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おきなわ食べる通信

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背丈以上に高く伸びたトマトの畝。その中を、ピカピカと輝く宝石のようなトマトを探し求めて、目を上下左右と忙しく動かす。真っ赤に弾けるそれを見つけてプチンともぎ、口に運ぶと誰もが「甘〜い」と顔をほころばせた。

 

名護は源河にある真栄田丈夫さんの畑に集まったのは、“おきなわ食べる通信”の読者たち。“おきなわ食べる通信”とは、沖縄の生産者について詳しく紹介した冊子と、その生産者が丹精こめて作った食べものをセットにした、定期購読誌だ。生産者のことをより知ることができるようにと、このたび初めてツアーを開催。参加したのは、間もなく東京からやんばるへ移住予定の夫婦や、やんばるをもっと知りたいという那覇からの親子、農業に興味のある名桜大学の学生や、北関東から参加した舌の肥えたミドルエイジなど様々。

 

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めいめいがもぎたてを口にし、また持ち帰る分を袋に詰める。皆満足したところで、ハルサー真栄田さんが、トマトを甘くする工夫を話してくれた。

 

「沖縄では、トマトは2月3月が一番美味しいですけどね、その時期は曇り空が多くてちょっと困ったことになるんです。糖をつくるには炭素が必要で、その炭素をふつうは空気中の二酸化炭素から取り入れて、光合成によって糖に変化させるんです。でも、その太陽が出ないもんだから、糖を作るのに必要な光合成がなかなかできないんです。それでどうしているかというと、ススキや草を土の中にすき込み、菌の力を借りて、トマトが吸収できる炭素の形に変えるんですね。それで天候の左右されずに美味しいトマトができるんです」

 

沖縄の気候に合わせた栽培方法に興味津々の参加者たち。沖縄のハルサーと話せる貴重な機会と、次々と質問が飛んだ。

 

「台風の時、ビニールハウスはどうするんですか?」

 

「ビニールを外して骨組みだけの状態にします。骨組みだけにすることで風のあたる面積を減らして、ハウスが倒壊するのを防ぐんです。野菜は、這わせているネットをはずしてペタンてして、上から別のネットを張って、台風が通り過ぎるのを待ってあげます。ゴーヤーは沖縄の野菜なので、生き返ります。僕、キュウリもやってるんですけど、キュウリは元々沖縄の野菜じゃないので同じ対策をしても死んでしまいますね。風にあててダメにさせて、また苗を買って植え直しです。ハウスを守るだけなんです」

 

自然の厳しさに、参加者たちは一様にため息をもらした。しかし当の真栄田さんは淡々としていて、悲壮感などまるでない。その厳しさを当たり前のように受け入れる真栄田さんの、芯の強さを感じる。

 

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ハルサー 真栄田丈夫さん

 

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質問は続く。

 

「真栄田さんは、農業のどういうところが楽しいですか?」

 

「トマトとか甘みを糖度計で計って、少しずつ上がっていくのを見るのが楽しいんです。今年はね、去年よりまだ1度足りないんですよ。キュウリにしても、畑半分全滅しているんです。理由はだいたいわかってるんですけど、でも正解はないですよね。これなんじゃないかなというのがあって、じゃあ次はあれを試してみようって。試すのが楽しいんですね。試したくてしょうがない。それを考えると、明日休もうとか考えられないんですよ。トマトだったら1年に1回しかチャレンジできない。60歳までやるとしてあと20年。チャレンジできる回数が限られてるんです。あと20回しか挑戦できないと思うともったいなくて。ずうっと畑にいて、色々やりたいなと思うタイプなんです」

 

農業は決して稼げる仕事ではないと言う。けれどその様子からは苦しさは微塵も感じられない。少しでも美味しくしようと、楽しみながらチャレンジを繰り返す。そんな気持ちで育てられた野菜だから美味しいのだと、真栄田さんとの話を通して感じることができた。このツアーを企画した“おきなわ食べる通信”東京編集室編集長の唐木徹さんは、生産者と消費者のそんなコミュニケーションこそが、このツアーの目的と胸を張る。

 

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「今日いらした読者の方は、生産者の方と会話したわけだから、その生産者と知り合いになったってこと。今まで沖縄は遊びに来るところだったけど、知り合いに会いに帰って来るところになったと思うんですよ。『真栄田さんがいるから沖縄に帰ってきたよ、久しぶりだね、真栄田さん』って、親戚づきあいみたいな感じになるじゃないですか。それってすごく重要だなと思っていて。ゆくゆくは、『トマトが食べたい』じゃなくて、『真栄田さんのトマトが食べたい』ってなるのが一番ですよね」

 

親戚くらいに親しくなれるの?と疑問が湧く。けれど唐木さんは、そこまでの青写真を描いている。“おきなわ食べる通信”では、その読者と生産者がSNSでつながり、普段からコミュニケーションを取っている。読者が届いた野菜を使った料理を写真付きで投稿し、それを見た生産者は、自身の野菜をこんな風に食べてくれたんだと知り、コメントを残す。生産者と消費者がいつでも繋がれる場を用意しているのだ。そもそも食べる通信が目指すのは、生産者と消費者の距離を縮めることだと、唐木さんは続けた。

 

「もともと“食べる通信”が始まったのは東北なんです。“NPO法人東北開墾”の代表理事 高橋博之さんが、震災の復興で三陸海岸のカキの支援しようとしたところ、そのカキは東京では1個数百円で売られてるのに、漁師さんが実際に卸してる値段は1個数十円だったんです。あまりにもショックを受けたことから、消費者はもっと作っている人のことを知るべきなんじゃないかってことで、始まったんですね。僕はその趣旨に賛同して、沖縄の食べる通信を去年(2016年)から始めたんです。安いものが溢れている中で、消費者の『安ければいいや』っていう考え方と、いいものを作ろうと一生懸命手間ひまかけて作物を作ってる生産者の考え方が乖離してるなと思っていて。一般の消費者にもっと生産者のことを理解してもらいたいっていう思いがあったんです」

 

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全国の“食べる通信”。2017年7月現在、38もの食べる通信がある。

 

手間ひまかけている生産者のストーリーを、消費者が知り、認める。“おきなわ食べる通信”は、そんな生産者を丁寧に取材し冊子にして、または直接生産者に会う機会を作って、伝えてきた。いずれは、生産者と消費者が一体のような形になって、食べ物を共に育むことになるのが理想と、唐木さんは言う。

 

「ヨーロッパやアメリカで進んでいるCSA(コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャー)を目指したいんです。要は、例えば真栄田さんのところから定期的に野菜を買うんです。毎月毎月前払いで買う。雨が降ろうが、台風が来ようが、関係なく消費者は金額を払うんですよ。それは生産者からすると、農作物に被害が出ようが、不作だろうが豊作だろうが、定期的にお金が毎月入ってくる。そしたら彼としては生活ができるし、野菜作りを続けていく資産にもなる。野菜が目的ではなくて、その人から買うということが目的なんです」

 

バックナンバー

やんばる畑人プロジェクトの特集

(写真提供/おきなわ食べる通信)

 

唐木さんの話にはっとする。私たちはただ消費するだけで、野菜を作ることは生産者に任せきりで無関心ではなかっただろうか。スーパーに並ぶ大量の野菜を前に、ただ価格と効率だけを追求してはなかっただろうか。

 

「食の健全化って、正しい作物が、公正に取引されて、人に繋がるってことだと思うんです。こだわった生産者さんのものは、相応の値段で取引すべきですよね。安ければ安いほどいいみたいな大量消費社会になっちゃってるんだけど、そろそろほんとに良いものってなんだってことを考える時期にきていると思うんですね。それに、日本の農業就業者って200万人を切っているんです。しかもその8割以上が75歳以上なんですよ。5年後にはどれくらいになっているか…。僕たち消費者が、真剣に農家さんのことを考える時期だと思うんです」

 

唐木さんがここまでの熱い思いを持つのは、農家の苦しい現状を目の当たりにしてきたから。

 

「僕、東京で育ってきてるから、親戚に農家や漁師がいるわけじゃない。だから、食べ物がどうやって届けられているか、どうやってスーパーに並べられているかなんて、全然知らなかった。ましてや生産者がどんな苦しい思いをしているかなんて、知る由しもないじゃないですか。食の販促の仕事に就いて、スーパーの仕入れ担当と一緒に生産者のところを回ったから知ってしまった。ああ、こんな思いで作ってるんだなと。知らない消費者が知ったら、考え方が変わると思うんですよ、僕みたいに。だから伝えていきたいんですよね」

 

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おきなわ食べる通信 東京編集室編集長 唐木徹さん(左)、沖縄編集室編集長 長嶺哲成さん(右)

 

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真栄田さんの畑を後にして次に向かったのは、この日の宿泊先となる“あいあいファーム”。使われなくなった小学校をリノベーションした宿で、取り囲む山々と、校庭だった場所に敷かれた芝生の緑がまぶしい場所だ。次にここで参加者をとりこにしたのは、養蜂家の三浦大樹さんによる、はちみつ採取体験。みつばちの巣からはちみつだけを取り出す作業だ。蜜蓋を薄〜くナイフで切り落とし、遠心分離機を手で高速回転させて、巣枠からはちみつを分ける。初めての体験に、参加者の顔がどんどん輝いていくのが見て取れた。

 

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おきなわbee happyを主宰する養蜂家、三浦大樹さん(右)

 

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作業をしている間、三浦さんによる“みつばちクイズ”が出される。

 

「みつばちは、巣箱からどれくらいの距離を移動しているでしょう?」
「みつばちが一生で飛ぶ距離はどれくらいでしょう?」
「一生かけて集めたはちみつの量はどれくらいでしょう?」などなど。

 

3択クイズに、めいめいが考えを巡らせて挙手して答える。正解を教えてもらうたび、「へえ〜」という関心の声が漏れてくる。三浦さんの説明によると、1回に飛ぶ距離は1kmくらいで、遠くて2km。1日のうちに12時間程度、150回くらい巣箱と花の間を往復して、せっせとはちみつを集める。40日という短い一生の間に飛ぶ距離は、なんと3,000kmも! そんな飛行距離にもかかわらず、一生かかって集めるはちみつの量は、ティースプーン1杯分ほどなのだとか。いつも何気なく口にしているはちみつが、とても特別で貴重なものに感じられた瞬間だった。

 

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そうこうしているうちに巣枠のはちみつが空になる。分離器の蛇口からひねり出されたのは、琥珀色に輝く美しい液体。思わず歓声があがる。濾した後、1本1本丁寧に瓶詰めをしていく。採取から瓶詰めまで三浦さんが全て手作業で行っていることなど、養蜂家の普段の仕事を垣間見ることができた。

 

そしてお待ちかね、たった今詰められたばかりのはちみつを味見をさせてもらえることに。

 

「おいしい〜」
「花の香りがする」
「シークワーサーの花の蜜が入っているからか、爽やか!」

 

口々に感想が飛び交う。この日の採取は、今年の春の初取りで、三浦さんも初めて味わったのだとか。三浦さんも、その出来に満足そう。去年の秋に味わったはちみつと、春のそれとは明らかに味が違う。春らしく爽やかで華やかな味わいだった。

 

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日が暮れて、いよいよ夕食の時間が訪れる。この日、畑見学から始まって、はちみつ採取、夕食までの1日の流れをコーディネートしたのは、“やんばる野外手帖”という「美味しい野遊び」をテーマにやんばるの旅をコーディネートしてくれる団体だ。運営母体は、やんばるを食を通して盛り上げる“やんばる畑人プロジェクト”。やんばるで美味しい野菜を作る農家たちと、その食材を積極的に使ってお客様を喜ばせたいと取り組んでいる飲食店などがタッグを組んで活動している。ツアー1日目のコーディネートを“やんばる野外手帖”にお願いした理由を、“おきなわ食べる通信”沖縄編集室編集長の長嶺哲成さんが話してくれる。

 

「代表の芳野幸雄さんを前から知っているんです。1人で農業やってる時からの知り合いで、彼は自分たちで販路を開拓して、自分たちで6次産業まで手がけたり、レストランをやったりしてる。1人ではできないことだからと、同じ志を持った仲間を集めたっていうのがすごいと思うんですよ。何か問題にぶつかっても、仲間と一緒に広い視野で解決してきたんですね。そういうのを目の当たりにしてきて、面白いなって思っていたんです。それで“おきなわ食べる通信”の2月号では、彼らを取材させてもらって、彼らの野菜をセットにしました。今日のツアーをお願いしたのは、今日の料理、材料はほとんどやんばる産じゃないですか。野菜はもちろん、魚もお肉も、調味料の塩や胡椒まで。このカッティングボードだって、やんばるで育ったクスノキから作ってるし、みつろうのロウソクや陶器のお皿もやんばる産だったりする。こういうのってなかなかないし、おもてなしの気持ちに溢れているでしょう。その気持ちが絶対、参加者の皆さんに伝わると思ったんですよ」

 

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料理を担当した“やんばるピクニック”満名匠吾さん(左)、コーディネーターの小泉伸弥さん(中)、やんばるハルサープロジェクト代表 芳野幸雄さん(右)

 

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やんばる産クスノキのボードでサーブされた前菜。フロマージュドテットのグジェル、キッシュ、近海魚ラグーのカナッペ、クックハルのピクルス

 

夕食の場に着くと、やんばるの豊かな自然を満喫できるロケーションや、野の花で飾られたテーブルセッティングに心が踊る。場のコーディネートから感じるのは、もてなしの心。そして何よりその気持が現れているのは、時間をかけ丁寧に調理された料理の数々。アグーは口の中でホロホロと崩れるほどに煮込まれ、その旨みが付け合せのひよこ豆やエリンギにもじんわり染み込んでいるし、ショートパスタは、野菜だけとは思えないほどのコクの詰まった味わい深いソースだった。それに、食材の今まで見たことのないような使い方も。豚の顔の肉は、塩味の効いたシュー皮に可愛らしく挟まれ、小魚のスクガラスは、やんばる野菜にかけるバーニャカウダソースへ。そして県内でもなかなかお目にかかれないような珍しい食材が、テーブルを盛り上げる。カルパッチョにした魚は、アカジンという沖縄の三大高級魚だし、コンフィにされた今帰仁アグーは、西洋豚と掛け合わせていないほぼ原種のアグーなのだとか。豊かなやんばるの食材、手間ひまを惜しまない料理の数々に、参加者は感嘆の声をあげるばかりだった。

 

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今帰仁アグーのコンフィ

 

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あいあいファーム産ハーブとアカジンミーバイの厚切りカルパッチョ

 

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やんばる新鮮野菜 スクガラスのバーニャカウダソース

 

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三浦大樹さんのはちみつをたっぷり使ったパッションフルーツソースのパンナコッタ

 

中でも私の心を動かしたのは、その日収穫させてもらった真栄田さんのトマトとキュウリを、バーニャカウダソースでいただいたこと。そして、みつばちワークショップで採取したはちみつを使ったデザートをいただいたこと。自分たちで採取した野菜だから、はちみつだから、ということももちろんあるだろう。けれどそれを口にする時に頭をよぎるのは、農家さん達の顔。苦労しながらも手間を惜しまずそれらを我が子のように栽培し採取した、真栄田さんや三浦さんの顔が浮かんでくる。味わうたび、自然と笑顔がこぼれ、ありがたい気持ちでいっぱいになった。

 

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あいあいファーム産有機野菜のショートパスタ。目玉焼きをくずしてからめる。

 

唐木さんは、「“食べる通信”の読者は、農家さんを支援しようという気持ちのある人しかいない」と言っていた。確かにそうかもしれない。けれどこの日集まった顔ぶれを見ていても、「農家を支援している」というおごった表情の人は1人もいなかった。参加者は、「送られてきた野菜の農家さんと話ができて嬉しかった」「その農家さんが作った野菜をその場で食べて、美味しかった」「みつばちのことなど、知らないことを知ることができて楽しかった」…等々。そこには、喜びしかなかった。

 

そして農家さんも、自身の喜びのために農業をしているし、普段会うことはない消費者の表情を間近に見、冬場にもかかわらず豊かな野菜が食べられたことへの満足の声を聞いた。両者を結ぶのは、お互いの喜びを分け合うような、農家と読者の対等な関係。食べる通信は、農家支援のシステムというよりは、農家と消費者をつなげて、それぞれの喜びを大きく広げてくれる、頼もしい橋渡し役だった。

 

写真・文 和氣えり(編集部)

 

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おきなわ食べる通信
http://www.okitabe.net

 

やんばる野外手帖
http://haruser.jp/yanbaru_wilddiary/

 

やんばるハルサープロジェクト
http://haruser.jp
(関連記事:やんばる畑人くらぶ

 

おきなわbee happy
https://www.facebook.com/okinawabeehappypj/
(関連記事:おきなわbee happy

 

今帰仁の里 あいあいファーム
http://happy-amenity.com

 

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もだま工房

 

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すっとするような爽やかな味のその奥に力強さが宿る。植物の生命力を閉じ込めたようなハーブティ。“アーユルヴェーダハーブ園もだま工房”のトゥルシーリーフティーを口にした時、そう思った。トゥルシーとは、インドの聖なるハーブでホーリーバジルとも言われる。安らかな香りが口の中いっぱいに充満して、鼻に抜けて、気持ちをほっと温める。思わず、ふうっとため息が漏れた。その癒やしの効果と味わいに驚き、それからもだま工房のトゥルシーリーフティーが忘れられなくなった。

 

聞けば、香りと味わいをよくするために、数種類のトゥルシーを絶妙なバランスでブレンドしているのだとか。もだま工房を主宰する彦田治正さんは、石垣島の山腹で、アーユルヴェーダの薬草を育て、ハーブティ等への商品化も手がける農家さん。いや農家にとどまらず、アーユルヴェーダハーブの研究者といってもいいかもしれない。

 

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ー彦田さんが、アーユルヴェーダの薬草栽培を始められたきっかけは何ですか?

