@那覇市松尾
2013.09.12
@那覇市松尾
2013.09.11
@那覇市松尾
2013.09.10
マンゴーの果肉をどどん! と豪勢に盛り付け、黄金色のシロップをたっぷりまわしかけたら、「はい、お待ちどうさま!」。
カウンターに置かれたその姿に、歓声をあげずにはいられない。
高々とそびえる氷の山を、恐る恐るスプーンで崩して二度びっくり。
中の氷にもしっかりとシロップが浸透し、マンゴーの果肉がまたも顔を出した。
口に入れると心地よい冷たさとともに、フルーツの濃厚な風味が口いっぱいに広がる。
そして意外にも、舌に残るのは想像していたよりずっと爽やかな甘味だ。
「甘さ控えめなかき氷がお好みなら、こちらがお勧めですよ」
そう言って出してくれたのは、浦添市の特産品である「桑の葉」を使っためずらしい抹茶のかき氷。
桑の葉抹茶の粉末。「養蚕の街として知られる浦添市の特産品なんです。血糖値の上昇を防ぐので、高血圧や糖尿病に効果的だと言われていますし、くせが強すぎないので美味しい抹茶になるんですよ」
粘り気の強いシロップが全体に行き渡るよう、三つ口の容器を使ってたっぷりとシロップをかける。
「まだ全種類制覇していないのに、いつ来てもこればっかり頼んじゃう。完全にハマってますね(笑)」と、常連さん。
ほろ苦い抹茶シロップと、ていねいに煮た有機小豆の控えめな甘味が絶妙にマッチする大人な一皿。
濃厚だがクセのないシロップは、後をひく味わいでどんどん食べ進めてしまう。
しまいには器を両手で持ちあげ、溶けた氷の最後の一滴まできれいに飲み干していた。
西村剛さん・美奈子さん夫婦が営むベーカリー「 ippe coppe (イッペコッぺ)」の庭に、美奈子さん手製のドリンクやスイーツが味わえる「喫茶ニワトリ」がオープンしたのは2012年のこと。
2013年の7月から新メニューとしてかき氷が登場すると、瞬く間に大人気となり、県内外各地から多くのひとが訪れている。
マンゴー、桑の葉抹茶、ドラゴンフルーツ、イチゴ、パイナップルと5種類ある手づくりシロップのベースとなるのは、美奈子さん手製の「基本のシロップ」だ。
鮮度を考慮し、2日に一度のペースで作る「基本のシロップ」。
「基本のシロップは、洗双糖・三温糖・甜菜糖・グラニュー糖の種類の4種類をブレンドして作っています。
洗双糖は精製の度合いが低いのでミネラルが豊富に含まれ、こくもあってまろやかなのが特徴です。
けれどその濃厚さは、果物など素材の甘さや風味の邪魔をしてしまうこともあるんです。
そこで、あっさりとして雑味のないグラニュー糖も加えています。
すると、素材そのものの味も引き立つシロップになるんですよ。
砂糖と素材、両方の長所が生きるようにと、配合の調整には時間をかけました。
実は最近も、もう少しこくを出したいなぁと少し改良したところなんです」
こだわりぬいた基本のシロップにフルーツなどの素材を加え、各種シロップへと展開させていく。
シロップの材料となる宮古島産の冷凍マンゴーは濃厚な甘さ。
「素材はできる限り県産のものを使っています。
マンゴーは宮古島産と豊見城産、ドラゴンフルーツは久米島と糸満から仕入れ、桑の葉抹茶は浦添のものを使用しているんです。
イチゴは最初他県のもの使おうと考えていましたが、宜野座で採れたものだけを使用しています。
県内でのイチゴ栽培はあまり盛んとは言えないので、ご提供できる数に限りが出てしまうのですが、それで良いんじゃないかなーって。
沖縄のものを使うことに意味があると思うから。
また、『かき氷を一年中食べられるメニューにしてほしい!』なんてありがたいお声があり、他県の果物を使ったり、作ったシロップを冷凍保存したりという方法も考えてはみました。
けれど、それってなんか違うなぁ…って。
旬のものは、その時期を逃さずに食べるのが一番!
無理して通年提供するよりも、最高においしい状態のフルーツをお客様に楽しんで頂きたいと思っています」
シロップも練乳も「これでもか」というほどたっぷりかけてくれる。
県産の新鮮な素材を使ったシロップは、その程よい甘さが魅力だ。
「果物にはそれぞれの特徴があるので、基本のシロップと合わせた時の味や触感についても、じっくり研究しました。
甘味の強いマンゴーは、ねっとりとした触感が残らないようさらりと仕上げる。
ドラゴンフルーツは甘さがぼんやりとしているので、きりっと引き立たせるためにシークヮーサーの果汁をたっぷり絞って加える。
甘さのバランスをとるため、それぞれ工夫をしています」
「ドラゴンフルーツは、このまま火を通さずにシロップにします」
また同じ果物を使うときでも、その都度「基本のシロップ:素材」の配合を変えていると言う。
「同じ果物なら糖度も一緒、ということはまずないからです。
一本の木やひとつの畑でも、場所によって日差しの強さや角度、陰の出来方も違いますよね。そうなると、できた場所によって糖度も均一ではないのが当たり前。
ですから、作り始める前に必ず素材の味をみて、ちょうどいい甘さになるように配合する割合を調整するんです」
ドラゴンフルーツのシロップには、シークワァーサーの果汁をたっぷりと。
ドラゴンフルーツ、シークワァーサー果汁、基本のシロップを入れて撹拌する。
シロップを氷にかける際にも、美奈子さんのこだわりが発揮されている。
「食べている途中、氷の味しかしない部分があってがっかりすることってありません?かき氷好きとして、それだけは避けたくて(笑)。
シロップは氷と交互に何度かかけるのですが、それぞれの果物の特性が出るので、種類によってかける回数や量を微調整しているんです。
マンゴーやドラゴンフルーツのシロップは粘度が低くさらっとしているので、食べているうちに味が薄くなりやすいんです。
そこで、まずはお皿の底にシロップを入れます。そして氷と交互に計3回しっかりシロップをかけ、果肉と練乳も入れます。すると、最後の一口までおいしく食べられるんですよ。
反対に、桑の葉抹茶・イチゴ・パイナップルのシロップは粘度が高く、氷の表面を上滑りして中まで浸透しづらのが特徴。
味がくどくなり過ぎないよう注ぐ回数を減らし、その分、一度にたっぷりとかけます。そうすれば食べているうちに中までシロップが浸透し、全体的にちょうど良い濃さになるんです」
シロップをかける。
ただそれだけの工程にここまでこだわっている。だからこそ、目が覚めるように美味しい一皿が生まれるのだ。
各種シロップの試作を重ねていた頃は、近所の人や夫に味見をしてもらって意見を求めた。「わりとすんなりできたものもあれば、完成までに2週間以上費やしたものも」
多くの人に愛されるベーカリー「 ippe coppe 」。
店の横にある庭に突如として表れた喫茶ニワトリだが、喫茶コーナーの構想は ippe coppe のオープン前から描いていたと美奈子さんは言う。
「屋台のような親しみを感じさせる店で、シロップを使ったメニューを提供できたら嬉しいなぁ…と、ずっと前から思っていました。
というのも私、昔からシロップ作りが大好きなんです!
保存がきくし、なにより色んな使い方が出来ると思うと、なんだかわくわくするから。
旬の果物でシロップを作っては、ヨーグルトにかけたりジュースにしたり、そのままジャムがわりにパンに塗ったりして楽しんでいたんですね。
夫もシロップ作りを応援してくれていたので、2008年に ippe coppe をオープンさせた後、店が落ち着いたらいつか実現させようとタイミングをうかがっていたんです。
シロップを使ったメニューはいろいろあるけれど、カキ氷を出すことは決めてました。夏が長く、氷をかけた『ぜんざい』も人気の沖縄にはぴったりじゃないかと思って。
実は、ippe coppe をオープンさせる前にすでにかき氷機も買っておいたんですよ(笑)」
「購入して5年、出番がくるまで物置で眠っていたけれど、やっと日の目を見ました(笑)」
こだわりのかき氷を目当てに訪れる人は後を絶たず、今では ippe coppe と同様の人気店となった。
客層は幅広く、ちいさな子ども連れのお母さんや20代の女性たちをはじめ、仕事の合間に休憩にやってくるサラリーマン、散歩途中のおじいさんやおばあさん、中にはスケーター男子まで!
