スーリヤ食堂循環の象徴、バナナの葉をお皿代わりに。南インドの野菜たっぷりカレー

南インドスパイシーチキンカレー定食

 

 

「手で食べる人、時々いますよ。スプーンを介さないで食べるのが、いい感じなんですよ。是非やってみてください」

 

挑戦させるのがいかにも楽しいと言わんばかりの、いたずらっぽい笑顔を見せるのは、スーリヤ食堂店主、大中優子さんだ。是非やってみて、と言われても、カレーを手で食べたことなんてない。どうすればいいのかわからず戸惑う。

 

「カレーとご飯を好きなように混ぜるんですけど、手のほうが食べやすいですよ。インドでは骨付きの肉や魚が入ってるので、手のほうが骨を外しやすいですしね」

 

促されるまま、思い切って右手をご飯に突っ込む。指先を使って混ぜてみる。

 

あれ、なんだか楽しい。子供の頃のどろんこ遊びを思い出したからか、手で食べちゃいけないという刷り込みから解放された気分になったからか。

 

指先から色んなことが伝わってくる。ほんわかと温かい温度、カレーの混ざったご飯の柔らかい感触、そしてスプーンと皿のぶつかる金属音のない、食べ物同士が混ざる音…。新しい世界を知った気分。

 

 

南インドのお味噌汁的なカレー、サンバル。タマリンドが入って少し酸味があるのが特徴

 

南インド野菜カレー定食

 

 

嬉しい発見はまだ続く。スプーンで食べるよりなぜか美味しく感じるのだ。その味は、とにかく優しい。インドのカレーってこんなに優しかったっけ?と狐につままれたような気持ちに。

 

「クートゥっていう野菜カレー、今日のはにんにくも生姜も入ってないんですよ。南インドのカレーは、野菜たっぷりで油は少なめであっさりしていますね。日本で食べられるインドカレーの大半は北インドのものじゃないでしょうか。ナンは北インドのもので、南インドはカレーをご飯で食べるんです」

 

 

 

多くのスパイスがブレンドされているにも関わらず、刺激や辛味の少ないマイルドなカレー。強いとろみはなく、サラサラとしたスープに近い。にんにくや生姜だけでなく、肉も入っていないのに、よくよく味わうと爽やかなコクがある。

 

「出汁も入れていないんですよ。ひき割りにした豆と季節の野菜とココナッツだけ。30分くらいでさっと作って、マスタードシードなどのスパイスを油で熱したものを最後にジャーっと入れるんです。それで味にコクが出るんですね」

 

この日の野菜カレーに入っていたのは、ひよこ豆のひき割りに、ゴロンとした里芋、キャベツなどのやんばる産の旬の野菜。これらの素材の旨味もカレーにじんわり溶け出ている。飽きのこない、日本人の味覚に馴染みやすいカレーだ。

 

 

 

「ご飯の上に乗せている丸いのは、豆の揚げせんべいで、パパドっていうんです。割ってご飯にかけたり、カレーにつけたりして食べてくださいね」

 

パパドには塩気があって、何も付けずに食べても充分味がある。塩気と香ばしいパリパリ感が、優しいカレーにいいアクセントを与える。

 

カレーのマイルドさと対照的なのはパパドだけではない。インドの漬物、アチャールはにんにくの効いた刺激的な味だし、野菜のスパイス炒めであるポリヤルは、モロッコいんげんのポリポリとした歯ざわりが心地よい。インドの天ぷら、パコラは、2度揚げのお陰でカリッカリのスナックのよう。味や歯ごたえの特徴を備えたバラエティ豊かな付け合せが、マイルドなカレーにメリハリを与えてくれる。

 

お勧めの食べ方は? 