 

キャンプが好きで、日本中をバイクでプラプラしていて。誰もいない西表島の廃村で、数ヶ月自給自足の生活をしていたことがあるんです。海に入ってお魚とって、山に入って野生化したパパイヤとかココナッツとか食べて。お米は持っていったんだけど、なくなってきたら飢えますよね。そしたらだんだんカンが冴えてきて。初めて見た植物でも、これは食べられるとか食べられないとか、自分が知っているかのようにわかるようになってきたんですね。

 

自給自足の生活から帰って、植物図鑑を調べたら、自分が食べられると思ったものは確かにその通りだった。そういう本能というのかな、呼び覚まされる世界があるんだなって。考えてみたらカタツムリだって、教わらなくたって、食べられるもの食べられないものがわかるじゃないですか。あんなちっこい脳でわかるんだから、人間にわからないわけはない。でも現代人はわからない。それはなぜかというと前頭葉が発達しすぎてしまって、本能が発現してこないんだと。

 

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ー飢えて感覚が研ぎ澄まされて、人間本来の能力が目覚めたということですね。それがどうしてアーユルヴェーダへ?

 

インドとかでは瞑想などを通して神様の声を聞いたりするじゃないですか。あれは、瞑想によって、大脳新皮質の働きを制御することによって、もっと本能や生命力に直結した古い脳の力を呼び覚ます手段でもあると思うんですね。神様の声とかいうと宗教っぽくて嫌う人もいるけど、それは人間の内奥に潜んでいる本能の声ですよね。教わらなくても食べられるものがわかって、怪我した時にどうすればいいのか知っている。本来人間にはそういう能力があって、古代インドの賢者たちは、深い瞑想に入って大脳新皮質の働きを休めることによって、そういうことを再発見し編纂していったんだろうなと。そして伝えられたものがアーユルヴェーダなんじゃないかと思うんです。

 

キャンプしてた頃、有名なアーユルヴェーダの先生の講演会が石垣島であって、パートナーが聞いてきたんです。そこで、アーユルヴェーダで使われる薬草が、石垣島では雑草として生えてるってことを知ったんですね。石垣島ってなんていいところなんだろうと思って。講演会では、ツボクサなどの薬草を使うともっと健康になれるよって話をされていたと。知らなければ「雑草」としてあるような身近な薬草の未知なる力と、知らなければ秘められたまま使われることのない人間の未知なる力がリンクするように感じて、非常に惹かれたんです。大切なものはとても近くにあると。

 

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ーそもそもアーユルヴェーダってなんですか?

 

アーユルヴェーダって、世界最古の医学というか哲学なんですけど、サンスクリット語のアーユス(生気、生命)とヴェーダ(知識)の複合語で、“命の知恵”という意味なんです。命を味わい尽くすっていうのかな。

 

アーユルヴェーダを知ったばかりの頃は、いってみれば現代医学のお薬の代用品、薬は副作用もあるから、それに代わるもので自然なものっていうイメージだったんだけど、それだけではないんだって、学びながらどんどんわかっていったんです。確かに薬草は効果があるものかもしれないけど、薬草はきっかけや手段でしかなくて、その裏側にある哲学というか生き方というか、言うなれば、自然と調和したもの。そういうのがテーマとして深くて面白いんだなって感じています。

 

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ーアーユルヴェーダとは、自然と調和して、命を味わい尽くすための哲学…。理想の生き方で興味が湧きます。

 

アーユルヴェーダには人生の4つの目的というのがあって、まずダルマといって、世の中の法則とか自分の使命を学びなさいというのがあるんですね。その次にアルタといって、経済的な手段を学びなさい、つまり生活を自立させなさいということですね。次に、お金を手に入れたら、喜びを享受しなさいと。カーマっていうんですけど、例えば美味しいものを食べるとか、そういうことも味わいなさいって。宗教的な教えは禁欲的で、まじめな感じが強いですが、アーユルヴェーダはストイックではないんですよね。ただ最後にモクシャといって、今度はそれを手放しなさいって。自分の手にしていないものは手放すことができませんよね。だから、それを手にすることも大切なんだと私は思います。手に入れ、手放す。そうすることによって見えてくる世界や、越えていける世界があるのでしょう。

 

だから、この4つは順番もとても大切なんです。そして、その一つ一つにたくさんの教えがあり、この4つを実践するうえで健康な体があったほうが良いから、健康法について伝えられています。つまり、アーユルヴェーダの目的とは有意義で幸せな人生であり、そのためには健康なほうが良いから、手段として健康について学びましょうということです。

 

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ー講演会の話に戻すと、沖縄では身近なツボクサが、アーユルヴェーダではとても大切な薬草ということですが。

 

ツボクサは脳に非常にいいと言われる薬草なんですね。例えば事故などで脳にダメージを受けると、脳神経は損傷した場所を迂回するように新たな回路を結んで機能を回復させようと頑張るのです。ツボクサは、その時に伸びてくる神経細胞の状状突起の成長を加速させるという報告があります。つまり、脳の機能の回復を高めるし、記憶力や認知能力を高める働きがあるといわれています。

 

20年くらい前、東京から沖縄に来たばかりの頃は、どこに行っても、お酒を飲む機会がすごくあって、このままでは俺の脳がどうにかなっちまうみたいな心配が必要なくらいでした(笑)。なので、ツボクサに脳を回復させる力があるんだったら作ろうって、最初自分のためにツボクサを育てたんですよ。ある程度できて、乾燥させてお茶っ葉にして友達にわけてあげたら、よかったって声が沢山届いたんです。調べてみたら中医学では、痛み止めに使ったり、中毒のデトックスにいいとか、肝機能を高める作用があるとか。自分の知らなかった機能がいっぱいあって、それをあげた友人達が実感して教えてくれる。「よかった、すごいいいもの教えてくれてありがとう」って言ってくれるんだから、もういいものに違いないと。じゃあもっとツボクサを栽培するかと始めたんですね。

 

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ー友人達が喜んでくれたのが、きっかけだったんですね。

 

インターネットで調べたら、当時日本ではツボクサを栽培してる人がいなかったんです。アーユルヴェーダの代表的な薬草が日本にはない。だったら誰かが育てれば導入のきっかけになるし、やってる人がいないんだったら、やったら面白いなと思って。しかも日本で育つかわからないって、そのチャレンジが面白いじゃないですか。

 

ほどなくして「アーユルヴェーダの薬草ができました」って、日本のアーユルヴェーダの学会に持っていったんですよ。そしたら当時、学会の理事長をしていた東邦大学の名誉教授の先生が、「栽培しているんだったら見に行こう」って石垣の自分の畑まで来てくれたんです。その時インドのアーユルヴェーダの先生も連れてきてくれて、色々アドバイスしてくれたんですね。ここはインドと気候風土が似ているから、シャタバリという女性の生殖器ホルモンの強壮や若返りにいいとされる植物も育つよとか、これもトゥルシーだけど、ホントのトゥルシーはこれじゃないよとか。トゥルシーってインドの言葉で、直訳すると「比類なきもの、比べることができないくらい素晴らしいもの」という意味のハーブなんですね。だけどそれが何種類もあるのがインドの奥の深さです(笑)。他にもいっぱい教えてくれて、僕もその後南インド行って、また色々教わって。またさらに可能性を感じたんですよね。

 

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ー誰も栽培していないと、面白さもあるけど、ノウハウもないでしょうから、大変だったのではないですか? 失敗はありましたか?

 

あきらめない限り「失敗」ではなく、それは「経験」という言葉があるじゃないですか。そういう状態ですね。諦めてないから失敗じゃないけど、うまくいってるかと言えばそれは微妙(笑)。インドと気候風土が似てるとはいっても、やっぱり違うし、インドのノウハウはこちらでは通用しないんですよね。全部手探りで進んでいくしかないけど、例えばセリ科の植物だったら、日本だったら三つ葉が近いかな、三つ葉はどうやって育てるんだろうとか調べたりもします。あとは1にも2にも観察です。病気が出るタイミングだったり、症状が似てるわけですよね。例えば、風がなければうどんこ病が発生するんですけど、うどんこ病が出たってことはもっと風があった方がいい植物なんだなとか、葉っぱが黄色く焼けてきたんだったら、この植物には日差しが強かったんだなとか。この虫が出たってことは、この虫の天敵となるものが近くになかったんだな、だったらバンカープランツといって、害虫の天敵が住み着く植物を始めから植えておこうとか、自然農法のテクニックを応用したり。

 

例えば、トゥルシーを育てました、飲んでもらえました、でも美味しくないよね、イマイチだよねってなったら、もうアーユルヴェーダが広まらないじゃないですか。これはすごいなって思ってもらえるくらいじゃないと。そしたら、ああトゥルシーっていいよねって、誰かがマネして作ったりしますよね。フロンティアだからこそ、妥協なくやる。商品にした時に認められるものじゃなければと思っています。

 

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ーでも日本では薬事法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の規制があって、アーユルヴェーダの薬草など普及しにくいと聞いたことがあります。

 

日本の法律では、「もっぱら医薬品」と指定された薬草類は勝手に販売しちゃいけないんです。この法律の趣旨は、適切な知識のない状態でクスリと思って薬草に頼ってお医者さんに行く機会を逃して、余計に病状が悪くなってしまったりすることがないように作られたものですから、そういう基準は当然必要なわけです。だけど、現代はインターネットがこれだけ普及し、誰もが自由に情報にアクセスできるようになっているのだから、一律に販売に規制をかけるのではなく、禁忌事項や注意書きを必ず添えることなどの条件を課した上で、もうちょっと規制を緩やかにしてもよいのではないかと思います。

 

例えばトリカブトみたいな危険なものはきちんと薬局以外での流通を制限しなきゃいけないけど、副作用がそれほど強くなくて、日本以外の海外では自由に流通しているものを、日本では漢方薬の原料になっているから“薬”なので制限しますっていうのは、ちょっと違うかなと思います。

 

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ー薬事法が、いい薬草を知る機会を妨げてしまう面もあるということですか?

 

いい薬草で副作用もほとんどなくて、漢方薬の原料にもなる。でも薬だからって法律で流通の制限をして、その結果みんなが忘れてしまった。そういう薬草がいっぱいあるんですね。医食同源て言葉がありますよね。医療と食事は同じ。だけども日本では食薬区分といって、薬と食は別ですよって分けられちゃっている。そして「薬」は、薬局で買いましょうとなっている。そうすると自然なものがわからなくなる。たぶん昭和30年代までは田舎に行けばどこでも、地域の薬草が食事や生活の中に取り入れられ、活用されていたと思います。ですが、おそらくアジアの中で 、そういう知識が一番すたれてしまっているのが今の日本ではないでしょうか。

 

例えばハマスゲっていう植物があるんですけど、これは漢方薬では“コウブシ(香附子)”っていいますし、アーユルヴェーダでは“ムスター”っていう薬草なんですけど、とてもストレスにいい。ストレスが原因の胃痛にいいし、女性の生殖器系にもいいんで、漢方薬の原料にもなるんです。でも日本でハマスゲって検索したら、強い雑草の代名詞のようになっていて、検索してみると「ハマスゲを枯らす除草剤がありますよ」というような厄介者扱いの情報が上位を占めます。ハマスゲがいい薬草だっていうのを、日本人はほとんど忘れてしまったんですよ。我々ハーバリストも勧められないから。だって扱えないんだもん。そして、こんなにどこにでもある草なのに、漢方薬の原料としてほぼ100パーセント中国から輸入しているんです。こういう薬草の情報を含めたものをインターネットでもっともっと広めて、みんなが使えるようになったら。これだけ膨らんだ医療費の抑制にもつながると思うんです。

 

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ー海外ドラマなんかを見ると、外国ではもっとハーブや薬草に親しんでいる感じがありますね。

 

例えば韓国の一般のその辺のお母さんが、どれだけ薬草に詳しいか。韓国の人口は日本の約半分ですが、生薬の流通量は10倍くらいあったはずです。だからこんな時はこの草だよとか、こんな時はこの葉っぱを煎じたらいいよとか、医食同源が実践されてますよね。中国もインドもそうですし、というかアジアでそうじゃないのはたぶん日本だけじゃないでしょうか。痛み止めや風邪薬を否定するわけではないけど、スパイスやショウガなどの香味野菜で体調管理をしてしまうアジアのお母さんたちはかっこいいと、個人的には思います。

 

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ー医食同源が実践されて、植物の力を活用するようになったら、日本人はもっと健康になれるということですね。

 

そう思います。ですが医食同源でも、例えば玄米菜食がいいとかグラノーラがいいとかスムージーがいいとか、色々な食事による健康法がありますけど、体質について語られることが少ないように思います。アーユルヴェーダにはトリドーシャ理論っていうのがあって、大雑把に言うと風、火、水の要素の組み合わせによって人はそれぞれ体質が異なります。この3つの要素をバランスよくすることで、より健康になるわけですが、体質にとってのバランスなので、好ましい食べ物とそうでないものは人によって違うと考えるんです。

 

例えば玄米は体にいいといっても、風の要素が強い人は消化力が弱いので、軟らかめに炊かなければ、その栄養を吸収しづらいとか、火の要素が強い人は消化力では問題なく玄米でも食べられるけど、玄米の持つ熱の要素は火の要素をさらに上げるので、毎日はやめたほうが良いとか。スムージーでも、グラノーラでも同じで、スムージーの持つ冷たい性質(温度でなく食品の持つ性質)やシリアルの持つ乾いた性質や軽い性質は風の要素を強めてしまうので、人によっては体調が悪くなることもあるわけです。でも、これはいいとなると流行で自分の体質を考えることなく飛びついてしまう傾向が、今の日本にはあるように思います。

 

アーユルヴェーダとか東洋医学は、体質論でやってるものだから、ベースになるそういう哲学がもっと広まれば、日本人はもっと健康になれると思うんですね。それにそれは、すごく面白い世界観です。そんな世界観をのぞいてみる、そのきっかけの1つになればいいなと思って、もだま工房をやっています。

 

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ー彦田さんの夢は、日本人をもっと健康にしたいということなんですね。他にも夢はありますか?

