ユベール・マンガレリ 著 田久保麻理・訳 白水社 ¥1,680/OMAR BOOKS
― 音が聞こえてくる小説 ―
急に冷え込んだ昨夜から天気は荒れ模様。
閉め切った窓の外からは、吹き荒れる風や葉を叩く雨の音が聞こえてくる。
一日中かけている暖房の室外機の音も。
今回紹介するこの『おわりの雪』を読み終わって後はそれらの音がやけに耳に響く。それはあまりにも静けさに満ちた小説だったから。
年明け、最初に取り上げるのは、フランスの作家・ユベール・マンガレリの長編小説。
「トビを買いたいと思ったのは、雪がたくさんふった年のことだ」という冒頭から始まる、雪のよく降る街を舞台にした父親と息子の話。
水道の蛇口から滴る水滴の音を聞きながら眠る夜の深さ。雪の降り積もった地面に沈み込む足元から聞こえるサクサクとした音。見渡す限りの平原に音もなく降りしきる白い雪。父と子が見守る中、鳥籠の中でトビが羽を拡げる音。深夜そっと外出する母親が自動消灯スイッチをつける音。
印象的な場面がいくつも思い返される。
この物語の中でこんなにも様々な音が響き合っているのは、登場人物たちの静謐な心の世界がそこに横たわっているからだろう。
その彼らの自由な空想の中で、音は反響し、共鳴し合う。そしてまた彼らの悲しみまでその中に吸い込まれていく。
この物語の中で主人公の少年は、ある事を境に子供時代に別れを告げる。
子どもと大人の違いはなんだろう。
その答えのひとつが「気付いているのに、気付かぬふりをすること」。
少年はいつしかそれが出来るようになった自分を知る。相手の本心を気づいていながら、そのことに触れないようにすること。もし触れてしまえば相手を、またそれ以上に自分を傷つけかねないことを知ってしまったから。
この物語は少年が大人になる成長物語としても読める。
これぞ小説。
それぞれの事情を抱えた人々の心の機微が丁寧に描かれる。
彼らの心の声をしっかり聞き取ろうと、読んでいるうちに自然と耳を澄ませている。
しんしんと降り積もる雪景色が目に浮かぶ、豊かな情感に満ちた一冊です。
OMAR BOOKS 川端明美
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