庭という場所が多くの人を惹きつけているのではないかと、美奈子さんは話す。
「屋外にあるお店って老若男女関係なく、そこにいるみんなが気楽に仲良くなれるような気がするんです。
私、屋台が大好きなんですね。祭りの露店にラーメン屋やおでん屋…。色々あるけど、どれも雰囲気が素敵じゃないですか? たまたま隣に座った人に話しかけて、仲良くなっちゃったりして(笑)。
そういう場所を作りたいってずっと思っていたんです。庭という場所を選んだのもそのため。
喫茶ニワトリに沢山の人が集まって、自由にわいわいと楽しんでくれたらとても嬉しい!
その様子をイメージしたら、いつでも自由奔放に走り回っているニワトリたちが思い浮かんだんです。それが店名の由来」
大きく伸びたアセロラの木の枝が、心地のよい日陰をつくっている。
かき氷を楽しめるのは10月いっぱいの予定だが、それまでに新作登場の可能性もあると言う。
「当店で取り扱いしている『沖縄セラードコーヒー』の豆を使った、コーヒーゼリー味が出せたらなーって。
試作段階ですがめちゃくちゃ美味しいですよ〜(笑)期待してください!
11月以降の喫茶メニューについても、コーヒーに合うお菓子を色々と考えているので、かき氷の時期が終わったあともお楽しみに」
研究熱心な美奈子さんによる新作スウィーツへの期待で、胸が膨らむ。
庭に置かれた椅子に腰掛けていると、広い空と、大きな木と、そこに集う人々が
目に映る。
色鮮やかなカキ氷たちがその開放的な空間を彩り、ピクニックにやってきた時のようなうきうき感を与えてくれる。
1人でくる人。
友人や家族とくる人。
それぞれの時間を楽しみながらも、同じ空間で時間を共有する人々になんとなく親しみを感じるのは、きっと私だけでない。
「今日も暑くていやんなっちゃいますねー」カキ氷を待つ女性にそう話しかけると、「ほーんと!でも、まさにカキ氷日和ですね!」という答えが返ってきた。
知らず知らずのうちに、笑顔と会話が生まれる。
カウンターから手渡される一杯一杯に、思いとこだわりが詰まっているからだろう。
喫茶ニワトリのかき氷はその冷たさに反して、口にした人の心を温めてくれる。
写真 中井雅代/文 本岡夏実
喫茶ニワトリ
浦添市港川2-16-1
TEL/FAX 098-877-6189
open 13:30~18:00
close 火・水
ippe coppe (イッペコッペ)
open 12:30~18:30(売り切れ次第終了)
close 火・水
HP http://www.ippe-coppe.com
ブログ http://ippecoppe.ti-da.net
2013.09.10
@那覇市松尾
2013.09.10
日時:2013年 10月20日 (日)
場所:かでな文化センター
開場:17:00 / 開演:18:00
入場料:¥3,500
※プラザハウス1Fのインフォメーション(宝くじ売り場)にてチケット販売中。
http://plazahouse.net
お問い合わせ: 098-878-5654 (カラカウア)
※留守番電話になっていますので、 お名前、お電話番号、ご用件を
お忘れなく残してください。折り返しご連絡いたします。
注意事項:
○7歳以下のお子様の入場はお断りします。
○録音、録画、フラッシュ撮影はお断りします。
○チケットの払い戻しはいたしません。
ハワイアンフラの人間国宝であるアンクル ジョージ・ナオペ。
アンクルより伝統のハワイアンフラを継承するHalau Hula Kalakaua(ハラウ フラ カラカウア)。
沖縄で唯一、伝統の古典フラを継承しているハラウとしてハワイに認められ、この16年の間に本場ハワイのフラの競技会(Hula Competition)に幾度となく出場し、受賞を果たしています。
ハワイ州知事やハワイ市長からも、沖縄とハワイの文化の架け橋をしているとして文化功労賞を受賞しています。
プログラムの半分が古典というのも、カラカウアならではのもの。
一 年に一度しかないこの機会に、是非伝統のハワイアンフラをお楽しみ下さい。
HP:http://halau-hula-kalakaua-okinawa.net
Blog:http://halau-hula-kalakaua.blogspot.jp
Facebook:https://www.facebook.com/HalauHulaKalakauaOkinawa
2013.09.09
最近、朝夕はクーラーなしで過ごせるようになって嬉しい中井です☆
まだまだ夏真っ盛りだった7月19日、沖縄大学さんからのご依頼を受け、講演会でお話してまいりましたー☆
事前打ち合わせの際、「法経学部は男子学生が圧倒的に多いんです。CALEND-OKINAWA は女性向け媒体だと思いますが、よろしいですか?」と、教授からご質問が。
もちろんですー! それはそれで楽しみ、るんるーん♪
と、私大張り切り。
講演会当日、約200名入る教室を見渡すと、女子学生の姿も意外と多くてこれまた嬉し♪
それにしてもみんな若いー、可愛いー、話しかけたーい! と、スタート前からテンションアップ。
講演内容はすべておまかせというありがたいご意向を受け、前途有望な学生の皆さんの前でお話できる機会を活かすべく、仕事や就職など「はたらくこと」についてがっつりお話しさせていただきました。
大学生のころ将来についてどんな風に考えていたっけなーと、10年以上前の自分のことを思い出しながら、これまでの経験を通じて学んだことや強く感じたことを、できるだけみなさんの心に響くように…
…まぁつまり、調子よくペラペラペラペラ〜〜〜〜としゃべりまくってきたわけです(笑)。
わたし、超楽しそう。
仕事って、生き方。
私はそう考えています。
大学生である皆さんも、できるだけ周囲の価値観や常識に惑わされず、頭じゃなくて心で進む道を決めてほしいなー。
そんな思いを込めて話していたら、皆さんがちゃんと私の目を見て聞いてくれていることに気付き、私も持参した原稿を途中でポイ。
1対200のお見合い気分で、熱〜〜く語っちゃいましたよ。
質疑応答コーナーでは、次々と手を上げる女子学生に混じって、男子学生も質問してくれましたよー☆
「私も語学留学したいと思っていて…」
「ネットショップを立ちあげたいと考えているんです」
「大学構内で小さなカフェを運営してみたいのですが」
などなど個人的な質問から、
「未経験の分野に飛び込むのは大変じゃなかったですか?」
「在学中に出産して今子供がいる(!)のですが、育児と仕事の両立は難しくないですか?」
などなど、私の働き方に対する質問までさまざま。
さらに講演会終了後、舞台前まで質問しに来てくれる学生さんたちに囲まれ、きゃー! 私、ハーレム状態♡
ちなみに一番ツボだった質問は、
「どうしてそんなに沖縄弁がうまいんですか?」
でした(笑)。
「えっと、趣味です」
…答えになってなかったですね。。
とにもかくにも、本当に有意義で楽しい一日でした。
参加してくれた皆さんが進む道に迷ったとき、今日の話をちょびっとでも思い出してもらえたらうれしいなー。
仕事時間=我慢タイム
じゃなく、
仕事時間=ワクワクタイム
なヒトが増えるといいなー。
そんなことを考えつつ帰途についたのでした。
呼んでくださった法経学会の先生方、講演会に参加してくれた学生の皆さん、どうもありがとうございました!
また、呼んでね☆
あ! そうそう。
CALEND-OKINAWA では契約ライターさんを募集しています。
(詳細はコチラ☆)
CALEND で一緒に働きませんかー?