 

色んな植物、日本であんまり育てられていないものも育てて、アーユルヴェーダを学んでいる人が、ここに来たらその植物が見られるよって、そういう場所を作りたいと思ってるんです。開いちゃった土地にいきなり木を植えても育たない。まずはハーブを植えて、滋養豊かな土地にして、木も育つようにして。ゆくゆくはここをアーユルヴェーダの森にしたいと思っているんですよ。

 

写真・文/和氣えり(編集部)

 

もだま工房

 

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石垣市桴海478-2
http://www.tubokusa.com

 

TANAKA

映画「人生フルーツ」

 

私の憧れの人は、皆素敵な庭を持っている。そのことに近頃気のついたスタッフ和氣です。料理研究家の辰巳芳子さんしかり、ハーブ研究家のベニシアさんしかり。この映画を観て、また憧れの人ができました。その人は、映画「人生フルーツ」の主人公、津端(つばた)修一さんと英子さん。90歳と87歳のご夫婦です。彼らの庭は、美しい花々を鑑賞するための庭というより、自然からの実りを受け取るための庭。その庭の様子を表したフレーズが、映画中何度となく繰り返されます。

 

「風が吹けば、枯れ葉が落ちる。枯れ葉が落ちれば、土が肥える。土が肥えれば、果実が実る。こつこつ、ゆっくり」

 

この映画のタイトル「人生フルーツ」とは、“人生は、フルーツ”=life is fruityということ。人生も果実も、急がずにゆっくりと時間をかけると豊かな実りをもたらしてくれる。そして豊かな実りを受け取るには巡らせていくことも必要と、この映画は教えてくれます。

 

J映画「人生フルーツ」

映画「人生フルーツ」

 

描かれているのは、70種もの野菜と50種もの果実が育つ庭を中心とした、修一さんと英子さんの豊かな暮らしぶり。“豊か”って金銭的な豊かさではありません。畑になるものの豊かさ以外でいえば1つに、2人の“思いやり”の豊かさ。

 

2人の家には、沢山のお客がやってきます。その度に英子さんは、手を抜くことなく沢山の手料理でおもてなしをするのです。畑で採れた旬の野菜の美味しそうな料理の数々。馴染みのお肉屋やお魚屋から仕入れたものも、季節を感じさせる料理へと変身させます。夏だったらハモのちらし寿司、冬だったら温かいビーフシチューというように。修一さんが腕を振るうこともあって、何時間もかけて燻製した手作りベーコンは、いつもお客に大好評。英子さんは、シメのスイーツまでも手作りです。庭で採れた旬のフルーツを使って美味しそうなケーキやパイを焼きあげる。これ以上ない心づくしのお料理が、すこぶるお客を喜ばせるのです。

 

庭で実ったものは、せっせと娘や孫に小包として送ります。中に詰めるのは、野菜をはじめ英子さんお手製のフルーツジャムや梅干しや梅酒、お惣菜まで。お正月にはお餅をついて送っていました。柔らかい出来たてホヤホヤのお餅に、ガスコンロで熱した焼印を押す修一さん。その焼印には「はなこさん」と孫の名前が刻まれていました。焼印はもちろん、修一さんの手作り。たっぷりの愛情を、ダンボールにきれいに並べていっぱいにして届けるのです。

 

庭の畑には、修一さんお手製の黄色い札が沢山立ってます。植えた野菜の種類だけでなく「春ですよ」「花のトンネル、楽しみ」「ジャムにしてどうぞ」など、ちょっと丸みを帯びた可愛らしい文字で、添えられた一言に和みます。札があるのは庭だけじゃなく、家の中にも。「ガスがついてますよ、忘れないで」「火の用心」など。それは、歳を重ねると増える“ついうっかり”を、口で注意するのではなく、伝言板で間接的に促す。その方がお互いイヤな気分にならないからですって。長年連れ添っていても、互いが気持ちよく過ごすための工夫を忘れないのは、見習いたいところです。

 

映画「人生フルーツ」

映画「人生フルーツ」

 

もう1つには、“健康と知恵”の豊かさ。年老いたからといって誰かに頼るのではなく、何でも自分たちでやってしまいます。それもとっても楽しそうに。

 

修一さんは90歳を超えたというのに、家の屋根にまで登って掃除をするし、障子だって自分たちで張り替える。自家製ベーコンを作るための炉も自作。いくつもの固まり肉を吊るした重くて熱い蓋を軽く持ち上げられるように、ロープと滑車を使う仕組みまで自分たちで作る。きっと何度も試しては、改良を繰り返したんだろうなあ。修一さんは言います。「なんでも自分たちで。自分たちでやるからこそ、見えてくるものがある」と。私が今後迎える老後の、目指すべき姿が描かれていると感じました。

 

映画「人生フルーツ」

映画「人生フルーツ」

孫のはなこさんの幼い頃、彼女のリクエストの応えて修一さんが手作りしたミニチュアの木のおうち

 

映画では2人の生活全てを見せてくれるので、中には2人の嗜好や習慣、こだわりまでもが映し出されます。例えば修一さんは、大好きなコロッケをいつもリクエストしていたり、金属製のスプーンが出ていたら、わざわざ「変えてくれ」と木製のものを持ってきてもらったり。色んなシーンで、「うんうん、こういう人いるよね」って思って、なんだか微笑ましくなる。それが近しい人と重なってみえて、悲しいシーンでもなんでもないのに涙が出てきたり。私は、父親を思い出しました。定年退職した父は、マメに葉書や手紙を書いていました。自著の本を送ってくれた人にはその感想を送ったり、離れて住む私にも何度か。

 

修一さんも毎日、沢山の人に葉書をしたためます。家を訪れた人に、後日その日の料理メニューをイラストにして、「またどうぞ」と送ったり。馴染みのお魚屋に、「先日のお魚、カルパッチョにしていただきました。いつも美味しい魚をありがとう」なんて、料理のイラストまで添えて感謝を届けたり。夫婦の似顔絵まで入れて、茶目っ気たっぷりなところは、私の父親とは違うところですが。そんな修一さんを観ていたら、父親と話したくなったなあ。

 

親しい誰かと重ね合わせるのは、きっと私だけではないはず。誰もが自分の両親や祖父母と似ているところを見つけて、温かいものがこみ上げてくるんじゃないかな。

 

映画「人生フルーツ」

映画「人生フルーツ」

 

映画の中では、現在の修一さん、英子さんの暮らしぶりだけではなく、2人のこれまでの人生も見せてくれます。こんなことがあったからこその今の生活なんだと、なおさら感慨深い。

 

修一さんは建築士で、かつて住宅公団のエースでした。修一さんがまだ30代の頃、愛知県は高蔵寺にあるニュータウンの設計を任されます。修一さんが描いたのは、自然のままの土地の傾斜や雑木林を残した設計。大地には風の通り道が必要と考えてのことでした。東京大学在学時からヨットにはまり、海や風と親しんでいたからでしょうか。自然の営みを邪魔しない、自然とともにある人々の暮らしをそこに思い描いていました。

 

けれど、時代は戦後の高度経済成長期。経済優先の時代は、自然の残る余白のある設計を許してはくれませんでした。できあがったのは、土地にぎっしりと「かまぼこを並べたような」、それはそれはとても無機質な大規模団地…。

 

当時の同僚は、「ある時から、津端(修一さん)は現場に来なくなった」と言っていました。その時の修一さんは、一体どんな思いだったのでしょう。その数年後、その高蔵寺ニュータウンの一角に土地を求め、そこに雑木林を育て始め、風の通り道のある終の棲家を作ったのです。それが映画の舞台になっている、雑木林と畑のある家です。

 

「修一さんは最近、いい顔になってきた」という英子さんの言葉が胸に残ります。悶々とした思いを抱えた住宅公団時代。そこから離れて、自然とともにある今の生活をしているから、ものすごーく魅力的な顔になったんじゃないかな。

 

映画「人生フルーツ」

映画「人生フルーツ」

 

公団のことがあってから50年もの時が経った晩年、修一さんにある仕事が舞い込んできます。その仕事とは、経済優先の生活で心の病にかかった人たちが入院する病院の、敷地を含めた設計でした。若いセンター長さんが、かつて修一さんが自然とともにある設計をしていたことを聞きつけ、アドバイスしてほしいと依頼してきたのです。

 

センター長の期待に応え、驚くような速さですぐに、温かいコメント入りの設計図を完成させました。添えた手紙には「報酬は辞退します。何でも聞いてください。遠慮は無用です」と。修一さんは、そのセンター長に、惜しみないアドバイスを送り続けます。経済至上主義の時代が生み出した、現在に広がるひずみ。修一さんはきっと高蔵寺ニュータウンを設計した時から、森がなくなると人間は人間らしくいられなくなることがわかっていたのでしょう。修一さんはようやく最後に、やりたい設計の仕事ができたのです。

 

残念なことに、修一さんはその病院の完成を待たずに亡くなってしまいます。完成後、英子さんはその遺影を持って、病院を見学していました。修一さんが思い描いたまんまのでき上がり。修一さんの思いが、確実に若い人たちに繋がったのです。

 

映画「人生フルーツ」

映画「人生フルーツ」

 

映画を観終わって、修一さん英子さん夫妻は、自身の暮らしを通して種まきをしていたんだと気がつきました。大地に実ったご馳走でお客をもてなすこと、その実りを子や孫に届けること、堆肥から土を作って肥えた大地にすること、雑木林で風の通り道を作ること、手紙で自身の思いを茶目っ気たっぷりに伝えること、人と森とが共存する建築物を設計すること…。全てすべて、大切な何かを若い人たちに手渡す行為です。次の世代の人たちが、修一さん英子さん夫婦のように、人生の実り(=フルーツ)を育み受け取れますようにと、種まきをしていたんです。

 

私の憧れる素敵な人は、皆偶然に庭を持っているのではない。庭を持つ人は、風や木々や土が循環するように、次の世代の人へ巡らすことも考えている。自身の喜びを次の世代へつなぐような愛に溢れる人だからこそ、私はつい憧れてしまっていたんですね。

 

文 和氣えり

 

映画「人生フルーツ」

 

映画「人生フルーツ」
【公式HP】
www.life-is-fruity.com

 

【上映予定】
桜坂劇場(那覇市)
アンコール上映 
6月17日(土)〜7月14日(金)
http://www.sakura-zaka.com

 

シアタードーナツ・オキナワ(沖縄市)
6月22日(木)〜7月12日(水)
http://theater-donut.okinawa

 

TANAKA

capful

 

太陽の昇る海が眼下に広がる外人住宅。夏へ向かうこれからの季節は特に、爽やかな朝日が窓から差し込む。その清々しさの中で午前7時半からゆったりと過ごせるカフェ、Capful(キャプフル)が今年(2017年)2月にオープンした。店主の小坂正樹さんが、ここでのメニューを考える際、最も考慮したのはこのロケーション。

 

「僕はなんの店でもよかったんです。でも、東海岸で陽の昇る場所だから朝食が似合うと思って、朝食の店にしたんです」

 

capful

 

眩しい朝日の中で味わいたい一番手は、“アボカドとフムスのオープンサンドイッチ”。パンに塗られたひよこ豆のペースト フムスとその上のアボカドが、素材の味そのままにねっとりとしてとてもまろやか。上にかかった調味料やたっぷりのコリアンダー、パプリカパウダーが、カリッとした歯ごたえや爽やかな香りを添え、リズムを生む。そしてレモンをキュッと絞れば、フレッシュな酸味が、まろやかさを引き締める。皿全体で洗練された味わいが完成だ。

 

「シンプルで素材を活かした料理を心がけてます。でも単調にならないよう、何か驚きがあるようにと思っています。スパイスとハーブが好きなんで、ちょっとそれらを使ったり。それがアクセントになりますよね。上にかけてるのはデュカっていうんですけど、中東発祥の調味料で、コリアンダーとクミンとゴマとアーモンド、ヘーゼルナッツなどが入っています」

 

capful

 

心がけていると言うだけあって、驚きは1品ごとに。新作だという“ビーツとピンクグレープフルーツのサラダ”では、ちょっと苦手だと思っていたビーツの美味しさに目を見張る。土臭いようなクセはなく、柔らかく、ビーツの持つ甘みを存分に感じられる。マリネされているが、マリネ液の酸味が際立ちすぎず、爽やかな甘さもある。グレープフルーツの酸味と甘みをも加味された控えめなドレッシングで、これまた全体のバランスがとてもいい。

 

「酸味と甘みが爽やかなのは、ドレッシングにラズベリービネガーとはちみつを入れているからですね。ビーツは皮を付けたまま丸ごとオーブンに入れて、1時間以上焼いています。時間をかけて焼くことで、ビーツの甘みが引き立つんです」

 

capful

 

“グラスフェッドビーフバーガー”というちょっと舌のからまるハンバーガーメニューも、例外にあらず。そのパテはとてもジューシーで、肉汁とともに、牛肉のしっかりとした味わいが口いっぱいに広がる。パテにハーブが入っているのは、言われなければ気づかない。ハーブの味を前面に出して肉の味を殺すのではなく、肉の味を引き立てるだけの絶妙さに思わず唸った。グラスフェッドビーフの特質上パサつきやすい肉と聞いて、小坂さんの技にも驚いた。

 

「グラスフェッドビーフって、飼料を与えずに牧草だけを食べて育った牛なんです。脂肪分が少なくて、赤身が多めです。脂肪が増えるように飼育した牛より健康的だし、これが本来の肉の味なんじゃないかなと思って。その肉の味をさらに引き立たせたくて、パテにローズマリーやフェンネルシードやセロリシードを加えています。赤身が多いのでパサつきやすいんですけど、火の通し方を加減して、あまりガチガチに入れないようにしています」

 

capful

 

Capfulのメニューは、“グラブラックス(香草や調味液に漬け込んだ)サーモンサンドイッチ” “ポーチドチキン&ブラウンライスサラダ”など、朝食にぴったりな爽やかさを感じられるものが多く並ぶ。一方、“ステーキフリット”など、朝から?と思うような重みのあるものも。

 

「朝7時からオープンして朝食の店といっても、夕方までやっていて。最初は、朝食、ランチ、夕方のメニューを分けていたんです。夕方はお酒やおつまみ系をメインにして。でも分けるのやめたんです。そしたら場所柄外人さんが多いのもあって、朝でもステーキが出るようになって。朝食昼食夕食と分ける必要ないなと思ったんです。その人が朝からこれを食べたいっていうのであれば食べればいい。なので、どのメニューも1日中食べられるようになっています」

 

capful

 

小坂さんが大事にするのは、そのお客が好きなように食べてもらいたいということ。それはセットメニューやワンプレートランチを出さないことにも現れている。

 

「本当に自分の好きな感じでやってるだけなんですけど、ランチセットみたいのはしたくなくて。例えばチキンプレートみたいなのがあって、それにサラダとスープがついてますよっていうのがあるじゃないですか。そういうのもいいんですけど、なんかそれで1食お腹一杯にするのって、もったいないなと思うんですよ。自分自身、色々食べたいから(笑)。どうせなら、サラダ、サンドイッチ、あと1品ステーキとか。3品くらいとって、ちょっとずつシェアしようとか。何種類か食べられるほうが楽しいかなと」

 

その言葉通りCapfulは、小坂さん1人で料理を担当しているにも関わらず、メニューの数は多い。

 

「朝、サラダとコーヒーだけとか、コーヒーとベイクドスイーツだけというのもいいし、何品か頼んでシェアするのもいい。ガッツリお肉食べてもいいし、朝からおつまみとってワインを飲んでもいいと思うんです。色んな選択肢があったほうがいいかなって感じです」

 

capful

ソイミルクチャイティー。プラナチャイという、化学製品を使わず体に優しい素材だけで作られたチャイティー。

 

capful

小坂さんがセレクトしたアルコールは、ビールの他、ワインやスパークリングワインも。

 

小坂さん自身、“こうでなくてはならない”という思い込みがなく、いい意味でこだわりがない。あるのは、「スタッフが気持ちよく働いてくれて、お客さんが喜んでくれれば」という気持ちだけ。料理の道に進んだのも、気負いはなく流れに乗ったまで。きっかけは、趣味のサーフィンをするに便利な飲食店に勤めたこと。

 

「生まれも育ちも神奈川で、高校のときからサーフィンをしていて。鎌倉の七里ヶ浜にあるbills(ビルズ)という店に入ったんです。海の目の前に店があって、海に入ってから出勤できるし、海を見ながら仕事ができるんで。その店全国に何店舗かあるんですけど、僕は『異動はしません』って伝えてました。『異動になるんだったら、辞めさせてください』って(笑)。海があっての、というかロケーションや雰囲気あっての食べ物って思っているんですよね」

 

食べ物とそのロケーションを結びつけるのは、自然豊かな湘南で育ち、食の背景にいつも海や空、太陽があったから。小坂さんは、“世界一の朝食”と言われて久しいbillsで経験を積み、元から料理が好きだったことで、料理で食べていこうと決めた。

 

「それまでは写真とか楽しいことばっかりやってたんですけど、決めてから、そっからは猛勉強ですよ。先輩に色々教わって、盛り付けひとつとっても勉強しました。あと休みの日は食べ歩き。本もいっぱい読んで考えて」

 

capful

 

高校時代からのサーファー仲間であるオーナーの誘いで、Capfulのオープンをきっかけに沖縄に移住した。今でも休日は、勉強を兼ねた食べ歩きに費やす。

 

「休みの日は必ず2食は外食しようと思っています。外食ばっかりしてるとお金がかかるからきついなって時もあるんですけど、やっぱり外食しないと自分が止まっちゃうじゃないですか。ジャンルに関わらず色んなお店に行きますよ。全てのお店にヒントが隠れてるというか」

 

どこか掴みどころがない小坂さんだが、料理を志してからの話には料理人としてのプライドを覗かせる。

 

「なんでも自信満々でやりたいから、その裏付けでちゃんとやっていこうと。その道で飯を食っていこうと思ったら勉強しなきゃいけないんですよ。イヤじゃないですか、聞かれたこと答えられないとか、『料理やってます』って言って、『店の料理しかできません』、『出してるメニューしか作れません』とかだったら。そんなの料理人じゃない」

 

家では日本そばのそば打ちもするし、ラーメンでも何でも作ると言う。オープンしてまだ数ヶ月のcapfulでも、新しい料理を次々と試作するし、お客の声を聞いて要望があればそのメニューも増やしていくつもり。夜明けを告げる太陽が毎日店の前に昇るように、Capfulも次々と新しい扉を開けていく。太陽の昇る海に似合う、そして枠にとらわれない新しい朝食が、ここから始まるのかもしれない。

 

写真・文 和氣えり

 

capful

 

Capful(キャプフル)
うるま市石川曙1-6-1
098-965-4550
7:30〜19:00(平日)
7:30〜21:00(土日)
close 水
https://www.facebook.com/capful/?fref=ts

 

TANAKA

レユニール

CHERRY BROWN

 

レユニール

siki

 

「このリング、つけ心地がとてもいいでしょう? すごく滑らかなんですよね。“siki”というブランドなんですけど、仕上げだけ専門の職人さんにわざわざ依頼されているんですよ」

 

