赤木明登 漆のうつわ「許容」

 

 

文 田原あゆみ  写真 桑田さやか 田原あゆみ

      

 

 

写真を見ていて思う。
年をとったね、わたしたち。背景とわたしたちの線がほら、やわらかく溶け込んできた。

 

前回の展示が2014年の9月。あれから4年。いろいろなことがありました。
職業柄出会いは相変わらず多い方。けれど別れはとても多くなった。

 

そんなことからも年を重ねたことを実感。
別れは様々。死別や生き別れ、短期長期と色々ですが、相手への思いが強ければ強いほど別れの哀切ほど狂おしいものは無い。
悲しみが鉛のような塊になり胸の奥深くに沈んで、もう二度と世界を以前のように眺めることはできないのだと思い知る。

 

ただ、この別れを何度も経験したあと気がついた。その哀切が世界をより美しくする。別れの暗闇が光をより明るくするのだろう。

 

あの鉛を飲み込み、受け入れた人を経たものには、それが言葉であれ、作品であれ所作であれ、許容の美しさがあると私は感じる。
それがもし器だったら、ささっと作ったおにぎりでも、佃煮、目玉焼き、へたをするとトマトやジャガイモをそのまま放り込んでもしっくりとはまり、互いの境界線が優しく溶け合い大らかに馴染むのだ。
若くて、自我と戦っているときの器は、たとえ形が美しくても向き合うものを弾いてしまい、なかなか景色となじまない。その初々しさを好む人もいるだろう。が、私はすっと指先に、目に馴染み溶け込むものが好きだ。

 

 

今回楽しみにしているものの一つはこの白漆のシリーズ。

 

このお皿、素朴さと優しさが美しい形の中に納まっている。
そして、まろやかな仕上げにうつわの許容の広さを感じる。
すこしぽっちゃりした柔肌。甘えられそうなその懐よ。

 

秋の食材をお料理して、この上に盛り付けて目でも愉しみたいものだ。
この漆器を含む今回やってくる器たちが楽しみでならない。毎回感じる世界が違うのだから。赤木さんを通して世に出る漆器たちはとても静かで、押し出す個性というよりも、一見普通に見える器からじわりじわりと良さがにじみ出る。いつの間にか見つめてしまう。そんな感じなのだけれど、全体から感じるものは毎回全く違うのだ。

 

その違いから、合わないでいた年月を彼がどのように生きたのかを推し量る。

 

 

赤木さんはコミュニケーションにおいては不器用なところがある人だと思う。彼の書いた本を読むと言葉は豊かで、文章は美しく静かに流れる川のように流れ込んでくる。がしかし、会話をしているとすこし噛み合わないことがある。多々あると言っても良い。楽しいのだよ。がしかし少しずれるのだ。まあ、私も飛躍したりウロウロしたり、ずれ気味なのだから「???」ということが必然的に多くなる。

 

こちらが投げかけた話題は彼を通り抜け、彼の世界の言葉が返ってくる。聞けば魚座だという。ふむふむ、自身の世界の中でイマジンが広がりその海で泳いでいるのか。水を通してしかこちらの言葉は届かないので、変容するのかもしれない。そしてタイムラグのあとちょっとずれた返答が返ってくる。

 

ああ、色々な人がいて世の中本当に興味深い。自身のことでさえ新たな発見で新鮮に感じる日々なのだから、他人のことは全くわからないと思ってかかった方がいいだろう。わかっているつもりになった頃にぽかっと頭を殴られる。

 

私たちのコミュニケーションはこんな風なので、2012年に開催したトークイベントの時に私の投げかけた質問に答えるどころか、どんどん話が違う方向に行ってしまって、もうインタビュアーである私はお飾りのようになりつつあった。私の目はまんまるくなり、次々に話を広げる彼の横顔を見つめた。

 

まあ、こんなことがあっても面白いよね。と、O型式状況を飲み込む術であんぐり空いた口を少し閉めて、観察すると彼の緊張が伝わってきた。
滔滔と言葉は流れ出るけれど、自分の宝物を転校先で初めて友達に見せる時のような緊張と高揚が見て取れる。当時のことを思い出しながらああ、そうかとやっと気がついた、きっと赤木さんは元来一人遊びの人なのだろう。自分の興味のあることに没頭して、その中にずっといることができる人だ。何時間でも何日でも、何年でも。

 

塗師の仕事は一人静かに座り、木地に漆を塗る仕事。ただ、ただひたすらにその中に没頭し漆と木地と自身との中に溶けてゆく仕事だ。そこに没頭している赤木さんの姿はきっと周りの景色に溶け込んで透けてしまっているに違いない。

 

職人の仕事は元来地味だ。起伏なく、ルーティーンワークが日常の中にひたすら続く。なので自己完結する視点を持ち、その連続した行為の中に沈思黙考し、何かを見出すことのできる人にしか続けることはできないのだろう。もしくは自我を手放すことができる境地にたどり着くまで苦しさを味わう人もいるかもしれない。やめてしまう人も多いのではないか。
私はルーティーンワークができない人だ。細かな変化を自身に与えないと動かなくなってしまい、しまいには動けなくなり陰にとらわれてしまう。