ご応募、お待ちいたしております♡
2013.09.08
帯:博多織名古屋帯(ネットショップで購入)
Day2
着物:居内商店
帯あげ:Pano 舞
帯締:Pano 舞
帯どめ:ネットショップで購入
帯:博多織名古屋(母からのおさがり)
Day3
着物:夏塩沢(オークションでリサイクル品を落札後、自分で仕立て直したもの)
帯あげ:Pano 舞
帯締:友人の手作り
帯:綿麻名古屋帯(洋服地で自作)
Day4
着物:阿波しじら(Pano 舞 でリサイクル品を購入し、自分で仕立て直したもの)
帯あげ:Pano 舞
帯締:シンエイ
帯:麻名古屋帯(ネットショップでリサイクル品を購入)
Day5
着物:絽小紋(反物を購入、自分で仕立てたもの)
帯あげ:Pano 舞
帯締:Pano 舞
帯留:友人からもらったもの
帯:絽つづれ名古屋帯(ネットで購入)
撮影 糸満漁民食堂
普段から着物でのお出かけを楽しんでいる武田さん。
(関連連載:「きもの日和」)
その素敵な装いから、さぞかしお値段もはるのだろうと尋ねてみると意外な答えが返ってきた。
「高価なものはほとんど無いんですよ。
今日着たものだとほとんどが1万円以下。一番高いものが4万5千円で、安いものは1000円くらい(笑)!」
アイテム詳細を伺うと、「リサイクル品」「ネットオークションで購入」「反物から仕立てた」など、これまた色々と驚かされる。
「リサイクルでもアンティークでも、素敵な着物は沢山ありますよ。
洋服よりお手頃な値段のものも多いですしね。
着物に興味を持ち始めたころは、リサイクル品を買ってそのまま着ていました。
それでも悪くはないのですが、着物の世界にハマって自分で仕立てをするようになったら、その着心地に夢中になっちゃって。
身体に合っているとやっぱり着やすいんですよね。
今では反物から自分で仕立てることも多いですし、リサイクル品でも仕立直してから着るようになりました」
普段は洋服も着るけれど、それでも着物が好きなのには理由がある。
「洋服って流行りすたりがあるから数年で着なくなったり、体型が変わると捨てたりすることが多くて。
でも、着物は流行も体型変化も気にせず着られるから、捨てることってほとんどないんです。
また、自分なりに工夫して色で遊べるところも好き。
着物や帯だけでなく、帯締や帯あげを同系色にしたり差し色にしたり。
袖口からチラッと見える長襦袢の色柄に凝るのも楽しいんですよ。
完全に自己満足ですね(笑)。でも、季節や気分を色で表せるのが着物の魅力のひとつだと思います」
趣味が高じて、着物ショップで働いた経験もある武田さん。
着物に関わる仕事をしようと決めたとき、「着物は私の勝負服だと感じた」と言う。
「武器と言うとおかしいかもしれませんが、なぜか自信が湧いてくる気がするんです。着物を着るといつも、装うことでこんなに気持ちって変わるんだなあと思いますね。
多分、自分には着物が一番似合うという思い込みが原因かもしれませんね。
思い込みと自己満足で、私の着物ライフは続いています(笑)」
もっと多くの人に着物をお勧めしたい! と、着物ライフの魅力を教えてくれた。
「着物着ていると良いことづくめなんですよ。
まず、着てるだけで褒められちゃうの。
知らない方から『素敵ですねー』と声をかけていただくこともよくありますし、友人とのお出かけのときも『着物着てきてね!』とリクエストされちゃったり。
そんなこと言ってもらえると、嬉しくてホイホイ着ていっちゃいます(笑)。
それに、きちんと感が出しやすいのもお勧めポイントの1つ。
洋服って、意外とそれが難しくないですか? スーツは数年で着られなくなっちゃうし、それなりに良いものを選ばなきゃならないし。
その点着物は体型が変わっても着られるし、リサイクル品でもきちんと見えるんです。
歳を重ねるのも怖くないですよ。若い方が着てももちろん素敵だけれど、大人になるとまたさら素敵に着こなせるようになるから。
洋服の似合う身体をキープするには努力が必要だけれど、着物は体型を包み隠してくれるという利点もありますしね(笑)。
何より、着物ってやっぱり日本人が美しく見える装いだと思います。
初心者の方にお勧めなのは、お手頃なアンティークやリサイクルの着物。フルセット1万円くらいから揃えられますよ」
今後挑戦してみたい着物は? と伺うと、「紅型!」と即答。
「すごく素敵で憧れてるのですが、本土出身の私の顔立ちには似合わない気がして…。
まずは帯から取り入れてみようかなと考えています。
その点、沖縄出身の方は皆さんお似合いになるでしょう? あー、羨ましいです!」
写真・文 中井 雅代
2013.09.03
県産素材をつかった創作イタリアンが評判で、予約なしでは入れないほどの人気店「コザの創作キッチン IPPEI(イッペイ)」。
その店内で行われる「おもてなし料理教室 HEARTY PARTY 」も好評で、開催日が決まるとすぐに定員に達する。
主宰の新崎亜子さんが教えるのは、店で出しているような本格的な味わいながら、自宅でも再現しやすい料理ばかりだ。
近所のスーパーで簡単に調達できる食材や調味料を使い、調理法にも工夫を凝らしている。
「おもてなし料理がテーマではありますが、素材も調理法もがちがちじゃないんです。
他の素材で代用できたり、アレンジしやすかったり。
ポイントさえしっかり押さえておけば、きちんと美味しくできる。
そんなレシピを毎回考えています。
今日のメニューは『ケイジャンチキン&ライス』『トマト&アボガドのタルティーヌ」』『サーモンとクリームチーズの簡単生春巻き』『メロンのスムージー』の4品。
まだまだ暑い日が続いているので、食欲が落ちている方も多いのではないかと思い、スパイスたっぷりの食欲増進メニューを考えました。
では、早速チキンの下ごしらえに入りましょう」
「鶏もも肉をつかいます。火の通りを均一にするため、厚みのある箇所は切って開きましょう」
「開いたもも肉に切り込みを入れ、フォークを使って皮に穴をあけます。こうすることで下味が染みこみやすくなるんですよ。フォークをがしがし刺しますが、怒りではなく愛をこめてね!(笑)」
鶏肉を漬け込むスパイスを調合する。
「クミンやタイムなど、どこのスーパーにも置いてあるようなものばかりです。
すべて揃えるのが面倒なときは、ガラムマサラだけでもOK。
ガラムマサラは様々なスパイスを用いた混合香辛料なので、それだけで奥深い味わいに仕上がるのよ」
塩こしょうをまぶして、しばらく置く。その間に鶏肉を漬け込むための別の材料を準備する。
玉ねぎ、生姜、にんにくをすりおろす。「私はいつも、生姜は皮のまますりおろすんです。栄養が豊富に含まれているし、美容にもいいのよ」
スパイス、すりおろした玉ねぎ・生姜・にんにく、レモン汁とオリーブオイルを鶏肉と一緒に袋に入れてよく揉む。そのまま30分程置いておく。
「朝のうちにここまで仕込んでおけば、夜は焼くだけ。昼間ゆっくり外に出られますよ。
そのときは塩・こしょうは控えめにね。漬け込む時間が長いとしょっぱくなりすぎちゃうから。
ついでに炊飯の準備もしておくと家に帰るのが楽しみになりますよ。
ターメリック、バター、お好みで塩を炊飯器にいれて、タイマーをセットするだけ。
水加減だけ注意してね。内釜についている規定ラインより1ミリ程水を減らすと、ケイジャンチキンによく合う硬めのライスに炊き上がります」
新崎さんのアドバイスには、プロとしてだけでなく忙しいひとりの主婦としての視点も生かされている。
「鶏肉に味がしみ込むのを待つ間、タルティーヌを作りましょう」
斜めにカットしたフランスパンに、オリーブオイルをかける。
トッピングのアボカドをスライスする。「できるだけ薄く、薄く、ね」
「カットしたアボカドの残りを保存するときは、こんな風に元のかたちに戻してからラップをかけると、黒く変色しにくいですよ」
スライスしたトマト、ピザ用チーズも乗せる。
タルティーヌとはフランス式のオープンサンドのことだ。
「今日はアボガドとトマトをトッピングにしたけれど、季節の野菜ならなんでもOK。
乗せて焼くだけと簡単なのに華やかでおいしいので、ホームパーティーにもおすすめの一品よ」
「チーズにパプリカを振ってから焼くと、焦げ目がきれいに出るのよ」
「そろそろチキンに下味がついた頃ね。
今日は店の厨房にあるガスオーブンで焼きますが、一般家庭の電気オーブンを使う場合は15分ほど焼いてひっくり返し、更に10分ほど焼いてね。
オーブンがなくても、フライパンでもいけますよ」
さまざまなキッチン環境を想定して教えてくれるので、自宅で復習するときも困らない。
「チキンを焼いている間に、残りのメニューをすべて作っちゃいましょう!