繊細でゆるやかな曲線が特徴のそのリングは、スルスルと指に収まり違和感がなく、付けていることを忘れてしまいそう…。そんな細部にまでこだわったとびきりが並ぶのは、作家物ばかりを集めたジュエリーショップ、réunir(レユニール)。津波古真由美さんがセレクトするのは、シンプルながらも存在感があり、美しい佇まいのものばかり。

 

「仲地由美子さんのガーネットリングは、石の美しさにも目を見張りますが、撮影している時、肉眼では気づかなかった石座のミル打ちに気づいたんです。カメラを向けてみて、改めて作家さんの石への愛情や作品への想いを感じました。手間を惜しまず美しいものを作る心意気に触れると心が震えます」

 

レユニール

仲地由美子

 

レユニール

 

真由美さんが心惹かれるのは、デザインの良さにだけではないようだ。

 

「『仕上げが丁寧で美しいな』とか『こんな見えないところまで手抜きをしてなくて、すごいな』とか思うものが多いですね。お店を開くにあたってジュエリーの作り方を2年弱学んだことで、視点が変わりました。手間を惜しんでいないものを自然と選ぶようになりました。その前は、デザインから入って選ぶことも多かったですよ」

 

レユニール

serial number

 

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siki

 

レユニールに揃うジュエリーの美しさの秘密は、細部にまでかけられる作家の愛情。その沢山の愛情を真由美さんはお客に伝える。

 

「この“serial number(シリアルナンバー)”というブランドは、全部の作品一つひとつ番号が打ってあるんですよ。それぞれに番号を振ることで、そのジュエリーとその人が繋がって、そこからまた物語を紡いでいってほしいという願いを込めているんです。それから“siki”のジュエリーのコンセプトは、“装うオブジェ”っていうんです。留め具のパーツまでも、デザインに合わせて角度がついていて。普通は、耳たぶに合わせてカーブしているものがほとんどですよね。置いた時や、耳につけて横から見た時も美しい。こういう細かいところにコンセプトを感じて、『くぅ〜!』となってしまいます」

 

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よどみなく流れる話の中で、真由美さんは作家の人柄についても言い及ぶ。「モデルさんのようにキレイな人なんです」「明るくて元気で、趣味はバドミントンなんですって」「企画展で作品を送ってくださるとき、ディスプレイ用の什器やディスプレイした時の写真まで一緒に送ってくださって、とっても心配りをしてくださる優しい作家さんなんです」などなど。

 

ジュエリーを選ぶのには要らないかもしれない情報。それをも伝えるのは、作品だけでなく、その作家ごと好きになってもらいたい、ファンになってもらいたいと思ってのこと。人懐っこい笑顔で楽しそうに話す真由美さん自身が、その作家を丸ごと好きなんだとよく分かる。

 

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左・cicafu metal works/右・sou

 

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アトリエひと匙

 

真由美さんは、これまでホテルのお土産店やインテリアショップで販売の仕事をしてきた。自分の好きなものを、その好きな部分を伝えて、購入してもらうのがすごく楽しかったそう。ジュエリーの世界に入ったのは、前の職場であるインテリアショップmix life style内のbeというセレクトショップで、ブライダルリングの販売にたずさわったのがきっかけ。

 

「一生に一度の買い物で、一生つけ続けるわけだから、当然納得のいくものを選んでもらいたいですよね。その方のお肌の色に合う金属をアドバイスさせていただいたり、カスタマイズでダイヤを入れようか、刻印はなんて入れようか一緒に考えたりしました。1ヶ月半ほどお待たせしてお渡しの際、すごく喜んでくださったんですよね。箱を開けた瞬間、お2人で『わあ〜』ってなって、自分のリングを色んな方向から見て、お互いはめてみたり、交換したりで、『すごくかわいい!!』って満足して下さって。とてもやりがいがあると思ったんです」

 

真由美さんがジュエリーに惹かれたのは、長く持ち続けられることもひとつ。

 

「そのブライダルリング、とてもシンプルで、使い続けていくうちに経年変化も楽しめるようなものだったんですね。ブライダルリングに限らず、ジュエリーってずっと残るものだし、丁寧にお手入れしていけば孫の代までだってずっと持ち続けられるものですよね。その時代時代の流行もあまり関係ないですし。例えばリングだと、年齢を重ねるとサイズが合わなくなることもありますよね。でも金属は溶かして再生できるので、サイズを変えたり、また別のものに生まれ変わらせることもできるんです。そういうところも素晴らしいなと思いますね」

 

レユニール

佐久本弥生

 

レユニール

Atelier saku

 

長く持ち続けられるというジュエリーの魅力を活かすのが、レユニールだ。真由美さん自身がメンテナンスやリフォームを手がけ、いつまでもジュエリーを活かしてくれる。しかもレユニールで購入したジュエリーだけでなく、手持ちのものも同様にだ。

 

真由美さんはジュエリーのメンテナンス技術を身に付けるため、まずはその作り方から学んだ。2年弱をかけて県の工芸振興センターで金細工研修コースを修め、ジュエリースクールにも通った。そこまでして自身でメンテナンスを手がけるのは、本土から離れた沖縄にあって、お客にかかる負担を小さくしたいとの思いからだ。

 

「前の職場でも『ジュエリーを直して欲しい』というご要望は多かったんですね。でもそれが東京だったり県外から仕入れているものだった場合、お客様に送料等の負担があったり、時間的にもお待たせしてしまうことがあって。そういうこともあって、自分でお直しができるようになりたいと思ったんです」

 

レユニール

作家さんが来店してオーダーメイドジュエリーを承ってくれることも。左上のリングを見本に、ダイヤの色や形を選ぶ。オーダーをお願いした作家さんは仲地由美子さん。

 

レユニール

店の奥にある真由美さんの作業場。

 

2016年にオープンしたばかりのレユニールだが、すでに20代のジュエリー好きの女性から、50代60代のマダムまでと幅広い層から、メンテナンスやリフォーム、オーダーメイドの注文が入る。

 

「ネックレスをお持ちになって、『昔は首周りにぴったりでよかったんだけど、今はもう少しゆったりとした長さがいいから、何センチ伸ばして』とか、手持ちのリングと雑誌の切り抜きをお持ちになって、『リングの石を外して、こんなピアスに作り変えることはできますか?』というオーダーを頂いたりします。先日は、ご夫婦のマリッジリングをお持ちになって、『主人はリングを付けていないので、その分を今の自分のサイズに合った2連のリングにしてほしい』というオーダーがありましたね。ご自身の誕生石のネックレスを一から作ってほしいというオーダーメイドのご注文もありますよ」

 

レユニール

serge

 

レユニール

大寺幸八郎商店

 

レユニールでは真由美さんが行うメンテナンスだけでなく、自身でできるメンテナンスについても知ってほしいと、クリーニングのワークショップを開いている。

 

「お手持ちのジュエリーをお持ちいただいて、それぞれに合ったお手入れの方法をご紹介して、皆さんで綺麗にしていくんです。洗浄液に浸して歯ブラシとかで汚れを落として、セーム革や柔らかい布で磨いて。シルバーだったり、パールやデリケートな石などは、それ用の洗浄液がありますので、そういうのを使って。楽しいですよ、綺麗にしていくの。お洋服の衣替えなどと一緒にジュエリーもお手入れしてあげると、また翌年も美しい状態で使えると思うんです」

 

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左・治谷文子/右・仲地由美子

 

レユニール

 

ユニークなのが、ジュエリーのお手入れ会と一緒に開く手指のお手入れ会。

 

「リングをのせるステージになる手も綺麗になったら、自分もジュエリーも嬉しいんじゃないかなと思って。私自身、ジュエリーをやってるのに、ささくれた手をしてて、ジュエリーを付けて写真撮ってみたら、とんでもないやって。知り合いのエステティシャンの方にお願いしています。好きな香りのアロマオイルを入れたハンドクリームをそれぞれで作るところから始めて、セルフハンドマッサージの仕方などを教わるんです。手もリングも自分から見えるパーツだから、両方綺麗だと気持ちが上がりますよ」

 

ジュエリーを大切にすることは、自分自身をも慈しんでいくこと。細部にまで愛情の行き届いたジュエリーであれば、なおさら自分も大切にしたくなる。レユニールは、そんなジュエリーを長く愛していくことも教えてくれる。お気に入りの1点を見つけたら、その後もずっとおつきあいしていきたいお店。行きつけのヘアーサロンがあるように、行きつけにしたいジュエリーショップだ。

 

写真・文 和氣えり

 

レユニール

 

réunir(レユニール)
那覇市若狭3-20-22 1F
098-988-4461
11:00〜18:00
close 水・木
https://reunir-piece.com

 

TANAKA

tettoh coffee

 

「求め続けるのは、かつて僕の人生を変えた”品格”を有するコーヒーです」

 

コーヒーに品格がある? 思ってもみなかった言葉に、Tettoh Coffee(テットウコーヒー)店主 石川智史(さとし)さんの、目指すところの果てしなさを予感した。

 

「11年くらい前ですね、25歳の時に飲んだ、“原点”コーヒーさん。飲んだ時に、人格を超えたんですね。コーヒーの品格が僕の人格を超えたんです。液体に“品格”っていうのがあるんだって、衝撃でしたね。なんの手仕事もそうだと思いますけど、作り手の品格がその作品に反映される。コーヒーにしてもそうなんだと」

 

1杯のコーヒーは、作り手の手仕事が生み出す芸術品のようなもの。納得のいく作品を生み出すため、石川さんはこだわり尽くす。まず豆を仕入れる段階では、その豆に付されている評価には一切振り回されない。

 

「スペシャルティコーヒーでも、価格最優先で取引されるようなコマーシャルコーヒーでも、肩書きはどうでもいいんです。まずは、サンプルを取り寄せ、肩書や評価の点数は全て排除した上で、味見し、当店の行き方に合い、味の方向性がよいと思ったものを仕入れています」

 

次に淹れ方であるが、コーヒーを最良の状態で味わってもらうため、同じ豆で淹れる場合でも、カップやその日の豆のコンディションによって使う器具や抽出方法を変える。カップひとつに依る味の違いについて、大まじめな顔で続ける。

 

「例えばこのコーヒーの場合、お店で飲まれる方用のボーンチャイナのカップでしたら、最初の30mlを2分かけてゆっくりゆっくり抽出するんです。その後は、その抽出液を薄めていくようなイメージですね。でもテイクアウト用の紙のコップに淹れる場合、紙コップはどうしても最後に紙の味がするんですね。喫茶と同じように淹れると、紙の味という雑味が入ることで、きっちり決めたものが時間と共に崩れてしまう。ですので、その紙の味を見越して抽出するんです。あえて雑味を入れてあげることで、紙コップの味と相殺されるような淹れ方ですね」

 

tettoh coffee

 

イメージした味にするための色んなアプローチを知っていて、焙煎や淹れ方に多くのバリエーションを持つ。そんな石川さんの一番のお勧めは、深煎りのコーヒー。

 

「これはやや深煎りですが、苦味だけでなくあえて酸味を加えることで、味に立体感を出しています。時間が経過しても味の芯がぶれません。深煎りは、豆の個性が光っていない分、焦がしの極みである苦味や、酸味を加えていくんです。深煎りコーヒーは、足し算のコーヒーと考えています」

 

深煎り特有の苦味がありながら爽やかな酸味もあり、その後チョコレートのような香ばしさもやってくる。深煎りコーヒーは豆を焦がした苦味だけでフラットな味わいと思いこんでいた頭に、軽い衝撃が走った。味に重なりがあって、繊細なのだ。

 

さらに石川さんは、苦味だけで味の重なりのある足し算のコーヒーを研究中という。

 

「今、その完全な苦味っていうのにフォーカスしたブレンドを作っているところなんです。酸味がなくて苦味だけで立体感を出すという新しいブレンドです。苦味には様々な表情があって、その重なり合いだけで表現するブレンドですね。いつになるかわからないですけど」

 

tettoh coffee
tettoh coffee

 

スペシャルティコーヒーと呼ばれる、高品質の豆で酸味の際立つ浅煎りコーヒーが主流の今、深煎りコーヒーを押す店は珍しい。石川さんが敢えて深煎りコーヒーを追求するのは、苦味がコーヒー特有のものと考えるからだ。

 

「苦味は他の飲み物にあまりないと思うんです。ホッとしたいなっていう時に、苦味のある落ち着いた味の飲み物って、コーヒー以外にあんまりないような。浅煎りであれば、フレッシュ感であったり酸味であったりが、紅茶やジュース、ワインなんかで味わえることがあると思うんですよ。でも苦味はコーヒーの独壇場というか」

 

加えて、日本人だからこそ繊細な苦味がわかると、苦味に対する特別な思いもある。

 

「苦味に対して情緒を捉えたり、文学的なところに寄せることに、日本人は強いと思うんです。粗雑な苦味であれば、コンビニや大手コーヒーチェーンの方がわかりやすい。そうではなくて繊細な苦味の世界があるんですね。最近”原点”コーヒーの恩師から、70年代から80年代にかけての日本のコーヒー雑誌を200冊くらい頂いたんです。生豆の品質の差もあってのことですが、昭和の時代は、苦味に軸を置いた焙煎技師がいた。焙煎や抽出で、いかに良質な苦味を表現するかにフォーカスした人がいたんですね」

 

それと、と石川さんは、オンリーワンの理由も付け加えた。

 

「この店に流れている空気もありますよね。少し腰を落ち着けて会話や読書を楽しみたい時に、ここに合うのは、少し苦味の利いたものかなと。あと流行が浅煎りに向く中で、苦味の存在価値を主張していきたいという思いもあります。そっちの味だけじゃないよ、という反骨心ですかね」

 

tettoh coffee

優しい味の卵焼きにスライスされたトマトの酸味がアクセントの、タマゴサンド

 

石川さんは、自宅から店まで45分かけて歩くことから、1日を始める。長い距離を歩くのは、前日に焙煎し一晩寝かせた豆のコンディションを見極め、その味を正確に判断をするため。

 

「完璧だと思っても、そこにわずかなコーヒーの良しとしない何かを見つけ出してあげないと次に進めないんです。例えばこの苦味が、本来持っている豆のフレーバーを飲み込んだなとちょっとでも感じたら、釜出しの時間を数秒早めようとか、排気を少し上げようとか、加熱のアプローチを変えようとか。豆の声を聞きながら、その機微をいかに敏感に捉えられるか。自分がぶれていたら、正確な判断を下せません。なので歩くことで体と心を整えるんです。空腹な状態で味見して、それまでは水も飲まないですね」

 

歩くのは、自然からインスピレーションをもらうためとも言うが、もう一つ大きな理由がある。怖さを振り払うためだ。

 

「朝ここに来て、味見をする時、怖いです。めちゃくちゃ怖いです。歩いているのは、気持ちを落ち着かせて、コーヒーと向き合う覚悟を決めるためかもしれないです」

 

tettoh coffee

7つの素材が入った甘くてスパイシーなエスプレッソドリンク、“ストレートセブン”

 

意外な言葉に驚くも、石川さんはその理由をためらいなく話してくれた。それは長い下積み時代がもたらした感情。

 

「僕ね、開業するまで10年くらいかかっているんですね。10年の間に納得できるものができていれば、とっくに店をオープンしていたと思うんですよ。焙煎は独学で、ずっと一人で練習してきました。お金もないのに、狭い部屋に色んな焙煎機入れて、日々練習をするんですけど、ほぼほぼ全部失敗なんです。豆を焼く、味見する、失敗、また焼く、味見する、失敗、その繰り返し。その度に豆を捨てて。おそらく1トンをはるかに超える量を捨ててきたと思うんです。今でもその失敗した時の感覚が残っていて、怖いんですね。もうトラウマになっているんです」

 

コーヒーをやっていることは楽しくないと、さらに驚かせる言葉も。

 

「僕ね、楽しいと思ったことないです。よく『楽しそうですね』って言われるんですけど。どうしたらもっと良い味が出せるのか、理想の味に近づけるのか、どうしたらどうしたらと、毎日コーヒーのことを考えているだけで。充実はしていると思うんですけどね」

 

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楽しくもなく、恐れていることを10年以上、そして今でも続けているのは、目指すコーヒーにいまだ到達できていないから。

 

「風味だフレーバーだって言っても、じゃあ僕のコーヒーに品格があるのかっていうと、ないんですよ。もちろん自分の人格以上のものは出ないので、品格を出すために己の鍛錬を積んでとは思うんです。でもいつまでたっても満足いかない。常に、その品格を出すためにどうしたらいいんだっていうのがあるんです。それがあるから続けられているのかもしれないですね」

 

恩師と仰ぐ原点コーヒーのマスターに「店をやりながらでないと極められない」と言われたことで、もうやるしかないと、石川さんはTettoh Coffeeをオープンさせた。苦しんだ10年があったからこそ、色んな味へのアプローチができ、引き出しが増えた。決して無駄ではなかっただろう。ただ10年と一言で言えないほど、石川さんには紆余曲折の長い物語がある。

 

tettoh coffee

 

