかもとても軽やかで、今の流れにすごくあった感性の持ち主なのだ。
インドの旅行中、仕事の話やYAMMAの誕生から現在に至るストーリーを公私織り交ぜて聴いているうちに、私はすっかりナナさんフアンになってしまった。
人生がドラマチック、且つ面白いのだ。

 

 

 

YAMMAは「長く使えるものを作れば、長く使ったというコトが生まれる」ということをコンセプトに2008年に設立されたブランドだ。
よそのアパレルブランドで働いた経験はなく最初から独自の路線を追求したところに興味を覚えた。

 

英文科の大学に3年通った後、もともと美大へ行きたいという願望があった彼女はある日思い立って退学し、美大へ進学することを決意。在学中にバイトをして貯めた200万円の資金を元に上京。
半年間営業の仕事をガンガンやって、貯めたお金で残りの半年間を美大の予備校に通う、ということを5年間続けた。
「私営業の才能があったんですよ」と自負する彼女。5回目の受験で晴れて美大の先端芸術表現科へ。

 

当時その科では、アーティストの表現をよりインターナショナルなものにすべく「表現のコンセプトと社会性」というテーマを徹底して生徒に問いかけていたという。

 

大学院まで進んだ彼女は社会に出た時にどんな仕事ができるのだろうかと考え、自身の才能について客観的に分析し続けた。
舞台美術に取り組んでいた頃、自分はデザイナー向きだということに気がついた。舞台で演じる人々、脚本のストーリー、舞台の空間をどのように作り上げるとそれらの素材が活かせるのか?それを考え自分なりの答えを見つけて表現する。
全く無から生み出すよりもそれぞれのニーズや個性を踏まえてのやり取りの中で、こんなことができますとか、こんなものはどうだろうか?とひねり出すということが向いていると分かったのだという。

 

そして卒業間近な在学中に妊娠。シングルマザーになることを決意し、3年間は定時に上がれて定収入がある事務職に就いて子育てをメインにしたのだという。さらっと書いたが、社会に出る前に飛ぶにはかなり高いハードルだったと思う。
27歳で大学に進学し6年目のことだから当時彼女は33歳。きっと様々な葛藤があっただろうが、受けて立ってゆくその姿勢はなんとも逞しい。

 

「よく、直感型の行き当たりばったりで行動しているように見られがちなんですけれど、実は石橋を叩いて渡るタイプなんですよ。考える時間は結構長い方」

 

そう語る彼女は、子供ができたことで自分のペースでできる仕事で起業することを決めた。
デザイナーが向いていることに気がついていた彼女は、彼女の母親が裁縫師だったこともあり布を扱うことが自然だと思い立つ。
さてそれをどんな風に作っていこうか?

 

どうせ作るのなら無駄なものは作りたくない、そして地域の人たちを起用する仕事をしたい。大学で学んだ「表現のコンセプトと社会性」を意識して、自分に合ったやり方を模索。いつか、手仕事で産業を起こしたいそれが彼女の持つ夢だった。

 

そして、武蔵野に住む高齢者の方達の力を借りて縫製し仕上げることの出来る仕事を思いついたのだ。

 

 

 

そうして2008年1月にヤンマ産業を設立。
ナナさんがデザインし、武蔵野のおばあさまたちが縫製して仕上げるバッグや小物などの雑貨たちでスタート。そのスタイルがある編集者の目に留まり、翌年には暮らしの手帖39で取材を受け、フアンを増やして行った。
そうしていつか洋服のブランドをと考えていたことを徐々に実現していったのだ。

 

上の写真はその「暮らしの手帖39(2009年3月号)で取材を受けた時の記事写真。
(設立から10年を経て、現在おつきあいしている縫製業者は高齢者の方たちだけでなく、若い世代の人々も増えてきているそう)

 

 

 

そのヤンマ産業が手がけるブランドYAMMAは「長く使えるものを作れば、長く使ったというコトが生まれる」ということをコンセプトに設立された。

 

 

モノとコトを結びつけたこの視点、とてもナナさんらしいと感じる。
使い捨てのものではなく、長く使えるものを提供した結果、気がついたら、あら私長いことこの子を使っているわということになる。気づかなくても、その出来事が生活の中にいつの間にか生まれている。

 

長く使えるものとは日常着の場合、

 

○時代に左右されず、飽きがこない形や色。
○日常着として洗濯機でどんどん洗えること。
○着心地がいいもの。
○買いやすく、価値と価格のバランスの良いもの。

 

この4つではなかろうか。

 

 

 

YAMMAの事務所を訪れた時にスタッフの二人が着ている服を見て、会津木綿を使ったYAMMAの服が4つの項目に当てはまっていることを感じた。

 

この写真を撮った日、私は2回目の来訪。インド旅行以来久しぶりに再会した私に、社員の皆さんが美味しい食事を用意してくれた。2008年当初ナナさんが一人で始めたYAMMAには、現在才能溢れる素敵な社員3人とバイトさんが4人いて、受注会のサポートから営業と、他にも諸々臨機応変に対応することが求められる仕事たちをしっかりと支えている。
大波小波、様々な出来事を共に乗り越えてきたメンバーの結束は固く、個性を発揮しながら和気藹々と船を進めている。人のする仕事はこうあるべきだな、と私の心も緩み、そしてお腹が鳴った。

 

 

 

いただきます!