まずは生春巻きの具を準備します」
「タレをつけなくてもおいしく食べられるように、具にしっかり味をつけます。
オリーブ油・塩こしょう・お好みのハーブで作ったマリネ液に漬け、しばらく置いてね」
生春巻きの具材にかけるクリームチーズソースは、ヨーグルトを混ぜるのがミソだ。
「そうすればカロリーダウンできるし、とろりとした食感になって具材と絡みやすくなるんです。
口当たりも軽くなるし、いいことずくめでしょ。
クリームチーズは持ちが悪いので、残ったら冷凍保存しましょう。
解凍する時はレンジで10秒くらい加熱すればOK。
ただ、飛び散ってしまうことがあるので、必ずラップをかけてね」
「最近はほとんどのスーパーでライスペーパーが手に入るようになりましたね。生春巻きは手の込んだ料理に見えるかもしれないけれど、作ってみるとものすごく簡単なのよ」
「ライスペーパーには裏表があります。触って確かめてから巻いてね。
ざらざらした触感の方に具材を置きます。
皆さん1つずつ巻いていただきましょうか」
「まずはライスペーパーを水にさっとくぐらせます。こんな大きなボウルはなかなかありませんから、フライパンを使うと便利ですよ」
巻いたときに綺麗に見えるように葉を置く。その上に具材を重ねていく。
「遠慮せず、たっぷり具材を置いていいわよ。
その方が、出来上がりをカットしたときに断面が綺麗に見えるから」
両端をおりまげたら、手前から奥へ巻いてぎゅっとおさえる。
「そうするとペーパーがしっかりくっつくので、綺麗に巻けるんです」
「ね、意外と簡単でしょう?
ライスペーパーは乾きやすいので、できたらすぐにラップをかけます。
カットするのは食べる直前。
持ち寄りパーティーなら、ラップした状態で持っていくようにしてね」
生春巻きの巻き方のようにコツの必要な工程は、必ず全員に体験させ、一人ずつ丁寧に指導する。
「初めての方も、皆さん上手に巻けましたね!
では、そろそろテーブルをコーディネートしましょうか」
あらかじめセッティングされたテーブルを使うのではなく、生徒も一緒にゼロからコーディネートする。
料理だけでなくテーブルコーディネートが学べるのも、HEARTY PARTYの特徴のひとつだ。
「これ、実は100円均一のお店で買ったものなのよ」花を活けたグラスなど、テーブルを飾る小物類にはリーズナブルなアイテムも上手に取り入れている。
「テーブルコーディネートの教室に参加したとき、初めてのクラスで『こんな世界があるのか!』と驚いたんです。
アイデア次第で食卓の雰囲気が変わっていくのが楽しくて。
生徒の皆さんにもその楽しさを味わって頂きたくて、教室でも取り入れています。
高価なアイテムをそろえる必要もありませんし、自宅でもぜひ実践していただきたいですね」
「ちょうどタルティーヌが焼きあがりましたね。ソースをかけて仕上げましょう」
新崎さんが料理教室をはじめたのは2005年のことだ。
「料理はずっと好きだったんです。和食店でアルバイトをして、魚のさばき方を覚えたりしていました。
結婚してからは、主人の両親が営むホテルの調理場を手伝っていたのですが、もっと専門的な知識も学びたいと思い、勉強して調理師免許を取得しました。
けれど、そのうち子育てに追われるようになり、仕事のことなんてすっかり考えなくなってしまったんです。
毎日の料理も、時間や気持ちに余裕がなくて適当なメニューしか作らなくなって…」
調理師免許だけでなく、ジュニア野菜ソムリエ、食育指導士、沖縄食材スペシャリストなど、新崎さんは料理に関する数々の資格を保持している。しかし当時はまだ、自分のなかで料理が特別な存在になるとは思っていなかったという。
変化がおとずれたのは、次男が産まれ、さらに育児に奮闘する日々が始まったころのことだった。
「子ども達はもちろん可愛いけれど、自分の時間がまったく持てないことが辛くて。
そんなある日、突然『きちんと料理がしたい!』という激しい衝動に駆られたんです。そのことで自分にとって料理がどんな存在なのかがわかり、本格的に料理を仕事にしようと決めました。
人ってね、自分の時間が無くなって極限まで追い詰められると、本当にやりたいことがわかるんですよ!」
そこで、新崎さんは料理教室を開くことを思いついた。
「その頃はまだレストランを営んでいなかったので、自宅を開放して行うことにしました」
スムージーに使うのは、凍らせたメロンを半解凍させたもの。「果物ならなんでもいいんですよ。冷凍しておけば傷まないので、お盆でフルーツが余った時などにもおすすめ。そのままで冷たいから氷を入れなくていいし、味も薄まらないでしょ」
「牛乳とヨーグルト、はちみつをお好みで入れてミキサーにかけるだけでできあがり!」
2011年、料理人である夫・盛也さんとともに「コザの創作キッチン IPPEI」をオープンさせたのを機に、料理教室も店内の一角を使って行うことにした。
「自宅ではなくレストランで行うからこそ生まれるメリットが沢山あるんです。
まず、料理を作り終わった後、生徒さんにお客様気分で試食を楽しんでいただけること。
夫にも協力してもらい、IPPEI で提供する料理と同じように盛り付け、私が席まで運びます。
料理教室でしっかり学んだあとは、お客さんとして料理を堪能し、リフレッシュしていただきたくて。
また、自分たちで作った料理だけでなく、夫が作ったスープやデザートなどの料理をもプラスしてお出ししているんですよ。
更に、食後の後片付けしないでいいという利点も生まれました。
厨房には業務用の食洗機を備え付けてありますからね。
料理をじっくり堪能したらサクっと帰れるので、私の教室は時間が短め。10時に始まり、遅くとも12時半には終わります。
そうしたら、午後は別の予定を入れられるでしょう?
育児に追われていた時期の経験から、生徒の皆さんが時間を有効活用できるようにできるだけご協力したいんです」
「すべての料理が完成しましたね。では、皆さんエプロンをとって!席についてお待ちくださーい」新崎さんの一言を合図に、生徒はお客さんに早変わり。食前酒代わりのスムージーと、盛也さん手製のスープがオードブル。
おしゃべりを楽しみながら料理を食べるその様子は、IPPEI のランチを楽しみに来たお客さんのよう。
料理を運ぶのは新崎さんの役目。
メインのケイジャンチキンが運ばれてくると、わっと歓声があがった。
「自分たちで作った料理が、美しい一皿になって出てくるのが嬉しいのよね」
「盛り付けもすごく参考になります。プロの技、盗んじゃうぞー!って(笑)」
プレートを見てうっとりした後は、チキンを口に運んで目を丸くする。
「材料を揉み込んで焼いただけなのに、こんなに本格的な味になるなんて!」
おもてなし料理だけでなく、沖縄料理、薬膳料理、お弁当などをテーマにすることもある。
また、リクエストすれば、IPPEI で提供しているメニューを習うこともできると言う。
盛也さん手製のデザート。「ティラミスは生地がベチャッとしないよう、シロップに浸す一般的な方法ではなく、生地にエスプレッソを混ぜ込んで作ったこだわりの一品です。シークワーサーシャーベットと一緒に、さっぱりとたべられますよ」
「ほとんどの生徒さんがリピーターになるのよ」
と、常連さんが初参加の方に声をかけていた。
「先生の教えてくれるレシピは毎回美味しいし、この特別な試食タイムを一度経験したら、次も申し込まずにはいられないのよー(笑)」
試食タイムが終了すると、みなテキパキと身支度を整えて店を後にする。
「どれもこれも美味しかったー!」
「また来ますねー」
生徒たちのの表情はとても晴れやかだ。
だれかのために、おいしいご飯をつくりたい。多くの場合、みなそんな気持ちで料理教室の門を叩く。
HEARTY PEARTY はもちろん、そんな生徒の想いにしっかり応えてくれるが、それだけではない。
美味しい料理と、なによりも新崎さんのおもてなしの気持ちで、生徒がリフレッシュできる教室なのだ。
写真・文 編集部
おもてなし料理教室 HEARTY PARTY
沖縄市越来2-25-3
090-4536-6492
時間 10:00~12:30頃
費用 1回2500円~4000円程(使用する食材による)
ブログ http://heartyparty.ti-da.net
コザの創作キッチン IPPEI
098-939-922
open 日暮れ時~22時ころまで
close 火
ブログ http://kozagenjin.ti-da.net
2013.09.02
2013.09.01
バッグ 友人からのプレゼント
ヘアバンド 東京で購入
ピアス 不明
Day2
トップス OZOC
スカート TABBY
靴 不明
ピアス TABBY
バッグ TABBY
Day3
トップス TABBY
オーバーオール JEANASIS
パンプス パレットくもじ
Day4
ワンピ TABBY
カーディガン GAP
バッグ MOYNA
Day5
トップス、パンツともに TABBY
ブレスレット 友人からのプレゼント
Day6
トップス、サスペンダーともに TABBY
パンツ SLY
靴 あしびなー
浮島通りの一角で、アパレルショップ「TABBY(タビー)」を営む平良さん夫妻。
妻の茜さんは、根っからの洋服好きを自認している。
「ジャンルを問わず、どんなお店でも入るんです。
自分好みのテイストじゃなくても、いかに自分ぽく着るか考えるのが好きみたい。
一旦店に入ったらなかなか出てきませんよ、自分好みの掘り出しものを見つけるまでは!