「恩師のコーヒーを初めて飲んで、その半年後くらいに一度店を出したんですよ。その頃は自信満々な頃だったので、自分でもできるだろうって。中古の焙煎機を購入して始めたら、とんでもなくて。味が出るどころの騒ぎじゃないんです(笑)。当時、スペシャルティコーヒーがちょうど世間に知られはじめた頃で、第一線で活躍してる人のコーヒーを飲んだら、すごくフルーティだったんですね。同じ豆を使っているのに、自分のは苦味しか出なかったんですよ。全然、違う、違う、違う。またダメか、ダメかって。これはヤバイ、ヤバイって、どんどん追い込まれていって。オープンしてから3ヶ月後くらいに起き上がれなくなって、鬱になってしまったんです。そこからが長かったですね」

 

店を閉め、借金だけが残った。しかし石川さんは、コーヒーをやめなかった。

 

「何度も諦めようと思ったし、とっとと諦めたかったんです。でも、コーヒーのことを毎日考えてしまうんです。なんなんでしょうね。考えたくなくても考えてしまうんです」

 

服用していた薬の影響で、いよいよコーヒーが飲めなくなってしまった。もうこれで諦めようと決心した頃、石川さんはある行動を起こした。

 

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「最後に、コーヒー発祥の地であるエチオピアに行って、実際に成長しているコーヒーの樹を見て、それで諦めようと思いました。これでもうやめられる、これでいいと思って。ガイドなしで1人で行って、コーヒー栽培の地に飛び込んで。どんな風にコーヒーを栽培する環境があって、そこで働く人がどんな生活をしていて、どんな風にコーヒーに取り組んでいるかってことを、肌で感じられたんですね。その時に、新しい世界が開けたんです。ああ、僕って馬鹿だったなって。コーヒーを美味しくしたいっていう味のことしか考えてなかったと思って」

 

エチオピアで石川さんが見たのは、学校へ行く機会を失った子供たち。

 

「コーヒーを栽培しているある1つの家族があって、その家族で働き手が足りなかったら、そこの子供も手伝うんです。手伝うために学校へ行けない。かたや、コーヒーを栽培していない家の子供は学校に行ける。コーヒーを栽培してなければ学校へ行けるのに、コーヒーをやってるがために学校へ行けない。それってコーヒーに携わる者としては辛いですよね。コーヒーはお金にならないからって、“チャット”と呼ばれる覚醒作用のある植物に転作したり、そこでの収穫が終わったら別の収穫のために、国を移動したり。スペシャルティ、スペシャルティって言うけど、そこで働いてる人たちは全然スペシャルな生活じゃないんですよ」

 

石川さんは、労働者やその家族が一般的な生活できるようになった時に、“スペシャルティコーヒー”と謳いたいと、今は“スペシャルティ”の看板は掲げていない。エチオピアへ行き世界が開けたことで、石川さんにはもうひとつの目標ができた。

 

「自分たちがコーヒーを販売することで、労働者の方であったり、コーヒーを生産している人たちに対して、何ができるのかっていうところを模索していきたいんですね。コーヒー家として、お客さんが美味しいと感じていただけるコーヒー、自分が表現したいコーヒーを追求していくのはもちろんとして」

 

行動していかないとと、石川さんは再びコーヒー栽培の世界へ飛び込む。

 

tettoh coffee

 

「来年あたり、またアフリカへ行く予定なんです。2,3ヶ月行って、コーヒー農園で一緒に働いて、同じ生活をして、いったい何が必要なのかを考えたいと思っています。ただお金を渡したり、物を渡せばいいのかといえば、それは違うと思うんですね。エチオピアでは、子供たちはサッカーをしていて、サッカーが大人気なんですけど、ボールに空気がちゃんと入っていないんですよ。でもそこで空気入れを渡したら、おそらく争いが起きるんですよね。安直な考えで行動しちゃいけないというのがあって。何年か通い続けて、これなら貢献できる、責任が持てると思えることをやりたいなと。やがて労働者だったり誰かに対して何らかの形で還元できるようなシステムになればなと思っています」

 

生産者や労働者の生活の安定に貢献できた時、石川さんのコーヒーには間違いなく「品格」が宿る。ただ、そうすることが石川さんにとっての幸せなのか、聞かずにはいられなかった。

 

「僕? 僕はいいんです。僕はもうこうなんだ、しょうがないって思って、もう諦めた。このままコーヒーコーヒーって言いながら、生涯終えるのもいいかなと思っています(笑)」

 

写真・文 和氣えり

 
 tettoh coffee

 

Tettoh Coffee(テットウコーヒー)
うるま市栄野比717
098-989-3803
8:00 〜17:00
close 日 第4月曜日
 

 

TANAKA

珈琲専科LOOP

珈琲専科LOOP

 

クラシックが流れている。心地よく優しい音色。曲が終わると、針を静かにレコードに落とし直した。その振る舞いが珍しくて、思わず見入る。再び流れる伸びやかな旋律に合わせて、ソファにゆったりと腰掛ける。ハンドドリップで丁寧に淹れてくれたコーヒーの、ふくよかな香りがあたりに漂った。

 

珈琲専科LOOPは、今どきのカフェというより、ノスタルジックな雰囲気のある喫茶店。そのオリジナルブレンドは、爽やかな酸味の中にほのかな甘みを感じさせる。時間が経過すると酸味が引き立ち、味の変化がよくわかる。長く楽しめるから、ここでの時間をゆったり過ごすにぴったりの1杯。

 

店主 中山学さんが、店の雰囲気同様に静かな口調で教えてくれる。

 

「この豆はKブレンドと言いまして、エチオピア、ケニア、タンザニアのアフリカの豆をブレンドしたものなんです。東京にいた時に馴染みのあったカフェファソンさんでブレンド、焙煎してもらっています」

 

奥様の緑さんが、このブレンドが誕生した経緯を明かしてくれた。

 

「以前東京のカフェに勤めていたんですが、そのカフェのオーナーが、私のオリジナルブレンドを作ろうよと提案してくれまして。沖縄をイメージしたブレンドを作って欲しいと、いつもお世話になってるカフェファソンさんにお願いしました。沖縄のエキゾチックなところとか、深い緑、深い青に包まれている鮮やかなイメージをお伝えしたら、このブレンドを作ってくださって。明るさや鮮やかさが、アフリカの豆の印象と重なったそうなんです。試飲してすぐに気に入りましたね。実は、Kブレンドの本当の名前は“喜屋武(きゃん)ブレンド”って言うんです。旧姓が喜屋武なので…。東京では喜屋武という名字はかなりキャッチーだったみたいなんですけど、沖縄ではちょっと恥ずかしくて…」

 

珈琲専科LOOP

低めの温度で豆の個性を引き出した浅煎りコーヒー。酸味や甘み、まろやかさなど味の層を感じられる。

 

珈琲専科LOOP

 

LOOPには、他で焙煎、ブレンドしてもらっている豆以外にも、学さん自ら焙煎している豆もある。メニューには載っていないが、お客の好みに合わせて、浅煎りコーヒーも淹れてくれる。総じて学さんの淹れ方はとても丁寧。熱伝導のいい銅製のポットで湯を沸かし、細い注ぎ口のドリップ用ポットに移し替えて温度を調節する。そして1杯1杯、真剣な眼差しでドリップする。その1杯に真摯に向き合う姿から、コーヒーに情熱を傾けていることが伝わってくる。

 

そんな学さんだが、学さんと緑さんがコーヒーの美味しさに目覚めたのはここ数年のこと。2人には、コーヒーの世界にはまるきっかけを作った共通の人物がいる。緑さんが勤めていたカフェのオーナーで、「喜屋武ブレンドを作ろう」と提案してくれた、通称“吉田先生”だ。

 

「僕、吉田先生にスペシャルティコーヒーを教えてもらうまで、コーヒー、苦手だったんです。一口飲んで、飲みきれなくて残しちゃう。この辺にまとわりつくような感じがあって」

 

胸のあたりをさすりながら、学さんは言う。“スペシャルティコーヒー”とは、「Seed to Cup(種から1杯まで)」という言葉があるように、生産段階から品質管理がしっかりされていて、飲んだ時にとても美味しいと認められた高品質なコーヒーのこと。スペシャルティコーヒーを出す吉田先生の店に勤めて、緑さんもコーヒーに対する考え方が変わった。

 

珈琲専科LOOP

 

「吉田先生の店で、コーヒーの美味しさに気づきました。それまではコーヒーをあまり重要視していなかったんです。製菓の専門学校へ行って、最初のカフェに勤めてからもケーキなどのお菓子を作っていたので、お菓子中心の考えでした。お菓子に合う飲み物をと思っていたんですけど、コーヒーの美味しさが分かってからは、コーヒーに合うお菓子を作ろうと思うようになりましたね」

 

コーヒーの美味しさに出会った緑さんが、その世界にはまるだろうと見越して、学さんを吉田先生に引き合わせた。緑さんの予想は的中する。学さんには特に、スペシャルティコーヒーの考え方が新鮮だった。

 

「こんな世界があるんだって思いましたね。味がものすごく美味しいのはもちろんなんですけど、スペシャルティコーヒーは、競争じゃなくて共生を生んでるんだなと思ったんですよ。僕、東京で9年間アパレル業界にいたんです。同業の人と集まって情報交換とかするんですけど、本音ではあまりいい情報は教えたくないっていう世界だったんです。例えばすごくいい工場を知ってるけど、同業者には言いたくない。それをどうにか拾えないかと水面下で探ってみたり。けれどコーヒーの世界は違ったんです」

 

珈琲専科LOOP
珈琲専科LOOP

緑さんお手製のローズマリーのレアチーズケーキ。コーヒーの繊細な味わいに合わせて、さっぱりと食べやすい。

 

学さんが感激した「コーヒーが、共生を生む」とは、コーヒーに関わる人々が皆幸せであるということ。

 

「これまでコーヒー豆の消費国、いわゆる先進国ですね、の勝手な都合でコーヒー豆の値段が叩かれて、生産国の人は生活ができなくて、戦争や大量虐殺に繋がったりってことがあったんです。それで、先進国に左右されない仕組みを作ろう、ちゃんと美味しい豆を作ったら正当に評価して対等に取引しようっていうのが、スペシャルティコーヒーや最近のサードウエーブコーヒーの礎なんです。だからコーヒー業界には、幸せから逆算する人が多いんですよ。寝るヒマなく豆を作ればいいものができるかもしれないけど、生産者にとって幸せなのは、どうすることかって。そうやって自分の仕事の前の仕事をする人をリスペクトするんです。例えば僕達は生豆を買ってますけど、その豆の精選作業をする人をリスペクトしますし、その前の豆を手摘みしている人、その前の前のコーヒーの木を育ててる人をリスペクトするんです。だからコーヒー屋さんに行って『おいしいですね』って言うと、『いやいや、僕じゃなくて豆がすごいんです』って言う人が多いですね」

 

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2人が敬愛する吉田先生も、共生を実践する1人と、学さんが言葉を続ける。

 

「吉田先生は、他のコーヒー店のロゴがデカデカと入ったTシャツを着てたり、他店のステッカーを自分の店のポットに貼ったりする人で。それに何でも教えてあげる。『僕はこういうやり方しているよ』とか『どこどこのコーヒー、美味しいからぜひ行ってみて』とか、『それだったら、どこどこのカフェ行くといいよ。僕の名前を出したら、誰々さんが教えてくれるからね』とか、本当に楽しんでやっているんです。アドバイスされたお客さんは、その通りにして、また吉田先生のところに戻ってくる。そしたら、そのお客さんとのコミュニケーションが更に深くなっていくんですよね。それに吉田先生はコーヒーにとどまらず、他の食べ物も応援していました。例えば材料にこだわっているパン屋さんのパンを置いたり。事業を広げるというのではなくて、優しい思いでできているものを、みんなでシェアするという感じでしたね」

 

珈琲専科LOOP

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そんな吉田先生を見てきて、先生のような店作りをしたいという思いが、2人にはある。緑さんが言う。

 

「来てくださったお客様に喜んでもらいたいというか、人と人を繋げたいというか。私も、『ここのコーヒー、美味しいから行ってみてください』とか他のお店をご紹介したりします。だからコーヒー店のショップカード、たくさん置いています。うちとは違う良さが他の店にはありますし。スペシャルティコーヒーの考え方とか世界を知っていただきたいというのもありますね」

 

それに、と学さんが言葉を続ける。

 

「吉田先生のお店にいて気づいたのは、お客さんがそれぞれ吉田先生にプラスアルファの何かを求めていたんじゃないかってことなんです。別にお金に困ったりしていないんだけど、何かモヤモヤしたものをみんな持っていて、それをスポッと埋めるのが先生は上手だったんです。『じゃここに描いた絵を飾っていいよ』とか、ちょっとしたやりがいみたいなのを見つけてあげるんですよね」

 

珈琲専科LOOP
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吉田先生を手本にしつつ、土地柄も店の雰囲気も違うLOOPだからこその自分たちらしい店作りはなんだろうと、2人はたくさん考えてきた。緑さんは言う。

 

「私たちが好きなこと、私たちがやっていて魅力を出せるものをやって、自分たちの色を出していこうと思っています。私は本が好きなので、ゆっくり本を読む空間を作りたかったですね。それに、コーヒーやうちの店をきっかけに、ここを訪れる人の視野を広げられたり、こんな楽しい世界があるんだよってことを伝えられる場所になったらいいなと思います。例えばギャラリースペースに、自分たちが選んだ作家さんの器を置いたり」

 

学さんも思いを揃える。

 

「ちょっとした悩みとか行き詰まりって皆あると思うんですけど、結構些細なことで解決したりしますよね。その些細なきっかけが、美味しい食べ物だったりすると思うんです。だから美味しいご飯はちゃんとやっていきたい。今、新しい食事メニューを試作中なんです。美味しいご飯で気持ちがフラットになって、その上で本だったり器だったりで、視野を広げてもらえるような、リフレッシュできるような場所になれたらいいですね」

 

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自分たちの色を出す。その楽しさを知ったのは、緑さんの名前で販売したお菓子を、“彼女のお菓子”として認められた経験があったから。

 

「吉田先生のカフェに勤める前は、大きな会社が運営するカフェで働いていたんです。その時交流のあった方から『イベントにお菓子出してみない?』と声がかかって、すごく『やりたいっ』って思ったんですよ。でも会社の規則でできなくて。同僚が独立して好きな仕事をしていく姿とかも見て、私ももっと自分の色を出せることをした方がいいんじゃないかと考え始めたんですよね。会社を出て、会社の名前じゃなくて自分の名前でお菓子を出した時、『緑さんのお菓子、とてもおいしかった』って言ってもらえたことがすごく嬉しくて、自分の中で大きくて」

 

緑さんが、刺激が多く楽しかった東京を後にしようと決めたのも、自分の色を出すなら故郷の沖縄でだと気がついたから。

 

「東京で『沖縄出身です』って言うと『沖縄、いいよね。でもなかなか行けない』って大抵の人が言うんです。だったら私が沖縄にいて、沖縄に行こうって思ってもらえるきっかけになりたいって思いました。東京で出会った作家さんたちの素敵な作品を、沖縄の人にも見せてあげたいというのもありましたし。いつかはとは思っていたんですが、もう沖縄へ帰ろう、この店を継ごうと決めたんです。やっとふんぎりがつきました」

 

珈琲専科LOOP

 

LOOPの創業は1990年で、元は緑さんのお母様が切盛りをしていたお店。緑さんにとってこの店は、幼い頃、お母さんが家にいなくて寂しい思いをさせられた場所。小学校に上がってからは、隅っこで宿題をした場所。高校生になってからは店を手伝い、常連から「喜屋武さん、喜屋武さん」と慕われているお母さんを見て、お母さんをとても素敵と思えた場所…。

 

「常連さんは、母に会いにここに来るという感じでした。母もお客さんも一緒に年を重ねていっていて、こういう仕事っていいなあって思っていましたね。このお店、とっても好きなんです」

 

代替わりした今でも、お母様の常連が顔を出す。その頃は雑貨を多く置き、雑貨だけを買いに来るお客もいたという。そんなお客からは「なぜ雑貨を置かないの?」と言われることもあったそう。そんな時は、自分たちの思いについて丁寧に話をした。そうすると皆納得して、応援してくれるようになった。

 

若い2人が継いでからまだ1年ちょっと。自分たちの色を出すに、まだ試行錯誤をしている途中。しかし、店主にとってもお客にとっても色んな思いの詰まった大切な場所のこと、少しずつ2人の色に染めながら、更に長く愛される店になるに違いない。

 

写真・文 和氣えり(編集部)

 

珈琲専科LOOP

 

珈琲専科LOOP
沖縄市山内2-15-5
098-932-3751
10:30〜20:00(LO 19:00)
close 日
https://www.facebook.com/珈琲専科loop-103543100030146/?fref=ts

 

TANAKA

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2014年に全国公開された作品ですが
TSUTAYAなどでDVDレンタルはされていません。
徳之島での初めての上映となります。

 

4月8日(土)徳之島町文化会館

4月9日(日)天城町防災センター

時間は両日ともに13:00~、16:00~、19:00~の
3回上映です。

 

チケットは前売り 大人1000円 中学生以下500円
未就学児無料

 

チケットは文化会館、スタジオカガワ
ショップかんだ、きゅら島館、永岡商店(瀬滝)
などで取扱中です。

 

 


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TANAKA

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見た目は素朴な、なんてことない焼きドーナツ。でも、噛むとプチプチとした歯ごたえを感じる。これ、なんだろう? 