 

すると一言、

 

「好きなように食べる!」

 

手で食べるのも、スプーンで食べるのも自由。パパドの食べ方や、カレーとご飯、付け合せの混ぜ具合も自由。インドカレーを食べるのに難しい決まりなんてない。それぞれが好きなように、自由に食べていいのだ。手が汚れたら「外に水やり用の水道がありますから、そこで手を洗ってくださいね」と優子さん。食事の途中でも席を立ち、緑豊かな気持ちのいい庭に出て、ホースから湧き出る水で手をすすぐ。かしこまらない雰囲気が心地よくて、自然と笑みがこぼれてくる。

 

 

サクナとゴーヤのパコラ。ひよこ豆の粉とスパイスを混ぜた衣で揚げる。

 

サモサ

 

チャイ

 

堅苦しくない雰囲気を作っているのは、優子さんが自由を謳歌する人だから。店に縛られることなく、趣味もしっかり楽しむ。長年続けてきたサーフィンは、店が忙しいという理由で諦めることはない。

 

「近所にいい波があるとわかると、明け方にお店に来てランチの準備を完璧にしてから、朝のうちに海行ったり。夕方にいい波があったら、早めにお店閉めちゃったり(笑)。仕事前に海へ行くとか憧れの生活だったんで、今サイコーです!」

 

ただ好きだから、やる。それ以上に小難しい理由は必要ない。「好き、やりたい、行きたい」という単純な欲求が優子さんの原動力だ。南インドカレーの店をオープンさせたのも、「野菜たっぷりで体に優しいから」「毎日食べても飽きないほど、自分の体に合っているから」という理由以外に、重きを置く理由がある。なんとそれは、「バナナの葉っぱが好きだから」。

 

「インドに行ったとき、バナナの葉っぱをお皿代わりにして食べるのが大好きだったんですよ。すごくよくないですか(笑)? 沖縄でお店をオープンさせたのも、バナナの木があるから。本土にはないですもんね。近所の知り合いの方からバナナの木を頂けることになって、自分でひっこ抜いて、お店の表と裏に植えたんです」

 

 

 

 

メニューにとどまらず、店の場所までをも左右した”バナナの葉”。それほどまでに大きな影響を与えたのは、インドでの生活が印象的だったからだ。

 

「インドでは、ヨガのアシュラムに2週間滞在したり、インド人の友人の帰省についていって、ホームステイさせてもらったり。アシュラムでも、泊めてもらったお家でも、キッチンを見せてもらいました。アシュラムのキッチンは聖域らしくて、なかなか見せてくれなかったんですけど、何度か頼み込んでやっと。見せてもらったら全然違うんですよね。日本のキッチンとは造りも鍋1つとっても全然違うし、インド料理の本で見てたのと、実際に見るのとでも違いました。ガスコンロがあるんですけど、それとは別に地面で火を炊く直火があって、そこでご飯を炊いたり。カレーに入れるココナッツは実から削って、皮の部分は捨てずに火に入れるんです」

 

中でも優子さんの心を捉えたのは、食べ物が循環することだ。

 

「バナナの葉をお皿代わりにして食事が終わったら、家で飼っている牛に食べさせるんです。牛がいないお家では、土があって裏庭にポイって。いずれ土に返っていくんですよね。だいたいどこの家にも、チリ(唐辛子)や、カレーリーフ、バナナの木が植わっていて、自分たちが食べるものは自分たちで育てて、食事で頂いて、いずれ土に返す。普通にパーマカルチャー、循環型のスタイルなんですよね。サーフィンでハワイに長期間滞在した時は、オーガニックファームという、そういうのを目的にしているところに滞在していたんですけど、インドに行ったら、それをわざわざ目指しているのではなく、自然にそうだった(笑)」

 

 

 

インドでの経験を、顔をほころばせ嬉しそうに話す優子さん。循環型の生活が大好きなのが伝わってくる。

 

「店のこの場所では、インドみたいな生活がしたかったんです! だから庭のある一軒家にこだわりました。裏庭に、お店で使う野菜やハーブ、スパイスをもっと植えて、育てていきたいですね。材料全部は難しいと思うんですけど、ちょっとでも循環型の生活に近づきたいんです」

 

優子さんはお皿を洗う前、新聞紙で皿に残ったカレーを拭き取る。そうすることで、水や洗剤の使う量を減らせるからだ。あるものを無駄にせず、大切に使う。これもインドの生活の日常。スーリヤ食堂は、ただ“南インドカレーを出す店”ではない。“南インドの生活を体現している場所”なのだ。

 

「でもそんなに無理はしないですよ。何でもストイックにはできないです(笑)。私はお菓子も食べますし、菜食でもないですしね」

 

そう言って優子さんはまた、いたずらっぽい笑顔を見せた。

 

文/和氣えり(編集部)

写真/青木舞子(編集部)

 


スーリヤ食堂
本部町伊豆味378-1
098-043-0358
11:30〜16:00
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