だから、夫はいつも店の外で待ちぼうけ(笑)」
苦労して探しだした一品は、友人たちにも好評だ。
「どこで買ったか訊かれて店名を答えると、『えー、あの店でそんな服売ってた?!』って驚かれることも多いですね」
お人形さんのように愛らしい顔立ちの茜さんだが、普段はパンツスタイルが多いと言う。
「昔はもっとボーイッシュな格好してました。キャップなんかもかぶったりして。
最近はロングスカートやワンピを着ることもあるけど、やっぱり基本はパンツスタイル。
あまり女の子らしい格好しちゃうと、ガーリーすぎてしつこくなる気がして…。
服でバランスをとってるのかもしれませんね」
服選びで気をつけているのは肩幅のサイズ。
細身なので肩が合わない服が多く、だぼっとした印象に見えてしまうのだと言う。
「肩が落ちていると服に着られてるみたいになっちゃうから。
タグに書いてあるサイズだけで決めずに、必ず試着するようにしています」
今気になるスタイルは? と尋ねると、「どシンプル!」と即答。
「以前は柄物やいろまんちゃーアイテムが大好きだったんです。特に花柄は、『花柄見るとあんたを思い出す』と友人に言われるほどハマって(笑)。
それが最近は徐々に落ち着いてきて、シンプル路線に傾いてきてますね。
我が家のクローゼットにも、グレーやベージュの服が増えてきました。
今気になるアイテムは白デニム!
お気に入りの一本を探しに、またお店めぐりしないといけないかな(笑)」
平良夫妻が営む店「 TABBY 」には、メンズアイテムも豊富に揃っている。
仕入れのこだわりは「サイジング」だと、平良さんは自信を持って話してくれた。
「うちなんちゅの体型に合ったサイズを厳選しています。
うちなー男性は、タイトめに着こなすのが好きな方が多いんですよ。
沖縄の平均的な体格である僕が着たときにジャストなものと、少し小さめのものを置いています」
夏はリゾートスタイル、冬はバイカー・ワーク系のアイテムが充実しているという TABBY には、20〜40代を中心に上は70代までと、幅広い年齢層の方が訪れる。
2人がセレクトしたアイテムの中から、きっとあなたのお気に入りも見つかるはず。
TABBY
那覇市松尾2-5-36
open14:30~20:00
close 第1、3木曜日
写真・文 中井 雅代
2013.08.27
@港川
2013.08.27
お盆や清明祭(シーミー)など、沖縄の行事が行われる時期になると、書店の目立つところに置かれる本がある。
「よくわかる御願(ウグヮン)ハンドブック」は、県内での発行部数が10万部に迫るベストセラーだ。
2006年に出版されて以降、今でも売上を伸ばし続けている。
「企画の時点で、これはきっと多くの人が手にとる本になるだろうとは思っていましたが、実際はその予想をも遥かに超えていました。『化けたな』と思いましたね」
出版社「ボーダーインク」の編集・新城和博さんは語る。
御願(ウグヮン)とは、沖縄の年中行事の際に神仏に願いをかけることを指す。
ただ祈るだけではなく様々な供え物が必要で、そのために準備する料理や仏壇への供え方など決まり事が多い。
「何しろ各家庭で代々受け継いぐものですから、『どうするんだったかな』とすっかり忘れたり、『あちらの家ではこうやっているけれど…』と迷ったりと、沖縄のお嫁さんの悩みは尽きません。
そこで、わかりやすく使いやすいハンドブックがあればいいのでは? と考えました。
実は、弊社にも長男に嫁いだ女性がいまして。彼女の話が最大のきっかけでしたね」
長男嫁でもあるボーダーインクの営業・金城貴子さんは次のように語る。
「金城家に嫁いだときに、行事ごとが大変だったので自分で料理のレシピや行事のやり方の記録をつけたんです。細かく書いておいたので、そのノートには今でも助けられているんです。
『こういう本があったら、県外から嫁いだ女性や沖縄の若い人たちの助けになるんじゃないかな?』と思い、企画しました。
でも実際は、沖縄出身者や年配の方なども手に取ってくださっているみたいです」
出版後、編集部が想像していなかった反応が返ってきた。問い合わせの電話が殺到したのだ。
編集・新城和博さん。
「主にお嫁さんたちからの電話ですね。『自分がこれまでやっていた方法と本に載っているやり方が違う。どちらが正しいですか?』とか、『こういう時はどうしたらいいですか?』というように、御願に関する質問の電話が後を絶たなくて。
質問があまりに多いので、『Q&A』のページを増補しました。
ただ、御願というのは各家庭によってやり方が違うのが当たり前。ハンドブック通りにしなくてはならない、ということではありません」
「御願ハンドブック」に代表されるように、ボーダーインクから出版されている書籍はいずれも沖縄に特化し、なおかつユニークな題材をとりあげたものばかりだ。
左から営業・金城貴子さん、編集・喜納えりかさん。
勇ましい闘牛写真と不釣り合いな、いかにも女性らしい雰囲気の著者は闘牛大好き女子!
撮りためた写真を本にしたいとボーダーインクの門を叩き、出版に至った。「企画を聞いた時点で『これは面白い本になるぞ』と思いました。各メディアでも取り上げられ、話題沸騰中です」
喜納さんのお勧めは、沖縄ならではの育児ネタを漫画にした「琉球こどもずかん」。「沖縄のママさんたちにインタビューしてネタを集めたのですが、どのおうちの話を聞いても大爆笑! 口コミで面白さが評判となり、売れ行きも好調。在庫は残りわずかです」
「目からウロコの琉球・沖縄史」は、新城さんが愛読していたブログを書籍化したもの。「著者の上里隆史さんは、若手のイケメン歴史家。琉球・沖縄の歴史に関して驚くほど豊富な知識を持っているだけでなく、ブログの内容がとてもおもしろかった。これは是非書籍化して、多くの人に読んでもらいたいと企画したんです」。ニービチ(結婚式)をテーマにしたら面白い本ができるのではと編集部が企画したのが「ああ、沖縄の結婚式!」。結婚式の司会を務める機会も多いフリーパーソナリティの玉城愛さんに執筆を依頼した。
ボーダーインクから出版される本のジャンルは、エッセイ、コラム集、歴史、民俗、教育、政治、コミックなど、実に幅広い。
出版する本の定義はあるのだろうか?