 

ドーナツって外側と内側の食感の違いはあるけれど、生地自体は平坦なイメージ。HYGGEドーナツのプチプチは、注意深く味わわないと見逃してしまいそうに繊細。けれど、歯ごたえのアクセントになっていることは確か。そして、噛めば噛むほどじんわりと感じられる自然の甘みに、笑みがこぼれる。

 

シンプルで素朴、ムダなものを削ぎ落としたプレーンのドーナツ。つぶつぶの正体を突き止めたくて記憶を探っているうち、あっという間に1個たいらげてしまった。

 

焼きドーナツの店 HYGGE 店長の石田環(めぐる)さんが、つぶつぶの正体を明かしてくれる。

 

「それは玄米粉なんですよ。北海道産小麦と伊江島の全粒粉、それに秋田のお米“あきたこまち”などの玄米を粉にしたものを混ぜています。噛めば噛むほど感じられる甘みは、玄米の甘みなんです」

 

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自然で優しい甘さは、後に残らず丁度いい。玄米粉の入った焼きドーナツなんて初めてだ。奥様の聖美さんが、それを入れるに至った理由を教えてくれた。

 

「お米農家の友人がよく言ってたんです。『唐揚げでもなんでも、小麦粉じゃなくて玄米粉使うと美味しいよ』って。それを思い出したのと、普段家でも玄米を食べているので、馴染みのある食材だったというか」

 

環さんが言葉を続ける。

 

「色々な粉を全国から取り寄せて、どんな組み合わせ、分量にするかは苦労しました。でも、玄米粉を入れるっていうポイントっていうのかな、それが決まってからは、ドドドと出来上がりましたね」

 

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この焼きドーナツを作りあげたのは、なんと環さんだ。グラフィックデザイナーの環さんは、これまでお菓子作りなんてしたことがなかった。そのきっかけは、一粒種の息子さんが生まれたこと。

 

「息子が3歳くらいの時かな、妻がスコーンを焼いてるのを見て、自分が子どもの頃はドーナツが好きだったってことを思い出したんです。息子のために、生まれて初めてドーナツを作ってみたんですよ」

 

出来栄えは、「中まで火が通ってなくて、生揚げっぽいし、油っぽくて、全然美味しくなかった」と聖美さん。美味しくなかったのは、環さんも認めるところ。けれど息子さんだけは反応が違ったそう。

 

「『お父さんのドーナツ、うまいうまい』ってパクパク食べてくれたんですよ。嬉しそうに笑ってもくれて」

 

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その笑顔を見て、環さんのスイッチが入った。

 

「デザインを始めた頃によくやっていたのは、いいなと思ったものをきっちり真似して作ってみることだったんです。雑誌の誌面だったら、ここの余白は何ミリで、行間は何ミリ、文字の大きさはこれで、みたいに。真似しているうちに、自分だったらこうしたいっていうのが出てくるんですよね。ドーナツ作りでも同じでした。最初はレシピ本通りに作ったんです。そしたら、こんなに砂糖や色々なものを入れるのかとかわかって。そのうち、玄米粉を入れるオリジナルに行き着いたんですよね」

 

HYGGEのドーナツは、どんどん引き算をしていくのがその特徴。

 

「玄米粉を入れることで、甘みが出たんで、砂糖をギリギリまで減らしました。甘さを感じるのと頼りないの、ギリギリのところ。僕のデザインも、どんどん余分なものを省いていくことが多いんで、ドーナツと同じですね(笑)」

 

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フレーバードーナッツの具材の量も、必要最小限。

 

「バレンタインやクリスマスなど、期間限定でチョコレート味を出すんですけど、あんまりチョコレートチョコレートするのもなあと思って。子どもが食べるものですし。生地にチョコレートを少し振りかけてから焼くというスタイルになりました。試作していた時は、生地にチョコレートを混ぜ込んだり色々してみたんですけど、これくらいがちょうどいいなと」

 

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定番の味はいさぎよく4種類。「プレーン」「くるみ」「チェダーチーズ」に「玄米」。ドーナツ専門店にしては、ちょっと少なめに感じる。

 

「ドーナツの種類がなぜこれしかないのかというと、うちの息子の反応がよかったのを厳選したというのもありますけど、毎日食べても飽きのこないもの、優しい味のするものっていったら、これくらいになってしまって。チェダーチーズは塩気が少ないものを選んでいます」

 

チーズの塩気が控えめに香ったり、くるみがカリリと小さなリズムを生んだり。いずれも、プレーンとの違いはあるものの、あくまでも生地の美味しさが前提にあって、具材でその生地にちょっとした変化をつける程度。シンプルだからこそ、各々が好きなようにアレンジして食べられるのも、楽しみの1つ。

 

「そのまま食べてももちろん美味しいと思いますど(笑)、甘さが足りないという方は、はちみつをかけたり、ジャムをつけたり。もうちょっと変化が欲しいという方は、ヨーグルトを添えたり。お客さんがお店に来て、こんな風に食べたよって報告してくれるのが嬉しいですね。うちでもチェダーチーズのドーナツは、ベーグルみたいに半分に切って、間に野菜や卵、ソーセージなんかを挟んで食べています」

 

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環さんは編集者である聖美さんとともに、studio BAHCOとして、クリエイティブな活動も継続中。

 

息子さんの笑顔が見たくて焼き始めたドーナツだったが、お店にしたことで、息子さんに見せたい姿を見せることもできた。

 

「いつも家にいてパソコンの前に座っていて、息子には僕が仕事しているとは思われてなかったんじゃないかな。でもこの場所を借りて、ドーナツのお店にしようと決めてからは、息子と一緒に壁にペンキ塗ったりして、働いてる感じの姿を見せられたんです。だから、ほんとこの店始めてよかったなと思いますね」

 

息子さんの笑顔が見たい、息子さんとの思い出を作りたい。環さんの息子さんへの愛情が、HYGGEの原点。

 

「お父さんとお店作りをした、お父さんのドーナツが美味しかったってことが、少しでも彼の記憶に残ってくれたら嬉しいですね」

 

3人で手を繋いだ姿をモチーフにしたお店のマーク、息子さん等身大のヒュッゲ坊やの看板、優しさの詰まったシンプルドーナツ…。全て環さんが愛情を込めて作ったもの。このお店、このドーナツが懐かしく記憶に刻まれるのは、息子さんだけではないはずだ。

 

写真・文/和氣えり

 

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HYGGE(ヒュッゲ)
宜野湾市大山2-23-1(ジミー大山店駐車場向かい)
090-1947-0002
12:00〜18:00(売り切れ次第終了)
close 日・月(火・不定休)
https://hyggeokinawa.shopinfo.jp
https://www.facebook.com/HYGGEokinawa/?fref=ts

 

TANAKA

ringo cafe
ringo cafe

 

古民家に、トリコロールの国旗がはためく。古びた佇まいに、色とりどりの可愛らしいマカロンが並ぶそのギャップが、面白い。

 

瀬底島の、かつて家畜小屋だった場所。コンクリート瓦の屋根で天井も低く窓もなかった場所が、ringo cafeという可愛らしいカフェに生まれ変わった。ケーキや焼き菓子もあるが、一番人気はフランスを代表するお菓子、マカロン。営むのは、フランス人のドロメール・ヴァンソンさんと、奥様の田所慶子さん。

 

ringo cafeのマカロンは20種類。お勧めという塩キャラメルを。皮のサクッとした軽い食感と、濃厚なクリームが、口の中でどちらかに傾くことなく、バランスがいい。フランスのお菓子らしく、甘さがしっかりとあるのだが、その上にキャラメルの味がどしっと乗っている。ただ甘ったるい、皮の味しかしないマカロンではなく、組み合わせた素材がしっかりと主張するそれだ。慶子さんが、ヴァンソンさんの得意とするところを、独特の言い回しで伝えてくれる。

 

「主人は、どこでも砂糖の船に乗って生きていける人です(笑)。砂糖菓子っていう下地があって、その上に味を乗せるのがうまいんですよ。素材と素材の組み合わせ、ぶつけ方が上手なのかなと思いますね。必ず何か飛び込んでくるお菓子を作っているはずです」

 

そして、そのお菓子作りの特徴も。

 

「キャラメルの砂糖の焦がし方、キャラメリゼの度合いですね、それを若干苦めにローストしていますね。キャラメルソース、日本だとちょっと甘いくらいでストップさせるんですけど、彼はもう一段濃いめにして、少し苦味が出る程度にしています。だから皮は甘いんですけど、クリームはほろ苦くて、ちょうどいいバランスなのかもしれないです。ピスタチオやヘーゼルナッツのマカロンも、ナッツを一度ローストしているんですよ。普通はペースト缶を買ってそれをクリームに混ぜることが多いんですけど、うちは生のナッツを買って、それをローストして香ばしさを出してから混ぜています。だから味の盛り上がりがあるんですね」

 

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慶子さん曰く人見知りで寡黙だというヴァンソンさんは、15歳からパティシエとして働き始め、その道一筋。フランスでは、パティシエの資格に段階があり、数年の修業の後、テストを受け合格してランクが上がるということを繰り返す。最短で12,3年の修業で、最高ランクのシェフに昇格できる。もちろんヴァンソンさんは、シェフ。筋金入りの職人だ。職人だからこそ、プライドを持ってお菓子作りに励んでいる。

 

「彼は、自分でお菓子を作りたい、みんなに食べさせたいと一番最初に思った時から、大切にしている順番が変わってないんじゃないかな。例えば、日本では『どれくらい日持ちしますか』と聞かれることがすごく多いんです。日持ちしないことが当たり前なのに。お客様の要望を聞いて日持ちさせようとか、または湿気で割れないようにしようとかで、添加物やショートニングとか使うってなったら、あの人は職人辞めるって言いますね。お菓子作りで生きていくって決めた人は、ごまかすことなく何を入れているかちゃんと言える人、こちらが見てなくてもちゃんと作ってくれる人。それが職人さんだと思ってるし、私もそう思います。こうやったら利益が残るよっていう誘惑には、乗らないですね」

 

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誠実にお菓子作りをしてきたヴァンソンさんにとって、沖縄素材のマカロンを作ることも、さして苦労はなかったそう。

 

「私が、『泡盛使って』とか色々方向付けします(笑)。泡盛の消費低迷と聞いたんで、何か少しでも役に立てたらと思って。すぐにできました。泡盛の香りがふわんとして美味しいですよ。今の季節だと沖縄素材のものは、タンカンや金柑のマカロンがありますね。金柑は、先日出かけた先で出会ったんです。家族で本部町のみかん狩り体験に行ったんですよ。みかん取り放題で、なんとタダ。そこで金柑売ってて、買って帰ったらとても美味しくて。早速マカロンに入れて、『高良農園の金柑です』って言おうかなと思って。タダでみかん狩りさせてもらってさようならじゃ寂しいじゃないですか。ほんの恩返しのつもりで(笑)。農園の方に金柑のマカロンを持っていったら『こんな風になるんだね』ってすごく喜んでもらえて」

 

沖縄素材のマカロンは、特に観光客に好評とのこと。泡盛や季節の果物以外にも、お菓子に使う塩も沖縄のもの。沖縄素材を多く使うのは、地産地消という理由だけではない。慶子さんは、その土地の文化を大切にしたくて、地のものをたくさん使いたいと言う。

 

文化を大切にしたいという思いは、慶子さん一家が沖縄へ移住するきっかけにもなった。驚いたことに沖縄に越してきたのは、その文化を伝えるこの古民家を見つけたから。

 

この古民家に出会うまでの2人のストーリーはこうだ。フランスの修業先で出会った慶子さんとヴァンソンさんは、「日本の文化も学ぼう」と幼い子供達を連れて、まず慶子さんの実家のある宮城県に越し、そこで店を構えた。たくさんのお客が訪れ、店の運営も順調にいき始めた頃、フランスの友人が日本に住みたいと、物件探しを手伝った。たまたま瀬底島のこの物件をネットで見つけ、慶子さん自身が気に入ってしまったそう。友人が借りないことになった後も、ずっとそのサイトを見続けていたという。1度は他の買い手が決まりかけたのだが、諦められずまだ毎日サイトを確認する日々。ある日、この物件の”交渉中”の札が取れたのを見て、居ても立ってもいられず、その3日後にポケットに通帳を入れて飛行機に飛び乗った。

 

「もう買うつもりで。1度も現地を見てないし、それまで瀬底島に来たことなかったですよ。でもこういう歴史を刻んだ古民家を受け継ぐチャンスって誰にでもあるものじゃないと思うんです。運命があるとするならば、そのチャンスが私に回ってきた。壊さないで、受け継いで、バトンタッチする責任が回ってきた、と思ったんです。住めるようになった今、ここを大切にずっと愛していけたらなあって思っています」

 

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店の母屋にあたる慶子さん一家の自宅。店と同様、自分たちでリノベーションした。

 

慶子さんの文化を大切にする気持ちは、もちろん古い建物に対してだけではない。最も関心を寄せているのは、この土地に根付いて生活する人々との交流。

 

「ここに引っ越してきた当初は、みんないぶかしがって。旦那さんが外人だから、『どこの国なんだろう?』って。まずは『アメリカ?』って。国旗を見てもピンと来なくて『じゃあ、イタリア?』とか、『惜しいっ、ニアピン!』て(笑)。旦那が毎日『こんにちは』って挨拶してたら、ちょっと恥ずかしがってる感じがあったんですけど、だんだん安心してくれたみたいで。『お菓子屋さんなんだってよ〜』とか『子供が小学校通ってるんだってよ〜』とか、私達の生活が見えてきたのもよかったみたい。私達が外から来てるのを心配して、今では近所のオバアが、ゴーヤーチャンプルーとか果物とか色んな食べ物を持ってきてくれたりするんです。ありがたいですね。それに近所の小学生が、オバアからお小遣いもらって、150円握りしめてマカロンを買いに来たりするんですよ。駄菓子を我慢して、マカロンを1個ずつ買いに来る。横にいる子が『なんでそんな高いの買うん?』って聞いたら『美味しいんだからいいじゃない』って言ってて。『かわいい! 1個150円で頑張るよ〜』みたいな(笑)」

 

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文化を大切にしたいという気持ちは、慶子さんがフランスに長年身を置いてきたからというのもあるだろう。話は遡るが、慶子さんがフランスに渡ったきっかけは、東京のパン屋に勤めていた時のこと。フランスパンの焼き上がる時のパチパチという美味しそうな音にノックアウトされ、どうしても本物を見たくなった。ワーキングホリデーを使ってパリへ飛び、パン作りの修業を積んだ。

 

そんな慶子さんに、どうして文化を大事にしたいのかを尋ねても「それが普通じゃないですか」と、逆にそうじゃないことが不思議なよう。慶子さんにとって文化を大切にすることは、日本人として差別をも受けた土地で、その土地に馴染む術だったのかもしれない。その土地に根付いて逞しく生きる人を、心からリスペクトすることだ。

 

「私は日本にいた頃、すごく孤独感を味わっていて。モノがいっぱいあるのに寂しいぞって。フランス人を見たら、なんでこんなに生き生きしてるの、給料とかたいしてもらってないし、ボロいなっていうのでも大事にして、なんでこんなに喜んでるんだろうって思って。でもわかったんですよね。彼らは、自分を取り囲んでいるもので自分ができていると思っていて、周りを全て受け入れてるんです。自分に起こることが自分を作ってくれていると思うから、全てに感謝できる。前に進めるし、喜びも出てくる。だからみんな強いんだって。パン屋さんでも魚屋さんでも、みんなとっても生き生きしてます。もう手は荒れてるし、寒いところでマフラーガンガン巻いて魚さばいたりしてますけど、「う〜、寒いね! 魚食ってく?」って感じ。今やれることを楽しんでいるんですよね。家族とか友達とか、必ず自分を取り巻いているものを大事にして楽しんでる」

 

そんなフランス人に囲まれつつ、自分さえよければという真逆の行動をとる日本人も多く見てきたそう。

 

ringo cafe

ringo cafe

 

「修業していたパン屋さんには、他にも日本人がたくさん来てて。他の国の人はそんなことしないのに、だいたいの日本人はその店に置いてあるパンやスイーツのレシピ本をコピーするんですよ。シェフとかがいない間にばーっとレシピ本を持ち出して、近くでコピーしてくる。日本の人たちはそれが欲しくて修業に行くようなものなんです。ダッシュで駆け抜けていって、あっという間にお店を辞めてっちゃう。そういう人はだいたい腕もいいんで、コンクールでトロフィーもらって、エコールなんとか出てどうとか、受賞歴とか経歴を並び立てるんです。日本で売れるからって。でもそっちに走っちゃうと、フランスの生きてる温かい文化とか、おじさんと交わした屈託のない笑顔とか、そういう土地のもの、土地に息づいているものを踏みにじることになりますよね。なんでそんな皿の上だけキレイに飾るの?って。そんなに詰め込まなくても、先走らなくても、と思ってましたね。いっぱい情報入れたとしても、できることには限界があって、毎日できることは何なのよって言うと、寝て起きてが基本だし。何より毎日が楽しくなくちゃ!」

