サンキューファーム生き物が棲み、子供たちのはしゃぎ声響く、美しい田んぼから、パリッホクッの皮付き田芋の素揚げを。

 

「祖母がよく言ってたのよ、『優(まさるぅ)、ターンムがわらと〜み〜(笑っているねぇ)?』って。正月とか田芋を家で蒸す時はいつも、僕が火の番をしてた。すると隣からこの声が聞こえてくるの」

 

幼い頃の思い出を懐かしそうに話すのは、田芋を自然栽培で育てる農家、サンキューファームの宮城優さんだ。田芋は収穫後、一度蒸す。蒸された田芋の皮にはヒビが入り、その裂け目からは薄い藤色の実が顔を出す。その様子を「ターンムが笑う」というのだ。収穫時期真っ只中のこの日も、宮城さんは、田んぼに併設されている小屋で黙々と田芋を蒸す。

 

「こうして蒸してるといい香りがしてきてさ、蓋を開けると真っ白な湯気が上がって、その向こうで田芋が笑ってるわけよ。それ見たらさ、自分の顔もほころぶの。この1年が報われたなあって、もう農家である喜びだよね。ああ、祖母が言ってたのは、この意味だったんだって。田芋だけじゃなく、自分も笑うってこと。35年経ってようやくわかったんだよね(笑)」

 

後継者の古勝アンドリュー直次郎君。「本土から帰ってきて、直感的に田んぼへ行かなきゃと思った。地元大山の伝統と関われるのが楽しいです」

 

 

その笑顔が見たくて、手塩にかけて育てた田芋。宮城さんには、オススメの食べ方がある。

 

「僕のイチオシは素揚げ。ここの湧き水は琉球石灰岩を通っているから、カルシウムとかミネラルが多いんだよね。だからかわからないけど、大山の田芋は味がぎゅっと濃いの。素揚げは、その味を活かせる一番の食べ方だと思う」

 

農薬も肥料も使わずに育てているからこそできる、皮のついたままの素揚げ。蒸した小芋を縦に4等分して、油の中に放り込む。一度蒸されているから、中まで火を通す心配は無用。高温で皮がパリッときつね色になるまで揚げたら取り出して、塩をパラパラと振って出来上がり。この上なく簡単な一品。

 

このシンプルさが、宮城さんの田芋の美味しさを十二分に引き出す。その味は、まさに絶品。ホクホクと混じり気のない素直な味で、淡白であるはずの田芋の味がしっかりと濃い。そして目を見張る美味しさがあるのは、皮の部分。パリパリとクリスピーで、大地の香りを閉じ込めたような滋味深さがある。通常、皮と一緒に除いてしまうヒゲの部分も、パリッ、サクッとして、ヒゲってこんなに美味しいんだと驚かずにはいられない。皮とヒゲの部分だけの素揚げも食べたいくらいなのだ。

 

 

こんなに滋味深さを蓄えているのは、余計なものが加わっていないから。農薬や肥料にも頼らない栽培方法のおかげだ。

 

「はっきり言って、農薬やらを使う慣行農法と比べたら、手間は3倍から5倍はかかるね。成長が違うわけ。化学肥料を入れると成長が早いのよね。うちはゆっくり成長するから、その分雑草が多くて草取りの手間が増える。通常は収穫まで3回くらい田んぼに入ればいいのを、5回くらいは入るね」

 

慣行農法だと8ヶ月から10ヶ月で収穫できるところを、宮城さんの田芋は、田植えから収穫まで丸1年かかる。宮城さんは、「別に苦労とは思ってないけど、楽しくてしょうがないってわけでもない。ただあるからやってる」と淡々とした様子。

 

自然のままの状態で「ただやる」理由。それは、宮城さんの幼い頃の思い出にある。

 

 

「田んぼは、僕の遊び場だったの。縦横無尽に駆けずり回って、魚とか追いかけてた。秘密の場所があってさ、こっちに行ったら、夏は冷たくて、冬はちょっと温かい場所があるとか。そっちに行ったら、こんな生き物がいるとかさ。カエルとかグッピーとか台湾金魚とか、もう色々な生き物がいて。嫌なことがあったら、いつも一人でここに来てた。秘密の場所だから、誰にも教えないで(笑)」

 

幼い宮城少年にとって、特別な場所だった田芋畑。大人になって再び訪れた時には、その姿はすっかり様変わりしていた。

 

「その後本土に出て、34歳で帰ってきたんだよね。で、久しぶりに田んぼに来たら、生き物が全然いなくなってたの。それまでに使っていた農薬のせいで、全部いなくなっちゃってたんだよね。生き物を殺してまで、人の食べるものを作るのってどうなんだろうって」

 

よほどショックだったのだろう、田芋畑を継いだ宮城さんは、再び生き物の棲む田んぼにしたいと奮闘を始めた。

 

「最初は、有機栽培から始めたんだよね。人と同じことをするのが嫌な性格だから、みんながしている慣行農法はしたくないっていうのもあった(笑)。その時は知らなかったんだけど、土の状態をちゃんと作ってないのに、有機栽培とかに走ってもダメというか。もう植えたとこ植えたとこ、全部パーで。草に勝てなくて、全然実が入らないし、成長しない。もうこれじゃあ生活していけない、どうしたらいいんだろうって。でもその時、農薬だけは絶対に使わないと決めたんだよね。農薬を使うと生き物って絶対死ぬから」

 

 

 

農薬を使わず、けれども生活のために、化学肥料を慣行農法の3分の1だけ使う方法に切り替えた。栽培がようやく軌道に乗った頃、大山の田芋畑一帯を襲う試練が訪れた。

 