「沖縄に関する内容ということ以外、定義はありませんしジャンルも問いません。
つまり、ボーダーレスですね。社名の『ボーダーインク』にはその意味も込めているんです。
企画出版に関しては、自分たちで企画をするものと持ち込み企画がありますが、出版するか否かを決めるのは『これは面白い本になりそうだ』という直感によるところが大きいですね。でも、それだけではありません。
ベストセラーにはならないかもしれないけれど、これはぜひ世に出したいと思うものは出版に踏み切ることもあるんです」
また、企画出版のほかに自費出版の依頼も受け付けている。
「最近は20〜30代の方の持ち込み企画が少ないのでちょっと寂しい。面白い企画があったら是非うちに持ち込んでください」と、編集の池宮紀子さん
「自費出版についてのご相談は年間20〜30件ほどあります。
ご本人の予算も関係してきますから、実際に出版に至るのは10冊ほどですが、他都道府県と比べると多い方だと思いますよ。
沖縄ではほとんどの出版社が沖縄に特化した本を出しているので、著者と読者との境目が薄いんだと思います。一般の方でも気軽に本を出したくなる環境と言えるかもしれません。
自費出版の相談内容はさまざまです。詩集や絵本を出したいという方や、『旅行記を書こうと思って。これから行くんだけどさ〜』という方も(笑)。
自分の書いたものが本になる喜びは何物にも代えがたいものです。
また、たとえ数百冊でも世の中に広がり、読んで感動したひとがひとりでもいたのなら、それは素晴らしい作品だと言えると思うんですよね」
自費出版だからといって本の質が落ちるわけではないと、新城さんは言う。
根っからの本好きであるだけでなく、沖縄の人々に対して強い愛情を持つボーダーインクのスタッフならではの考え方ではないだろうか。
古本屋店主が書いた「那覇の市場で古本屋」は、県外からも注目を集めている。ソルトコーディネーター・青山志穂さん著「琉球塩手帖」は、沖縄の塩が主役というオリジナリティ溢れる一冊。
「新書」と呼ばれるサイズで出版しているシリーズ。「読みやすさなどを考えてサイズを決めていますが、現在、新書シリーズを出しているのは、県内だとうちくらいだと思います」
ボーダーインクの創立は1990年。
「沖縄出版」に勤めていた宮城正勝さんが部下の新城さんを伴い、「もっと若いひとも読みたくなるような、かたくない、面白い沖縄本をつくりたい」と独立したのが始まりだ。
そこに池宮さんが加わり、やがて喜納さんや金城さんを正社員として迎えた。
新城さんは次のように語る。
「宮城さんと池宮さんに関しては20年以上の付き合い。喜納さんや金城さんも10年来の同僚ですし、もう、家族みたいな感じですよね」
女性陣たちは明るくパワフルで、事務所は活気に満ちている。
「いつもみんなで、『歳とっても働きたいよね〜』と話しているんですよ」と、喜納さんは言う。
「企画段階では何も見えていない。それが徐々に形を取り、最終的に本になって書店に並び、多くの人が手にとってくれる。そういう一連の作業が、出版という仕事が大好きなんです」
新城さん自身もこれまで5冊の著書をボーダーインクから出している。「様々な媒体で発表した文章や、連載していたコラム、書評などをまとめた本です」編集だけでなく作詞なども手がける新城さんの本の内容は、様々なジャンルに話が及んでおり、読み応えたっぷり。
金城さんのイチオシは「沖縄猫小(おきなわ まやーぐゎー)」。「宮古島在住の写真家・上西重行さんの猫本です。写真主体の本かとおもいきや、添えられている文章もすごく良いんです。独特の語り口で、癒やされますよ」
植物好きな池宮さんが気に入っているのは、「琉球ガーデンBOOK」。沖縄の家の庭や道端などでよくみかける植物を紹介。名称だけでなく、「庭に植えると魔除けになるとされる」「縁起がいい」などの言いつたえも記載している。
出版だけでなく、本にまつわるイベントの企画・開催にも積極的だ。
「『琉球怪談』は面白いですよ。年4回開催しているのですが、沖縄は怪談好きな方が多いのか、なかなか好評です。
また、10月には「ブックパーリーNAHA」と銘打って、1ヶ月間、本にまつわるイベントを多数開催する。
その中のひとつが、那覇市の沖映通りで行う『えきまえ一箱古本市』。
その日はだれでも古本屋さんになることができ、自宅から持ち寄った古本を販売するんです。
私たち社員も出店しましたが、並べている本についてお客さんとやりとりするのが楽しい んですよね。こちらも思い入れのある本を出品するものだから、ついつい話が弾んで。
他にも、『県産本フェア』や『ブックパーリーNAHA』など、色々と企画しています」
こちらから1つ質問を投げかけると、四方から答えが飛んでくる。
誰かの答えに突っ込んだり、説明を加えたりと、始終にぎやかなインタビューだった。
ボーダーインクは活気があるだけでなく、スタッフたちが本当に楽しそうに仕事をしている出版社だ。
「女性の方が数が多いんでね、僕ら男性社員は小さくなってますよ」と新城さんが言うと、喜納さんが口を開いた。
「そういえば毎年旧暦の3月3日には、女性社員は会社の業務をお休みして海に『浜下り(沖縄の伝
統行事)』に行くんですよ。男性社員たちは通常業務(笑)。
今年なんて、つい盛り上がって浜下りで披露する社歌まで作っちゃったんだよね」
聴いてみたいと言うと、喜納さんがすかさずウクレレを取り出し、その場で大合唱が始まった。
のどかなウクレレの調べと歌声を聴きながら、なるほどこんな雰囲気の出版社だからこそ「御願ハンドブック」や「琉球こどもずかん」、「闘牛女子」のような本を生み出せるんだなーと納得した。
本と本作りと沖縄を心から愛する人たちの集まり。
それがボーダーインクなのだ。
今もなお改訂中という「ボーダーインク社歌」の歌詞。
げらげらと笑い転げてしまうもの、マニア心をくすぐるもの、考えさせられる歴史ものや戦争の話…。
バラエティに富んだボーダーインクの本は、沖縄県民だけでなく、居住者や県外在住者にいたるまで多くの人々が手に取っている。
その独特な魅力は、沖縄を愛する者としての誇りが生みだしているのではないだろうか。
書店へ足を運んでみよう。
海や街を歩くだけでは知ることのできない、沖縄を探しに。
写真・文 中井 雅代
ボーダーインク
沖縄県那覇市与儀226-3
TEL 098-835-2777
FAX 098-835-2840
MAIL books@borderink.com
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2013.08.26
@港川
2013.08.25
陽の光を受けてきらきらと輝くのは、オーナーシェフ自慢のデニッシュ。
さっくりふわふわの生地と、肉厚なフルーツ、濃厚なクリームが特徴的だ。
デニッシュ生地のおいしさは評判で、シンプルなクロワッサンのリピーターも多い。
ハード系のパンがほとんど見当たらないのは、オーナー・津山力(つやま つとむ)さんの好みによるところが大きい。
「パン職人として長いこと働いていますが、実は硬いパンがあまり得意ではなくて…(笑)。
それに、ご年配の方は特に柔らかいパンがお好きでしょう? 幅広い年齢層の方に喜んでいただきたいので、ソフトな食感のものを作ることが多いですね。
僕自身、おばあちゃんっ子ですし(笑)」
2013年6月、新たに整備された那覇市真嘉比地区に、瀟洒な佇まいのブーランジェリーがオープンした。
「外観が素敵だから」と何気なく足を踏み入れた人の多くが、間をおかずに二度三度と訪れることになる店だ。
津山さんは、那覇市内のホテルのベーカリー部門でパン職人として働いた経歴を持つ。
それを聞くと、Petit Dejeune(プティ デ ジュネ)に並ぶパンが、どれも独特の気品を漂わせているのも納得だ。
見た目がまず、美しい。
シンプルなバケットは完璧な焦げ目をまとい、デニッシュには注意深く粉糖がふりかけられている。
素材選びにも手を抜いていない。
「口に入れるものですから、見た目の美しさだけでなく安全性にもこだわっています」
生地に紅芋をふんだんに練りこんだ色鮮やかな紅芋食パンや、県産ウコンを使用した特製カレーパン。シークワーサー果汁を使用してさっぱり仕上げたシークワーサーブリオッシュなど、どこかに「沖縄らしさ」を表現することも忘れてはいない。
また、あんこやカスタードは長時間かけてじっくりと炊き、カレーパンのカレーやライ麦パンに入れるドライフルーツも自家製を貫く。