 

ringo cafe

ringo cafe

 

その言葉通り、慶子さんはここ瀬底島での生活を楽しんでいる。ここに息づいている人たちに近づいて生きるのが最高の生き方だと、迷いはない。

 

「沖縄は、神様とか目に見えないものを大切にするじゃないですか。きっと人の心だと思うんですよ。心を大事にしているから、例えば命がなくなっても、体がなくなっても、心を継承していくっていう文化。中身が充実しているから、人と触れてもとってもあったかいし。もう沖縄も沖縄の人もドンピシャ、大好き! 私も、自分の心を大事に守って年を重ねていけたらなあって思います」

 

職人気質だったヴァンソンさんにも変化があった。

 

「今までは、自分のペースを崩さず、ひたすら材料と向き合って寡黙に自分の作りたいお菓子を作ってるって感じだったんです。宮城の店ではずっと裏にこもりっきり。そこでそれを何十年も続けてたら、彼に残るのはモノを作っていたってことだけ。でも沖縄に来て、ここの店では裏方だけじゃなく、構造上お客さんと対面して接客もするようになったんで。今は、周りの人の顔を思い浮かべて、その人の温度を感じながら作っているというか。だからこっち来てほんとよかったなあと思いますね。周りに人がいた、いろんな人が雨の中、暑い中、買いに来てくれたっていう愛情みたいなのを感じながら、ありがたいって思いながら、作り続けてくれればなと思いますね」

 

慶子さんは、店がまだ完成途中で、製作中であることも隠さない。少しずつ、身の丈分だけ進んでいけたらいいという。スピードの出る車に乗るより、歩いて景色を見ていきたい、と顔をほころばせた。

 

ringo cafe

 

文化を大事にするって、どうすることなんだろうと最初は思っていた。

 

慶子さんと話しているうち、文化を大事にしていくって何も特別なことじゃないんだなと思った。自分を取り囲む人や、昔から息づいている家を大事にすること。先を急がず周りと歩幅を合わせてゆっくりと歩むこと。

 

人や家に寄り添い、慈しみ、そして敬う。慶子さんとヴァンソンさんの生き方そのものなんだな、としっくりきた。

 

写真・文/和氣えり(編集部)

 

ringo cafe

 

ringo cafe(リンゴ カフェ)
本部町瀬底279
0980-47-6377
9:00〜18:00
close 月
https://www.facebook.com/Ringo-Café-リンゴカフェ-164817896885885/

 

TANAKA

cago-9859

 

一度行くととりこになって「また必ず」と、多くのお客が再度訪れる、そんな宿がある。竹富島の“ちいさな島宿cago”だ。こじんまりと部屋は3つ。オープンは2014年だが、すでに3度4度と足を運んだお客も少なくない。驚くことに、リピーターは日本国内からだけでなく、遠くアメリカやヨーロッパ、オーストラリアからも。

 

竹富島 赤瓦
竹富島 景色

 

cagoには日常を忘れさせる、ゆったりした時間が流れている。

 

cagoがあるのは、琉球古民家の並ぶ集落の中。石垣と赤瓦の屋根が続き、サンゴのかけらを敷き詰めた白い小道を、鮮やかなブーゲンビリアが彩る。竹富島自体が、いにしえの文化の残る特別な場所。そんな場所にあって、cagoはさらに別世界を用意している。小さな門の向こうは、沖縄であって、沖縄でない空間。熱帯の緑、背の高いヤシの木、月日を感じさせるヴィラ、水の音が心地よい可愛らしいプール…。ああ、旅に来たんだと実感させるに十分な光景が広がる。

 

中庭を囲むようにヴィラが建ち、その中庭がレセプションやダイニングの役割を担う。マンゴーのウエルカムドリンクで喉を潤しながら、時間を忘れてぼーっとその風景を眺む。印象に残るのは、目に入るものだけでない、島の風の気持ちよさも。温かくって、柔らかい。心地よくて、これから始まるここでの時間に期待が高まる。

 

竹富島cago

 

居心地がいいのはヴィラも同様。シングルベッド2つに、テーブルや椅子がちょこんとあるだけ。そのこじんまり感がちょうどよくて、心が落ちつく。大きな掃出し窓にかかる薄いシフォンカーテンが、気持ちよさそうに風に揺れる。それを眺めていると、わざわざ出かけなくても、ここでのんびりしようという気分になる。木々の揺れる音を聞きながら、本を開く。浮かんだアイディアを書き溜める…。自分だけの平穏な時間。こんな時間を持てることが最高の贅沢と気づかせてくれた。

 

cago竹富島
cago-9890

 

日が暮れてくると、カーテンの向こうに灯籠の柔らかい光が透けて見えた。中庭のテーブルにお皿やカトラリーを並べる音が聞こえる。待ちかねた夕食だ。料理を作るのはオーナーの松田マリコさん。「全身全霊をかけて準備をするから、夕食は連泊してくださったお客様に1度だけしかご用意できないの」と、少し申し訳なさそう。

 

cago竹富島

 

その言葉通り、どのお料理もありったけの手間をかけ、丁寧に仕上げられていることは、舌が存分に伝えてくれる。

 

八重山食材でつくられる、美しいフレンチスタイルのお料理の数々。脂のりがよく新鮮さがダイレクトに伝わる白身魚のカルパッチョ、野菜と魚の旨みがたっぷり滲み出たアクアパッツァ、甘みのあるソースが肉の旨みを引き立てる国産牛の軟らかいステーキ…。そんな洋のお料理があるかと思えば、じーまみー豆腐やラフテー、ゴーヤーチャンプルなどの沖縄料理も。食べ慣れたいつもの料理だって、マリコさんの手にかかれば洗練された一皿に。ラフテーは出汁の染みた小ぶりの大根にのせて上品に、じーまみー豆腐はツヤツヤの黒豆を添えて色と食感のアクセントを加えて。

 

見た目の美しさ、味のおいしさに加え、ル・クルーゼの鍋ごと、ご飯の土鍋ごとサーブされ、蓋を開ける楽しさまでもがついてくる。

 

cago竹富島
cagoryu

 

まるで、雰囲気のいい宿と美味しいレストランを兼ね備えたオーベルジュのよう。心のこもったもてなしの数々が、私たちの心をグイグイと掴んでいく。

 

そんなもてなしの数々が心に残り、お客を再訪へと向かわせる。それらには、マリコさんの揺るぎない想いが根底にあるからだ。経験のない宿の運営に戸惑っていたオープン間もない頃、マリコさんには1つの心積もりが生まれた。

 

「1,000人に好かれる宿ではなくても、100人のコアなお客さんにずっと愛してもらえる宿を目指せばいいじゃない、自分の好きなようにやればいいじゃないって思えたの。そしたら気持ちがスッと楽になったのよね」

 

基本的には宿泊客を30代以上の大人に限定しているのも、マリコさんの目指す宿のあり方があるから。

 

「長年、福岡でウエディングプランナーをしていたの。全てを任されて仕事をしていた頃、常にウエディングのアイディアを求めてたのね。それでよく、アイデアを考える非日常が欲しくて旅に出てたわ。旅先だと五感が研ぎすまされてね。旅先でアイデアをしたためて、福岡っていう現実に戻ってカタチにしてきたのよね。同じように一生懸命仕事をしている女性の場所にしたいし、役にも立ちたい。だから20代の若いお客様は、ちょっと違うのかなと思うのよ」

 

竹富島cago
cago竹富島

 

マリコさんの思いは、多くのスタッフを束ね、仕事に熱中してきた経験がもたらしたもの。やりがいのある大好きな仕事を辞めてまで宿を始めるきっかけとなったのは、旅行で訪れた竹富島の西桟橋に立った景色。

 

「松田聖子のようにビビビと来たのよ。あ、年代がわかっちゃうね(笑)。でも、『ああ、ここ好き』ってシンプルに思ったの」

 

竹富島西桟橋

 

ビビビと来たのは、場所を指しただけではなかったのではないか。マリコさんの人生の役割が変わった瞬間だったのだろうと思う。忙しく仕事をしている人が癒され、インスピレーションをもらえるような非日常の空間を提供することへと。

 

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マリコさんはcagoの中庭を「人の役に立ちたい」「離島で何かやりたい」と考えている方に、自由に利用してもらえる場にできたらと考えている。コラボ企画第一弾は、昨年春に2日間開いた青空美容室。テラスに白い布を敷き、その上に椅子を置いただけのヘアーサロンは、2017年も4月19日20日に予定している。

 

竹富島 cago

 

いにしえからの文化と美しい自然が残る土地で、忙しい日常を忘れてゆったりと過ごせる宿。手作りの丁寧なお料理で、心もお腹も満たされる宿。まるで昔からの友人のように親しみを込めて、「おかえりなさい」と迎えてくれる宿。背中を押されて元気に日常へ戻っていける宿…。そんな宿を続けていくことが、これからのマリコさんの役割。

 

「常連さんの予約が入ると、その方の来島を、ほんと〜に指折り数えて待ってるの。おかしいよね、大人になっても指折り数えて待つってね。それくらい私にとっては、待ち遠しいの」

 

マリコさんが訪ねてくる常連を心から大切にしているのは、常連とかつての自分が重なって見えるからに違いない。

 

写真・文/和氣えり(編集部)

 

ちいさな島宿cago
ちいさな島宿 cago
八重山郡竹富町字竹富362
0980-85-2855
http://taketomi-cago.com

 

TANAKA

ワイン店un deux trois

 

「これね、平和と自然を愛している生産者がすごく一生懸命作っているワインなんです。アクセル・プリファーっていうのが彼の名前です。まだ若くて、ヒゲがモジャモジャで素朴な感じでしょう?」

 

ワインについてならいくらでも喋れるという、ワイン店un deux trois店主 加藤陵さんは、その生産者の写真を見せながら熱く語り始めた。

 

「フランスワインなんですけど、アクセル・プリファーの生まれは東ドイツなんです。彼が大学に通っていた頃、東ドイツは兵役があったそうなんですよ。でも彼は戦争に加担するのが嫌だったんですね。慈善活動とかして兵役を免れる方法はいくつかあったらしいんですけど、その慈善活動自体が戦争のシステムに加担することになるから、やりたくないと。それで彼は故郷を飛び出して、放浪の旅に出たんです。行き着いたのがフランス。そこで出会ったワインの生産者の情熱に触れ、感銘を受けて、自らもワイン生産者になることを決意したんです。彼の醸造所の名前は、“Le temps des cerises”(ル・トン・デ・スリーズ)といって、日本語に訳すと“さくらんぼの実る頃”という意味です。フランスの古い歌曲の名前ですね。戦争の被害に合った人が戦争を憂いて作った歌なんですけど、そういう思いをいつまでも忘れたくない、自分は野蛮なことはしたくない、自然と平和を愛したいってことで、この名前を付けたそうなんですよ」

 

ワイン店un deux trois

 

加藤さんがお勧めするLe temps des cerisesの白の1本は、キリリと引き締まった辛口。香り高さが鼻に抜け、丸みやふくよかさが充満する。生産者の生い立ちを聞いたからだろうか。その味わいは、平和を謳歌し、人生の喜びに満ちているよう。派手なきらびやかさではなく、地味で控えめだけれど、じわじわと余韻を残す喜び。ワインの作り手の物語と、その味わいがリンクした。加藤さんが、言葉を続ける。

 

「僕は、ワインを特定の人の特定の存在にしたくないという思いがあって、広くワインのファン作りがしたいんです。ファンって人につくものだと思うんですね。だから、ワインの味わいよりも、その生産者の人となりを伝えたいんです。ナチュラルワインは、作り手の思いとか背景があって、味わいがすごく個性豊かなんです。ですから、自分の好きなワインを見つけやすいと思います。みんなのナンバーワンを飲むんじゃなくて、自分が本当に好きなワインを見つけて欲しいですね」

 

ワイン店un deux trois
ワイン店un deux trois

気軽に購入できるよう、ワインは1,000円代から揃えている。

 

そもそもナチュラルワインってなんだろう? 自然派ワイン、ビオワインなど耳にしたことはあるが、同じ意味なんだろうか? 加藤さんが最近のワイン界の動きを教えてくれた。

 

「オーガニックが注目される昨今、ワインも例外ではないんです。2011年頃は、自然派ワイン、ビオワインって言っていたんです。これはブドウの農法の話、有機農法の話ですね。ワインの製法、ワインの作り方にはフォーカスしていない。するとどういうことが起こったかというと、有機農法さえやっていれば、ラベルに自然派ワイン、ビオワインと書けるので、その後の作りが雑だとしても、よく売れたんですね。結果そういうのが出回って、そもそも美味しくないっていうのも多かったんです。“ビオワイン”ってラベルに書かれているから美味しいんだろうと思って買ってみたら、全然美味しくなかったという経験をされたことはありませんか?

 

2015年くらいから出てきたのが、ナチュラルワインという言葉です。ナチュラルワインはワインの製法にもフォーカスしているんです。その蔵に住み着いている天然酵母で発酵させて、酸化防止剤を極力添加しない。そして極力濾過しないんですね。イメージとしては、オーガニックの畑からブドウを採って絞ればワインになるって感じです。酵母や酸化防止剤を付け足すとか、濾過するとか、そういう足し算引き算をしないのが、ナチュラルワインなんです。家族経営だったり個人だったりの小さなワイナリーで、自身の目の届く範囲で丁寧に作られているんですよね。もちろん一番の目的は、売れるワインを作ることではなく、美味しいワインを作ることなんです」

 

ワイン店un deux trois

 

そう言えば加藤さんお勧めのアクセル君の白ワインは、透き通っていなくてかすかな濁りがあった。その濁りは、濾過していない証で、自然の旨みや個性の源。それに木の樽の香りがした。ステンレスのタンクではなく、天然酵母が沢山住み着いているであろう木の樽で、じっくりと発酵させているのだろう。これがアクセル君のワイン独特の、ふくよかさや丸みを生む理由。

 

「ナチュラルワインは、飲むと生産者の顔が浮かぶんですよね」

 

加藤さんがぽつりと言ったその言葉に、うなずかずにはいられなかった。

 

ワイン店un deux trois

カウンターでは、チーズなどのおつまみとともに、ワインをいただくこともできる。

 

un deux troisは、どこでも見かけるようなワインは扱っていない。今まで飲んだことがない個性的な1本と出会えることも。加藤さんは、東京や那覇のワインショップで10年ほど勤めた後、昨年(2016年)このお店をオープンさせた。当初からナチュラルワインのお店にしようと、それ専用のワイン庫もある。尊敬するある人との出会いから、この店の方向性を決めたという。

 

「東京に“uguisu(うぐいす)”と“organ(オルガン)”というビストロがあるんですけど、そこのオーナーシェフの紺野真さんと出会ってからです。料理とナチュラルワインが評判のお店があると聞いていて、東京へ出張へ行く際に行ってみようと。その頃は、ナチュラルワインはなんとなく関心があるくらいでしたね。そしたら衝撃ですよ。美味しいし、記憶に残る店。もちろんお店も料理も素敵なんですけど、それ以上に自分の記憶にとどまっているのは、紺野さんのサービスなんです。行く前にお店に電話して『ワインの勉強をしていて、沖縄から行くんです』とお伝えてしていたら、彼は忙しい中キッチンから出てきて、直接沢山教えてくれたんですよ。紺野さんが初めてでしたね。自分が出会ったワインの説明をしてくれる人で、生産者の話をしたのは。『この人はこういう人で、こういう思いで、こういうワインを作ってるんだよ』って。たいていは味わいの話で終わるんです。紺野さんの話は、ぐーっと惹きこまれましたね。すごく惹き込まれて、自分の目指したいスタイルはこれだって決まったんです。紺野さんみたいになりたい、生産者のストーリーを伝えていきたいって」

 

ワイン店un deux trois

温度管理の行き届いた、ナチュラルワイン専用庫

 

それまで加藤さんがずっと抱えていた思いと、ナチュラルワインが重なりもした。

 

「ワインを難しいものにしたくないっていうのがずっとあったんです。難しい知識を入れて、しかめっ面して飲んで、美味しいですかっていうことです。だからワイン生産地の地元の人が普段飲むようなワインをお勧めしたいと思っていたんです。世界中に発送するようなワインだったら、培養酵母を沢山入れて、酸化防止剤も入れて、工業的に作るんでしょうけど、地元で飲むのは、そういうのいらないですからね。そう考えると、ナチュラルワインって何も目新しいものじゃなく、地元の人が普段飲んでいるワインなんですよね。自分が元々伝えたかったのは、ナチュラルワインだったんだと腑に落ちました」

 

ワイン店un deux trois

 