 

以前の記事の中に書いたことがあるが、仕事は選ぶものではなくて仕事が人を選ぶのだ。やりたいとか、したいという自我が人生を切り開いているかのように錯覚しがちだが、自我を超えたところからお呼びがかかる。そんな風だとある日気がついた。仕事の方がそれに適した人を見つけ捉え、離さない。

 

赤木明登という名前に彼の仕事は凝縮されているように。

 

漆の仕事が彼を選び、彼は自我を捨てその中に入っていった。そのひたすら塗り続ける、ただただ静かな陰な仕事の中で、彼には言葉が溢れてくるのだという。それを本にする。これもまた一人で向き合う陰の仕事だ。その陰とのバランスを、弟子を育て、執筆し本という形にまとめ、日本や国外様々なところで展示会を開催し多くの人々と交流し、うちで開催したトークイベントで話すという陽の行為でバランスを取っている。

 

このことがやっと理解できた。全体がなんとなくでも見えてくると、相手とすれ違うところや自分の都合と合わないところは個性の一つになり、魅力の一つともなる。この記事もここがつかめなくて非常に苦労し時間がかかった。これが今回の達成感。なんと明日から企画展が始まります。今までで一番まじかな告知記事でございます。

 

 

2012年と2014年に書いた記事は以下。

 

塗師 赤木明登「座る場所」
https://calend-okinawa.com/interior/shoka/akkswbs.html

 

ちなみに2014年開催時の記事はこちら
赤木明登 漆展「封印を解く」
https://calend-okinawa.com/interior/shoka/fuin201409.html

 

 

 

 

今回の写真は2017年の9月に輪島を訪ねた時のもの。
赤木さんの工房ではこの日も何人ものお弟子さんが手を動かしていた。

 

若い時の5年間というのはとても貴重な時間に違いない。この弟子入りした時間の中で若い人々のわかっているつもりや、自我は打ち砕かれてゆくのだという。弟子は親方の仕事を全身全霊で吸収するように向き合い、身体や感覚がこの仕事に明け渡されてゆくのだ。滅私奉公、すごい言葉であり体験した人にしかわからない体感覚があるのだろう。

 

この体験を経たからこそ、現在の赤木さんの活動は実を結んでいるのだろう。

 

 

そういうことで、今回4年ぶりの赤木明登さんとのトークイベントを開催します。熱く、ちょっとおばかな私と、自己完結した世界が広がりを見せる塗師赤木明登さんとの凸凹トークイベント。どこに行き着くのかわからないので成り行きまかせといたしましょう。
もちろんタイトルは「無題」。詳細は以下。
自分がわからない。この先どの方向に進んだらいいのだろう。そんな疑念が再度やってきたあなた。ふふふエンタメよね、とトークイベントを楽しみにしているあなた。理由はなんでもいいのです。是非ご参加を。

 

 

日時 9月16日(日曜)
トークイベント   17:00開場 17:30スタート
交流会 19:00から
会費 交流会1人3500円ドリンクが一杯つきます(トークイベントは無料です)

 

○お申し込み方法
1.参加者名(全員のお名前を書いてください)
2.連絡先(ご住所・携帯電話番号・メールアドレス・車の台数)
3.メールのタイトルに「トークイベント参加希望」もしくは「交流会参加希望」「両方参加」と必ず書いてください。 申し込み先 Shoka:スタッフ 桑田
お申し込みはこちらまでメールにてお申し込みくださいませ。
以下の点にご注意下さい。
◯必ずメールにてお申し込みください。
◯Shoka:の展示期間中はお子様連れも大歓迎ですが、お話に集中していただきたいことから大人のみ(13歳以上)の参加とさせていただきます。ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
◯駐車スペースが限られていますため、車でいらっしゃる方はできるだけ乗り合せのご協力をお願いします。

 

✳︎交流会メニュー✳︎
輪島 月とピエロのカンパーニュとワインに合うパンたち
岡山 吉田牧場のチーズ
芦屋 メツゲライクスダのシャルキトリー
リキッドのイタリアのオーガニックワイン

 

もう今からわくわくとじゅわじゅわが止まりません。この素晴らしい食べ物達と作り手の皆さんの心意気も素晴らしくて、調べているとその仕事の素晴らしさに涙と口からの雫が湧き出て来ます。皆様どうぞ早めにお申し込みください。

 

田原あゆみ

 

9月15日(土)~24日(月)
 

 

赤木明登の漆の器展

「21世紀民藝」を書き終えた赤木さんは一体どのような視点で自身の創作活動を見つめているのでしょうか。塗師として四半世紀あまり木と漆で作る「うつわ」を通して世界に向き合ってきた彼の新境地に触れるのがとても楽しみです。
今回の展示で白漆の器たちが見ることができるのも心待ちなのです。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

暮らしを楽しむものとこと
Shoka:
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098-932-0791(火曜定休)
営業時間 12:30~18:00
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