津山さんがホテルで働いていたころ、そのパンに魅了された人がいた。
現在、Petit Dejeune のカフェオーナー・金城友紀さんだ。
「仕事の打ち合わせなどで、津山が働いていたホテルをよく使っていたんです。
デニッシュが特に好きで、どれも宝石みたいに輝いて見えました。
打ち合わせのお相手も喜んでいただくことが多く、私はそこのパンのファンだったんです」
と、金城さんは語る。
後に、そのデニッシュを作っていたシェフこそ、偶然同じスポーツジムに通っていた津山さんだったことを知ったと言う。
カフェコーナーが併設されており、買ったばかりのパンをすぐに味わえる。「金城がこだわり抜いたパンケーキや、ローフードマイスターの資格を持つスタッフ・長嶺が毎日店でブレンドするスムージーなど、カフェオリジナルメニューも充実しています」朝からオープンしており、朝限定のモーニングセットやトーストセットも人気。
カフェメニューのパンケーキ。「ほどよい厚みにこだわった」という2枚のパンケーキの間には、自家製カスタードをたっぷりと。それがチョコバナナと生クリームによく合う。ケーキのような華やかさとリッチな味わいを両立した、食べごたえもたっぷりの一皿。
金城さんは大手化粧品会社にて web マーケティング責任者、お客様相談室のマネージャーを経験し、30歳で独立。ヒーリングサロンや児童英会話教室、web関連事業と様々な業種で会社を立ち上げた経験があった。
いずれは自分の店を持ちたいという津山さんに求められて、起業についてアドバイスをしているうちに、金城さんはあることに気付いた。
「私はもともと人をおもてなしすることが大好きなんです。
サロンの仕事では癒やしを提供し、英会話教室でもおやつと飲み物を出して喜んでいただいていました。
津山と出会った頃はちょうど、自分自身が大好きなパンケーキ作りにハマっていたこともあり、『食べること=癒やし』だなーと考えていた時期だでした。ですから、お客様がゆったりくつろげるカフェが開けたらいいなと漠然と思っていたんです。
津山はベーカリー、私はカフェと異業種ではありますが、話を聞いているとコンセプトはそう遠くない。それなら一緒にやろう!ということになって」
2012年10月に出会ってからトントン拍子で話が進み、1年も経たぬうちに店がオープンした。
好きなパンを選んで詰めるギフトボックスは、手土産としても重宝する。
「最近はわりと素朴でナチュラルなパン屋さんが増えているように思うのですが、私たちはその逆を行こうと思っています。
店やパンのヴィジュアルも、見ただけで『きゃーっ!』とテンションが上がるような雰囲気にしたくて」
津山さんは、茶や白といったどこか単調な色彩になりがちなパン作りの世界だからこそ、あえて色どりに重きを置き、独学で色彩学をマスター、店のテーマカラーをも明確に決めていた。
一方、金城さんもイメージコンサルタントの資格を有し、色についての豊富な知識を蓄えていた。
2人が作りあげた空間は確かに、一般的なパン屋というイメージからは外れている。
そして、かわいいものに目がない女性たちをひきつけている。
実際に運営を始めると、津山さんはこれまでは得られなかった新たな喜びを感じるようになったと言う。
「ホテルにいたころは、奥で黙々とパンを作っていたので、お客様の反応を目にする機会がほとんどなかったんです。でも作り手である以上は、やはりお客様の笑顔が見たいし喜んでいただきたいんですよね。
今はお客様の反応をダイレクトに感じることができるので、それがやり甲斐にもつながっています」
「パンを褒められたら、すぐに津山に伝えるようにしています。店頭には私が立っていることが多いので、『今まで食べたどのクリームパンより美味しいと、お客様の5歳の息子さんがおっしゃってたって!』という風に(笑)」と、金城さんも語る。
Petit Dejeune は、津山さんと金城さんがそれぞれもつ長所がいかんなく発揮されている空間だ。
それを証明するエピソードを、津山さんは次のように語ってくれた。
「金城は、来店したお客様の顔と購入なさったパンを絶対に忘れないんですよ。
『先日は◯◯をお買い上げ頂きましたよね』という風にお客様によく話しかけているので、毎回驚かされます。
さすが、もてなしのプロだなと感じますね」
また、金城さんは津山さんについて次のように語る。
「ある意味、職人さんぽくない人なんです。
職人って、こう決めたら譲らないというような強いこだわりを持っているイメージがあるのですが、彼は柔軟。
『こうすればお客様にパンのフィリングが見えやすくなって美味しそうに見えるかも』と提案すれば、早速次の日からすぐ形を変え、よりよいものに仕上げて出してくれます。
自分がこうしたい! というこだわりよりも、現場の声やお客様の事を何よりも考え、即実行してくれるんです。
そんな豊かな発想力と実行の速さに、本当に仕事のできる人だな、と感じますね」
左から津山さん、金城さん。
今後は焼き菓子にも力を入れたいと津山さんは言う。
「ホテルに勤めていた時も、ケーキ部門を手伝ってよく焼き菓子を作っていたんです。クッキー・パウンドケーキ・シュークリーム・ロールケーキなどもお出しできたらいいなと考えています。
また、シークヮーサーやドラゴンフルーツ、パッションフルーツなど、沖縄ならではの食材も積極的に取り入れていきたいですね」
知り合ってわずか1年足らずで店をオープンさせた二人だが、お互いを尊重しあっている雰囲気がしっかりと伝わってくる。
パンに関しては津山さん、サービスと経営については金城さんと、役割をしっかり分担し、自身の仕事に徹している。
「協力はし合うけれど、信じて任せること。
そこを大事にしています。
私たちはお互いが持っていないものを持っているので」
最上級のパンとおもてなし。
2人のプロフェッショナルが、それを1つの店で実現している。
写真・文 中井 雅代
Boulangerie cafe Petit Dejeune(ブーランジェリー プティ デジュネ)
那覇市真嘉比188-38 TNセゾンライトビル1F
098-886-4222
open 7:00〜18:00(オープン時間は変更の可能性あり)
close 日
※パンは売り切れ次第終了
ブログ http://petitdejeune.ti-da.net
facebook https://www.facebook.com/petitdejeunecafe
2013.08.22
「このワンピース、すべての海の色が入ってるみたい…」
吊るされたワンピースをうっとりと眺めながら、展示会場を訪れた女性が言った。
つなぎ合わされた布たちが、青から紫へと美しいグラデーションを織りなしている。
青や紫だけではない。そこにはたくさんの色が溢れていた。
大人っぽい真紅、沖縄の海を思わせるアクアマリン、桜のはなびらのようなピンク、こっくりとしたカフェオレ色…。
kitta が創りだす色の種類は、驚くほどに幅広い。
草木染めと聞くと、無意識にナチュラルで淡い色合いを想像してしまう私の目には、展示会場を埋めるさまざまな色合いが意外に映った。
「私は『色のひと』だから」
と、kitta のデザイナー・澤野由布子さんは微笑む。
「もともとは、化学染料や化学繊維も使って服を作っていました。
でもある日、自然豊かな場所に行く機会があって、そこに集まった人たちが着ている服に強烈な違和感を感じたんですね。
美しい自然の色合いの中で、化学的な色が浮いて見えたんです。組み合わせがすごくちぐはぐで。
もっと自然と調和できる色ってないのかな? と考えた時に思いうかんだのが、草木染めでした」
kitta の服は、茜やコチニール(サボテンにつく虫を乾燥させたもの)といった伝統的な染色材に加え、マングローブ・紅露・フクギなど、沖縄の植物由来の染料も数多く使用している。
なかでも琉球藍は、栽培から手がけるほど力を入れていると言う。
「本部(もとぶ)町の『比嘉琉球藍製作所』で、植え付けから染料作りまで行っています。本部町の土壌は藍の栽培に適しているそうで、昔は藍の生産地として活気があったそうです。比嘉琉球藍は、山あいの日陰という藍を育てるにはぴったりな立地条件にあり、そこには160年前から変わらない風景があります」
澤野さんと琉球藍の出会いは、とても運命的なものであったという。
