一般的な木の器は乾燥させた木を用いて作るが、
藤本さんの作品には生木(なまき)を使ったものが多い。
「今は生木を使うのが楽しいんです。
木にすべてをまかせてしまうという感じがあって。
それぞれの木に必ず特性があるので、
僕はそこからやりようがないというか、
導かれちゃうような部分があって。
意図して「こういう形を作ろう」とすると
なんだかおかしな感じになることが多いんですよ。
強く意図しないほうがいい形におさまることが多いですね。
自分の作りたい最終的なイメージやフォルムはあるんですけど、
必ずしもそうならなくてもいいというか、
ならないときのほうがいいと言うか」
– – – 最初から最後まで自分一人でやりたくなって
愛知県の出身です。
高校卒業後に上京し、洋服屋さんで働いていたのですが、
25歳のとき、品川にある職業訓練校の木工科に入りました。
1年間学んだあと、
特注家具を製作する東京の家具工場に就職して30歳まで働きました。
それから沖縄に移住したんです。
特に木工が大好きで学んだ、というわけではありませんでした。
ただ、最初から最後まですべて自分でできることがやりたかったんです。
個人ですべて自分でやっている洋服屋さんもありますけど、
僕は普通に就職して会社にいたので
一部分しかやれないのがだんだんストレスになってきて。
売るだけ、というのがなんか違うなーと。
ゼロから最後まで全部自分でやりたくなった。
でも、それが
「自分で洋服を作りたい」
という方向には向かわなかったですね。
– – – やってみてすぐ「向いてるな」と
木工は、やってみたら性に合ってるなという感じでしたね。
最初から「あー向いてるな~」と思いました。
東京で働いていた4~5年は、
いわゆる「箱もの」と呼ばれるものを作っていました。
特注の店舗什器や個人のクローゼットなどが専門で、
無垢材ではなくベニヤを使う「フラッシュ家具」を作ったり…
そういう工場でした。
あるとき、奥さんの仕事の関係で沖縄に行かないか?という話がでて、
「いいんじゃない?行ってみようよ」と。
それで移住してきて、
それから今の活動を始めました。
自宅内にある工房
– – – どう仕上がるかわからない、だからおもしろい
日本は乾燥させた木で作るのが一般的ですけど、
海外だと生木で作るものも結構多いんです。
僕の場合は材料が手に入りやすいという理由もあってそうしてるんですが(笑)
だって、木ならこの辺にいくらでも生えていますからね。
今も両方作ってますが、おもしろいと思うのは生木のほう。
削ってるときの感触とか、どう仕上がるんだろうっていう緊張感とか、
乾燥させた木で作るときには得られないおもしろさがあるんです。
「これは木工用のろくろです。旋盤ですね」
「こういう風に削るわけです」
– – – 予想よりもおもしろく仕上がることが多い
生木でうつわを作ったあと、
乾燥させていく段階で少しずつ変形していくんですよ。
ねじれが出る、みたいな感じで。
1ヶ月くらい置いておくと結構見た目が変わるので
そういうところもなかなか面白くて。
出来上がりはある程度は予想できるんですけど、
予想と全くおなじということはない。
でも、悪い方に転ぶことはほとんどなくて、
大体おもしろい方に転ぶんですね。
例えば、ねじれたり木目の強い部分は
乾燥させると縮んだりする。
僕がコントロールできない部分を、
木が自ら仕事してくれるみたいな感じですね。
東京でやっていた仕事とは全然違うので、
自分で手探りしながらやり始めたという感じですね。
自分の作品に自分のコンセプトを入れ込むというよりは、
ほとんど木まかせ。
板材から作るときはある程度自分でコントロールして
「この形を作ろう」というのがあるんですけど、
生木で丸太なんかから作るときは、なりゆきにまかせてしまう。
大事にしていることは「バランス」。
あとはもう、木次第。
藤本さんは木に対してあえて一定の距離を保って接しているように見える。
それは木を愛し、木の持つ特性を尊重しているからこそ。
切り出した丸太の中におおよその器の姿を見出したら、
あとは木がどう変化を遂げていくのか、
それを、少し離れた所から優しく見守る。
完成した器はどれもおしゃべりだ。
自分の存在を、特性を、嬉々としてアピールしているように見える。
藤本さんによって語ることを許されたかのように。
自身で建てた自宅兼工房
(関連記事:初めて自分で建てた家)
と同じ敷地内に、現在ギャラリーを建設中。
こちらも自身で設計し、建築した。
完成後は、藤本さんの作品が展示販売される。
ギャラリーに足を運べば、
木のおしゃべりがあなたの耳にもきっと届くだろう。
写真・文 中井 雅代
gallery k.
南城市玉城字屋嘉部123−1
090-9781-3481
ブログ http://gallerykten.ti-da.net