『 オリーブ・キタリッジの生活 』思わず唸ってしまう結末ばかりの短編集。せわしない日常を送る燃料補給に、冬の空気のように静謐な文章をどうぞ。

オリーブ・キタリッジの生活
エリザベス・ストラウト・著 早川書房  ¥940(税別)/OMAR BOOKS 
 
― 人の「こころ」の不思議  ―
 
忙しい日々が続くと、ちょっと待って!と息をつきたくなるときがある。
そんなときは時間に余裕がなくとも無理にでも小説を手にするようにしている。
それも遠く離れた場所の物語だとなおいい。
その世界に入っていけば、またいつもの調子を取り戻す。
またせわしない日常を続けていく燃料補給のようなもの。
 
今回紹介する本『オリーブ・キタリッジの生活』もちゃんとその小説の役割を果たしてくれた。
  
ストーリーは、小さな港町クロズビーを舞台に、キタリッジ夫妻を中心にしてその町の住人たちの生活や人生が描かれる。
ささやかな暮らしを営む人々に一見大きなことは起こらない。
でも彼らはみな、あるときは心の内で嵐が吹き荒れ、またあるときは人生の岐路に立ち、大きな選択を迫られる。
 
その背景にいつもあるのは海と入り江。
 
「薬局」という短編は、長らく薬局を営んでいたヘンリー・キトリッジが家から店へ通い慣れた道の描写から始まる。
その風景がとても美しい。
毎日毎日、代り映えのしない生活だと思っていたのがあとになってあの平凡な日々が幸福だったと晩年の彼は回想する。
 
そう、その最中(さなか)にいると気づかないものなんだよなあ、と共感しながら読んでいくと話は意外な展開を見せ、どの短編の結末も思わず唸ってしまうもの。
これこそ、小説の醍醐味。
油断していたら目の前に熊が!というくらいすごいものを読んでしまった余韻がなかなか消えなかった。
  
派手さははっきり言ってない。
ただ著者は冬の空気を思わせる静謐な文章と、鮮やかな方法でもって、本人さえ気付かない心の奥底で眠っている感情を丁寧に浮かび上がらせる。
 
主人公が入れ替わる連作短編集になっていて、他人の人生を遠くから見下ろしている瞬間があるかと思えば、目の前の鏡に写る自分を覗きこんでいるような気分になる。
 
人の「こころ」の不思議さ。
それはまた他人の心をふるわせる。
その不思議を見事に描ききった本書。
 
酸いも甘いもかみ分けた大人のための良質な小説です。
 

OMAR BOOKS 川端明美




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