 

そして・・・・

 

 

食事が美味しかったせいもあり、全員がしゃべりすぎるということがいちばんの原因で初日はインタビューの時間がほとんど取れなかった。
で、私はしめしめと翌日近所のファームのおいしいイチゴをたんまりと持って再度お邪魔させていただいた。
その時にもみなさん嫌な顔一つせず、イチゴサンドを食べたことがないという私のために忘れられない初イチゴサンドを作ってくれた。

 

 

その親切で有能な彼女たちの動きを見ていて、YAMMAの服は日常的な仕事をするのにすごく向いているんだなと、感じた。日常の中で一番動かすことが多い手の周りが特に考えられていることがわかる。よく水仕事をする女性たちにとって袖丈は邪魔にならないくらいがちょうどいい。けれど決して寒すぎないような丈に収まっているのだ。そして可動域が小さいと窮屈な肩周りは動きやすくちゃんとゆとりが取られてある。けれどちっとも古臭くないくらいの、ゆとり。
スカートやワンピースの丈も軽やかで動きやすそう。それでいて、乙女心は潤してくれるくらいの微妙な丈だ。

 

長い伝統工芸の会津木綿がきっと持っていただろう野良着の泥臭さが、スタンダードで都会的なラインに収まることで、フェミニンな印象となっている。YAMMAの服は、肩肘張らない女性のための日常着。

 

 

またこの生地の特色として、堅牢度の高い染色がなされているので、お洗濯を繰り返しても色あせがしにくいという。洗って洗って何度も着るうちに、気がついたら柔らかくなった木綿の服を20年も着ていたなんていうこともありそうだ。デニムのように着ることのできる日常着という感じだろう。

 

 

 

 

無駄なものを作らない

 

ナナさんは、無駄なものを作らないためにできることはなんだろうと考えた。
そして思いついたのは、直接お客様から受注を取ってから発注生産するというやり方。

 

今回Shoka:にやってくるのは今年の10月に納期予定のサンプルたち。綿素材を使い通年着られるようデザインされたものなので沖縄にはとても向いていると感じる。

 

YAMMAで使う会津木綿の布は実際に工場で作り置きされた布はなく、ほぼ100%が受注を受けた段階で織る体制に入るのだそう。全く無駄がない生産体制が打ち立てられている。

 

ただし、受注が確定してから布を織る体制に入るため製品が出来上がるまでに時間がかかるという側面がある。
見込みを立てて、余剰に作ることをやめると昭和の頃まで残っていたオーダーメイド制に近くなるのだろう。家族のためにどのくらい作物を育てたらいいのかを考えてから畑に種を蒔くことにも似ているのかもしれない。

 

 

 

会津木綿を生産する会社名はHARAPPA。
2015年に120年の歴史を持つ会津木綿工場の「原山織物工場」の事業を前社長の従兄弟の小野大成氏と、山崎ナナさんが継承することとなった。
前社長の急死を前に閉鎖されようとしていた伝統ある工場は、多くの人々の支援を得て再スタートすることができた。

 

ナナさんが立ち上げた会社はこうしてたくさんの人々との縁で、素材をも自社でまかなえるようになったのだ。もちろん対処しないといけない案件は山と積まれているのだろうが、仕事を支える人も増えた。当初ナナさんが志していた「手仕事で産業を立ち上げる」という目標は叶ったのだ。

 

大学で表現のコンセプトと社会性を学んだことと、自分自身のやりたいこと、そして子育てのことその全てが結実した体制が実現していることに感動を覚える。

 

 

 

 

「あなたと私とあの人でできること」

 

この言葉はYAMMAのHPから見つけた言葉。
ああ、この言葉ってナナさんにぴったりの言葉だな。私は心からそう思う。

 

実際この言葉の通りに出会う人々の方を向いて、仕事を生み出していった彼女。HARAPPAで働く人々や、縫製業者さんたち、そして全国の取引先や、時に受注会ではその店舗の顧客たちと顔を合わせることもあるYAMMAの仕事。
それは、一歩進んで「あなたと私とあの人でできることを、あなたに届けます」ということになり、お互いの顔を見合う中で交流が生まれていることに暖かい気持ちになる。「表現のコンセプトと社会性」に、この言葉が続くと、血が通う暖かい物事が生まれてくるんだな、とこの記事を書いていてじわじわときている。

 

今至る所で、未来のために変革しなければいけないという動きが出てきている。省エネや、働き方改革を意識する企業も多くなってきた。

 