ワインを難しいものにしたくない、ワインファンを増やしたいという思いは、店のそこここに現れている。加藤さんはソムリエ資格を有しているものの堅苦しくない格好で店に立ち、気軽に立ち寄って欲しいと、店舗は中が見えやすいガラス張りにした。さらにその現れは、ワインの陳列棚にも。

 

「うちのお店はポップを貼っていないんですよ。文字にすると、カタカナや専門用語が多くなってしまって、みんな眉間にシワを寄せて一生懸命見ているんですね。僕がその様子を良しと思えないし、挙句『ワインって難しいんだね』って敬遠されてしまう。だからお客さんと気楽に会話しながら、そのお客さんに合ったものをお選びしたいんです」

 

加藤さんは、ワインのワークショプなども積極的に開催している。

 

「僕も大好きな沖縄市のコーヒー屋さん、豆ポレポレさんとコラボするワークショップでは、コーヒーとワインを味わう時に見るべきポイント、共通点をご紹介して、実際に試飲していただくんです。どちらかに興味がある人は、2つの共通点が多くて、他方にも興味を持っていただけますね。それから飲食店の方限定で、ワインの勉強会をやったりしています。飲食店の方からまたお客さんへワインが広がったら嬉しいですし。あと首里のCONTEさんで、毎月“満月CONTE”という、ナチュラルワインとお料理を楽しむイベントをやらせてもらっています。自然農法では、満月の日に野菜などを収穫するんですね。月の引力で植物の生命力が一番満ちるからで、ブドウも一緒です。この影響から、満月の夜にナチュラルワインが一番美味しくなると言われているんです。県外では、満月の夜にナチュラルワインを味わうっていうイベントが結構あって、沖縄でもやりたいなと。CONTEさんのお料理は、ナチュラルワインと同じで、派手さはないかもしれないけれど、素材の美味しさを活かした丁寧なお料理なんで、ぴったりだなと」

 

 

構えることなく、楽しくワインを“un deux trois” 1,2,3と知ってほしい。そんな思いを店名に込めた。ワインについて何も知らなくたって、気軽にナチュラルワインに出会い、自分好みのそれを探す第一歩になるお店。でもこれだけでない、un deux troisにはもうひとつの意味も。

 

「1杯、2杯、3杯とどんどん進んじゃうような美味しいワインをご紹介したいという思いも、込めています。ナチュラルワインってほんとに美味しくって、気がついたらすぐ1本空になってますよ(笑)」

 

写真・文/和氣えり(編集部)

 

ワイン店un deux trois

 

ワイン店 un deux trois(ワインテン アン・ドゥ・トロワ)
読谷村都屋237-4
098-923-2852
11:00〜20:00
close 月
https://www.facebook.com/123.okinawa.yomitan/?fref=ts

 

TANAKA

hiltonchocolate

 

チョコレート×ラズベリー、チョコレート×カシス、チョコレート×キャラメル、チョコレート×紅茶…。

 

チョコレートが主役の、チョコレートラバーにはたまらないスイーツブッフェ。そのコクと甘みを心ゆくまで堪能してもらうため、ヒルトン沖縄北谷リゾート ペストリーシェフ 千葉真奈美さんは、組み合わせのバリエーションにこだわった。

 

「チョコレートって、オレンジやストロベリーなど、酸味のあるフルーツとはもちろん合いますし、苦味のあるキャラメルなんかとも相性がいいんです。チョコレートの味が強い分それに負けないように、組み合わせた素材の味もしっかりと出して、もう一つの主役になれるようにしています。チョコレートを感じてもらうのはもちろん、組み合わせの楽しさも味わって欲しいですね」

 

オセロのように表と裏のセック(外側の皮)の色が異なる可愛らしいマカロン。オレンジの入った黄色い生地からだけでなく、中のチョコレートクリームからも果実の爽やかな香りが匂い立つ。キリリとした酸味が、チョコレートの甘みをさっぱりと和らげると同時に、そのふくよかさをも引き立てる。

 

他にも、カシスと合わせて濃厚な大人のムースに、キャラメルと合わせて香ばしくてほろ苦いタルトに。紅茶と合わせてまろやかなミルクチョコレートプリンに。その多様なデザートは10種以上。組み合わせたもう一つの主役が、チョコレートに様々な表情を加える。

 

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組み合わせの楽しさは、味だけではない。千葉シェフのこだわりは、食感にも。

 

「ブラウニーって、口の中の水分が持っていかれるイメージありませんか? このブラウニーは、チョコレートとバターをたっぷりと使っていますので、パサパサ感はありません。またナッツをたっぷり入れて、歯ごたえを楽しめるようにしました。ナッツと対比するように、ブラウニーの生地はしっとりさせています」

 

その言葉通り、ブラウニーはねっとりとして、生地からチョコレートが滲み出しそうに濃厚だ。大きめにカットされたアーモンドやくるみのザクザク感がいいアクセント。

 

ヒルトンバレンタインブッフェ

 

さらに食感で驚いたのは、ロリーポップ。様々な可愛らしいロリーポップの1種に、サプライズが隠されている。薄くパリパリとしたチョコレートを味わった後、口の中で何かがパチパチシュワ~と弾けるのだ。

 

「口の中の水分と反応するので、唾液と混ざった時にプチプチするんです。なので唾液の多い人の方がより感じることができるかもしれませんね。こういうのもちょっと面白いですよね」

 

ヒルトンバレンタインブッフェ

 

ヒルトンバレンタインブッフェ

 

千葉シェフの一番の喜びは、お客が一口食べた時の幸せそうな顔を見られたとき。けれど、口にする前の、見た目や取り分ける楽しさまでもこだわった。

 

「見た目から『わあ』ってなってもらえたら嬉しいので、ブラウニーは今回タワーのように積み上げて、マカロンも1皿ずつに立てて置いてみたり。それから、チョコレートが入ったブリオッシュは、お客様が好きな分だけ切り分けていただけます。もちろん頼んでいただければ、こちらでお切りすることもできますよ」

 

ヒルトンバレンタインブッフェ

 

ヒルトンバレンタインブッフェ

 

ヒルトンバレンタインブッフェ

 

楽しみに富んだチョコレートスイーツブッフェ。様々なアレンジは、当然ながら土台となる基本があってこそ。千葉シェフは、これまで基本を大事に修業を重ねてきたという。基本の大切さを身にしみて感じたのは、もっと華やかなデザートが作りたいと東京に出て、ある料理店に入ってから。

 

「そのお店はアレンジされたものをお出ししていたんですよね。例えば、これは全く甘さがないもの、こっちはめちゃくちゃ甘いもの、それらを最終的にお皿の上で食べたら、すごくバランスが取れている、みたいな。私、その時、意味がわからなかったんですよ。そこから他のお店に行った時に、わかったんですよね。意味がわからなかったのは、私の基礎ができてなかったからだって。基本のしっかりとした芯がなかったから分からなかったし、シェフの思いも理解できなかったって。3年くらい経ってから、またそのお店に戻りました。勉強し忘れたものがあると思ったので」

 

そうやって学んだ“基本”を活かしての、千葉シェフのバリエーション豊かなチョコレートスイーツの数々。自分へのご褒美を兼ねて仲良しの女友達と、はたまたチョコレートをプレゼントしたい男性を連れて。一口目から笑顔がこぼれることうけあいの、甘くて酸っぱくてほろ苦い、チョコレートスイーツブッフェはいかが?

 

写真/文 和氣えり

 

ヒルトンバレンタインブッフェ
ヒルトン沖縄北谷リゾート
3F ロビーラウンジ mahru(マール)
[開催期間]
2017年2月4日(土)〜2月14日(火)

 

[開催時間]
平日 14時〜15時30分(90分)
土日 1部 14時〜15時30分(90分)  2部 16時〜17時30分(90分)

 

[料金]
お一人様2,000円(税・サ別 コーヒーまたは紅茶付き)

 

※お席に限りがございますので、事前のご予約をお勧め致しております。
※予約数に達し次第、受付を終了させていただきます。
※2月14日まで個数・期間限定にて「デカダンス ドュ ショコラ」のバレンタイン限定チョコレートを数量限定で販売致します。
※ご予約・お問合わせは、098-901-1140(直通)

 

http://hiltonchatan.jp

 

TANAKA

rogotop

 

アースデイやんばる2017「毎日がアースデイ」
2月4日(土) 
10:00〜19:00
@名護大通り

 

☆ボランティアスタッフ募集中です☆

 

すべてボランティア、手作りで運営するアースデイやんばるでは、一緒に作り楽しんでいただける仲間を募集しています~~
無理なく、できる範囲で。みなさんに少しずつ手を貸していただけたら、ありがたき幸せです。
特に人手&軽トラが必要なのは、、、

 

2/3(金)13時~
・13時sanctuary void集合
・テント、立て看板などの搬入やプログラム折り込み、その他細々とした作業がいろいろあります。

 

2/4(土)7時半~20時
・特に朝一の準備に人手が必要です。出店、出演、ご来場すべてのみなさんのご協力お待ちしてます!
・7時半~全体ミーティング@sanctuary void
・7時45分~10時 設営、交通誘導など
・10時~17時 イベント開催中のスタッフ(託児、交通誘導、プログラム配布などなど)
・17時~18時 名護大通りの片付け(すべてのみなさんで片づけをして、18時~緑地公園にてフィナーレご参加お願いします♡)
・19時~20時 完全撤収

 

2/6(月)9時~
テント返却など

 

イベントを楽しむ合間の、できる時間だけで構いません!
まずは、ご連絡ください~~☆

 

earthdayyanbaru@gmail.com
アースデイやんばる実行委員会まで。

当日飛び入りのご参加も大歓迎です♡

 

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http://earthday-yanbaru.com
https://www.facebook.com/events/1649787608648227/

 

TANAKA

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誰もが身につける洋服。この側面から、世界のこと地球のことを知り、選択する。
アースデイやんばる2017 プレイベント。

 

 

「The True Cost ファストファッション 真の代償」映画上映
トレンドはエシカル&フェアトレードファッション! 
ファッション産業の今と、向かうべき未来を描き出すドキュメンタリー。
ファッション業界でも、大量生産・大量消費が問題化されている。
誰かの犠牲の上に成り立つファッションに変化が起き始めた。
「映画を周りの人にどんどん広めて、ファッション産業の現状を知ってほしい」
ーサフィア・ミニー(ピープル・ツリー代表)

 

 

オーガニックコットンを栽培している知花優子さんによるシェア会
オーガニックコットンボールの柔らかさ、優しさに触れながらの、楽しいシェア会。

 

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“あるむんじゅくい”プレゼンツ xChange体験会
あなたの洋服と誰かの洋服の物々交換。ハートでつながる思いやりの交換パーティ。

 

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お食事&ドリンク
☆午前の部☆
サンクチュアリボイド 坂田良子シェフによる、ベジランチボックス+ドリンクバーorお酒1杯
☆午後の部☆
チリンの鈴 高橋純也シェフによる、タパス&ピンチョス+ドリンクバーorお酒1杯

 

お酒は、ホットワイン、サングリア、サンクチュアリボイド主宰ホメオパスkimikoによるホメオパシーチンクチャーのカクテル、オーガニックビール等あります。別料金でおかわりできます。

 

 

[日時]
2017年1月29日(日)

 

[場所]
ホリスティックビューティサロン サンクチュアリボイド
名護市大東1-1-7 2F
http://sanctuary-void.jp

 

[料金]
2,500円 (学割2,000円) ※各部定員40名

 

[タイムスケジュール]
☆午前の部
10:00 開場
10:30 映画上映
12:15 シェア会
13:00 ランチ、xChange体験会

 

☆ 午後の部
14:00 開場
14:30 映画上映
16:15 シェア会
17:00 バル、xChange体験

 

18:30 ラストオーダー
19:00 閉店

 

 

[お申込方法]
info.earthdayyanbaru@gmail.com
070-5467-1965(田中えり)
上記メールかお電話にて、お名前、参加人数(うち学生人数)、午前・午後のいずれ、連絡先をお知らせください。

 

fbイベントページ
https://www.facebook.com/events/1184363971671668/

 

The True Costについて
https://www.cinemo.info/movie_detail.html?ck=38

 

TANAKA

akaishi-9341
月桃の宿あかいし

 

ここは本当に石垣島なんだろうかと思う。新石垣空港からひたすら北上すること3、40分。ハイビスカスの花が咲き乱れる、じっとりとした南国の風景は広がっていない。深緑の山々が連なって、懐かしさのある日本の原風景が広がる。里山と言うにぴったりの場所。

 

周囲に視界を遮るものはなく、“月桃の宿あかいし”は、遠くからでもすぐにあれだとわかった。ひと目見て年季が入っているとわかる木造の建物。長い時間が経過したからこそ醸し出る重厚感。威厳のような、それとも客人の到着を待つ温かさのような、なんとも言えない雰囲気を纏っていた。

 

月桃の宿あかいし
月桃の宿あかいし

 

月桃の宿あかいし

 

庭は綺麗に手入れされ、木々や花々が豊か。整然とした庭、趣のある建物…、どれも素晴らしいけれど、最も圧倒されたのは、母屋に入ってからの景色。そこは、庭以上に緑に溢れていた。とても室内とは思えない。

 

月桃の宿あかいし
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月桃の宿あかいし

 

すっかり日が暮れて夜の帳が降りる頃、宿のご主人、鈴木博次さんが部屋を回って声をかける。

 

「そろそろ夕食にしましょう〜」

 

母屋の食堂は、立派な梁が何本も張り巡らされ木の温かみに溢れた場所。食卓には、博次さんの奥様、勝子さんの手料理が、大皿に盛られて幾皿も並ぶ。博次さんが海でとってきたもずくの酢の物に、甘いパイナップルの入ったサラダ、具だくさんの煮物、もずくや野菜や鶏の天ぷら、出汁の効いた混ぜご飯に、大きな椀に入った島豆腐とアーサのお吸い物…。

 

「さあ、いただきましょう」

 

1つの大きな食卓を宿泊客全員と博次さん勝子さんで囲む。「いただきます」をして同時に食べ始める。どれも、勝子さんの手のぬくもりが伝わってくるような、温かくて優しい味。美味しいと伝えると、「そーお?」と嬉しさとはにかみのこもった優しい声を返してくれた。

 

月桃の宿あかいし

 

この日居合わせたのは、三重からやってきた石垣島を自転車で回る60代の男性と、千葉からやってきた来春就職を控えた女子大生2人組。男性が、近くの売店で島の泡盛、“請福”を買ってきてくれた。

 

最初はどことなくぎこちなかったメンバー。けれど博次さん勝子さんも、それをわざわざ盛り上げるようなことはしない。黙々と箸を進める。変に気を使わないところがなんとも、本当の家族っぽい。ただ、お酒が進むにつれ皆の舌が滑らかになっていく。たまたま集まったこの“家族”、同じ時間を共有するのはこの一度きりと、一期一会の時間を楽しむ。いつしか博次さん、勝子さんを「お父さん」「お母さん」と呼んでいた。

 

月桃の宿あかいし
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話題は、石垣の言葉や慣習、明石地区の開拓時代の話そして、お客の一人である男性の、自転車で日本中を巡るセカンドライフの充実ぶりなど。お父さんも、自身の人生の楽しみを身振り手振りを加えながら、次々と披露してくれる。

 

「僕は東側の海沿いの道を歩くんだ。人なんかほとんどいない。いるのは牛だけだよ。北端まで行って帰って10キロほどあるんだけど、海沿いを歩いてると色んなものが流れ着いてくるんだよ。外国籍のボートとか、救命胴衣とか。その救命胴衣、使ってるよ。だって買うと高いでしょ」

 

「塩作ってるんだ。沖まで自分で作ったイカダで出て、ペットボトルに数本。シンメーナービ(円錐状の大型鍋)に入れて、薪で焚いて、それから天日干ししてね。塩は甘いよ。この間の夏休みには、内地から遊びにきた孫と一緒に作ったんだ。ラベルに“石垣の塩”って書いて、嬉しそうに持って帰ってったよ」

 

月桃の宿あかいし

 

「今ね、宿の2階に星見台を作ってるの。そこで星見ながら、一杯やったら最高だよ。完成した頃、またみんなで飲みましょう」

 

「楽しみはね、いーっぱいあるの。それを掘り起こさないとね」

 

“人生には辛いこともあるかもしれない。けれどもそれ以上に楽しいことが、いっぱいいっぱいあるんだよ”。お父さんの話は、もうすぐ社会へ巣立つ若い2人へのエールのようにも聞こえた。

 

月桃の宿あかいし
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「明日の朝は早いから、名残惜しいけれど、そろそろお開きにしましょう」

 

請福の瓶が空になり、そんな言葉でしめるまで、和やかな時間は続いた。

 

翌朝、早く出発するメンバーに合わせて、また皆で朝食を囲む。その後その出発を、全員で外に出て、車が小さくなるまで手を振って見送る。

 

一晩だけの家族は、ここで解散。

 

何も飾ることはない、普通で、温かくて、ありがたい。特別じゃない普通のことが、こんなにも心に染み入るとは思わなかった。

 

写真・文/和氣えり(編集部)

 

月桃の宿あかいし
月桃の宿あかいし
石垣市伊原間370
0980-89-2922