「草木染めについて教えてくださった先生から、琉球藍の素晴らしい製造所があると聞き、飛んでいきました。でも、所長の比嘉さんは病に倒れていらっしゃって、お会いできない状態でした。
しかも後を継ぐ方がいないため、製造所は閉鎖する方向へと話が進んでいたんです。
でも、美しい藍畑や製作所のある恵まれた環境を目にし、どうにか存続のためのお手伝いをさせていただけないか、比嘉さんのご家族に頼みこみました」
澤野さんの熱意は伝わり、比嘉さんの長男夫婦の協力を得て琉球藍づくりを続けることになった。
「長男さんは昔から藍づくりを手伝っておられたので、知識も技術も豊富なんです。私たちだけでは畑を続けていくことは無理だったと思います。なんでも親身になって教えてくださるお2人には、心から感謝しています。
畑では年に3回、400キロもの藍の葉を刈り取ります。
それをすべて染め液にしていく作業は、骨は折れますが充実感を感じますね。この場所で琉球藍を作れること自体、なんて幸せなことだろうといつも思っています」
染料を作る作業だけでなく、染めの工程にも澤野さんは手間暇を惜しまない。
「素材にもよりますが、茜で濃い赤を染める時などには、10回以上染めています。薪の火で染料を煮だし、染めています。
草木染めは色が薄いイメージがあるかもしれませんが、考えてみると化学染料がなかった平安時代でも、十二単(ひとえ)に使われるような濃く鮮やかな色を出していたんですよね。ですから、草木染めでも色々な色が染まるはずだと思いました。
染めるたびに色んな染め重ねを試すのですが、掛け合わせによって意外な色が生まれたり、季節や採取場所によって色が違ったりと、植物と色はいつも新しい驚きをくれます。
水は、硬水と軟水を使い分けています。
というのも、沖縄に移り住んで間もないころ、染め方は変えていないのにそれまでのように色が出ず、困り果てたことがあって。沖縄は硬水、本土は軟水が主流ですから、試しに軟水を取り寄せて染めてみたんです。するとバッチリ色が出て。
土地によって流れる水は違いますから、その植物が生息する地と同じ水を使わないといけないんですね。沖縄に来て、初めてそのことに気付きました」
また、染料を布に定着させるための作業である「媒染(ばいせん)」にも、澤野さんならではこだわりが隠されている。
「草木染めは色落ちしやすいので、みょうばんや鉄などの媒染剤を煮て作った媒染液に布を浸すんです。すると、媒染剤の主成分である金属イオンのはたらきによって、染料が繊維に定着するんですね。
一般的には染めたあとに行う『後媒染』が多いのですが、私は染める前に『先媒染』も行います。
そうすることで、繊維がより効率的に染料を吸収するんです。
先媒染してもすぐには染めず、しばらく干しておきます。だいたい1ヶ月くらいですね。この工程を話すと、みなさんびっくりなさいます。
でも、長期間干しておくことによって、繊維に定着した染料成分が均等に並ぶので、堅牢度(染め物の退色や変色に対する抵抗性)が高まり、色落ちしにくくなるんですよ。
色落ちしにくいということは、長く使えるということにもなりますよね。
『草木染めに使う植物は限りある自然物なので、素材は無駄なく使う。
堅牢度を高め、長く使えるものを作る。
そのためには、時間と手間を惜しまない』
いずれも、染織家であり藍研究者でもある角寿子(すみ ひさこ)さんから学んだことです」
澤野さんは東京で暮らしていたころ、角さんが主宰する染織の講座に1年間通っていた。
「それまで私は、本をたよりに独学で染めていたのですが、角さんの講座は染色にまつわる慣例を問い直すような内容も多く、とても勉強になりました。
伝統的な染めの作業工程を科学的に分析してみると、意外と無駄な行程が含まれていることもあり、どうすればより効率よく染めることができるかということも学ぶことができました」
kitta の服が多くの人に愛される理由は、草木染めの魅力だけではない。
「ほとんどの衣類を、ひもや巻き方でサイズ調整できるように作っています。
体型は年とともに変わりますし、妊娠したときにもわざわざマタニティウェアを買わなく済みますから。
また、染め直しも承っています。
いくら堅牢度が高いといっても、やはり少しずつ色は変わっていきますので。
ご相談いただければ、まったく別の色味に染め直すこともできますよ」
kitta の服は、毎日のくらしに適した「ヒビの衣」と、ちょっとおめかししたい日の「ハレの衣」をテーマに作られている。
いずれも、着るというより「纏う(まとう)」という方がしっくりとくるデザインばかりだ。
「日本の昔ながらの労働着や、世界中の民族衣装が大好きです。
ストッキングやハイヒールの靴に似合う、西洋のタイトな服も素敵だと思います。
でも私は、自然の中でもゆったりとリラックスできるような服や、働きやすい服。そんな服をまとうおおらかなな女性の美しさに惹かれるんです」
学生の頃から独学で服づくりを楽しんでいたという澤野さんは、祖母からの影響を多分に受けていると言う。
「祖母は和裁・洋裁ともに達者な人でしたね。
幼いころの私の一番の楽しみは、祖母と一緒に生地屋さんに出向いて好きな布地を選ぶことでした。その布を使って祖母が服を作ってくれるからです。
祖母の影響からか、高校時代には自分でも服を作るようになりました。古くなった服をほどいて型紙を作ったり、自分なりにアレンジしたり。そういう時間がとても楽しかったんです」
澤野さんが作る服は評判がよく、徐々に友人たちからも注文が入るようになった。
十代の終わり頃には、店に卸すようになっていたという。
「でも、当初作っていた服の雰囲気は、今とはまったく違いましたよ。
クラブカルチャーにはまっていたころは、真っ黄色のフェイクファーのパンツとか、ラメのタンクトップとか作っていましたから(笑)。
その後、徐々に食も服も音楽もオーガニックな方向にシフトしていったんです。オレゴンのヒッピーの子たちが作る服に影響を受けて、パッチワークのワンピースを作りはじめたのが今の kitta の原型かな。
色が好きなのは昔から一緒。既成の布では物足りなくなって 自分で染色をはじめました。
簡単に染められるので最初は化学染料を使ってみたのですが、染色時の廃水が地球を汚しているんじゃないかと、なんとなく気になったんです」
1997年頃、澤野さんは山梨県道志村で行われた音楽イベントに参加した。
会場は豊かな自然に囲まれた場所にあり、来場者たちが身につけている服の色合いが自然の中で浮いて見えたと言う。
それがきっかけとなって、澤野さんは自然と調和できる服を作るべく、草木染めを始めることにしたのだ。
2011年の震災を機に澤野さんは沖縄へ移住、琉球藍との出会いも果たし、草木染めの道をさらに深めていった。
今は、多くの人に草木染めの魅力を知ってほしいと語る。
「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず)という、江戸時代から伝わる言葉が大好きなんです。
江戸時代後期、奢侈禁止令(しゃしきんしれい)といういわゆる贅沢禁止令が発令されました。当時はどんな身分であっても、茶色やねずみ色の地味な着物しか着ることが許されなかったそうです。
そこで庶民はおしゃれを楽しむために、48色の茶色と100色ものねずみ色を生み出したと言うんですよ。一言に茶色、ねずみ色と言っても、それだけ沢山のバリエーションを生み出すことができる感性は、日本人独特なものだと思います。
自然界は季節ごとに実に様々な色を見せてくれます。
日本の四季の色を自分の内に蓄えながら、沖縄の光や花・果実の色に囲まれていられるのはとても幸せなことです。
沖縄の人はもちろん、これからは海外の人にも草木染めを通して自然の色の豊かさをより感じてもらえるような仕事ができたら、と思っています」
kitta の布たちを見るときの気持ちは、ふと気を抜いて景色を眺めるときと似ている。
家の窓にぼんやりとうつる、雨の日の少しくすんだ空の色。
子どものころ、太陽の強い光のなかで見た花や草や虫の色。
自然のなかの沢山の名前のない色たちが、kitta の服にはある。
手にとって身にまとうと、知らないうちに素の自分に戻っている。
自然ともっと近かった頃の自分に。
写真 中井雅代/文 本岡夏実
kitta(キッタ)
HP http://www.kitta-sawa.com
ブログ http://sawakitta.jugem.jp
2013.08.22
@牧志