資源を大切にしよう
無駄をなくそう
お年寄りや子供たちを大切にしよう

 

聞き慣れたその言葉はなんだか自分のことからは遠くて、他人事のようにメディアから流れ、どこにも引っかからないまま過ぎ去ってゆくかのようだ。
どうしてなのだろう?そこに欠けているものがなんなのかこの記事を書くことを通して私にも気づきがあった。
「誰かとの絆」があって生まれる「私たち」という言葉がそこにはないからだ。
「私たちの」という主語があって初めて、その言葉たちは己のこととしてハートへと入ってくる。

 

私たちの資源を大切にしよう
私たちの無駄をなくそう
私たちのお年寄りや子供たちを大切にしよう

 

言葉の重さや、実感が全く違う。

 

人は誰しも自身の存在意義を確かめ得る場所を求めて生きている。
志や方向性が重なった誰かと、私とあなたが出会った時に生まれることが世の中を明るくするんじゃないだろうか。彼女の人柄や仕事に触れて私の中の灯りがまた明るくなったのを感じる。

 

今の社会が潜在的に求めているのは、この言葉の中にこそあるのだと私は感じている。

 

 

 

服のシワを気にする人もいるだろうが、ナナさんはシワこそが面白いという。どんどん洗える会津木綿は洗いっぱなしのクシュっとした感じの中にこそ素材感が活きる。

 

 

右側の女の子は、ナナさんの一人娘。この子が生まれたことがYAMMAの理念の礎となったとも言えるだろう。アーティストタイプの彼女にはアメリカの教育が向いているに違いないと、HARAPPAを継承するタイミングで関係者の理解とサポートを得て渡米。現在山崎ナナさんはニューヨーク、会津若松、東京、そして京都の南山城村に拠点を持ち活動している。

 

世界を回る回遊魚のような行動力と、手仕事を産業にという志を持ったスタミナ抜群女史・山崎ナナさんのYAMMAの服を初めて沖縄で紹介します。

 

詳細は巻末にてご参照ください。

 

そしてここに書けなかった秘話や、私が伝えたい人が社会に差し出す仕事がその人らしくあればあるほど素晴らしいギフトとなることなど伝えたいことはてんこ盛りだ。なのでやはりここはトークイベントの開催をいたします。
詳細は巻末からどうぞ。

 

そうそう、CALICO the ART of INDIAN VILLAGE FABRICSの展示も一緒に開催。

 

手仕事で産業を興すことを掲げたこの二つのブランド。代表同士も家族のように仲良しで、「Warp &Weft ワーペンウエフト(縦糸と横糸)」というタイトルで、各地でイベントをしています。今回Shoka:で開催するのもこのイベント。

 

CALICOの記事はこちらからどうぞ。やはり素晴らしい仕事をしているブランドです。

 

「暮らしの中の旅日記 横糸と縦糸の風景 ~ インド編」

 

 

トークイベントも是非どうぞ!
申込み詳細はShoka:HPにて近日公開いたします。

 

 

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Warp & Weft in OKINAWA

 

CALICO the ART of INDIAN VILLAGE FABRICS + YAMMA

 

4/27 sat~5/12 sun @Shoka: 12:30~18:00

 

世界回遊魚女子スタミナトークイベント「手仕事と産業と志」4/27 Sat 17:00開始

 

Warp & Weft(ワーペンウエフト)とは縦糸と横糸という意味。このイベントは手仕事を産業にすることで、作る人、紹介者、着る人みんなが対等で幸せな関係でいられるという考えのもとに活動するCALICOの小林史恵さんとYAMMAの山崎ナナさんが企画しています。
手を経たものを大事に長く。そんなことが大切な時代ですね。私も深く賛同しています。

 

去年に引き続き、小林史恵さん主催のCALICOの服を紹介します。インドの伝統工芸カディを使い、現代生活の中に溶け込むようなデザインされた服たち。着る人によってスタイリッシュにもナチュラルにもテイストが変わるのがその魅力。1枚目の写真はCALICOの服を、写真家の在本彌生さんがインドで撮影されたもの。その着心地が伝わってくる素敵な一枚ですね。

 

YAMMAの服は長く大事に着られるように山崎ナナさんがデザインしています。素材も人の手も無駄のないようにするために完全受注生産制です。多いときには9割を廃棄するのが当たり前のような服産業の中で、人の手仕事で産業を興すことをテーマに、120年続く会津木綿の工場を引き継ぎ、その布を使い東京東部に住む人々の手で縫製をして仕上げられる服たち。今回サンプルを試して気に入ったものを受注すると秋風が吹く頃に出来上がってきます。洗うほどに着心地の増す目の詰まった木綿は沖縄の生活にぴったり。HPにて会津木綿の工場の様子など色々お知らせいたします。

 

 

 

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暮らしを楽しむものとこと
Shoka:
http://shoka-wind.com/
沖縄市比屋根6-13-6
098-932-0791(火曜定休)
営業時間 12:30~18:00