「軟腐病という病気が蔓延したわけ。僕が思うに、これまでの栽培方法に問題があって、農薬と化学肥料の多用で、土の力が極端に落ちていたんだと思う。茎の部分は元気で、見た目ではわからないわけ。収穫しようと思って抜いたら、芋がソフトクリーム状に柔らかくなって腐ってる。回復させる技術もなかったもんだから、そういう状態が2年3年と続いて。60代70代の農家の人には特にきつかったんだろうね。難儀するだけだからって、だんだんみんな畑を放棄するようになって。もちろんうちも少なからず影響がありました。今はもう解決策ができたんだけどね」

 

 

 

軟腐病の影響で、大山の田芋農家の数はガクンと減ってしまった。地権者の相続も重なり、放置されたままの田んぼも増えた。大山全体の元気がなくなっていたちょうどその頃、宮城さんは、大きな影響を受けた人物に出会う。

 

「りんごで無農薬栽培に成功した木村秋則さんの本を読んで、こんな人いるんだ、この人すごいなって。タイミングよく沖縄で講演会があって、偶然にもチケットが手に入ったんで、聞きに行ったんです。木村さんは、9年もの間家族を露頭に迷わせて、最後には死まで考えて。それでも難しいりんごで無農薬栽培を成し遂げた。ある意味、気がおかしい(笑)。話を聞いて、『やらんといかん、これでやらんと』と思った。あれが本当にきっかけだった」

 

講演の翌日から、少量使っていた化学肥料もすっぱりやめ、自然栽培に切り替えた。

 

「これ以上、田んぼに棲む生き物を減らしたくないから。田んぼには、何も入れないし、何も足さないってことを徹底して。入れるのは僕の愛情だけ(笑)。朝来たら『おはよう』って声かける。『美味しくなってね』とか『虫に食べられてごめんね』とか。効果あるんじゃないかと思う。一人で喋って危ないけどね(笑)」

 

成長段階で、光合成をたっぷりしている大きな葉。木が低くなり、葉が小さく黄色くなると、収穫時期の合図。

 

「田芋は、正月やシーミーに欠かせないもの。先祖崇拝とか沖縄の根底にあるものと繋がる、ありがたい食べ物だよね。『ありがた〜いも』を定着させるか(笑)」

 

宮城さんが、これほどまでに田んぼに棲む生き物にこだわるのは、自分が経験してきたことを、子供たちにも経験してほしいからだ。

 

「なんとかここを子供たちの遊び場というか、フィールドにしたかったの。自分がずっとここで遊んで、生き物に触れ合えたからね。例えばこんな思い出があってさ。僕は、ここでいっぱい取った生き物30匹くらいを、こんな小さい水槽に入れて、見て笑ってたわけ。そしたら、翌日全部死んでるわけよ。『ああ、こんなしたら生き物って死ぬんだ』とかさ。まあいっぱい殺生もしてきた(笑)。子供って、そういう経験を通して学んでいくんじゃない?」

 

サンキューファームの一番手前の田んぼは、何も植えられていない。子供たちが裸足で入って遊ぶためにだ。子供たちが田んぼに入ることで、思わぬ効果もあるという。

 

 

「そっちの田んぼは田芋を植える前に、子供たちに入ってもらって遊んでもらったの。そしたら、田芋の成長が早い。子供達は大地とエネルギーの交換をするんだよね。だから子供のエネルギーをもらって大きく成長する。大丈夫、邪気のある大人が入っても、田んぼからエネルギーをもらってきれいになるよ(笑)」

 

自然栽培に成功した宮城さんの次のテーマは、子供たちと繋がること。ここで子供たちが生き物と戯れ、どろんこになって遊ぶ。ここでカフェや食堂を開き、皆で田芋料理を味わう。都市化された中にあって、皆が集まるオアシスのような場所にしたいと宮城さん。田芋は、宮城さんだけでなく、子供たちをも笑顔へと導いていくのだ。

 

 

沖縄で田芋は、親芋に小芋、孫芋が数珠繋ぎのようにできることから子孫繁栄を願う縁起物と言われる。そんな田芋の様子が、宮城さんを慕って集う人々の姿と重なる。親芋である宮城さんから、小芋である後継者の直次郎君、そして孫芋である子供たちへ。田芋が繋ぐ笑顔が、数珠繋ぎのように、この場所から永遠に続いていくように感じた。

 

写真・文/和氣えり(編集部)

 

 

サンキューファーム
宜野湾市大山5-34
070-5538-8965
https://www.facebook.com/39famu/

 

[2016年2月6日 ターンムの日のイベントのお知らせ]

2はウチナーグチでター、それに6(ム)で、2月6日は、ターンムの日。
サンキューファームは、イベントに参加します。ぜひご来場ください。

 

おうのやまHappy♪マルシェ
 日時 2016年2月6日(土)7日(日)
 時間 10:00~18:00
 場所 沖宮(奥武山公園内)
 内容 素揚げやムジ汁の販売
 https://www.facebook.com/おうのやまハッピーマルシェ-1524433831187976/?fref=ts

 

「タイモの夢 ~影絵の夜~」
 日時 2016年2月6日(土)
 時間 17:00開場 18:00開演
 場所 普天間神宮寺
 内容 太古からの水脈を流れた水が注がれる大山田いも畑。
    大きな葉っぱを広げ、土の中で田いもはどんな夢を見てるのかな。
    田いも畑の未来に想いをはせ、親子で楽しむ影絵の夜。
    参加費 大人:1,500円 親子:2,000円(きょうだい何人でも)  
    田いもの素揚げプレゼントつき
    お問い合わせ先 08043660780(古勝直次郎)